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第八章第一話 明日に向けて、

一ヶ月が経った。


俺達は戦争の準備を少しずつ進めていた。

俺は望遠鏡を使って山の木々に隠れながら、ある国の行動を見ていた。

俺にとっては平和のため、ゆくゆくは慕ってくれる仲間の安全のため、そしてジンへの恩返しのため、このようなことをしている。

だが先日、リリーに異論を唱えられた。

「話し合えるはず」

これも一つの答えだろう。

国に一人でもいいからリリーのようなシスターがいれば、戦争は起きないとはいえないが、少なくとも争いごとについての負の部分が見つめなおされることはあるかもしれない。

だがあの国はそのシスターを放り出したのだから、やはり話し合いは難しいだろう。


そう考えていると、武装した小隊が城の門から出て来た。

あの中の誰かが隣国へ情報を伝える者なのだろう。

今は航海手段と技術を手に入れるために、近海にある国に攻め込もうとしている。

もし勝てば六つ目の支配国になるな。

そもそも戦う前に降伏されるかもしれないが。

どちらにせよ、近い将来、別の大陸にある国にも危険が及ぶことになる。

そうならないために俺はこんなことをしているわけだしな。


ところで関係ない話だが、俺の元居た国とジンの居た国とは案外近い場所にあった。

嬉しくないところでつながりがあったんだな。

因みにきっちり制圧もされていた。


あの時、自分だけが逃げ出した記憶が思い起こされる。あれは自分が生きている限り永遠に忘れることはない。

家族が殺されたことも、逃げ出したことも。

もう二度とあんなことはしない。

大切なものは全て守る。

自分自身にそう誓った。

神は信じない。

全ては俺の責任だ。


前置きが長くなったが、外から見る限りは国の動きはいつも通りだ。

シュシュとメメがうまく潜入して事を済ませているのだろう。

二人は今、内部の者の引き抜きや情報収集を行っている。

今回は万全を期して望まなければならない。

さもなくば大量の死人が出る。

目的は戦争を止めることだが、最終目標はジンをあの国の王にすることだ。

多少ぶっ飛んだ目標だが、ジンなら何の滞りもなく正しい役目をこなすことが出来るだろう。

反対派もいるだろうが、リリーも付いているし何とかなるだろう。

いざとなったら、俺も協力するつもりだ。

手段は問わないがな。

そして『俺が生きていたら』の話だ。


俺は犬死にするつもりなんてない。

だがそうでない死なら受け入れよう。

覚悟は決めていた。


・・・・・・そろそろ時間だな。

メメとシュシュが状況を報告しに戻って来る。

ジン達にも、今回の作戦の詳しい内容を伝えなければならない。

俺はジン達の居る国の宿屋へ向かった。


俺の育った国だった。

顔は隠していればいいわけだし、旅人や冒険者が泊ることなんてざらだから問題はない。

何より、自分の領地にした国にまさかお尋ね者の王子様がいるなんて誰も思わないだろう?


-------------------------



「これで全員か?ジン殿が呼んだ者はいいのか?」

ここはフレイが居た国の隅の方にある宿屋だ。

主に旅人がある程度腰を落ち着かせるためにある。

今集まっている者は、私を含めてシュシュ、フレイ、ヘンリー、ジン殿、リリー、クリア、レイナ、の八人。

作戦の説明は私が行うつもりだ。

フレイには既に伝えてあり、下の信用できる者に内容を報告してもらっている。


問題はジン殿が連れて来たという者だ。

ジン殿が以前「力になってくれる人が居るから」と言ってしばらく一人でどこかに出かけていた。

半月ほどで帰ってきたのだが、勝手に出て行ったということで、リリーからものすごいお叱りを受けていた。

関係ないが、半ベソを掻きながらクリアとレイナに助けを求めていたときは本当にこの男を国の王にしてよいのか?とフレイに相談を持ちかけてしまった。


「あいつ等には俺からきちんと伝えておくから大丈夫だ。と言っても前にも言った通りだがな」

だが、このように相対しているとフレイの考えも全くわからなくはないと感じる。

身にまとう雰囲気が私達とは違う。

カリスマ性、とでも言えばいいのだろうか?

