9
崩れ落ちる天井。その破片の速度よりもはるかに遅い何かが、織笠の視界の端で動く。
アイサだった。
彼女はライフルを杖のようにして立ち上がった――のだが、足に力が入らないのか、大きくよろけていた。
「アイサちゃん!」
今にも倒れそうな彼女の背中に回り、華奢な肩を掴む。
「駄目だ、無理に立っちゃ……」
満身創痍だった。至近距離で炎を喰らったのだ。荒い息を吐き出す唇からは一筋の赤い液体が垂れ、顎をつたって、床に落ちている。
少女の悲惨な姿に、織笠は顔をしかめる。
それでも彼女は気丈に言う。
「……ははっ、へーきへーき。私もヤツも同じ炎の精霊使いだから、耐性があるんだ。見た目ほど大したダメージはないよ」
弱々しい微笑み。誰がどう見ても強がりでしかない。
「アイツの炎は見かけは派手だけど、それだけ。中身がない」
アイサは一度深く息を吐いて、話を続ける。
「レベルの高い精霊使いってのは、マナの含有量が多いから密度も当然濃くなる。洗練されてるの。……空気中のマナと結合して精霊が生まれるわけだから、純度が高くなって、威力も上がる……。だからね、こんなの……ッ!」
ライフルを抱えあげようとしたアイサが痛みに呻き、再び床に落としてしまう。さらには、アイサの膝までも沈んだ。
「無茶だ、そんな体じゃ……」
「大丈夫だって。あまり心配しない……の。……それよりも……」
アイサはふと真剣な顔つきになり、織笠を見つめ返した。
「ごめん、レイジ。アタシの判断ミスだ」
「……え?」
突然の謝罪に訳が分からず、織笠は訊き返す。
宝石に勝るとも劣らない紅い双眸が濡れて揺らめく。儚げな顔のアイサが、声を詰まらせた。
「レイジをここに連れてくるべきじゃなかった。いくら薬物をやってるとはいえ、相手は一人。すぐ片付くと踏んだんだけどさ……。アテが外れたな……」
「そんなこと……」
アイサとて、油断したわけではない。
ただ、相手が予想の上をいっていたのだ。それでも、前回の強盗犯よりはマナの増幅具合がおとなしい気はするのだが……。
「何か、アイツを止める方法はないのかな……?」
E.A.Wをまともに持てないアイサの状態では、佐久間の逮捕は困難だ。マナを回収するという当初の計画は頓挫。
ならばどうすべきなのか。
織笠の呟きにも等しい問いに、アイサは考える素振りすらなく、ちらりと佐久間の方を見やって静かに言った。
「レイジ、アンタに貸した麻酔銃を返して。それで佐久間の行動を一時的に封じる」
「どうやってさ? 君の右手は――」
「左手で撃つ。レイジはモエナを連れてここから逃げて」
「そんな!」
声を張り上げる織笠。それが耳に入ったのか、破壊を続ける佐久間の背中がピクリとわずかに反応する。
「アイサちゃんを放っておけるわけないだろ! アイツはここで死ぬ気なんだよ!?」
「――でしょうね」
「判ってるなら君も早く――」
「私は仕事でここにいる。アイツをなんとしてでも捕まえて、連れ出さなきゃならないんだ」
毅然とインジェクターの少女は言う。
「それに、あと少ししたらカイさん達もここに到着する。それまで時間稼ぎできたらそれでいいの」
さぁ早くとばかりにアイサの手が伸びてくるが、織笠は動かないことで拒否を示した。
管制室が瓦解するのは時間の問題だ。それまでにカイ達が間に合わなかったらどうする気だ。
「どうしたの? 早くして」
急かすアイサ。織笠は躊躇う。
「早く!」
佐久間がこちらへ素早く振り返った。右の拳に炎を付与させ、襲いかかってくる。
「危ない!」
不意に突き飛ばされ、織笠は驚く暇さえなく床を転がる。
その開いた空間へ灼熱の炎が降り下ろされ、拳は勢い余って床を叩く。ジュウゥゥゥ……と鉄が焼けただれる音に、織笠はゾッとした。
織笠とアイサはすぐに立ち上がって佐久間から距離を取る。
佐久間の上半身が起こされる。右手の炎は残ったまま、その力も衰えてはいない。
ここで正常な判断が可能な者であれば、迷わずアイサの方へ攻撃をしかけるだろう。民間人とインジェクター。どちらが己にとって脅威なのか、選択は容易いからだ。
だが佐久間は織笠に目標を定めた。迷うことなく方向転換し、殴りかかってきたのである。
「ッ!?」
反射的に織笠は麻酔銃を取り出す。両手で構え、間髪いれず発砲。右肩が外れんばかりの反動がくる。
銃弾は見事に佐久間に当たった。
佐久間は二、三歩よろめきながら倒れる――かと思われた。
が、佐久間の足はしっかりと大地を踏みしめた。
「なっ……!」
「うっそぉッ!?」
効かない!?
