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第一章第二話 夜の終わり

「神の前では誓えないのですか?」


と神父が言った。


「・・・・・・私は神には誓わない。私の誇りは、強く優しい王!そしてその父から受け継いだこの血と名!これ以外のものに誓うことはありません!」

答えている間に涙があふれてくる。

父との思い出を思い出してしまう。


「私はもう神など信じない!!」


「・・・・・・」

私を連れてきた男たちもまだこの場にいる。

この男たちは父に忠実だった。

城下町に何かがあれば問題解決と状況報告するという王の決めた規則に正しく従い、何者よりも迅速に動いた。

既に過去に何度も盗賊を撃退したこともある。

盗賊の人質・奴隷を保護し、養育の手助けさえ行ったことがある。


そして、王の次に忠実だったのは神父であった。

国の平和、そして国民の道徳の基盤となっている宗教はこの国特有で歴史も浅いものだが王の統率力と合わさりこの国の範囲でならば統治することも難しくない。

私自身も信仰している。

だが今はもう神でさえ信じられない。

なぜなら。



父は死に、




私は処刑されるのだから





物語は冒頭に戻る。














喉が乾いた。朝から何も口にしていない。

だが、そんなことを口走れば今降っている雨か、足元の泥を口に入れられるだろう。

信仰の力と言うのはかくも恐ろしい。神には潔白を誓えないと言えばその日の内、否、数時間後には打ち首になる。

状況が状況なだけかもしれないが・・・・・・



繰り返そう。


私は、絶望した。



王家の誇りは神の信仰にあっけなく砕け散った。


味方はいない。


すべてが敵だ。


神でさえも。




いや、最後のはただの八つ当たりだ。


私たちの宗教には『運命』というものも根強く絡んできている。

幸運なことも不運なこともすべてが予め、神によって決まっているというものだが、特に教会はその考えを信仰者に強要していない。

それは主に、私の父が反対したからだ。

当たり前だ。本当にそうならば誰も努力しないだろう。何をしても決まっているのならばただの徒労と考えてしまう。

要は気持ちの問題だ。

不幸なことが起こったとき、自らの無力さに絶望しないための暗示。

幸運なことが起こったとき、自らをより高めようと奮い立つための暗示。


まぁ、今私は絶望しているのだが。


ああ、もう死にたい。


父が死んでいることを知ったときからではない。あのときは泣いただけだ。

だが、私は王子。父の後を継ぎ、いつでも王になる覚悟を持っている。

だからこそ民の誰もが私に従わないのであれば、私は王位を下がるつもりだった。

そして民の誰もが死ねというなら、私は死のう。


それが運命なのだろう。


だが、このときは私は運命に逆らってみた。

死にたいと思っていて、死を覚悟して、運命として決まっているのだと勝手に悟っていたのにもかかわらず、抗おうとした。

死して消えることにほんのささやかな抵抗をした。


変わればいいなと思った。


無駄だろうが・・・・・・


「死にたくない・・・・・・

強くなりたい。気高くなりたい。逞しくなりたい。優しくなりたい。大きくなりたい。温かくなりたい。誇り高くなりたい。尊敬されたい。目標とされたい。食べたい。飲みたい。寝たい。愛したい。守りたい。父のようになりたい。」


生きたい。


誰にも聞こえないような小さな声でつぶやいた。

思ってないことさえもつぶやいた。

この土砂降りの中でも、自分の声は確かに聞こえた。

だが、自分の気持ちが変わらない。いくら言葉にしても生きたいと思えない。


これが運命だ。

そう思ったとき、父と過ごした何気ないひと時を思い出した。



結局私は、縛られたまま高台の上に伏せられて、兵士の一人が持っていた斧を振りかざしたところまでしか覚えていない。



だが、この物語は続いていく

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