第五章第一話 そして一か月後、
あれから一ヶ月が経った。
あの森を出発してから俺達は二、三の町を渡り歩いた。
そこで俺達は手分けしたり協力したりしていくつかの依頼を受けて金を稼ぎ、町ででも暮らしていけるようになった。
一か月前にあった出来事のせいか、互いにより逞しくなっていた。
肉体的にも、精神的にも。
広い宿屋に腰を落ち着けていたとき、俺は前から思っていた意見を言った。
「もっと遠くへ行く事にしてみないか?例えば、船に乗って隣の大陸に行くとか」
「それはいいけど。大丈夫かな。船ぐらい治すことは出来るけど、事故が起こったりしたら不安だな。もう少し考えてからにしない?」
「じゃあ不安は無いな。っていうかお前、見かけによらず船を修理することも出来るんだな」
「物を修理したり、作ったりすることは好きだよ。っていうか今さら?」
「あぁ、そういえば森とかでも獲物を捕まえるための槍とか弓とか作ってたな。結局俺はうまく使いこなせなかったが。使う必要もなかったし。でもあんな生活も悪くないと思えたな。だがそれじゃあいけない。俺には目的があるからな」
改めて言葉にして確認する。
俺の生きる目的。
「不幸な人を助けたい、だったよね。じゃあやっぱりいろいろなところにも行かないとダメだね。まぁ船に乗るのに頑なに反対はしないよ。昨日だって裏地にいた子供にパンとかあげてたでしょ?」
「あれ?あの時は俺が一人で買い物に出てて、お前はいなかっただろ?何で知ってるんだ?」
「自分で『情報は大切だ』とか言いながら朝帰りしといてよく言うよ。心配だよ。いろんな意味で」
「いやいや、だから何度言ったらわかるんだ。俺は酒は飲めないし、女にも興味はない」
「ほーほー。言うね。別にいいと思うんだけどなー。好きな女の人の一人や二人」
「二人は良くないだろ!あと、お前にだけは言われたくないな。好きな人とか」
「え?どうして?」
どうして?とか言い返しながら動揺するな。
いろいろとばればれだぞ。
「別に」
「別にって何!スッキリしないよ!」
「しなくていいだろ。ほら今日はもう寝て明日は買い物だ。明後日に船が出る」
「ちゃんと言・・・・・・」
「はいおやすみ」
「ああああああああああ!!」
いじめがいがあるな、こいつは。
わかってんだよ。
好きな人がいることぐらい。
森を出る前から既に気づいていたしな。
・・・・・・少し悪いことをしたかな、と考えながら眠りについた。
というわけで、俺達は今船に乗っている。
大きな船だが、必ずしも安全というわけではない。
航海というのは、陸上での移動になれた人間にとって危険度が高い。
船はしっかりと作ってあるが、万が一、浸水して沈むようなことがあれば助けを求める手立ては無い。
これから船に乗って二週間以上かけて隣の大陸まで移動する。
「船が壊れたらきちんと治してくれよ」
「限度はあるからね。それくらい分かってるよね?」
「当たり前だろ。水漏れくらいは治せるんだろ?」
「・・・・・・それを船を治すって言うんじゃなかった?そうじゃないなら治せないに訂正しておくよ」
「いや、訂正しなくていい」
そんなやり取りをしながらのんびりと船に揺られ続けた。
だが三日後、非常事態が起こった!