その威力をよく知るアイサも動揺を示した。
「ガアァァァァアアアアアア!!」
その獣のごとき咆哮は怒りなのか、それとも痛みからなのか。
弾丸を胸に埋めながら、佐久間は再度突進してきた。長年の仕事の証が詰まった大きな左手が織笠の首を掴む。流れそのままに織笠の全身が背後の壁へ叩きつけられた。
「がっ……!」
首を鷲掴みにした指がまるで万力のように、じわじわと締め付けを強くする。
強烈な圧迫に声が出ない。呼吸さえできない。両手で引き剥がそうにも上手く力が入らない。
ばたつかせていた足が次第に勢いを失う。
意識が薄れてきた。
霞む視界。
感じたのは肌の焼けるような熱。佐久間の右腕が間近に迫っているらしい。
――その刹那。
突如として織笠は窒息感から解放された。
体が落下する最中、目の前にいたのは佐久間ではなく、アイサだった。彼女が全力の飛び蹴りを放ち、男の体を真横へ薙いだのである。
折れ曲がった佐久間の体は三メートルは吹き飛んで、受け身の姿勢すら取れず、床を一度跳ねた後、壁に激突する。
「ごほっごほっ、がっは……!」
肺に酸素が急激に流れ込み、織笠はむせる。
「どう……し……て……ッ」
麻酔銃が通じなかったのか。そう言いたかったが、苦しさが邪魔をする。
うずくまり、咳き込む彼をアイサは心配そうに見つめながら小さく首を振る。
「わかんない……」
「……これもドラッグのせいとか……?」
「可能性としてはあり得そうだけど……。感覚が麻痺してるだけなら時間が経てばじきに効果も現れると思うんだけど……」
腑に落ちない様子でアイサは呟く。当然だ。遅効性の麻痺弾など飾りもいいところだ。
「――どのみち、そんなの確かめる前にこっちがお陀仏だけどさ」
アイサの視線が横に移動する。
織笠もつられてそちらに合わすと、驚くことに佐久間が既に立ち上がっているではないか。呆れたタフさだ。
「参ったなぁ。どーしたもんかな、コレは……」
苦笑いしながら、お手上げとばかりにぼやくアイサ。
「E.A.Wも使えない、麻酔銃も効かないとなると……。八方塞がりじゃん……」
だが唯一の救いは佐久間の注意がこちらに向いているために、この部屋の倒壊が遅れていることだ。
今のうちに逃げ出してしまえば話は早いのだが、そうは出来ないのが、どうにももどかしい。
アイサは佐久間を捕まえるまで絶対にここを離れない。その使命に殉ずる精神は感嘆ものだが、尊敬は出来ない。
タイムリミットはもうすぐなのだ。
何か方法はないものか。
織笠は考えを巡らせた。同時に視線をあちこちに走らせる。
(あ……)
織笠の目に何かが止まった。そして、とある漠然としたアイデアが頭をよぎる。
「ねぇ」
「――ん?」
「俺がアイサちゃんのE.A.Wを使えばいいんじゃないかな」
アイサにとってはあまりに突飛で、馬鹿げた意見だったのだろう。ただでさえ大きな瞳が限界いっぱいまで開かれる。
