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Last color  作者: 蒼井 紫杏
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第7話

体育祭編…三部構成になりました。

詰め込みたい気持ちが文字数に現れました。


ということで、またもや中途半端ですなー。

これは、もう…仕方ありまへんなー。

決勝を含めて3戦全て、無心で綱を引くことで落ち着きを取り戻したわたしは、蘭さんと一緒に応援席で、しばしの休息をとっていた。


「ユキさん、今何時ですか?」

「えっと、11時過ぎですね」


棒倒しは午前の部の一番最後の競技だから、集合時間まで少し余裕がある。


「11時…何か忘れているような気がするのですが……」

「生徒会の?」

「いいえ、今日は生徒会の主だった仕事は全て終わっているはずですし…」

「御爺様が来られるとか?」

「いえ、そういった感じの話しでは…あっ!!!」

「ど、どうしたんですか?」


いきなり勢いよく立ち上がった蘭さん。

びっくりした…


「すみません。うっかり忘れるところでした」

「何かありました?」

「お弁当です。ついて来て頂けますか?」

「大丈夫ですよ」


お弁当?

確か、今日は折角の体育祭だからって矢原先生がお弁当を一緒に用意するから持って来なくていいと言われてたんだけど?


どうやら正門の方に向かってるみたいだ。


「どなたかが届けてくださるんですか?」

「えぇ、和志さんが。11時に正門でと連絡していたのに遅れてしまいました…」


和志さん??

どなたですか?


「あっ、蘭ちゃん!」


正門に近づくと、守衛さんから離れた位置で立っていた男性が手を振っているのが見えた。


「和志さん、お待たせして申し訳ありません」

「いや、僕も今ついたところだよ」


きっと、結構待っていたのでしょう。

守衛さんがもの凄く見てましたから…


「せっかくのお休みの日に、お弁当をお願いしてしまって…」

「それは、気にしないで。運動会のお弁当なんて、なかなか作る機会がないからね。楽しく作らせて貰ったよ」


運動会…まぁいいですけど。

手に持っている風呂敷包みはお弁当ですか?


「あっ、和志さん。こちら友人の遠野ユキさんです」

「…遠野ユキと申します。蘭さんには、いつもお世話になっております」

「ユキさん。こちら矢原和志さん」


矢原?

先生の弟さんかな?

わたしと同じくらいの身長に、保育園の先生とかが似合いそうな優しい顔。

20歳前後かな?大学生とかそんな感じ?


「あぁ、貴女がユキちゃんですか。いつも話しに聞いていますよ。噂通り、とても綺麗ですね」

「…ありがとうございます」


どんな噂をしてるんですか…


「和志さん、寄っていかれますか?」

「いや、遠慮するよ。よろしく伝えておいて」

「わかりました。わざわざありがとうございます。みんなで頂きますね」

「感想待ってるよ。二人とも、残りの競技も頑張ってね」

「「ありがとうございます」」


和志さんと別れてお弁当を持ち直す。

結構ずっしり…3人で食べるんですよね?


「ユキさん、みちる姉さんの所に寄ってお弁当を置いてから集合場所に向かいましょう。少し急がないといけないですね」

「はい」


お弁当を持って救護テントに向かう。

今日の体育祭は怪我人もあまり出ていないようで、暇そうにしていた矢原先生にお弁当の風呂敷包みを渡した。


「あの子、そのまま帰ったの?」

「お寄りになるかお尋ねしたのですが、みちる姉さんによろしくとおっしゃって、そのまま帰られるようでした」

「それにしても…凄い大きさね………」


ホントに…


「和志さんの力作ですね」

「朝から大分張り切ってたから…お昼にみんなで食べましょ。その前に棒倒し頑張ってらっしゃい」

「はい、行ってきます」


本日3度目となる競技集合場所に向かう。

午前の最終種目となる一年生全体競技の棒倒し。

…なぜ御嬢様学校の体育祭で棒倒し?

アグレッシブ過ぎるというかなんというか、あまりにも校風に似合わないと感じるのは私だけ?

