第二章第一話 助けた2人
目を覚ましたとき、私はベッドの上にいた。
直後、血だまりを思い出した。
最悪の朝だった。
外はからっと晴れている。
まるで一昨日までの自分の気持ちのように。
掛け布団を押しのけベッドから降りる。
気づけば、泥だらけだった服は別の物に着替えさせられている。
・・・・・・ここにはほんの少しだけ礼儀がなっていない者がいるようだ。
ここはどこかの町の宿屋のようだが見覚えはない。
「あ!お目覚めですか?」
窓から外を眺めていると反対側にあったドアが開き、私と同じ歳ほどの女性が入ってきた。
この者が私の服を着替えさせたのか?正直、ほんの少しだけ抵抗があったが何も言うつもりはない。
どんな事であろうと、恩は素直に受け取るべきだからな。
ましてこの人は・・・・・・
「君が・・・・・・私を、助けたのか?」
とても不思議に思う。何故私を助けたのか、そもそもこんな女性があの場所にいたとは信じ難い。
「えぇ、まぁそうです。正確にはもう一人手伝ったのですが。それよりも、首の傷は大丈夫ですか?」
「ん?あぁ・・・手当てしてくれたのか?」
首には包帯が巻かれていた。
首筋に残るひやりとした感覚。刃物の感覚だ。
・・・・・・私はどうして生きているんだろうか?まさか、ここはあの世だとか言う冗談を聞くことになるのだろうか。
「はい。手当ては私が、あなたを背負って運んだのはもう一人の・・・・・・友人、ですが」
・・・・・・少なくとも私は生きているようだ。もう生きる意味などないのに。
「ここはどこだ?」
「ここは近くの町ですよ。あ、大丈夫ですよ。ここのご主人は優しい方ですから、誰かがあなたのことを探しに来たとしても話したりはしませんから」
探しに来る者などいないだろう。私のことなど、追い出せてせいぜいしたといったところだと思う。要は私がいなくなればいいのだから。・・・・・・いや、それはないか。だとしたら私を殺そうとなどせず、素直に追い返せばいい。
勝手にすればいいと言い返したいな。
「何故私を助けた?下手をすれば君の命に関わることだ。それに、偶然あの場に居合わせたとも考えにくいが」
私と同じ17歳ほどの、普通の女性があの場にいたとは考えにくい。とても危険な状況でもあった。
「話を聞いたんです。連れが情報に鋭くて、一緒に行こうって言われて付いていっただけです。さっき、私が助けたみたいに言いましたけど、本当はあの場に一人で乗り込んでいって、あなたを救い出したのはジンですから。私は遠くで見ていただけです。助け出して、傷があったので手当てしたのは一応私ですけどね。元シスターですし」
「あぁ、そうか。元?」
「あ。・・・・・・私は過去に神様の教えに背いて、町を飛び出してきてしまったことがあるんです。シスター失格ですね」
「失格・・・・・・あぁ男か」
「違いますっ!!!」
真っ赤になって否定しているが、説得力がない。いや、あるのか?
まぁ、悪い人ではなく・・・・・・かわいい娘だと思った。
「ただいまぁ~」
とそこへ能天気な声を発しながらドアからこれまた同い歳ぐらいの男が部屋に入ってきた。
「わぁ!!ジン!!」ベシッ!!
見惚れてしまうほどきれいな回し蹴りがジンという男の腰に当たった。
神の教えに背くであろう行為を懺悔から1分以内に行う元シスター・・・・・・
「どうしたの?リリー。顔、ものすごく赤いけど」
彼は綺麗な蹴りをいれられたのにも関わらず、何事もなかったかのように平然と立ったまま、相手の心配をした。
先ほどの話とは違って紳士だな。
てっきり、こんな女性をわざわざ連れて行くなど常識に欠けているのではないかと思っていたのだが・・・・・・
いやこんな男だからこそ、このリリーという子が安心して付いて行ってしまったのだろう。
だが、その態度が逆効果になったようで、より一層顔を赤くして一歩後ずさり、跳びながら後ろ回し蹴りを顔面めがけて行う元シスター。
その後の事を簡潔に話すと、
リリーは跳び後ろ回し蹴りをした後、よろけて倒れそうになったのでジンに抱きとめられると、ひとしきり何かをわめき散らした後、落ち着きを取り戻しながら、ジンに罵倒の言葉を浴びせた。
ジンがしばらくベッドの上で枕を濡らし、啜り泣きがやんだ頃、私は話題を戻した。
「いつもこんなことをしているのか?」
戻っていなかった。
私自身が気になり、戻そうとしていないのだからしかたない。
「違います!あなたは少し勘違いが多いというか早とちりが多いというか・・・」
「何、もじもじしてんだ?気持ち悪いぞ」
ジンは何も反省していないようだ。
「うるさい!座布団の下に敷くわよ!!」
「座布団・・・・・・」
ジンは声を殺してまた泣き始めた。
そこまでショックか?
最近の町の人間はこういうことを言われると落ち込むのかもしれない。
・・・・・・聞いたことが無いからこの男、ジンだけだろうな。
「別に私は、早とちりなどしていないぞ。それと・・・」
「どうかしました?」
「『あなた』というのはやめてくれないか?私には誇りある名前があるからな」
「あ、ごめんなさい。そういえば、私たちもきちんと自己紹介してませんでしたね。私は『リリー・ネック』です。レイナって呼んでください。こちらはテーブルクロスです。ゴミって読んでもいいですよ」
「酷い・・・・・・」
「泣くな。お前も男だろ?」
「うぅ、ありがとう。」
「ふぅ、まったく。私の名は『レイナ・チェスト』だ。レイナと呼んでくれ」
こうしてみると本当に頼りない。
というか、本当に私はこの男に救われたのだろうか?
「ああ、わかった。よろしくレイナ。
俺の名前は『ジン・ステイル』だ。」