「そんなの無理に決まってんじゃん! E.A.Wは精霊使いが自分のマナを消費して造り出された武器なんだよ。いわば分身。他人のE.A.Wを扱うってことは、その人のマナを操るのと同じなんだ。そんなの可能だと思う?」
「やっぱりダメかな?」
「だめ」
アイサは強い口調で一蹴する。
「ましてレイジは精霊使いですらないし。他人のマナに干渉して無理矢理自分のものするなんてマスターでも難しいよ。躾のなってない猛獣を手なずけるもんだね」
そうか……と呟いた織笠だったが、簡単には諦めきれなかった。
それしか方法がないのだ。
それに、織笠には断念しきれない理由がもうひとつある。
前のメディカルセンター襲撃事件。そこで織笠は精霊を操った事実がある。
“人間”の自分が、だ。
もう記憶にすら残ってはいないが、試してみる価値はあるのではないか。
「アイサちゃん」
「今度は何? もういいからさ、レイジは早くここから逃げなって。危ないからさ」
踏ん張りのきかない両足でアイサは立ち上がり、靴を滑らせて織笠を守るように彼の前へ。
小柄な少女の後ろ姿。
それは決して頼りがいのあるものではなく、いたってどこにでもいるような線の細い背中でしかない。
だからこそ。
織笠は。
「どちらにしても危険なら、より成功する確率が高い方に賭けよう」
「うん。だからアンタは早く逃げ――」
織笠は、力強くこう言った。
「猛獣使いになってみるよ」
「はぁっ!?」
アイサが振り返ろうとする。その直後、部屋を焼きつくす炎が風に煽られたかのように、その勢いが増す。
佐久間が三度突撃を開始する。両手には発動した炎。その大きさや色の濃さは、まるで感情の昂りを表したかのようだ。
「アイサちゃん、前!」
織笠は叫びながら、かがんだ体勢から強く地面を蹴る。
「ちょっ、ちょっと!」
オロオロしながらアイサは、織笠と佐久間を交互に見ていたが、
「ああ、もうっ!」
半ばやけくそ気味に間近に迫る佐久間の対応を優先。
二つの炎を喰らわないよう、佐久間の手首をつかみ、動きを封じる。――が、腕力ではアイサが劣っている。じりじりと、佐久間の手が顔へ近づいてくるのを、アイサは上半身をのけぞらすことでどうにか持ちこたえた。
一方、織笠は地面を滑るようにして二メートル先のライフルを拾い上げていた。
肩に担ぎ、取り付けられたスコープを覗く。狭く、丸い緑の世界の中には、組み合っている男女がいた。そこからわずかに右へずらして、佐久間に照準を合わす。
距離は近い。どれだけ素人でも外しようがない距離だ。
あとは引き金を引くだけ。
織笠にだってE.A.Wを使える確信はなんてない。しかし、不思議と心のどこかで撃てるという自信があった。
なぜだか織笠自身にも判らない。ただ、頭からつま先にかけての全ての細胞が、そう訴えかけているような気がした。
指先に力が宿る。
(――いけッ!!)