この棒倒し、危険な競技だけに毎年反対意見があるにも関わらず、毎年揺るがず一年生の全体競技として君臨しているらしい。

もちろん、怪我をしないように安全策はとられているから大きな怪我人が出るような事故は起こっていないけど…


御嬢様たちの化けの皮を剥がして何が楽しいのか…


「楽しみですね」

「………」


えーと?まさかの棒倒し?


「楽しみですか?」

「えぇ、和志さんの御料理は美味しいだけでなく見た目も可愛らしいですから」

「あぁ、お弁当ですか」


良かった…危うく蘭さんのイメージが崩壊するところだった。


「いつも矢原先生のお弁当を作ってるのは和志さんなんですか?」

「そうです。毎日可愛いですよね」


やっぱり…あの乙女弁当か……


「兄弟仲がいいんですね…」

「えっ?」

「えっ?いや、だって毎日御弁当作るなんて、なかなか大変ですよ」

「そうですね。大変だとは思いますが…」

「まさか、矢原先生と和志さん、仲が悪いんですか?」


仲が悪い姉の為に、毎日お弁当を作るとかありえないと思うんですけど?

あっ、それとも和志さんは蘭さん狙いか??


「いえ、お二人は大変仲が良いですが…」

「そうですよね。大学が休みの日にわざわざ朝からお弁当作ってくれるなんて、優しい弟さんですよ」

「……私の御紹介の仕方に問題があったのは分かりました。反省致します…」


いきなり反省されても、どうしたらいいのか…


「ど、どうしたんですか?」

「あの…そもそもお二人は御兄弟ではありません…」

「えっ?そうなんですか?…従弟とか?」

「いえ、御夫婦です」


「へっ!????」


御夫婦とおっしゃいましたか?

夫婦??矢原先生と和志さんが?結婚している???


「か、和志さんは大学生ではないのですか?」

「違いますよ。和志さんはみちる姉さんと同い年で、みちる姉さんがこの学校に来る前に勤めていた病院で今も働いておられます」

「お二人が同い年!?」


矢原先生が落ち着きすぎなのか、和志さんが童顔なのか…


「お二人のお話しをお聞きになりたいのであれば、競技が終わってから直接お聞きになるといい思いますよ」

「あっ、はい。そうですね…」


いつの間にか集合場所に到着してたわたしたちは、事前の打ち合わせ通り攻撃班と迎撃班、守備班に分かれる。

攻撃班は相手の棒を倒しに行く。

守備班は自陣の棒を維持する。

迎撃班は相手チームの自陣への進入を阻止、排除する。


わたしは迎撃班で蘭さんは守備班。

危うく攻撃班に入れられそうになったが、全力で阻止した。

目立ちますから…


それにしても、矢原先生と和志さんが夫婦…

うーん……


全く持って似合ってない!

だって、笑ったところをほとんど見たことのないクールな矢原先生と、草食系男子代表といえそうな笑顔の似合う和志さん…


ないなー……


だったら、まだ鋭い目が似合う修さんの方がしっくりくる。


いや、そういう問題じゃないけども…―――



パンパン!!!!


「勝ちましたね」

「えっ?」


いつの間にか一戦目が終わっていました…


「ユキさんの御活躍、流石ですね」

「御活躍?」


何かしちゃってました???


「御蔭様で、私たち守備班は随分楽をさせて頂きました」


な、何をしてしまったんですかーーー!?


ダメだ!集中して競技に望まないと、知らないうちに御活躍とかいう結果になってしまう。

このまま目立ってしまったら、何のために攻撃班になることを回避したのか分からない。

勝利はしても、それなりに動く程度にして目立たないように立ち回らないと。

よし、次の白チーム対青チームの対戦は、おとなしく見学しておこう。


敵チームの戦略解析なんかするつもりはないから、ボーっと試合を見る。

それにしても、普段の御嬢様達はどこへ行ったのか…

目の前で繰り広げられているのは、どこからどう見ても女の紛争だ。


はぁーーー

怖い怖い。


溜め息と共に試合から視線を外し、なんとなく救護テントの方を見る。

矢原先生は、救護テントの前で試合を見ていた。

背中の真っ直ぐ伸びた綺麗な立ち姿。少し意識して、わたしも背筋を伸ばしてみる。


ブルッ


うん?

