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流木に座って腕を組み、まるで瞑想しているように微動だにしなかったガヴィ=アオンが、突如電波をキャッチしたみたいに空を仰ぐ。
「来たか」
ヘルメットのバイザーに映る青空に、きらりと光る銀色の塊。それが徐々に大きくなり、やがて両手にメリッタ・プシケ姉妹を掴んだアペイロンがどしんと落ちてきた。
「やはりそうなったか」
着地の衝撃で巻き上がる砂煙が晴れると、アペイロンは両手に掴んでいたメリッタとプシケを、冷凍マグロのようにぞんざいにガヴィ=アオンの前に放り投げた。
「殺めたのか?」
「いや、生きてるよ。この陽気だ。しばらく放っておいたら自然解凍するだろ」
見れば、二人は全身にびっしりと霜が生えてはいるが、中まで完全に凍ってはいないようで、死人のように見える青紫色の唇をかすかに震わせ、小さく「さむさむさむさむさむさむ……」と呪文のようなうわ言を漏らしている。
そんな姉妹を見てガヴィ=アオンは一言、「ほう」と漏らす。
「何がおかしいんだよ?」
アペイロンが食いついてきた。ガヴィ=アオンの表情がまるで見えないので、言葉の抑揚で意外だとか予想外だという印象を受けたのだろう。まあ当たらずといえども遠からずだ。
「否。ただ、師匠と比べて弟子は随分甘いと見える」
師と比較されたのが気に入らなかったのか、アペイロンがむ、と唸る。
「師匠を知ってるのか?」
「是。この身、すでに幾度か打ち破られること久しけり」
アペイロンは眉根を寄せたまま、数秒考える。どうやらこちらが言った言葉を咀嚼し、理解するのに相当の苦労を強いられているようだ。
「……つまり、あんたは師匠と何度か戦って、全部負けてるってわけだな?」
「是。貴様の師匠は情け容赦など無縁の存在。敵として向かって来た者は、皆悉く返り討ちにて死せりけり」
「じゃああんたは何で生きてんだよ?」
「至極簡単。拙者、剣の道を究めんがために生身を捨てた身。この体躯、機械となりて久しければ、脳もまた同じなり。アペイロンに幾度となく敗れしもこうして辺境の地へ馳せ参じたのは、一重に貴様の師、シド・マイヤーを倒すため。だがすでにアペイロンが代替わりしているとあらば、拙者の獲物は貴様ということになる」
またもや沈黙。やはりこちらの言葉を理解するのに手間取っているようだ。これはもしかすると、自分の習得した言語が相手と異なるのかもしれない。
「つまり、拙者は全身機械。目的はアペイロン打倒にて候」
「あ、なるほど……。しかしずいぶんはしょったな」
今度はすんなり通じた。どうやら長いセリフは通じにくいようだ。
「なので先ほどのような、生身の弱点をついた戦法は拙者には通じぬ。甘い考えは捨てるがよい」
「大きなお世話だよ。こっちが勝手にやってんだ。御託はいいからかかって来いよ」
「そう慌てるなかれ。今しがた二人を相手に戦って疲れた貴様を倒しても、何の自慢にもならぬ」
それより、とガヴィ=アオンは右手に持った銀色の棒を前に突き出し、
「戦の前の余興と思え。少しばかりこちらの手の内を見せてやろう」
そう言うとアペイロンに背を向け、さっきまで自分が座っていた流木に向き合う。
「しかと見よ。これが貴様の師匠を倒すために編み出した、我が渾身の必殺剣」
言うなり、ガヴィ=アオンは上体と右足を一緒に前に出す。と同時に右手の棒を振り抜いた。
突如空気が爆発的に斬り裂かれ、突風で吹かれたように砂が舞い上がる。
「――!?」
砂煙が収まると、さっきまであった流木が綺麗さっぱり消えていた。
「この剣技とこの剣があれば、如何にアペイロンと云えどただでは済むまい。せいぜい当たらぬように上手く避けるがよい」
