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第四章第三話 一応今作初の戦闘回

悲鳴のした方向へ駆けていくと、焦げ臭い臭いとともに血だまりの中でむごたらしく焼け死んでいる体長三、四メートルは超えるであろう大きな狼のようなものが横たわり、その近くに二人の男と一人の女性がいた。

とっさに身を隠す。


一人は俺たちと同い年ほどの青年で身に付けている服はボロボロで使い古された感じがあり、狼の死体の近くで地面に手をついて泣き叫んでいた。残りの二人はナイフを片手に持つ少女と三十歳ぐらいの男が血に濡れた剣を抜いて手に持って、その二人、いや一人と一匹のことを離れたところから静かに見ていた。


するといきなり、泣いていた青年が二人をにらみつけ、雄たけびを上げながら襲い掛かっていった。

武器はそこらに落ちているようなただの木の棒だった。首筋からはかすかに血が流れ出している。

男のほうは剣を持っているので木の棒程度で何かができるとは思えない。

そう思っていると、青年の持っていた木の棒が突然変化して、長い鞭状の蔦になった。

木の陰に隠れてみていた俺の考えていたことを代弁するように相対していた男が叫んだ。

「貴様!やはり能力者か!!」


そう言うと、男は後ろにいた女性を庇うように立つ。

持っているのが剣では分が悪い、鞭の攻撃を受け止めることが難しいからだ。

鞭の弱点は懐の小回りが利かないところにある。

本来ならば、すぐに相手の懐に潜り込み、剣で切りつけるのがベストだろう。


だが、男は後ろにいる女性を庇うため距離を置いてしまっている。

あれは鞭を使う相手にとっておそらく、考えうる最悪の戦い方だ。

だが、それは俺のように普通の冒険者が思うことで、あの男には当てはまらなかったようだ。


男は、鞭を持った青年に向けて剣を無造作に投げつけた。青年はもちろん、それくらいのことは予測していたようで、最小限の動きでかわす。

男は持っていたもう一本の剣も抜き際にそのまま投げつけた。青年はそれすらも容易くかわした。

だがその時、少女が持っていたナイフが真横から青年に飛んでいった。

いつの間にか場所を移動していたようだ。

青年も男に注意が向いていたせいでそれに気づかず大きく後ろに下がってかわしたため、体制を崩してしまった。

その間、男は懐からマッチを取り出していた。火をつけるとおもむろに草むらへ投げ捨てる。すると、瞬く間に火の手がまわり火事になった。

何故あんな馬鹿な真似をするのか理解できなかったが、燃え盛る炎が青年に向かって火の手を伸ばしたとき、全てを理解した。

男も能力者だった。それも、炎を操る能力者。


狼が焼け死んでいるのは、彼の能力のせいだったようだ。

たしかに、普通ならば狼があんな状態になるわけがない。

その時点で気づいても良かったはずだ、相変わらず鈍感な自分に嫌気がさす。

だが今はそんなことより、戦っている二人のことだ。


植物を変化させた青年と炎を操る男の能力者同士の戦い。


青年は自らに襲い掛かってきた炎を近くにあった木に触れ、その枝を伸ばして払いのけた。

やはり青年は植物を思い通りに操ることができるようだ。

だがその枝に火の手がまわり、また襲い掛かってくる。

今度は青年は木を使って自分自身を運び、遠くへ離れようとした。

だが、炎が青年の触れていた木を黒こげにした。

脆くなった木は青年の重みに耐えられず、崩れ落ちた。

どう見ても相性が悪い。

そこで、青年は賭けに出たようだ。

男の周りのにある離れた木々を一度に操り、太い幹でたたきつけたり、鋭い枝や棘を飛ばして攻撃し始めた。

男はそれらに対して、炎をうまく操り、幹は脆くして自身の体で受け止め、枝や棘は届く前に全て消し炭にした。

その後、青年は悔しそうに涙を流しながら地面に倒れた。


同時に俺は木の陰から飛び出していた。


「そこまでだ」


「誰だ!」

男がそういったときには、すでに俺は青年を負ぶっていた。


「それ以上、この人を傷つけることは許さない。だが、俺にはこのまま戦うつもりはない。見逃してほしい」

正面から戦って勝てるなんて思ってない。とりあえず交渉だ。

駄目なら逃げる。

背を向けて全力疾走する。


「・・・・・・条件がある」


「なんだ?」

相手が交渉に乗ってきたのは、正直言って驚きだ。

彼ならば俺ぐらい一捻りだろうに。


「ひとつは、その男をもう二度と俺たちに襲い掛からないように言いつけることだ。これを破れば次は容赦なく、殺す。」


「他は?」


「お前達が、俺達のことを他人に話さないということだ。生半可な情報が出回れば、面倒なことになりかねないからな」


「・・・・・・わかった。それだけでいいんだな?」


「最後に、もうひとつ」

男は最後の要求を俺に話した。

俺はそれを聞き入れた。

お陰でその後、リリーと安心して戻ってくることができた。

個人的な意見になってしまうが、悪い人間ではなかったようだ。

彼に俺と同じ匂いを感じた。


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