引き金を――引いた。
奇妙な感覚が織笠の体を駆け巡った。得たいの知れない“何かが”銃身へ吸い込まれていく。
もしかしたら、これが精霊なのか。
だが、それも一秒となく消える。
代わりに、まばゆい光が目の前を塞ぎ、すさまじい反動が肩に襲う。
――そう。弾丸は確かに発射されたのである。
佐久間の炎よりも純度の高い、きらびやかな紅色の光が、きりもみながら高速で宙を裂く。そして、一直線に佐久間へと導かれ、肩口を擦るようにして、こめかみに命中――爆発。火花が炸裂した。首が弾けながら佐久間はすぐそばの壁に激しく衝突して、床に崩れ落ちた。
うつ伏せに倒れた佐久間はピクリともしない。両手の炎も、くべる薪が無くなった焚き火のように段々小さくなり、やがて消えた。
肩で息をしながら織笠は佐久間の様子をうかがっていたが、どうやら起き上がる気配はなさそうだ。
賭けは成功したのである。
証拠に、佐久間が立っていたポイントには、光り輝くマナが、ふわふわ上下している。
「うっそぉ……」
へたり込んだアイサは、一連の光景がまるで信じられない様子で、唖然としていた。
「よ、よかったぁ……」
安心して気が抜けたのか、織笠はライフルを持ったまま膝をついた。
それからすぐ、カイ達が到着。説明もそこそこに、マナを回収し、佐久間を拘束。全員速やかに管制室を後にした――。
しばらくして。
織笠は造園会社の敷地内に設けられた、小さなベンチに座っていた。
空には暗幕がかけられたように、もう真っ暗だった。敷地内にはライトも数ヶ所設置してあるものの、管制室が滅茶苦茶に破壊されたために、ただのオブジェと化してしまっている。
明かりになりそうなものといえば、煌々と輝く大きな満月。そして、パトカーの赤色灯だ。それでもかなりの台数がまだ残っているので、照明としては十分だった。
遠くの正門では野次馬の群れがこちらを好奇の眼差しで覗いている。どこからか聞こえるプロペラ音は、きっとマスコミのヘリだろう。
これでは騒ぎが落ち着くまで時間がかかりそうだ。
「はぁ……」
ぐったりとベンチに背中を押し込んで、織笠はため息をつく。
さすがに疲れた。今日は色々ありすぎた。
まずマスターの元へ出向き、モエナを預かってからの――この事件だ。
織笠は足元に視線を持っていく。こちらも疲れたのか、モエナがすやすや寝息を立てていた。
その姿が愛らしく、織笠は目を細めた。
「レーイジ」
顔を上げると、正面からアイサが近寄ってきていた。恐らく自販機で買ったのだろう、飲料缶を両手に持っていた。
彼女は二つとも織笠に差し出しながら、
「お疲れさん。ジュースとコーヒーどちらがいい?」
「あぁ、ありがと……。じゃあコーヒーで……」
「そ。良かった。あ、お金はいいからね。私のオゴリってことで」
「……なんだか悪いな」
「いいって、いいって。――それよか……隣……いい?」
「へ!? あ、ううう、うん、どうぞどうぞ!」
人見知り、再発。慌ててスペースを空け全身をすぼめる青年の姿に、アイサはプッと吹き出した。
「なに動揺してんのさ。さっきとは別人じゃん」
織笠の横に腰かけ、缶ジュースを開けて一口。
織笠もコーヒーに口をつける。砂糖の甘ったるさが疲労の体に浸透していく。
アイサの静かな吐息が聞こえる。織笠青年には、あまりこういったシチュエーションには免疫がないので、思わずドキドキして緊張しまう。
「イ、インジェクターって大変だね。いつもこんな感じなの?」
「ん? 普段はここまで忙しくないよ。ひとえに精霊使いっていっても、全員が戦える技術を持ってるわけじゃないしね」
「そうなんだ」
「精霊は本来、戦闘の道具じゃないから。精霊使いは自然を管理するために存在するからね。ただ……」
と、アイサが言葉を切ると、途端に表情が曇った。
「ここ最近の犯罪件数の増加は変だな、と思う。事件を起こすストレイエレメンタラーが急増してるんだ。正直、人手が足りないって、みんな嘆いてる」
アイサは物憂げに、缶のふちを指でなぞっている。
