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インターミッション

 スモールワールドから逃げるように脱出した僕らは、近くのベンチに陣取り、暫しの休息を取っていた。僕がベンチに寄りかかり、メリーは頭を僕の膝の上に。さっきはスペースマウンテンで僕がダウンしたけど、今度はメリーだった。

 連続でヴィジョンを視た影響らしい。視る瞬間だけが疲れるとか前に言ってた気もしたから、彼女がダウンするのはありえない筈だけど、今は気にしない事にする。

 精神やら色々削られたのには変わりないのである。


「デスゲームだとは思ってたけど、予想以上にガチだったわね」

「全くだよ」


 二人で思い返すは、つい先ほどの出来事だ。

 小説でたまにある、ログアウト不能のゲームなんて、非現実的で脅威がいまいちわからなかったが、実際に遭遇してみればなんてことない。凄く怖いという事がよくわかった。


「よく思い付いたね。ピノキオ人形持ち帰るだなんて」

「そうね。貴方はあれがフェイクで、考える側を悩ませる材料だと感じた。流石だわ。私はまさにそれ。ピノキオをどう使うかに頭を取られて、ロクな案が思い付かなかったのだもの」


 どことなく悔しそうに肩を竦めるメリー。そう言えば、やたら燃やすを推していた気がする。


「で、そこで待ち受けていたのが二重の罠と。僕は〝使える〟道具が四つまでに踊らされて、まんまとピノキオは必要ないと判断してしまった。鯨から脱出した後の事を考えれば、まだ安全になった訳ではないと分かっただろうにね」


 ミッションクリア条件は、〝アトラクション〟からの生還。断じて鯨から出られたら終わりではなかったのだ。

 ついでに、脱出の為に壁に近づく。というのも絶妙だ。

 あの場で要求されていたのは、黒ずくめとあの男の子の幽霊と遊ぶこと。必然的に、使わなかったアイテムは置いていく。そうなれば詰みだ。

 映画『ピノキオ』にて、鯨から脱出したピノキオ一行は、執拗な鯨の追跡を受け……最後にはピノキオは命を落としてしまう。つまりあのままピノキオ人形を持ち帰らなければ、僕かメリー。あるいは両方殺されていただろう。


「出題者は明らかに悪辣だって分かったから、私なら更に裏をかくにはどうするか。を考えたの。あそこまでピノキオを匂わせておいて、あっさり終わるなんて変。ってね」

「僕はそこに気付けなかったんだよね。危ない危ない」


 身震いしつつ僕らはベンチ越しに、さっきまで自分達がいたアトラクションを振り返る。静かな園内に今も変わらず立ち続ける。否、在り続ける小さな世界。そこに内包するのは、願いだというのに、どうしてあんな悪意まで内包していたのか。


「あの男の子……悪霊だったと思う?」

「……いいや。たぶんごくごく普通の自縛霊。そんなに強い存在でもなかったように思うよ」


 あくまでも凄かったのは、アトラクション内にある〝何か〟だった。そう思えてならない。何より……。


「気のせいかな。あの男の子。成仏したように思えたんだよね」

「……あら、あなたもそう感じたの?」


 幽霊が成仏する瞬間。これを言葉で説明しろと言われても、実は少し困る。見た目は普通に消えるのと大差ないからだ。ならどうして成仏する瞬間がわかるのだ。と聞かれたら言葉に詰まる訳だが、これを言葉にするならそう。


 念が残らない。


 いい幽霊にしろ、悪い幽霊にしろ、その場から消えるときは、何らかの感情と、気配が遠ざかるような空気を与えていく。

 感情は霊によって選り取りみどりであるのでここでは割愛する。

 では成仏の場合は。

 これをざっくり説明するならば、何も残らない。である。

 本当に文字通り、完全に消滅するのである。


 喩えるなら、座布団。

 さっきまで人が座っていた故に暖かみが残っているのが、普通に消える現象。

 人が座っていた筈なのに、何故か暖かみが消失している。が成仏だ。


 ……余計わかりにくくなったとか言わないでほしい。

 僕だって説明に困るのだ。考えるな。感じろとしか言えない。


「寂しかったから、仲間が欲しかったのかしらね。自分と同じように、人形に入れる仲間が」

「そうかもね。あの黒ずくめ……。ピノキオ人形も、触れてくれてありがとうって……へ? 人形?」


 僕が思わずメリーを二度見すると、彼女はおかしそうにクスクス笑いながら、「だって私が触れられたじゃない」と、言ってのけた。

「正確には、人形に宿った幽霊と、ピノキオ人形を本体とした幽霊。それが都市伝説の、他とは違う人形の正体だったのよ。仲間を増やさんとしていたのか、誰かに気づいてくれて欲しかったのか。その目的までは不明だけど……」


 どのみち私達二人、どちらかが欠けていたら詰んでいたわ。

 そうメリーは締めくくった。一方で、僕は頭に引っ掛かるようなものを覚えていた。

 ホーンテッドマンション。スモールワールド。そこに対応する都市伝説と出会えたのは、本来ならば喜ぶべき事だ。

 だけど……。


「こうもあからさまにかち合わせてくるなんて、まるで誰かの手のひらで踊らされてるみたいね」

「言わないでおこうとしたのに言っちゃう辺りが君だよね」


 僕が首を振れば、メリーは呑気に僕の頬を弄くり回しながらも、ゆっくりと状態を起こす。

 その拍子に亜麻色の髪が僕の目の前に大写しになり、花のような、ハチミツのような香りが鼻を擽る。


「休憩おしまい?」

「ええ、充電完了よ。ありがと、お膝貸してくれて」

「別にいいさ。何だかんだ役得だと思うし」


 そんな会話を交わしていれば、背後から軽快な音楽が聞こえる。スモールワールドの建物には、時計が内蔵されており、決まった時間に時を告げる。丁度今がその時なのだろう。


「夜七時少し過ぎ。だいぶ時間使っちゃったわね」

「そうね。次の目的地へ向かいましょう。都市伝説の中でも、それっぽいの所へ……ね」


 そう言って、メリーはガイドマップを取り出す。白い指が指し示した場所は……。


「ああ、ここか。僕ら虐待されないかな?」


 脳裏に、ディズニーキャラクターでは有名な、ガラガラ声のあひる水兵さんの姿が浮かぶ。彼と、これから行く場所の名を冠するリスのコンビが織り成すコミカルな日常戦争は、僕も小さいときに笑いながら観ていたものだ。


『チップとデールのツリーハウス』


 それが僕らが定めた、次の目的地だった。

 残るチェックポイントはあと四つ。タイムリミットは約三時間。

 少し急がないと、間に合わないかもしれない。


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