「・・・・・・仕方ないよね。船に乗るのは初めてだからね」
「気持ち悪い」
俺は船酔いを起こしていた。
「お前は大丈夫なのか?」
「問題ないよ。でも他の人も結構ノックアウトされてるみたいだね」
「ああ、本当だ」
一緒に航海していた他の客も船酔いで横になっていたり、時折海に向かって吐く人もいた。
さすがに俺はそこまでではないが。
だが、こうして介抱されるのは少し気まずい。
逞しくなったとは言え、まだ女らしさが残っているからあまり顔を覗き込まないでほしい。
なんて、こんなこと口走ったら、馬鹿にされたと勘違いしてこいつに蹴り飛ばされるだろうからな、口が裂けても黙っておこう。
心配されるのは悪くない気分だしな。
「船員さんとかは慣れてるから大丈夫なのかな?」
「さぁ?あーでも、もし船酔いする船員がいたら色々と問題が起こりそうだから、慣れさせるとかはありそうだな」
「あぁ確かに。何かあったら大変だからね」
その時、大きな衝撃が船を襲った。
「何だ何だ!」
「おいおいどうした!?」
乗客たちが騒ぎ出す。
「大変だ!船が海上に見えていたはずの小さな岩山に衝突した!近くに陸地があるから、全員こっちに来て避難しろ!」
船員の一人が俺たちに状況を伝えにきた。
今、ちょうど悪い話をしていたばかりなのに、俺には運というものがないのか?
「・・・・・・どうする?」
「どうする?ってどうするも何も今はとりあえずは非難しないと危ないでしょ!」
「あぁ、そうだな。とりあえず出よう。お前は俺が守ってやるから安心しろ」
「ありがとう。頼りにしてるよ」
「ウインクするな。 おい!お前達も急げ何酔っ払ってんだ!」
大部屋に居る全員がぶっ倒れてる。アホか?この非常事態に。
「さっきまで自分も酔ってた癖に」
「余計なこと言うな」
そうして俺たちは乗客と一緒に避難を始めた。
だが、俺の不幸はそれだけでは飽き足らなかったようだ。
言っている意味が自分でもよくわからないが、とにかく外が大変なことになっていた
船の中の広場から出ると、外は地獄絵図だった。
地獄というのは見たことはないが、きっとここで飛び交っているのがもし炎だったら地獄に近いのかもしれない。
炎が海上で飛んでいるわけがないが。
そんなことが出来るとしたら炎を操る力の持ち主ぐらいなんだろうが、そんな奴居てたまるか。
俺なんて機嫌を損ねたら即、殺されかねない。
話を戻そう。
ではここでは何が飛び交っているか?
砲丸が飛んでいる? 違います。
弓矢が飛んでいる? 違います。
棍棒が飛んでいる? 違います。
死体が飛んでいる? 半分正解。
「ジン!!水の塊が飛び交って人を襲ってるよ!」
大正解。
「ああ、炎並に厄介なものを操る能力者がこの世には居るようだ」
「炎?」
「あぁいや、気にしないでくれ一人でちょっと考え事してただけだ」
「それよりどうするの!?この状況!」
「死ぬのはごめんだな。だがそれ以上にリリー、お前を傷つけたくない。まずはそれを優先する。ま、お前はいつも通り俺の傍にずっと居ろ。そうすればいつでもお前を守ってやれる」
「そういうこと女の子に言うべきじゃないと思うけど」
「え?さっきも同じこと言ったろ?何か違ったか?」
「別にー」
「何だ何だ?さっきのお返しか ッ!リリー!!」
俺はリリーを抱えて、その場から跳んだ。お姫様抱っこで。
直後、俺たちの居た所に水の塊が飛んできた。
いや、おそらくは船を破壊しに攻撃してきたのだろう。そのおまけみたいに殺されかけた。
一応、俺『ジン・ステイル』の持っている能力を改めて説明させてもらおう。
俺は自らの身体能力をおおよそ五倍にすることが出来る力を持つ。
助走をつけずとも、思い切りジャンプすれば、縦か横に五、六メートルくらいは問題ない。
身体能力が五倍と言っても体の丈夫さも強くなるから、垂直跳びの高さががたとえ、一メートルを超えていなくとも五メートル以上跳ぶことは容易い。
え?炎を操るんじゃないのかって?
さっきも言った通り、そんな奴とは会いたくもない。
俺はリリーをお姫様抱っこしながら陸地へ上がった。
同時にその場に居合わせた人の視線が全員、俺達の方向へ向いた。
だが、俺に殺気を向けたのは一人だけだった。
俺より年下でぼろぼろな服装をした少年だった。
名前は『クリア・フリップ』
のちのこの物語の主人公になる男だった。
この俺を差し置いて。