再びアペイロンへと向き直ったガヴィ=アオンの右手には、やはり先程と同じ、棒きれとしか思えない物が握られていた。
一瞬で跡形もなく粉となって散った流木に、虎鉄は息を呑む。
だが驚愕の種は一つではない。あの刹那の中に、信じられない光景が少なくとも三つはあった。
その一はガヴィ=アオンの握っていた銀色の棒。たしかにあれは、何の変哲もなさそうなただの銀色の棒だった。
――ガヴィ=アオンが振るまでは。
メリッタ・プシケ姉妹の攻撃を見切ったアペイロンの動体視力でも、その全貌を完璧に視認することはできなかった。つまり、あの斬撃はそれよりも速いということだ。辛うじて見えた影は、まさしく剣と言うか、片刃の形状からするに日本刀のようだった。短かった全長が一瞬で伸び、棒状だった形が刃と化した。そして、振り切った後にはまた棒に戻っていた。あれはどういう理由かは知らないが、獲物を斬る瞬間だけ刀になるようだ。
そしてその二は、斬撃の量である。
百分の一秒を見切るアペイロンの目でさえ、捉えられたのはその残像だけだった。だがそれだけ見えれば驚くに十分。何せ見たものは、尋常ならざる量の斬撃によって作られた、極めて目の細かい網のようなものだった。
恐らく網の一本一本が斬撃であろう。それが千や二千ではきかない数が、縦横無尽に広がっていた。まるで鋼線で紡いだ網だった。そしてそれが被さると、流木は粉となって散った。アペイロンにはそう見えた。
ガヴィ=アオンは上手く避けろと言ったが、あんな投網のようなものをどうやって避ければよいのか。
最後の一つはその二に付随する。それは、あれだけの速度で剣を振りながら、衝撃波が起きていないということだ。通常、秒間一万回に及ぶ剣撃を繰り広げれば、自然その切っ先は音速など軽く超える。にも関わらず、ガヴィ=アオンの剣撃は物凄い風圧を生みはしたものの、アペイロンの拳のように派手な衝撃波を出すことはなかった。
これはどういうことだろう。自分の拳とあの剣に、どれほどの違いがあるというのか。
だが虎鉄はこうも考える。あの剣の謎が解けたとき、自分の拳もまた衝撃波を起こすことなく大気中で自在に振れるようになるのではないかと。
「ピンチはチャンス、か」
虎鉄はにやりと笑う。ならばその剣の秘密、拳で盗んでやろう。これから先、また大気中での戦闘があるかもしれない。その時、今日みたいに衝撃波のせいで本気が出せないということがないように。そのためにも是非盗んでおいて損はないだろう。いや、絶対に習得しておかなければならない。
さて、そうなると次に問題なのは、相手が武器を持っているという点だ。虎鉄の経験上、複数を相手にケンカをしたことはあるが、さすがに刃物を持った者を相手にしたことはない。何だかんだ言っても、所詮はケンカである。
けれど恐れるなかれ。何しろ今の虎鉄は宇宙最強の兵装、アペイロンの装着者である。あのドラコの攻撃でさえ耐え凌いだ装甲は、宇宙最強の名を冠するに相応しいものである。ならば、如何に神速の太刀筋であろうと何を恐れようか。刃が通らなければ、たとえ剣であろうとただの棒きれである。
勝てる。虎鉄は戦う前から勝ちを確信した。先のメリッタ・プシケの用いた装甲を通過する攻撃とは違い、ガヴィ=アオンの剣撃は刃さえ通らなければ何も恐くない。これは楽勝ではないだろうか。後はどうやって衝撃波を出さないで攻撃しているのか、その秘密を解き明かせばいい。むしろそっちがメインになるだろう。上手く相手の攻撃を誘い出し、できるだけ多くヒントを手に入れなければ。今回は身体より頭を多く使いそうだ。これは忙しい戦いになるやもしれぬ。
などと虎鉄が別の方向で戦いのプランを練っていると、
「そうそう、ひとつ言い忘れていたが――」
ガヴィ=アオンが無造作に、だが虎鉄の目にも止まらぬ速さで刀を振る。
