1人目のお客様-Ⅲ
まだ、話の核心に、はいってません。今回は微妙に核心にふれます。
カラン、と鈴の音がした。そしてドアを開けた瞬間、穏やかな花の香りがした。中も落ち着いた色合いの物ばかりだった。
こんなところに入るなんて、初めての事で、立ち尽くしていると女性が近づいてきた。歳は二十代ぐらいだろうか。肩まで伸びた髪は、キレイだった。
「いらっしゃいませ。『レンゲソウ』へようこそ。お席を案内します。」
「あ、ありがとうございます。」
このカフェの店員だと思われる女性のエプロンには、『九十九』と書いてある名札がつけてあった。読み方はなんだったっけ、と関係の無い事を思いながら、店員さんについていった。
「ご注文が決まりましたら、お呼びください。」
店員さんは笑顔で小さく頭を下げるとカウンターの方へと戻って行った。
まわりを見ると、女子ばっかりで、恥ずかしかったが気にしないことにした。
メニューを見ると、簡単な食事やケーキセット、紅茶や、ジュース、スイート・・・たくさんの種類が書いてあった。とりあえずオススメのケーキセットを頼むことにした。机の上にあったベルを鳴らすと、今度は男性がやってきた。互いを見て、俺たちは固まった。
「なんで、久遠がここに・・・!?」
「いや、そのセリフまんまお前に返すわ、黒崎。」
目の前の人物は、俺のクラスメイトの黒崎零だった。
「俺の家がこのカフェ営んでるんだよ・・・って、話は後でだ。ご注文は?」
「あ、えっと、今日のケーキセット・・・ってやつで。」
「今日のケーキセットっと。久遠、ちょっと待ってろ。休憩も一緒に貰ってくる。」
「いいのかよ、それ」
「いいんだよ、別に」
黒崎は笑いながら言うと、カウンターへ戻って行った。
初めて知った事実に驚きながらも、あたりを見回していると、『夢相談承ります』という、張り紙を見つけた。なんだそりゃ、と首を傾げていると、黒崎がケーキセットを持ってきた。
「お待たせしました、ってな。」
黒崎が持ってきたトレーを見ると、チョコケーキと紅茶が二つずつあった。家がしてるからって、ずりぃ。そう思っていると俺の表情を読み取ったのか、黒崎は付け足した。
「ちゃんと金払ってるからな。」
「お前エスパーか。まぁ、いいや。休憩貰えたのか?」
「ああ。今はそんなに客もいないからな。」
いただきます、とケーキを一口食べると、ちょうどいい甘さが口の中に広がった。
「今日のは雪華さんと、美雨さんが作った中でも、トップ5に入るやつだってよ」
「雪華さんと、美雨さん?」
「双子の姉妹で、雪華さんは多分見ただろ。肩まで伸ばした髪の人。名札に『九十九』って書いてあっただろ?ちなみに美雨さんは髪をポニーテールにしてる。俺の親戚。」
へぇ、と思いながら紅茶を啜る。紅茶に詳しくないがとてもおいしかった。
「ところで、お前なんでここに来たんだ?」
黒崎が思い出したように言った。
「いや、なんとなく立ち寄っただけ。そういやさっきから気になってんだけど、あの夢相談ってなんだ?」
さっきの張り紙を指さすと、黒崎はああ、と呟いた。
「そのまんまだな・・・。夢に関する相談。今のお前にぴったりの相談だ。」
「は?」
「百聞は一見にしかず、ってな。まぁ、実際にした方がはえーな。先ずは、それ食べてからだ。」
ニヤリと笑う黒崎の言葉に首を傾げながら、俺は残りのケーキを食べ始めた。