陸、飛竜。
遅れました、申し訳ない。
して、今目の前で怯えているのか呆れているのか値踏みしているのか、こちらをじいっと見つめる女性が居ります。
少し乾いてきたけれども、まだしっとりとしている長い黒髪。少し覗く長い耳は、彼女がえるふという妖怪の一種であるという印の様です。
どうも。つい半刻ほど前にこの妖怪に襲われ、撃退し、滝の裏の洞穴に連れ込んだ僕です。
どこにも犯罪的な情報はありませんな。許された。
軽く会話してわかった事は、日本ではなく、言語は通じ、共和国とやらがあり、妖怪が暮らしているという事ですな。もう訳分かりませんなこれ。本当に夢じゃないだろうか?
しかも身体も金属.......鉄で出来てるし、なくした身体機能も全部戻ってるし。
「.......貴方は、何者.......?」
おや、女が口を開きましたぞ。
多少馴れてきて緊張感が抜けたようですな。良かった良かった。
「貴方、魔動機でしょう?見たこと無い型だけど、鉄塊が動くって事は.......」
「人間.......だと思いたいです」
さっきから妖怪は僕の事をまどうきと呼んでいる様ですな。
にしても、やはり僕は鉄塊の様ですな。
それが動くというと.......鉄道や零戦、ジープ等がありますな。成る程、今僕は機械なのですかな。
嫌、無い.......筈。
.......やはり身体は全部すりかわっているのでしょうな。にしては僕は僕という人格、記憶がハッキリとしておりますし、魂だけこっちに来たのでしょうか、鉄に魂は宿るのですかな?工芸品じゃあ無いんだから。
「いや、貴方は完全に魔動機。だけど、人格があるように見えるのよ、貴方は何なの?」
僕も良く分かって無いのですよねえ。
困った。本当に困った。ぬうん。
羽根音。
とても大きい、バサバサという羽ばたく音。
滝の水の音が響く中、それだけが、やたらハッキリと聞こえた。
「.......ッ!?」
妖怪が、洞穴を飛び出し、慌てて空を見上げた。
日はとうに暮れ、月明かりが見える。
木々に遮られてはいるが、遠くに大きな鳥の影の様な物が、遠くに見えた。
行く先の空は、赤く染まっていた。
「村の方角ッ!?」
妖怪は走り出す。
風を切り疾走。僕は慌てて追い掛ける。
なぜ追い掛けたか、というのは良く分からない。
足場の悪い山道を、妖怪は飛ぶように、滑らかに走って行く。
幾つもの木々を追い越し、行く手に獣が居ても、脚は止まらなかった。
やがて山を降り、開けた場所に出た。
壊れた、木製の門が見えた。
そこに、二つ赤い水を被った肉の塊があった。
門を抜け、その場所に入る。
地図にはイルルの村と記載され、中々凝った造りの焼き物を作る、職人の村とまで呼ばれた村だ。
そこに村は無かった。
あったのは燃える木材の残骸と、たくさんの赤い水を被った肉の塊達。
そして積み上げられてあったろう石の残骸。
それらの上に、大きな存在があった。
蝙蝠の翼と馬の脚を生やした巨大な蛇が、何かを咀嚼している。
ぽろり、と口から何かがこぼれる。
それには目があり、鼻があり、口があり、髪があり、千切れた首がある。
それは人の頭であった。
千切れた首から鉄臭い赤い水、血を吹き出しながら落ちてくる。
ああ、死体か、久しぶりに見た。
「.......村長っ!?」
妖怪が喚く。
見たこともない怪物が、壊れた家々を踏み倒し、そこでゆったりと食事をしているのだ。
怪物が、プッと口の中の物を吐き出す。
また、肉の塊がべちゃっと地面に落ちる。
「"火精よ風精よ、火炎よ嵐よ、彼の者はへいお」
妖怪が何かを唱えると、怪物は思いっきり息を吸い、吐く。
風。
華奢な身体の妖怪は吹き飛ばされる。
僕の身体はびくともしなかった。
やがて風は熱風に変わり、そして炎が吐き出される。
[下級火竜,ブレス_爪_翼打撃_,無効可能,,,,,,,,圧倒的有利]
頭の中で声が響く。
蜥蜴ではなく、竜と言うそうですね。
強そうな名前ですな。
にしても、これ見た目は炎を吐いてるようなんですが、あんまり熱くないですな。
これ直撃の筈何ですが、この身体どうなってるんですかね。
武器何も無いですしね。殴りましょう、そうしましょう。
駆動音を鳴らし、走って、上半身を動かして、殴る。
少し走った分、拳に勢いがつき、ブンっと音を出します。
竜は今も変わらず炎を吐き続けている為、こちらが見えませんでした。
結果、つい最近復活した僕の拳は口を開けた竜の頭をぶち抜きました。
「.......!?」
拳を上に向かって突いた形になりますので、脳天に穴が開いています。
.......あれ、竜て柔らかいですね。おたまじゃくし?寒天?
炎は止まり、目前に脳症ぶちまけた竜(寒天)。辺りには更に焼けた集落と炭になりかけてる死体。
後ろには、三角座りでブツブツ言ってる妖怪が居ますな。何か面倒そうな空気ですな。
.......三十六計逃げるにしかず。
とりあえず、また山の方に、僕は走り出しました。
◆ ◆ ◆
「村長っ.......皆っ.......」
どうしてこんな事になったのか、私には分からなかった。
私が直してきた家々は全て焼けて、知り合いも、村長も、皆動かず転がっている。
飛竜が襲ってきたから、それもそうだが、この時期竜はもっと北に居る筈だ。
誰かが襲わせた、この村の人々は好い人ばかりだった、恨まれたりなんてしないだろう。
だが、対象が村人以外なら?
.......私がいた。
ここは共和国領土だ、でも、帝国なら、あいつらならやりかねない。
私を、殺す為に。
「おい、竜が殺られたっぽいぞ」
「また損失が.......、減給かなぁ」
誰かが近付いてくるのが分かる。
二人。
一人は鎧姿で、もう一人はローブを着ている。
「!、エルフだ!こいつが竜をやったのか?」
「.......サブターゲットだな、やれ」
「ウィ」
鎧姿の男が、どこからともなく大剣を取り出し、構える。
その矛先は座り込んだ私に向けられていた。
私は、もうどうでも良かった。
先程の考えが正しければ村長達は巻き添えになったのだ。全て私のせいなのだろう。
一閃
鎧姿の腕が、飛ぶ。
「ま、まさか.......出やがった」
「メインターゲット.......!」
空に、白い鉄の人が飛んでいた。
「白銀.......っ!」
それは、温もり無き英雄であった。
戦闘シーン(?)