第三章第二話 夜の出来事
兵士が斧を大きく振り上げたとき、静かな空気の中、雷鳴と聞き違えるかのような大きな女性の声が響いた。
・・・・・・言われてみるとそんな気もする。
今回、本来なら俺が語り部として物語るつもりだったのだが・・・・・・その、良く覚えてないから結局またリリーに任せることになってしまった。
以前、覚えていないと明言していたのに語れるはずが無いしな。
次は俺が語るつもりだ。
次回の、俺が語るときの前置きにでも話してもいいのだろうが、どうやら彼女もあの後ことは良く分からないらしい。
というのも俺のように覚えていないのではなく、あのような状況に陥るのが初めてで、所々目を逸らしてしまったからだそうだ。
というわけで、描写が少々省かれてしまうところもあるが、まぁ読み物としてはぎりぎり楽しめるものとなっているはずだ、読んでいる最中にでも足りないところは補完しておいてくれ。
というわけで、リリーが語り部として今回は語ることになった。
それでは、俺はこの辺で。
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「処刑しなさい」
神父様の声を合図に、振り上げられた斧は王子の首に向けて振り下ろされました。
そのときの私は目を背けないように、必死に王子の最期を看取ろうとしていました。
やはり運命は変わらなかった。
結局私は目から涙があふれてきて、目を逸らしてしまいました。
そのときです。
突然『ガキッ!!』という大きな音が立ったかと思うと兵士の手から斧がこぼれ落ちていました。
気づけばその場で王子は縄を解いて立っていました。
私がそのまま呆然としている間に、周りにいた兵士たちが王子に向かって剣を抜き、襲い掛かろうとしました。
そこで先ほどの、音の正体が分かりました。
王子に振り下ろされた剣は斧のときと同じ音を立てはじかれていました。
思い切り刃物で斬られ、服は裂けているのに、王子にはわずかな傷しかついていませんでした。
王子は次々に兵隊を素手で倒していきました。
そのとき。
「お前はシスターか!あの者に向かって何と言った!」
と。何人かの兵士が私を取り囲み、問い詰めてきました。
私は処刑されると思いました。
刃物を喉元に突きつけられながら、恐ろしい形相で睨み付けられれば誰でも死を覚悟するでしょう。
なので私は言いました。
「わ、私は・・・・・・自分にとって正しいと思ったことを、言っただけです」
私の頭が良ければもう少し、まともな言葉が言えたかも知れません。
ですが、実際言ってしまったのはこの言葉です。
それを聞いたとたん、兵士は怒りに任せて剣を振りかざし、私に切りかかってきました。
そのとき、雨と一緒に空から王子が降ってきて、襲い掛かってきた兵士の上に落ちました。
どうやら五メートルほどの高台から跳んだようです。
ここまで二十メートル以上の距離はあるのですが。
そして気づくと私は彼の腕だけで抱えられていました。
人生初のお姫様抱っこは土砂降りの雨の中、生死をさまよった直後でした。
そして、私を抱えたまま彼は外へ逃げようとしました。
もちろん兵士たちが壁のようになってここから先は通さないといった雰囲気を出していました。
さらに、兵士達は馬に乗って追いかけてくることが出来ます。逃げ続けることは出来そうにありません。
なので彼は急に方向転換をして反対側、つまり城の方向に向かって走り始めました。
門番の兵士達が警戒して身構えていたことを尻目に王子はそのまま城を跳び越えました。
「・・・・・・えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
私の叫び声が広場に響き渡りました。
そしてその後、町中に私と王子以外の国民の叫び声が響き渡りました。
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今回は短いですがこの辺で。
この後のことはジンに語ってもらいましょう。
次回をお楽しみに。