ただ居るだけで威圧感があるように感じる。


「わかっている。その者たちは戦うのではなく、あくまで力になるというだけなのだろう?戦争を仕掛ける前に、国内で騒ぎを起こすことが出来ればそれで十分だ」


「その通り。だからそっちの方も俺に話してくれれば大丈夫だ」


「ふむ、では詳しい内容を話そう。いまさら改めて説明するのもどうかと思うが、一番の問題は『未来を見る力』をもつ神父の存在だ。彼の力がある限り、私達はそうとうな苦戦を強いられることになるだろう。普段ならば奇襲をかけることも難しい」


「やっぱ俺帰ってもいい?」

ジンがいきなりおかしな事を言い出した。


「待て待て兄貴!!あんたは奇襲をかけることしか頭にないのか!?」


「まぁまぁ、クーちゃん。落ち着いて、ジンの冗談だよ。ジンは不意討ちが出来ないからって逃げ出すような人じゃないでしょ?・・・・・・あれ?」


「語るに落ちたな、リリー。ジンは不意をつけなかったら真っ先に逃げ出すことぐらい、リリーが一番わかっているだろ?」


「ははっ!ジンは信用されてないな。フレイは仲間にすっごい信頼されてるぜ?」


「俺もレイナと同じ意見だよ。今までに何度、兄貴が逃げ出したか覚えてないし、俺のときだけでも三回ぐらい逃げ出してたし」


「悪かったな。気が弱くて」

ジン殿とクリアは喧嘩でもしたことがあるのだろうか?どちらにせよ聞いたところでろくでもないことを語られそうだな。


「言っておくが、無理をしてまでジン殿に戦闘に参加してもらうつもりはない」


「そうだ安心しろ。それに神父の不意はつけないかもしれないが、シュシュとメメがいればわずかな弱点をつくことは出来る」


「弱点?あの神父の『未来を見る力』に弱点があるのか?」


「それはシュシュに説明してもらったほうがいいな」


「了解。実はこれまでに何度も姉ちゃんの能力を使ッて、透明になッて神父の思考を読み取ッたことがあるんスよ」


「メメの能力は自分しか透明に出来なかったんじゃないのか?」


「近くにいれば俺ッちも一緒に透明になれるんスよ。集中力を使うんでいッつも俺ッちが背中に負ぶりながら潜入して へぶッ!」


「余計なことは言わんでいい!」

本当に余計なことだ。


「りょ、了解、姉ちゃん」


「・・・・・・で、弱点は?」


「えぇと。神父の能力には制限があって、まず一つ目が昼の十二時頃にしか未来を見ることが出来ないみたいッス」


「何で十二時?いつでも見れていいんじゃないの?」


「理由はわかんないッスけど。神父は『天の力が一番強くなるからだろう』ッて思ッてるみたいッスよ?」


「他にもあるのか?」


「実はこッちが重要で、神父はちょうど一日、つまり二十四時間先までの未来しか見ることが出来ないんスよ」


「・・・・・・何故?」


「さぁ?そのことについては神父は考えてなかッたんで読めなかッたんスけど、でも二十四分かけて二十四時間分の未来を見ているみたいッス」


「そうなのか。ところで、疑問に思ったことがあるんだが」


「なんスか?ジンさん」


「神父は未来を見て、戦争を有利に運んでいるんだろ?つまり、神父は未来を参考にして戦略を練っているって事か?」


「んー・・・・・・俺ッちもそう思ッたんスけどね。どうやら、戦争に負けた未来を一度も見てないみみたいなんスよ」


「つまり、あの国が勝っているのは当たり前ってことか?そんなことはないと思うんだが」


「私達が調べた限りでもそう思っている。もともと大きな国でもなければ強い国でもない、勝つとわかっていなければ、他国に戦争を持ちかけるなどありえないだろう。以前行っていた、隣国との平和的な交渉は最も正しい行動だったと思う」


