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第三章第一話 夜の朝と昼と夜

前回の話を読まれた方にはお分かりいただけるでしょうが、前回と前々回の話は繋がって


いません。具体的には三ヶ月ほどの時間が空いています。

今回は、元シスターである私『リリー・ネック』が語り部として時をさかのぼり、今作品


の主人公である『ジン・ステイル』と出会うまでを語らせていただくことになりました。

次回は、おそらくジンが語ってくれるでしょう。

それでは本編をお楽しみ下さい。





--------------------------


私がシスターだった頃、国は平和でした。

シスターでなくなった後も平和であることを願います。


私が神を裏切った日、私がシスターでなくなった時、私と彼は出会いました。



とても強い雨が降っていました。

まるで誰かの重く、どす黒い不幸を洗い流すかのような・・・・・・

自然に胸の前で手を組み、目を閉じる。

どうか今日、皆が笑顔になれるようにと願って。



身支度をし教会へ赴く、朝起きてからお祈りをしておいて今更だが、寝起きであんなこと


をしてはむしろ神様に失礼ではなかっただろうかと思いました。神様だって眠いでしょう


し。なんちゃって。


そんなことを考えながら歩いていると、教会の前に大勢の信仰者が見えました。

何かあったのだろうかと思い、一番近くにいた同じシスターに話を聞いてみました。

すると、『ジヘッド神父』様が教会に人が入ることを禁じているそうです。

神父様はこの国の王様と同じくらい偉いお方で、40歳くらいの物腰の柔らかい方です。


私たちのように未熟な子供相手に学問だけでなく、人の大切さ、この国のすばらしさまで


教えて下さるとても尊敬できるお方です。

ですが、正直この雨の中、外で待たされる身にもなってほしいですね。それほどすごい雨


なんです。

帰ればいいとか言わないでくださいね。来たくて来ているんです。特に今日は。



ですが、しばらく経っても入れてくれる様子はありません。

とのとき、お城の何人かの兵士たちが一人の男性を囲って教会に連れて行くのを見ました


あの方は間違いなく、この国の王子『ジン・ステイル』様でした。


少しして、教会から王子様が出てきたときは驚きました。

王子は押さえつけられ、手を縄で縛られ、引きずられ、何があったのかと思いました。



夕方

私は今、教会にいます。

私は今、ただ一人教会で祈りを捧げています。

話はすべて聞きました。

王が亡くなってしまわれたこと、その疑いを彼が受けているということ。

そして、その罪を今償おうとしていること・・・・・・

昼前に教会にいらした時の彼の顔を見ました。

今日の天気は彼の心を表しているのだと。

根拠は何もありません。ですが、そう思ってはいけないでしょうか?


私は父親の死を悲しんでいる一人の男性に自分を映して考えました。

私に本当の父はいません。生まれたときにこの教会に預けられたので両親のことは全く覚


えてません。

ですが、親同然そして家族同然に育ててくれた多くの方々のおかげで、今、親を失ったと


きの悲しみを感じることができる。

彼は今、酷く絶望している。父の死に、何者かの濡れ衣に、民の声に。

だから私はこのとき、彼のために何かがしたいと思いました。


「リリー」


「マリアさん、今晩は」

マリアさんは私の先輩に当たる人で、お母さんのような人。


「ジン王子のために祈りを捧げているのですか?」


「・・・はい」


「私も御一緒しましょう。あの場には居られません。たとえ、神父様が決められたことで


あっても胸が痛みます」


「神父様が決めたこととは?」

神父様はこの教会の思想にある神が決めた運命を知ることができるとも言われています。

つまり、神父様は神様の決めた運命の通り事を運ぶことも使命のひとつであり、神父様の


言葉に背く事はありません。

運命と言うものを重要視していないため、そういうことは滅多に無いのですが。


「ジン王子の償いですよ。王子といえど実の父であり国の王である『アイズ・ステイル』


王を殺害した罪は重いと、これから処刑を以って償わせると」


「これからですか!?王様が亡くなったのは今朝ですよね?ご決断が早すぎるのでは!?


てっきり、囚われているだけかと・・・・・・」


「確かにそうかもしれません。ですが、神父様はこう言ったそうです


【神は我々が王子『ジン・ステイル』の処刑を実行する運命を定めている】と」


「まさか・・・・・・」

目を見張る。神父様は神様を冒涜することはしません。本当にお告げを聴くことができた


のでしょうか?

例えそうでなくても、私が何かをしたところで何も変わりません。

あまりにも無力な自分に嫌気が差します。


「リリー・・・・・・」


「マリアさん。お願いがあります。せめて、彼のことを遠くからでもいいのでもう一度だ


け見たいんです」

最後に王子の顔を見たい。きちんと見て納得したかった。処刑されなければいけないかど


うかを。


「わかったわ。一緒に行きましょう。危ないから私から離れないで」


こうして私たちは広場に向かうことになりました。




広場というのは城の前に手入れされた庭と大きな噴水のあるゆとりのある場所で多くの人


が集まるにはちょうど良い場所です。

よく教会が説教をしたり、芸能を行う人が居るのですが今日は違いました。

はっきりと言います。



地獄です。




王子は絶望に打ちひしがれていました。私はそんな彼を見ることができなくなりました。

一目で十分でした。彼は今死にたがっていると理解するには。

一目見れば誰にでも分かるでしょう。彼は今生きたいと思っていないことが。


そして、高台に上ったところで、兵の一人が斧を振り上げたとき



静かになりました。



半分ほどの人は目をそらし、そのほかの人は固唾を呑んで斧を見つめている。


その中でただ一人、王子だけは



微かに笑った。


私ができることはひとつだけだった。




「生きて!」


私にできることはこれしかない。


「死んではだめです!どんな方であろうとも命を奪うことはいけません!! そしてそれ


以上に!生きることを諦めるのはいけないことです!!」


非力で無力で脆弱な私にはこれしかできない。


「だから生きてください!!!」



「処刑しなさい」


神父様の静かな声を合図に掲げられた斧が振り下ろされた。

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