隣で試合を見ていた蘭さんが、小さく体を震わせた。


「これ、どうぞ」


そう言って膝に掛けていたジャージを渡す。

ただでさえ、試合と試合の間だけでも体が冷えてしまう気温なのに、華奢な蘭さんは更に寒そうに見える。


「あっ、大丈夫ですよ」

「わたしは、寒さに強いのでいいんです」


というか暑さにも強いけど、寒さには異常に強いんです。

遠慮する蘭さんの肩にジャージを羽織らせる。


「あの…有難う御座います」

「いいえ、どういたしまして」


そう答えながら試合に視線を戻す。

接戦になっているようで、どちらのチームが勝ってもおかしくない状態だ。

まぁ、どちらのチームが勝っても総当りだから関係ないけど…


試合に興味を無くし、さっきと同じように視線を矢原先生のいる方向に滑らせる。

救護テントは、わたしから見て競技場所を挟んだ丁度反対側にあり、かなりの距離がある。

しかも、現在競技場所は棒倒しの競技の真っ最中なわけで、競技中の大勢の生徒が動いている。

つまり、わたしはボーっと試合を見ていても矢原先生を見ていても、周りから見たら同じように見えるだろうと思って…――たんだけど??


!!!!

なにっ!??


矢原先生と目が合ってる!!!


いやいや、落ち着きなさいわたし!


どんなに視力が良い人でも、この距離で視線が合ってるなんて分からないはず!

だから、矢原先生がわたしの視線に気がついて目が合ってるってわけじゃなくて、わたしを見てるんだ。


んで、つまりはどういうこと??


矢原先生が…わたしを………見てる???


……!!!!!!


一気に顔が熱くなり思わず顔を背けそうになるけど、意志の力を総動員してなんとか耐える。

矢原先生が気がついてないのに急に顔を逸らしたら、視線が合ってたってバレてしまいそうじゃないですか。


視線を逸らさず、じっと矢原先生を見つめる。

耐えるわたし。


あれ?矢原先生が顔を赤くして俯いた。どうしたんだろう??


「ユキさん、試合が始まりますよ」


蘭さんに声を掛けられ我に返ると前の試合は既に終わり、わたしと矢原先生との間を遮る競技者はいなくなっていた。


ということは?


ただただ、矢原先生を見つめていたということになります…


…恥ずかしい//////


耳まで真っ赤になっていることを自覚しながら、慌てて定位置に就く。


なんでこんなことになっちゃったんだ?

全ての行動が裏目裏目に出てる気がする…

あー、絶対矢原先生に変な子だと思われたーーー!!


チラッと救護テントを見る。

さっきの試合で怪我をした子がいたのか手当てをしている矢原先生の姿があった。


見られてなくてホッとしたような、少し残念なような……


治療を行っている矢原先生の横顔はいつもと変わらず落ち着いていて、処置をしている真剣な目はやっぱり綺麗だった。


あの矢原先生と和志さんが夫婦かー…


大体、矢原先生と結婚っていうのも結びつかない。

なんとなく、わたしの中で矢原先生は孤高で、誰のものにもならないというイメージが勝手に出来上がってしまっているから。


いや、よく考えたらわたしと修さんも結婚して夫婦になるんだ…

周りから見たら、わたしと修さんはどんな風に見えるんだろう。

偽装結婚の仮面夫婦が、他の人から見たら仲の良い若夫婦とかに見えたりするのかもしれない。

所詮、二人の間の関係は二人にしか分からないんだろう。


だから、全然釣り合ってないように見える矢原先生と和志さん夫婦も、実は相思相愛で支え合ってるのかもしれない……


………なんだろう

なぜか胸がざわついて、落ち着かない気分になる。

意味もなくイライラして、そんな自分が良く分からなくて不安になる…



パンパン!!!!


「えっ?」


また??