「未来を変えていたのなら明確な勝機はあっただろうけど、負けた未来がないのか・・・・・・」


「えーと。つまりは、昼の十二時過ぎなら奇襲できるってことでいい?」


「大体その通りだ。その時間帯に私達の出来る限りの混乱を起こす。いくら神父とはいえ、人での対応ならまだしも兵を動かすとなれば時間がかかる。その間に神父本人を討つ」


「討つって、その、もしかして・・・・・・」


「心配するな。余計なことが出来ないようにするくらいだよ。殺したりするわけないだろう。ただ単に自分は無力だって事を教え込むんだ」

フレイ、そんな簡単な嘘に引っかかるような馬鹿なんているわけが・・・・・・


「そっか。よかった」

リリーは人を疑う事を知らないことがわかった。

これで安心して神父を消すことが出来るな。


「でも殺したりせずにうまく止められるかな?俺とか兄貴とかが頑張って城を落とすって方が現実味があるようにさえも感じるし、そっちのほうがいいと思うけど」

馬鹿はこっちに居た。


「お前は別に突っ込んでも構わないが、俺は行かないぞ?弱いからな」


「さすがに馬鹿な俺でも未来が見える奴を相手に正面切って戦いたいとは思わないよ。問題は、この物語の戦闘描写が結局全部、不意討ちで終っているってことだよ」


「クリア君。俺ッちは、これで戦闘が全て終わッてしまうとは限らないと思うッスけど?」


「あ!そうか!まだまだ続くかもしれないな。なるほど」


「セカンドシーズンとかありそうじゃないッスか!」


「いいねぇ! ってあれ?今は俺が主人公だったような・・・・・・ってことはまた主人公降板!?」


「二人して何の話をしてるんだ?よくわからないぞ?」


「フレイ。あまり関わらない方がいい。シュシュの奴はたまに、これが物語だったら面白いかな?とかおかしなことを考える奴だからな。クリアもおそらくはそういうことを考える節があるんだろう」


「そういえば、私がジンに大怪我を負わせたときは『世代交代だ!』って喜んでいたような覚えがある」


「大怪我ってちょっと怖いな。でも自分が何かの物語の主人公だったら面白いなって思うことはあると思うぞ?」

ヘンリーがしゃしゃり出てきた。

いつもは物静かで頭が切れるくせに、よくわからないときに饒舌になるな。


「四人で何をこそこそと話しているんだ?メメ、ちょっと質問があるんだが」


「ん?何だ?ジン殿」


「近づけたのなら、そのまま暗殺してしまうっていうのは駄目だった あぐッ!」

リリーが手の指先まで神経を張り巡らせているかのような、綺麗なかかと落としをジン殿へキメた。


「そんなこと駄目だよ!」


「心配しなくてもそのようなことはしない。その場にいればわかるが、傍を守っているものが何人も居る。もし予見した未来が変えられるのならば、神父は自分が殺される前にその相手を殺すだろう。未来を見ている間も一秒で一分先を見てしまうのだから、返り討ちにあう可能性のほうが高い」