「アペイロンの装甲、拙者の前では無敵にあらず」
言葉の真意が理解できず、呆然と立ち尽くしていた虎鉄の胸に、鋭い痛みが走る。
見れば、アペイロンの胸部の装甲が、浅く真一文字に斬られていた。
「……あれ?」
皮一枚とは言え、ネオ・オリハルコンの装甲が斬られた。ということは、つまり、アペイロンであろうがなかろうが、あの刀で斬られたら血が出て下手をしたら手足が斬り落とされ、もっと下手をしたら死んでしまうということか。
おいちょっと待てどういうことだこれは。
血の気が一気に引く。下手に優越感があっただけに、それが一瞬でなくなった反動が半端ない。むしろ立場は逆転し、刀を持った相手に徒手空拳で挑まねばならないという状況になっている。
足がすくんできた。メリッタ・プシケ姉妹の時とは比べ物にならないくらい恐い。そりゃそうだ。殴られ蹴られるのには多少なりとも経験はあるが、刃物で斬りつけられるのはこちとら初めての経験なのだ。
斬られた痛みやダメージよりも、無敵の装甲が破られたショックと、これから真剣を相手に戦わなければならない恐怖の方が大きい。ついさっきまでの余裕ぶっこいてたのが一発で逆転し、ドラコに追いつめられ絶体絶命だった時に感じた、あの金玉が縮み上がるような死の恐怖が再び蘇る。首の筋肉が引きつるくらい歯を噛み締めていなければ、凍死寸前のように歯をガチガチ鳴らしそうになる。
幸い斬られた傷は極めて浅かったので、アペイロンの超再生能力ですでに跡形も無く塞がっている。が、それだけだ。いくら瞬時に治ろうが、斬られたら痛いのと斬られ過ぎたら死ぬのに変わりはない。
またか、と虎鉄は思う。とうに覚悟を決めたと思っていたのに、いざ命のやり取りが始まると途端に身体が強張って言うことをきかなくなる。それが自然なことだと理解しているのと同時に、いつかは超えなければいけない壁だと自覚している。
朝の舞哉の言葉が、今になって身に沁みる。
『お前、次は殺せるのか?』
答えはこの期に及んでまだ出ない。
このままでは、殺される側になるのは必至である。
「あのバカ、完全にブルっちまいやがった」
双眼鏡を超える視力を持つ舞哉が舌打ちをし、物凄い苛立った顔でつぶやく。
「どういう事じゃ?」
スフィーの問いに、舞哉はアペイロンたちから視線を外し、彼女の方に向かって神妙な顔で言う。
「アペイロンの装甲が斬られた」
「なに……っ!?」
アペイロンの装甲の元となるネオ・オリハルコンの製作者にとって、聞き捨てならない話だった。だがそれは元アペイロンであり、内燃氣環の生みの親であるシド・マイヤーも同様であるのか、自分で見て自分で言いながら、信じられないような顔をしている。
「しかし、あやつは何もしとらんように見えたが、一体どうやって」
「すげぇ速ぇから俺でもちらっとしか見えなかったが、あいつの手に持ってるあれ、どうやら振る瞬間だけ剣になるようだ」
「いやしかし、たかが剣ごときで傷がつくような代物では……」
そこでスフィーの言葉は、頭に浮かんだある可能性に止められる。
「まさかあ奴の持つあれは――」
「恐らく同じネオ・オリハルコン製だな」
「馬鹿な! あれを稼働させるのにどれだけ莫大なエネルギーが必要か、お主ならよく分かっておるはずじゃ」
「あたぼーよ。だがそれは、アペイロンみたいに常時稼動させる場合、ってことだろ? あれを見ろ」
舞哉が太い指で、ガヴィ=アオンの持つ銀色の棒を指差す。スフィーは目を細めて指先を目で追う。そうすると、棒の柄の部分からケーブルが伸びており、それがガヴィ=アオンの背負う金属製の箱に繋がっているのがどうにか見えた。
「あれはもしや……」
「ま、順当に考えりゃエネルギー発生装置だろうな」
「だが、あんな小型のものでどうやって」
