第2話 オオカミ迎撃
「急げ! 追われている人を助けるぞ!」
ユウリが叫ぶと同時に、トウマ達3人はオオカミに向かって走りだした。
すぐ後ろに、もう一人走ってくる音が聞こえる。
振り返る余裕は無いが、おそらくカナだろう。
前を走る男は、大剣を背負っているにも関わらず、異常なほど足が速く、もうすぐ馬とすれ違うところまで辿りついている。
男は馬とすれ違ったところで背中の大剣を抜き、オオカミへとけん制する。
2匹は一度、足を止めるが、片方のオオカミが男へと襲い掛かり、その隙にもう1匹が男の脇を抜け、再び馬へと駆け出した。
馬は、もう既に限界だったのか、ほとんど歩いているような状態だったが、大剣の男が、一度、オオカミの足を止めてくれたお蔭で、なんとか3人は追い付く事が出来た。
「こっちのオオカミを片付けたら、そっちに向かう! それまでなんとか持ちこたえろ!」
大剣の男がこちらに向かって叫ぶが、先ほど、因縁をつけられたと思っているユウリは面白くなさそうに、
「あんな男、待たなくても、こっちはこっちでなんとかするぞ!」
と、ユウリは彼の武器である長槍を持ち、オオカミに向かって加速した。
「待て!焦るな!」
とトウマは叫びながら後を追うが、ユウリは足を緩める気配は無かった。
「2段突き!」
ユウリは、オオカミ向かって素早い2連撃を繰り出す。
しかし、オオカミは冷静にユウリの攻撃を躱し、ユウリに向かって前足で攻撃を繰り出してきた。
「ユウリ!」
トウマの叫びも空しく、ユウリの左肩から鮮血が飛び散る。
オオカミがさらに攻撃を仕掛ける前に、なんとかトウマとエリーが追い付き、オオカミと対峙する。
「僕がなんとか隙を作るから、エリーは渾身の一撃を頼む。」
トウマがエリーに話しかけると、ユウリが割り込んできた。
「俺もまだやれる」
「お前は少し頭を冷やせ」
ユウリに厳しい一言を浴びせると同時に、彼の武器である小ぶりの剣を持ち、オオカミ向かっていった。
オオカミの爪を剣で受け、噛み付き攻撃を躱しつつ攻撃を仕掛けるが、相手の素早さが上回り、なかなか相手の隙が作れない。
そろそろ集中力の限界を感じ始めた頃に、後方から叫び声が聞こえた。
「シャドウボルト!」
声と同時に、トウマは横へ大きくステップすると、闇色の矢がオオカミへと向かっていった。
惜しくもクリーンヒットこそしなかったものの、オオカミへとダメージを与えた攻撃に感謝し、トウマはオオカミへと攻撃を仕掛ける。
「かすみ十字切り!」
上段からの振り降ろしと見せかけ、横から真横へ薙ぎ払うと、オオカミの横面を直撃した。
声を掛けるまでもなく、オオカミへとトウマの攻撃が当たる前から、エリーはオオカミに向かって駆け出し、オオカミに向かって大きく跳んだ。
「ローリングソバット!」
オオカミに向かって大きく跳躍し、空中で一度後ろ向きになり、さらに半回転しながら、オオカミの横腹に向かって強烈な蹴りを見舞った。
「やったか!?」
しかし、オオカミはエリーの一撃で大きく体制を崩すも、致命傷にはならず、素早く体制を立て直して、エリーへと攻撃を仕掛ける。
渾身の一撃を放ったエリーは、まだ体制を立て直せておらず、エリーの顔に焦りの色が浮かぶ。
「間に合え!」
叫びながら、とっさにエリーの事を庇おうとするトウマの横を、高速の槍が通り過ぎた。
「2段突き!」
先ほどは躱されたユウリの高速突きは、今度こそオオカミへと突き刺さる。
2段突きによる衝撃で大きく後方へ吹き飛んだオオカミは、今度こそ致命傷を与えたかと思われたが、多少ふらつきながらも起き上がり、鋭い眼光のままこちらへと対峙することとなった。
普通のオオカミよりも明らかに強いっ。
トウマは心の中だけで叫んだ。
各々の最大の攻撃が直撃したにも関わらず、致命傷を与えられていない現状に、トウマは少なからず焦りを覚えた。
焦りからか、肩で息をする3人と、万全ではないにしろ、未だやる気十分のオオカミを見比べ、このまま押し切れるかトウマが悩みながらオオカミを見据えていると、オオカミの後ろに黒い影が浮かんだかと思った次の瞬間、鮮血が飛び散り、オオカミの体が真っ二つになった。
「よく耐えたな」
オオカミの後ろで、息一つ切らさず悠然と立っていたのは、もう一匹のオオカミと戦っていたはずの大剣の男だった。
初めての戦闘シーンです。
しばらくは、再び会話パートになります。