「そっか。まぁ、俺がリリーにこんな目に合わされるんだから、そんなことは出来たとしてもして欲しくないな」


「他に何か質問はあるか?私の答えられる限りはどのようなことでも答えよう」


「ありがと。まぁそういうことならあいつ等の役目は本当に街中を適当に乱すことで十分そうだな」


「あぁ、そちらの話か。そうだな。私達は死者の出ないように戦うだけだ。そして神父を降伏させる。外部の協力者はそれで十分だ」


「ところでメメ達がしているという根回しは具体的には何してるんだ?」

今度はレイナが質問をしてきた。


「一緒に戦う人を城の中に作ってるんじゃないの?戦力拡大のためにさ。そんなこともわからないの?レイナ」

シュシュと楽しそうに会話していたクリアがこちらに来た。

人は怒らせないようにしたほうがいいと思うぞ。


「そのとーりだ。シュシュとメメは何でも出来るからな。他の仲間は別の国で信用できる奴を集めてる」


「今のところ城内にいる兵のわずか百人ほどしか引き抜けていないのだが」

これは少なすぎる数だ。

シュシュの能力がなければ誰一人味方につけることなど出来なかっただろうが、それでも少なすぎる。

城にいる兵士の十分の一にも満たない。

だが、慎重にならなければ神父に作戦がばれて対策されてしまうかもしれない。

絶対に信用できる者にしか話を持ちかけることが出来ない。

これは大きな枷だった。


「その人達って一緒に戦ってくれるって言ってる兵なのか?」


「あぁ、その通りだ。どうしても慎重にならなければならないんだ。だからゆっくりと、そして確実に仲間になってくれるものを探さなければならない」


「・・・・・・なぁ。別に仲間になってもらう必要はないだろ?」


「何言っているんだ?ジン。意味がわからんぞ?」


「だから、『一緒に戦ってくれる人』を集めるのは、そりゃあ確かに苦労するけど『戦わない人』を集めるのは簡単なんじゃないか?って思っただけだ」


「なるほど!つまり、どちら側にもつかずに『戦わない奴』を探せばいいってわけか!そうだろう?ジン!」


「どういうことだ?ヘンリーはわかったか?」


「もちろん!つまりはこっちについて戦うってことは相当危険なことだ。だからフレイ達のように、戦争に強く反対している兵士ぐらいしか仲間になってくれない。だが、俺達の仲間になりたくないが戦争もしたくないと思っている兵士なら別にいるはずだ。そういう奴らに声をかけて、俺達が反乱を起こすからその時は町の方にでも逃げて、俺達と戦わないで欲しいって言えばいいわけだ」


「国の中にはジンの父親『アイズ・ステイル』の行っていた平和的な政策を好んでいたものは少なくない。私達はそういう者に戦わないように頼み込めばいいというわけか」


「そういうこと。それじゃあシュシュ、メメ頼んだよ。奇襲をかけるなら俺も戦うから詳しい日時、いや、日にちを教えてくれ。今日はもう寝たい」


「わかった!シュシュ!今の話を聞いていたな!戦いたくなさそうな兵士達のリストを作るぞ!早く来い!」


「メメ。俺も作戦参謀だし手伝うよ」


「助かる!ヘンリー」


「ちょッ!痛ッ!耳引ッ張んないで!わかッたから!協力するから!全力で協力するから!」

私達は明日に向けての作業にかかるためジン殿の部屋を急いで出た。




「・・・・・・騒がしく帰って行ったな」


「兄貴がその気にさせるからだよ」


「俺のせいか?」


「それはまた違う問題だと思うけど」


「それを言うなら、ジンのお陰ってところだな。一番心配だったことがうまくいくかもしれない。向こう側の戦力がごっそり削れれば、慌てふためく奴らの顔が目に浮かぶな。リリーの言っていたように平和的に話し合いも望めるかもしれない」


「本当!?よかった」


「あくまで望みが生まれただけだ。楽観しない方がいい。クリアもわかっているな?」


「うん」


「わかってるよ。俺も当日は万全の状態をでいられるようにしておく。今度は食中毒とか言ってらんないからな」


「さて!それじゃあ俺も若い奴らからやる気を分けてもらったってことで、明日は一度、早朝から深夜まで見張ってみることにするかな。何か変わった動きが見れるかもしれないし。俺は明日に備えてもう休む。じゃあな」


「おやすみなさい」


「またね~」


「何かあったらすぐ報告しろよ」


「体は冷やさないように、それと森では動物よけのために、匂いのする食料は持っていかないほうがいい」


「わかった。じゃ」




「・・・・・・じゃあ俺ももう寝るよ。レイナは?」


「あ、あぁ私もそろそろ寝よう、かな?」


「何で疑問形なんだ?」


「どうでもいいところに細かいな!ジンは!」


「まぁいいや。とにかく俺はもう寝るよ。おやすみ」


「おやすみなさい。ジン」


「おやすみ~」


「また明日も来る、よ?」


「わかった。じゃあまた明日」


「あ、ありがとぅ・・・・・・」


「・・・・・・はぁ、目が覚めたら奇襲開始の前日とかになってないよな?」


嫌な予感はというのはよく当たるものだ。

特にこういう大切なときに限っては。



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