「だから、常時じゃなけりゃいいんだよ。俺の見たところ、あの棒っきれが剣として稼働するのは、斬りつけるほんの一瞬。恐らく一秒もねえくらいの時間だけだ」
「なるほど。そんな短時間なら何とかなるかもしれんのう」
「とは言うものの、あの金庫みてえなの、見た目に騙されるなよ。一瞬でもネオ・オリハルコンを稼働させられるんだ。そうとう高出力のジェネレーターに違いねえ」
じゃろうな、とスフィーも同意する。と同時に歯噛みもする。なぜなら、一瞬とは言えネオ・オリハルコンを稼働させるだけのエネルギーを発生させるジェネレーターを、あそこまで小型化できる自信は今の彼女でさえなかったからだ。いや、自分にできないのだから、この宇宙のどこを探してもできる奴はいないに決まっていると思っていた。だが現実は違っていた。本音を言えば、今すぐこの場で喚き散らしたいくらい悔しかった。
「一体誰が……」
「あん? 何だって?」
「いや、何でもない」
「しかしあの野郎、いつの間にあんな剣手に入れやがったんだ? 俺ん時にはなかったぞ」
ぎり、と舞哉が歯を食いしばる。師匠として弟子の窮地に憤りを感じているのか。普段は何だかんだ言っても、やはり師弟の情みたいなものを持っているのだなあ、とスフィーが意外に思っていると、
「あんな面白そうな物があったら、アペイロンと互角以上に戦えるじゃねえか。クソ、どうして俺ん時にはナマクラしか持っていなかったんだよ! ぜんっぜん歯が立たねえから弱い者イジメみたいな一方的な展開ばっかだったじゃねーかつまんねー!」
まったく見当違いの怒りを吐き出した。
「神父さん、今そないな事言ってる場合やないやろ……」
エリサがツッコミを入れるが、舞哉は本気で悔しがっている。変身さえできていれば、今すぐ出て行って虎鉄と交代しそうな勢いだ。
まあ確かに、ガヴィ=アオンの剣の腕前とあの剣があれば、いかに宇宙最強のシド・マイヤーと言えど楽勝というわけにはいかないだろう。また、強すぎるゆえに一方的な展開が常となっていた彼にとって、負けるかもしれないという緊張感は、何物にも代え難い蠱惑的な美酒のようなものだ。戦闘中毒め、とスフィーは頭の中で毒づく。
だが今は、野蛮な知人の性癖に辟易している場合ではない。問題は、ガヴィ=アオンがどうやってあの剣を――いや、正確にはネオ・オリハルコンを稼働させるジェネレーターを手に入れたか、だ。
実のところ、ネオ・オリハルコンという物質は希少でも何でもない。それなりの設備があって、それなりの資金とそれなりの科学知識があれば誰でも作れる。何しろ連邦学術院にレシピがあるし、一般に公開だってされている。
が、作れるだけだ。問題は、作ったところで役に立たない。なぜかは先に記したとおり、稼働に必要なエネルギーが莫大過ぎるからだ。こんな大食らい、誰でも持て余すに決っている。なので公開したところで誰も見ない。
問題はジェネレーターである。これはネオ・オリハルコンとは違い、誰でも作れるというわけではない。設備的にも、資金的にも、科学知識的にも。
仮に設備と資金と知識がそろったとしよう。だが今現在の技術では、ネオ・オリハルコンを稼働させるような莫大なエネルギーを発生させるジェネレーターとなると、まあ小さく見積もってもコンビニ一軒分の大きさになる。宇宙一の天才科学者と名高いスフィーでさえ、仮設トイレか電話ボックスくらいの大きさにするのが精一杯だった。よって今や、全宇宙広しと言えども、ネオ・オリハルコンを実用しているのはシド・マイヤーの開発した内燃氣環を搭載したアペイロンのみであった。これがアペイロンの宇宙最強の理由の一端である。
しかし、今日その最強伝説に幕が降ろされるかもしれない。無敵の鎧を斬り裂く、最強の剣が現れてしまったからだ。