精保に所属するインジェクターは、カイ達五人だけではない。彼らはあくまで部隊の一つ。課は他にも存在する。それでも手が回らないということは、それだけこの世界に不満を持つストレイエレメンタラーがいる、ということになる。
「――この世界は、アタシ達にとって決して優しくない。ここがユートピアだと信じ、移り住んできた精霊使いも沢山いるんだけどね」
どうしてか、少女の呟きが胸に突き刺さる。自分が精霊使いをこの国に喚んだわけではないのに。
「アイサちゃんは……後悔してる?」
恐る恐る訊ねてみる。
確かに織笠の質問は彼女に届いたはずなのだが、すぐに答えは貰えなかった。
返答が来た頃には手元のコーヒーがぬるくなっていた。
「……どうかな。忘れちゃった」
肩をすくめるアイサ。
なんだか、はぐらかされた気がした。事実、そうなのだろう。追及したい衝動が沸くものの、そこまで無神経ではない織笠は喉元まででかかった言葉を押し戻した。
ちょっとした沈黙が下りる。
(どうしよう……)
気まずい。
間をしのぐため、ちびちびとコーヒーを飲んでいく。
何か別の話題を振った方がいいだろうか。
それを考えている間にコーヒーも残り少なくなっていた。
「――それからさ」
次に口を開いたのはアイサだった。
「……え?」
「今日はありがとね。助けてくれて。レイジの協力がなかったら、どうなってたか判んなかった」
「いや……。俺も無我夢中だったし……」
「実はかなり不安だったんだ。逃げろってレイジには言ったけど、内心、怖くて仕方なかった。もしかしたら……ってさ」
「アイサちゃん……」
やはり彼女もインジェクターといえど、まだ十代の少女なのだ。
精神面の未熟さが言葉に漏れ出る。
彼女の本音が聞けて織笠は、やはり判断は間違ってなかったと、心の底から安堵した。
「プロだプロだってほざいておきながら、失格じゃんね、これじゃ」
「……そんなことないと思うけど」
「カイさんには、こっぴどく叱られちゃったし」
「あー……うん。だね」
佐久間を精保へ送った後。二人はカイに呼ばれ、小一時間こってり絞られてしまった。無茶な判断で危うく命を落とすところだったのだから、当然だ。
「でも、俺はスゴいなって思った。普通の人にはできないよ、あんな立ち回り」
「仕事だからね。いつのまにか慣れちゃった」
謙遜しながらも照れくさそうに、アイサは笑う。声音に少し元気が戻っている。
「ねぇ、レイジ」
「は、はひ!? な、なんですか!?」
織笠が驚いたのはアイサが急に距離を詰めてきたからである。おまけに顔まで近づけて。
「初対面のときから思ったんだけどさ。どうして私といるとき、キョドるのさ。もしかして、アタシ怖がられてる?」
ブンブン! と、織笠は必死に首を振る。誤解を与えまいと、独り言のようにボソボソと理由を言う。
「そうじゃないんだよ。ちょっと人見知りが激しいというか……。あまり人間関係が得意でないというか……」
「えぇ、そうなの?」
頷く織笠。
「昔から人との付き合いかたがよく判らなくてさ。人から言われたことに対してかなり考えちゃうんだ。結果、無難な返事にしちゃうんだけど……」
アイサは「ふぅん」と唸るような声を出し、腕を組む。
「別に気楽にいけばいいと思うけどね。パッと浮かんだことを口に出してもさ。そんなに皆気にしないよ?」
少なくとも私はさ、とニカッと白い歯を見せ、さらに言った。
「もう少し、殻を破ってみたら?」
結構ズシリくる一言に、織笠は苦笑いを作る。
「そう……できたらいいんだけどね」
建前でそう答えた。余計なお世話、とまでは言わないが、本音は「仕方ないだろ、嫌われるのが怖いんだから」だ。
今日にしたって、人が殴り合う光景を目にしてしまっては、他人への恐怖心に拍車がかかるというものだ。
人間と人間。
精霊使いと精霊使い。
そして。
人間と精霊使い。
上手くいかないな――そう痛感しながら、余ったコーヒーを一気にあおる織笠であった。