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一話「男の強さ」

 森のなかにある、開けた広場。そこに二人の人間が佇んでいた。


 一人は銀髪長身の男。片刃の剣を腰に携えた剣士だ。

 もう一人は純白のローブを羽織った女。

 目深にかぶったフードから、紫紺の髪が覗いている。


「あんたが宮廷魔術師のエニシダか? 本当に来てくれるとは思わなかったぜ」


 銀髪の男が嬉しそうに笑みを浮かべている。が、その笑顔からは嫌悪感しか感じられない。

 

「……野蛮な剣神。あなたがそうですね」


 そう言ってフードを脱いだ。

 真っ白とした肌にくりくりとした大きな目が露わになる。

 真面目で聡明そうだが、とても幼い顔立ちだ。


「なんだずいぶんと童顔じゃねーか。背も小さいし、本当に魔術師最高峰なのか?」

「なっ……バ、バカにしないでください! それに質問を質問で返さないでください!」


 銀髪の男はその光景を見て、子供がプリプリと怒っているようにしか見えず「ククク」と笑っている。


「わ、笑うなぁ!」

「ククク、すまねぇすまねぇ……で、質問ってなんだったか?」

「あなたが野蛮な剣神かどうかって話です!」


 男はエニシダの言葉を聞いて、態度を切り替え真面目な顔をする。


「……巷ではそう呼ばれているらしいな。俺としては不本意極まりないのだが」

「やはりそうなんですね。この呼び出しの手紙ただの悪戯かと思いましたが来て正解でした」


 エニシダは真っ直ぐに男を指さす。


「王国はあなた……ヘリオ・フリードさんを危険視しています。故に私がここであなたを止めます」

「そうか戦ってくれるか。嬉しいねぇ。じゃあ――ここから言葉はいらねぇな」


 銀髪の男――ヘリオは片手で剣を引き抜き、跳んだ。

 十メートルはあったであろう二人の距離を一瞬で詰め、斬りかかる。


「防壁展開」


 その言葉と同時にエニシダの眼前に大きな魔法陣が描かれた。

 白く蛍光する陣は、剣を凄まじい抵抗を持って止めた。

 ガキィンという金属音とともに、ヘリオは後方へ仰け反る。


 ヘリオは笑みを隠しきれずニンマリと笑った。


「今の初撃、七割は見えず死ぬ。お前は優秀だ、嬉しいぜ」


 強敵と戦えることへの喜びが、ヘリオの表情は恍惚としたものへと変質していた。


「やはり野蛮ですね」


 エニシダは先ほど展開した陣を回転させ、空気中に存在する『魔素』と呼ばれる魔術の元となる物質を吸い込む。

 十分に吸引した後、回転をピタリと止め『変質させた魔素』を打ち出す。


「獄炎!」


 魔素は変化し、灼熱の火球となった。

 撃ちだされた火球はヘリオに直進し命を刈り取ろうとする。


 しかしそれは容易く、一振りでかき消された。


「こんなもんじゃねぇよな」

「もちろんです」


 ヘリオはその返答に嬉しそうに笑った。

 

 もう一度ヘリオが跳んだ。

 先ほどよりも近い距離、しかしエニシダは防壁の展開を間に合わす。

 一瞬で描かれた陣にまたもや阻まれる……かと思われた斬撃は、それをまるで紙切れの様に切り裂いた。


 驚愕の表情を浮かべるエニシダ。

 そのまま袈裟斬りの形で迫る斬撃を、なんとか身を捩り致命傷を回避した。

 その後足元に平たい円形の土を生成。

 自らを後方に打ち出すように動かし、ヘリオから距離を取る。


「うぅ……なんで」


 浅く斬られた肩口を抑え嘆く。

 魔素によって作られた物質以外に対し、強力な抵抗力を持つ防壁であった。にもかかわらず、容易く来られたことに驚きを隠し切れない。


 だが、眼前の光景にその疑問は一瞬で彼方へと追いやられる。

 迫っているのだ。

 笑みを浮かべ、自らの命を刈り取ろうと。

 剣士最強と呼ばれる男が。


「こ、こないで!」


 手当たり次第に魔素を鉄の塊に変換し、ヘリオに向け射出する。

 数百の鉄塊が爆発的速度で蜂の巣にせんとヘリオに迫る。

 だが、剣神と呼ばれる男にとってそれは止まって見えた。


 何度剣を振ったのか、それすらもわからない速度で鉄塊を地面へと切り落とす。


 諦めず、何千と打ち込む。だが、ヘリオには一つたりとも届かない。

 そしてエニシダの魔力は枯れた。


 魔素を他物質に変換するには、生命が内在する魔力を消費する。

 それが人一倍多い、エニシダであったがヘリオの威圧感。

 それによる緊張。

 更に、先ほど闇雲に生成した鉄塊。

 それらの要素が噛合い、自分の思っている以上早く限界が来てしまった。


 肩で息をし、涙目のエニシダ。

 表情は苦痛に歪んでいる。


「やっぱし、魔術師は後方支援しか出来ない生き物か。剣士最強になって、これからは世界最強を目指そうと魔術師狩りを始めようかと思ったが意味なさそうだな」

「そん、な……野蛮、な……」

「野蛮な剣神だからな」


 ヘリオは剣を振り上げる。


「これで俺の勝ちだな」


 ヘリオの信条として、勝利は他者の無力化ではなく殺しというものがある。

 故に怯える少女も容易く殺す。


 頂点に達した剣は一気に振り下ろされ、生命を切り裂かんと迫る。

 

 ――その瞬間、ヘリオの両腕、両脚を切断するかのように魔法陣が出現し動きを止めた。


「な! なんだこれは!?」


 完全に不意を突かれ驚きの感情を露わにする。

 

 周囲を見渡すとエニシダと同じ、白のローブを着た人間がゾロゾロと木々の間から出てくる。

 手には木製の杖、先には拳サイズのエメラルドグリーンの宝石が付いている。

 

 十数人だろうか。

 それらが皆同じような立ち姿であるため気色悪さを感じさせる。


「みなさん! 助かりました!」


 エニシダの仲間達のようだ。


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