第6話
思いのほか長くなってしまった体育祭編…
仕方がないので途中で切り分けました。
読みにくくなってしまいましたが、後編は次の投稿になります。
堪忍ねー(´ε`;)
体を回す運動ーーー
秋晴れ!おぉー綺麗にうろこ雲が見える。明日は雨かなー。
上半身を大きく回していると、週間天気予報を裏切る晴れ渡った空が視界に入る。
どうやら雨は明日にずれ込んだみたいだ。
両脚跳びの運動ーーー
それにしても、グラウンドに響く無駄に爽やかな声と、視界に入る気だるげに体を動かす少女達との温度差が酷い。
他人事のように言ってはみたけど、その中にわたしも含まれてます。
手足の運動ーーー
大体、高校生がラジオ体操を嬉々としてやるわけ…―――いや、意外と運動部系は本気みたいだ。視界の端に鬼気迫る顔で準備運動をしている少女の姿が……
深呼吸ーーー
し、深呼吸なんだから、もう少しリラックスしたらどうでしょうか?
あっ、目が合った…
体育祭。
一年に一回行われるスポーツの祭典。
いくらアンテルス女学院が私立の御嬢様学校といえど、体育祭はあるわけですね。
1クラスに大体35人。各学年6クラスだから…600人以上の女子高生の集団かー…
アンテルス女学院の体育祭は表向き、点数等で評価するクラス対抗のようなものは存在しない。
勝ち負けによる優劣意識をつけないとかなんとか…ようは順位で個人を評価しないようにしようってことなんだけど、それってスポーツが得意で運動に力を入れてる子からしたら自分を評価して主役になれる舞台が少なくなるってことだよね。
しかもテストの成績上位者10名は発表されるのに…もの凄く矛盾を感じる。
そして、スポーツに力を入れていないわたしでさえそんな矛盾を感じているんだから、運動部のみなさまからしたら、そりゃもう…―――
「遠野さん聞いていますか!?」
「…はい」
いや、聞いてましたよ?聞いてたんですけどね…
「今年は各学年の3組4組に運動部のメイン選手が多く集まりました。なので打倒白チーム!我が赤チームの勝利の為に一人ひとりの力が必要なのです!」
円陣を組み力説する体育祭実行委員の少女…もちろん運動部
うわー隣の先生の目が怖いです…クラス担任という名の運動部顧問
表向きクラス対抗の存在しないアンテルス女学院の体育祭…
はい、つまりは裏がある。
各学年の1・2組を赤、3・4組を白、5・6組を青として3チーム存在し、非公式に各競技の点数計算がされている。
あくまで非公式なんだけど、これが結構本気のチーム争いになっている。
何故か?
チーム戦を黙認しているはずの先生達が本気だから……もう、黙認でもなんでもない…
そもそも、わたしは何故名前もうる覚えのクラスメイト達に混じって円陣を組まされているのでしょうか…
「点数が入るのは各種目3位まで。運動部であるあなたたちには確実に点数を稼いでもらいます」
そうですよね?この円陣運動部ですよね?
「特に遠野さん!帰宅部なのにスポーツ万能の貴女が我がチームのポイントゲッターとなるでしょう」
…運動能力の平均化を促すために、運動部に所属している人とそれ以外の人との同じレースは出来るだけ避けられている……―――
…―――誰っ!そんなルール作ったの!!!
「みんなの獅子奮迅の活躍を期待しているわ!!」
獅子奮迅って…これ表向き作る必要ある?
はぁーーー
やっと円陣から開放されて大きな溜め息をつく。
体育祭が始まる前から疲れました。
確かに目立つことは避けてたはずなのに…
「ユキさん、おはようございます。というより、お疲れ様ですね」
振り返ると、蘭さんが微笑みながら立っていた。
蘭さんも隣のクラスだから同じ赤チームだ。
「おはようございます。みんな本気すぎですよ…」
「ユキさんは私とは違い、運動神経がいいですからね」
「わたし、どこの部活にも所属していないんですけど?」
そんな運動神経いいとかアピールしたことは無いはず。
「日頃の体育の授業でもそうなのでしょうが、やはり目をつけられた原因はスポーツテストの結果でしょうか」
大分適当にやったはずなのに!
「というか、何故スポーツテストの結果なんて知ってるんですか!?」
「それは、体育祭に向けてどのチームもリサーチをしているからではないでしょうか」
「こ、個人情報の悪用です」
「ふふふ、でも私はユキさんと同じチームで楽しみですよ。球技大会ではクラス対抗でしたから、クラスの違うユキさんと同じチームになることは珍しいですし」
そういえば、球技大会も言われるがままに出てたけど、あれも目立ってのかな…
「私は本当に運動が苦手なのでチーム戦だと足を引っ張ることになると思いますが、一緒に頑張りましょうね」
ペアになって行う競技も少なくないので、蘭さんと同じチームなのは正直ありがたい。
「わたしも蘭さんと同じチームなのは嬉しいですが……頑張ります…」
ずっとお昼休みを一緒に過ごしている蘭さんとは、普通に会話が続けられるようになってきた。
クラスも違うし、お昼休みを一緒に過ごすだけの関係。
友達と呼べるだろうか。友達ってどんなだっけ?
