第1話 オオカミ襲来
トウマ、ユウリ、エリー、カナの4人は、穏やかに談笑していた。
店の中には、4人の他には、マスターとカウンターに男が1名だけだった。
浅黒い肌に、黒髪の長髪を後ろで束ね、彼の後ろには、大剣が壁に立てかけてある。
4人の談笑が続く中、トウマは、注文がてら立ち上がり、カウンターの方に向かって歩きながら、マスターに声を掛けた。
「マスター、今日はさすがにお客も少ないね。」
「さすがにこの嵐じゃあな。 お前たちも、酒も飲まずにこんなところで入り浸ってないで、さっさと家に帰れよ?」
「そうだね。 ところで、あちらのお客さんは? ここらへんじゃ、あんまり見ない顔だね。」
トウマは、声を落として、マスターにしか聞こえないように尋ねた。
後ろでは、3人の談笑が続いている。
「あんまり一人客を詮索するもんじゃないよ。まぁ、こんな辺鄙な集落に、あんな立派な大剣を持ちこまれたら4人組の兄貴分としてきになるのもわかるけどな。
どうも世界中をフラフラ旅してるみたいで、空模様が怪しかったから、とりあえず近くにあったところに立ち寄っただけみたいだ。」
と、マスターは普通のトーンで答える。
今でこそほとんど一言も喋っていないが、おそらく、トウマ達が来る前にカウンターの男と少し話をしたのだろう。
カウンターの男も、自分の事が話題にでたにも関わらず、平然としている。
その程度の話なら、別に話されても構わないという事だろう。
あんまり気にする必要もないかと、席に戻ろうとしたとき、急にカウンターの男の顔が険しくなった。
自分の話が出たことが、時間差で癇に障ったのかと思ったら、外で人の声のような音が聞こえた気がした。
この嵐の中で人の声?いや、まさかな。
トウマが疑問を抱いていると、ユウリの大きな笑い声が聞こえてきた。
ユウリの笑い声を聞いて、悩むのも馬鹿らしいなと思い直し、席に戻ろうとしたら、カウンターの男が大声を出した。
「ちょっと静かにしろ。」
抑揚の無い低い声だったが、それは店内を静まらせた。しかし、それも一瞬の事で、
「そこのお兄さん、確かに俺ら、ちょっとうるさかったかもしれないですけど、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか。」
ユウリが立ち上がり、顔には笑みを浮かべつつも、やや怒気を孕んだ声でカウンターの男に話しかける。
「煩い。 別に因縁をつけている訳じゃない。いいからちょっと静かにしてろ。」
カウンターの男が立ち上がり、壁に立てかけてあった剣に手を掛けながら答える。
2度も煩いと言われ、怒りの表情になるユウリをトウマが制した。
トウマの耳には今度こそはっきりと、店の外から物音が聞こえた。
しかし、今度は、人の声ではなく、獣の声だった。
「オオカミだ! 結構近いぞ!!」
トウマが叫んだ時には、すでにカウンターの男は大剣を背中にかけ、店の外に走り出していた。
「村のなかにオオカミを入らせるな! ユウリ、行くぞ! エリーとカナは外にでるなよ! 」
トウマが続けて叫ぶと、
「私も行くわ!」「私も!」
エリーとカナが自分たちも同行すると答えた。
「ダメだ。見回り直後の俺たちは武器があるが、お前たちは無いだろう。」
トウマが宥めようとするが、
「私は武器が無くても、素手で十分よ!」
と叫ぶと同時に、すでに店の外へと飛び出して行った。
「待て!せめて俺たちより前に出るな!」
と慌てたトウマとユウリが自分たちの武器を手に店の外に飛び出した。
店の外に出ると、すぐでも駆け出せる態勢でエリーが待っており、村の外に向かって先行する大剣の男と、その奥に馬に乗って村に向かって走ってくる人と、さらにその奥にオオカミが2匹見えた。
馬が疲れているのか、オオカミに比べて、明らかに足が遅い。
あのままでは、村に着く前に追いつかれてしまう。
トウマ達は、すぐに大剣の男の後を追い、オオカミに向かって走りだした。