試合終了のピストルの音に気が付いて周りを見まわすと、わたしの周りには誰もいなかった。


「???」

「ユキさん、凄いですね。少し怖かったです」


駆け寄ってきた蘭さんに言われて考える…

全く記憶にありませんが、わたしは何をしちゃったのでしょうか…


「えっと、わたしは何をし…――」


「きゃーーー!!!!」

「ちょ、あぶな」


蘭さんに質問しようとした時、後ろから悲鳴が聞こえて振り返る。


「!!!!!!」


振り返った視線に入ってきたのは、こちらに向かって倒れてくる競技用の棒。

更に詳細に言うと、倒れてきた競技用の棒の先に恐怖に目を瞑った少女がしがみついている。


冷静に状況を推測してみよう。

>>少女が自陣の棒に到達して登ってきているということは接戦だった。

>>少女が棒の先に登ってきた丁度そのとき試合終了のピストルの音がする。

>>自陣の守備班は、チームの勝利に歓喜し手を取り合い喜ぶ。

>>支える者を失った不安定な棒から少女は降りられなくなる。

>>やがて、自立することが出来なくなった棒が傾き…


きっとそういうことなんでしょうね。


棒が倒れてきただけなら話しは簡単だ。避ければいい。幸い、何故かわたしの周りには人がおらずわたしと蘭さんが避けることは容易い。

例えば、蘭さんがこの状況に硬直してしまっていたとしても、わたしが蘭さんを連れて避ければいい。


でも、このまま避けたらしがみついている少女は地面に激突するだろう。

安全面を考え、地面に敷かれた衝撃吸収マットは棒から落ちることを計算しているもので、棒ごと倒れてくるなんて考えられていない。

棒の重さも加われば大怪我をするかもしれない。


はぁーーーーー


そこまで高速思考で考えたわたしは、諦めて目の前で硬直している蘭さんの体を右手で素早く後ろに庇い、左腕を頭上に掲げ衝撃に供える。


棒自体にも衝撃緩和材が巻かれているし、万一倒れてきた棒に当たっても大怪我をするようなことはない。

ただし、そこに少女の体重と抵抗もなく倒れることで加速されたスピードは計算されていない。


バキッ!


鈍い音と共に左腕を中心に広がる体を吹き飛ばしそうな衝撃と、尋常じゃない激痛に耐える。


衝撃でしがみついていた少女が、棒から手を滑らせ地面に叩きつけられる前に右腕で体を支え、怪我のないように衝撃を吸収してあげる。


ドンッ!!


重そうな音をたて地面に転がった棒を横目に、わたしは素早く待機場所からジャージを取り左腕を隠すようにして羽織る。


「大丈夫ですか?」


腰を抜かしてしまったかのように座り込んだままの少女に声をかけた。

声も出ないのか、固まったままこくこくと首を動かす少女。

状況についてくることが出来ないのか、他の生徒達も先生達も固まったまま動かない。


「ユキさんこそ、大丈夫なのですか!!お怪我は!!!」


逸早く硬直から解けた蘭さんが、普段からは考えられないような大きな声を出し、その声で我に返った先生が慌てて近づいてくるのが見えた。


まずいな…左腕が痛みを通り越して感覚がない。


「遠野さん、すぐに救護テントに…――」

「大丈夫です。掠っただけですので大きな怪我もありません。彼女を診てあげてください」


そう言って、まだ放心状態の少女を見る。


「ユキさん、念の為に診てもらうべき…――」

「念の為に患部を冷却しようと思いますので、先に退場しても宜しいでしょうか」


蘭さんには悪いけど、怪我を見られるわけにはいかない。


「え、えぇ。わかりました。その代わり、後で必ず矢原先生に診てもらいなさい」

「わかりました。失礼します」

「私が付き添います!」

「蘭さん、大丈夫です。お昼は御一緒しますから、矢原先生にもそう伝えてください」

「ユキさん!」


急げ!

まだ何かを言っている蘭さんに背を向け、早足で校舎へ向かう。

急げ!

体育祭中の校舎の中は人の気配もなくわたしを迎え入れる。

急げ!

わたしは人気の無いトイレに駆け込んだ。

ユキ…意識せず暴れたら、棒倒しの棒以上に危険なのは貴女です。

自重しましょうね…

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