スフィーじゃない誰かの作ったジェネレーターを使って。
気に入らない。一体どこのどいつだ。連邦学術院にいる連中じゃ、逆立ちしたってできっこないだろうし、在野の野良科学者にできるような仕事でもない。気に入らない気に入らない気に入らないと、スフィーは左手の親指の爪を子リスのようにがじがじかじる。
「せやけど、何で同じ素材やのに虎鉄だけ斬られるん? 向こうは何ともないように見えるけど、それっておかしない?」
素人としてはもっとも意見である。
「そうだな、考えられる要因として二つ。まずはあいつの剣の腕が相当高いってことだな」
「達人が刀で鉄の鎧や兜を斬るっていうアレ?」
「ま、そんなもんだ。次にネオ・オリハルコンはその特性として、与えられたエネルギーの大きさに比例して、その硬度や性能が上がるんだが……」
舞哉はいったんそこで言葉を止め、あまり言いたくなさそうに鼻から大きく息を吐き出す。
「虎鉄だけ斬られたってことは、単純にあいつの気合が足りねーんだろうな」
「気合ってなんやの。もっと具体的に言ってくれなわからへんわ」
焦れたエリサに詰め寄られ、舞哉は面倒臭そうに頭を掻く。
「つまりな、虎鉄のバカよりもあいつの背負った金庫みてーなジェネレーターの方が出力が高いってこった」
「んなアホな。アペイロンの出力って、無限なんとちゃうん」
「そうだな。ただし条件がある」
「条件?」
「内燃氣環は確かに無限エネルギー発生機関だ。だがそれは、装着者の魂がそれ相応に燃えていなければならない」
「じゃあ、虎鉄が斬られたっていうことは……」
「どうせあのバカ、ネオ・オリハルコンの装甲には剣なんて効かねえだろうって高をくくってナメてたんだろ。そら出力も上がらねーわ」
そこで舞哉は眉をしかめ、地面に唾を吐く。
「おまけにその装甲が役に立たないと分かった途端、急にビビり始めやがった。これでさらに出力ダウンだ。ありゃあもうダメだな、勝負ありだ」
「勝負ありって、ほんなら虎鉄はどうなるん?」
「知るか。命がありゃめっけもんってところだろ。どうせ手配書はデッド・オア・アライブだ。生きてようが死んでようが賞金の額は変わらんからな」
「ちょっ……!? 何をあっさり言うてんの! 何とかならんの、って言うか何とかしてや!!」
舞哉は司祭平服の袖をミチミチ言わせながら太い腕を組む。
「冷たいようだが、こればっかりは何ともならねーよ。ここであいつが負けるようなら、遅かれ早かれ誰かに殺られる。そうならないためには、一秒でも早くアペイロンを己のものにするしかねえ。これから先、これ以上のピンチなんて掃いて捨てるほどあるはずだからな」
「いやいや、なったところで相手も同じもん使ってるんやろ? それならやっぱり武器持ってる方が強いんとちゃうん? 剣道三倍段って言うで」
「馬鹿言っちゃいけねえよ。あんな棒っきれだけのネオ・オリハルコンと、うちのアペイロンを一緒にされちゃあ困るぜ」
「せやったら、今からでも虎鉄に逆転のチャンスはあるんやね?」
さっきまでの悲壮な顔に笑顔が戻ったエリサを見て、舞哉は口の端をいっぱいに引っぱり「ん~~~~~~……」と唸る。何とも言い難いような、言いたくないような、はたまた言ったら悪いので言わない方がいいんじゃないかと遠慮しているような、複雑な唸りだった。
「……あるんやろ?」
その思わせぶりな唸りに、不安になったエリサがもう一度尋ねる。さすがに同じ事を訊かれたら答えないと可哀想だと思ったのか、舞哉は組んだ腕を一度解き、無精ひげだらけの顎を指先でコリコリと掻いて、また腕を組み、
「あいつも自分がすでに武器を持っている事に気づけたら、あるいは」
何やら禅問答のような事を言った。
次回更新は8月24日(予定)です。