「そういえば、勝手に御弁当を御一緒すると言ってしまいましたが、ユキさん御家族の方は来られるのですか?」
家族?
能面の御婆様が体育祭見学…ありえない
修さん??…いや、来られても困るし。
「大丈夫ですよ。蘭さんはいいのですか?」
「一応祖父には連絡しましたが忙しい方なので…」
「えっ?御爺様??」
「あら?御存知なかったのですか?私も両親はいないのですよ」
「あっ、ごめんなさい…」
蘭さんの御両親の話しは知らなかった。
「そんなに悲しい顔なさらないで。ユキさん、同情ではなく友情でお願いしますわ。それに、わたしたちの事はみちる姉さんが救護テントから見てくださってると思いますよ」
「…そうですね。矢原先生にいいとこ見せれるように頑張りましょうか」
「くれぐれもわたしの仕事を増やさないようにね」
「「えっ?」」
いきなり後ろから聞こえた声に驚いて二人で振り向くと、矢原先生がいつものパンツスーツの白衣姿で立っていた。
いつも保健室の中だけだから、グラウンドに矢原先生がいることに違和感を感じる。
なんだろう。いつもと違う場所で自分の姿を見られてるのも、恥ずかしいというかなんというか…
「みちる姉さん、驚かせないでください」
「二人を見かけて近づいたら、いいタイミングでわたしの名前が出てきたものだから声をかけとかないとと思って。勇姿を見せてくれるんでしょ?ちゃんと見てるから、頑張ってきなさい」
聞かれてたのかー
「みなさんの足を引っ張らないように頑張りますね」
「頑張ってきます…」
頑張らないといけなくなりました…
「そろそろ、集合ですね。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
二人と別れて集合場所に向かう。
今日わたしが出場する(させられる…)のは、学年混合借り物競争。同じく学年混合大縄跳び。学年混合綱引き。学年混合リレー。一年生全体競技の棒倒しの5種目。
多い…異常に多いんです…
練習を何度も行うような形式ではなく、一度か二度の練習で本番を行うアンテルス女学院の体育祭は各学年の全体競技と、全学年混合の競技を1から2種目選択するという形式になっていて、一人大体2種目から3種目出れば…―――いいはずなんですけど?
競技者を決めるホームルームの時に、おかしいなーとは思ったんですよ?
適当に余った競技に参加しようと思っていたわたしの思惑は、推薦、他薦という名の妨害にあい破綻しました……
…いや、先生怖いんですって……
取り合えず、目立たないように適当にこなそうと思ってたんだけど、赤チームの勝利に少しは貢献しないといけにのかなーとか、…矢原先生見てくれてるのかなーとか……
ちょっと…頑張ろうかな。
わたしの出場する種目は午前の部が借り物競争と綱引きと棒倒し。午後の部が大縄跳びとリレーとなっている。
綱引きと大縄跳びは個人競技ではないから目立ってしまうようなことはないだろうし、借り物競争は勝てばラッキーくらいのもんだろう。
目立ってしまいそうなのは、棒倒しとリレー。
特にリレーは要注意だな…
今、召集がかかっているのは借り物競争。
まぁ、多分に運に左右される競技だから、勝っても負けても注目を浴びるようなものじゃないし、頑張りますよー。
指定された順番に並び、前の選手の様子を見る。
色んな御題があるようで、ゴールした後の発表を聞いてるとクリップボードとかストップウォッチとか。人っていうのもあるみたいで、メガネを掛けた女性とかジャージの先生とか。
まぁ、紙を開いてみるまで分からないけど無難なお題が続いてるから、ざっくりグラウンドのどこに何があるか見ておくことにしよう。
出てきそうな御題、水筒・帽子・鉢巻・ボール…大体OKでしょ。
観客席の方まで見ると、スーツ姿の男性や着物姿の女性までいる。よし、いける。
「鈴木さん、いませんかーーー??鈴木さーん!」
えっ?名前とかもあるの??
「社会科の先生!せんせーい!!」
そいうのは勘弁して欲しい…
なんだか、後になるほど御題が厳しくなってませんか?
前の組が終わり、自分たちの番になる。
スタートのピストルの音と共に、御題の紙が吊るされた場所まで50メートル程ダッシュ。
一番で紙の所について、迷わず真ん中の紙を取り開いて中を確認する。
…………
……戻しちゃダメですか?
他の選手が同じように紙を見て、周りを見回しながら移動したりしている中、わたしは自分の持っている紙の文字を見て固まっていた…
【美人】
…なんですかこれ?
いやいや、そんなバカな御題が出る分けないよね!
もう一度ちゃんと確認しよう!!!
【美人】
……しくしく
と、取り合えず呼びかけて自薦でいいですか?
「遠野さん!どうしたんですか!?」
応援席の方まで走り寄るとクラスメイトや先生が心配そうな顔でこっちを見ている。
ま、まずい!目立ってる??
「あの、び…」
「び?」
応援席に向かって呼びかけようとした声を途中で止め、わたしは頭に浮かんだ場所に向かって一直線に走った。
いるじゃないですか、美人!!
救護テントの前に立って競技を見てくれていた矢原先生の姿が大きくなり、驚いた顔をしているのがわかる。
「一緒に、ゴールして貰えませんか?」
目の前に立って、頭を下げる。
「…いいわよ」
「ありがとうございます」
「御題はなんだったの?」
一緒にゴールに向かって走り出した矢原先生が質問してきたので、紙を渡した。
「何これ!?」
「御題ですね」
ゴール前で止まってしまった矢原先生の手をとって、取り合えずゴールしてしまう。
「では、御題を確認します。御題【美人】。おめでとうございます。2着です」
係りの人から2着を示すカードを受け取る。
おっ、意外と良い結果だ。
固まってしまっている矢原先生の手を取ったまま、受付にカードを提出しに行くと、そこに放送部が待機していた。
「2着でゴールした1年1組遠野さん。保健医の矢原先生と一緒にゴールされましたが、ずばり御題は??」
「美人」
「おーーーー!一番難関と言われていた御題が、ここで出ました!」
やっぱり…
「いつも美しい矢原先生!ネタ御題のはずが笑いではなく正統派の解答となりました!遠野さん矢原先生、二人の美人の競演となりました。」
ネタ御題だったの?そんなの入れないでよ…
「矢原先生、遠野さんお疲れ様です。ありがとうございました」
矢原先生…―――フリーズ中…
手を取って救護テントに向かう。
「あの…ありがとうございました」
「………」
怖い…
「なぜ…わたしはてっきりスーツの女性とかかと…」
「本当に…あの御題はないですよね」
軽くイジメですよ。矢原先生がいてよかった。
「…なぜわたしなの?蘭がいるでしょうに!」
「蘭さん?確かに可愛いですけど…。美人という御題なら矢原先生ですよね?」
「………」
俯いて手を引かれながら歩く矢原先生。
「……」
「……………」
お、怒っておられますか?
黙ってしまった矢原先生の方をこそっと見る。
俯いて顔にかかる髪が表情を隠し、怒ってるのかどうか読み取ることは出来ない。
けど…――み、耳まで真っ赤……
なに!?
わたし何を言った!?
冗談とかにしてとけば良かったのに、なんで正直に言っちゃったの!?
まずい!わたしまで顔が熱くなってきた!!絶対赤くなっちゃってるし!!!
しかも、この状況はなに??
よく考えたら、手を繋いで歩いてませんか???
今更手を離すなんて、意識してるみたいで逆に恥ずかしいし…
落ち着けー落ち着けー
取り合えず救護テントに着けばいいんだ。
わたしは自然な行動を取れているはず!!
大丈夫ー大丈夫ー
「ユキさん、みちる姉さん」
救護テントまでもう少しというところで蘭さんが声をかけてきた。
「借り物競争お疲れ様でした。集合時間まで間があったものですから、お二人に御声掛けしようと思いまして」
「ありがとうございます」
「みちる姉さんの参加、おもしろかったです。しかし…それにしても……お二人とも真っ赤な顔をしながら手を繋いで歩くなんて……見ているこちらが恥ずかしいのですが…」
「えっ!うわ///」
言われて、慌てて繋いだままだった手を離す。
「こ、これは違うのよ///」
「そうです!違うんです//////」
何が違うのか分からないけど、違うんです!
「みちる姉さんもユキさんも人見知りですから、お二人が仲良くなって、私は嬉しいですよ」
「そんなことより、集合時間ではないの!」
「ふふふ。そうですね、ユキさん行きましょうか」
真っ赤な顔の矢原先生から逃げるように集合場所に向かう。
次の競技は綱引き。一日に5種目も出場すると慌しい…
綱引き―――あまり練習をしていなのであれば、ただ無心で自分の手元の綱を力強く引くのみ!
位置について、用意、スタートのピストルの合図で綱を素早く持ち無心で引く。
ただ無心で…引く……
ただ無心で…引く……
ただ無心で…引く……
ユキ、いい加減に自覚なさい…
貴女は決して地味に生活出来ていない!!
思いっきり目立ってるわ!!!