第40話
お久しぶりで御座います。
活動を再開させて頂きます!
ザワザワザワ……
爽やかな朝の光をいっぱいに浴びた講堂から漏れ聞こえる少女達のざわめきを耳にしながら、履いている下足から手にしていた体育館シューズに履き替える為に壁際に寄る。
「ユキさん」
「はい?」
一緒に登校してきた蘭さんに呼ばれて顔を上げる。
「先週は連日遅くまで有難う御座いました」
「い、いいんですよ」
年度末と年度始まりのこの時期は卒業式や入学式なんかの式典が多く、普段から雑用をこなす人員が不足している生徒会は非常に多忙となる。
もちろん有志の生徒もいるにはいるが、委員会などで行われる行事ではないだけに人員不足の影響が大きい時期だ。
そんな時期に無償で、雑用やります!って人がいたら、どうなるか………
遠慮なく扱き使われました……
「それよりも、蘭さん今日はいいんですか?」
「今日は始業式ですから、私たち生徒会自体が直接関わるものはないですよ。片付けは担当が決められていますし、今日は平和に過ごせますね」
「そうですね…」
平和に……平和にね………
「いつまでも立ち話では邪魔になってしまいますね。入りましょうか」
「そう…ですね……」
ザワ……
キャッ
ザワザワザワ……
講堂に入ると少女たちのザワザワが増す……
蘭さん効果ですよね。
「えっと、クラス割が発表されてないから……」
「以前のクラス毎に待機でしたね」
「そうでした」
講堂内に集まった少女たちの群れの中から、一年かけてやっと覚えたクラスメイト達の顔を探し出す。
なんとなく見覚えのある集団を発見したわたしは蘭さんと離れそちらに向かった。
というか、クラス割を発表してからクラス毎に集まって移動したら、こんなに悩む事ないのに何故そうしないのでしょう?
新しいクラスの発表をよりドキドキさせる為?
前のクラスメイトと交友する為?
うーーーん……どっちでもいいけど非効率的だわ…………
「遠野さん、こちらの席ですよ」
「……ありがとうございます」
えっと……よく覚えてないけど、同じクラスの子……と思われる。
言われた通りの席に行き座席部分に置いてあった自分の名前の書いてある紙袋を確認してから座る。
さっき声をかけてくれた子の方を見てみたけど同じクラスの子で、なんとなく顔を知ってるなーくらいしか記憶にない。
クラス替えになったら、またクラスメイトの顔がリセットされるわけだ……
一年の時のクラスは二年に進級すると成績や進学の方向性によってクラス替えとなる。
二年から三年への進級ではクラス替えが無い為、高校生活での最初での最後のクラス替えとなり二年間同じメンバーとなる。
まぁ……今まで通りで、クラスメイトと仲良くするようなこともないだろうし、あんまり関係ないだろうけど?
そう思いながら紙袋の中を確認。
今日の予定とか、年間予定表なんかを無視しながら……
あった、クラス割符。
[1クラス]
1クラス?
何故に1クラス?
1クラスと言えばあれだ……進学クラス?
進学希望とか出してないのに?
国公立の大学を狙っているのなら、この1クラスに在籍しているのが当たり前となっている大事なクラス替えで、わたしなんかがその一席を取ってしまったらまずいでしょう?
進学とかしないよね?
あれ?こういうのは相談した方がいいのでしょうか……?
「ユキちゃん」
「へっ?」
小声で掛けられた自分への呼び掛けに、我に返る。
「移動移動」
「…移……動?」
「式終わったから。ほら立って」
奏音ちゃんに言われて、慌てて立ち上がり早足で移動する。
「ユキちゃん。ちょい待って忘れ物」
「え?」
振り向いたら、追い掛けてくれていた奏音ちゃんがわたしの荷物を全部持ってました……
「……ご、ごめん」
「いいよいいよーーー」
まるで、わたしが荷物を運ばせてたみたいじゃないですか。
まぁ、その通りなんですけど……
「ほい。じゃあ、行こっか」
「はぁ……ど、どこへ?」
「教室。ユキちゃん、どうせ1クラスでしょ?」
「な、何故それを?」
「えっ、いや、そんなの誰もが分かってるでしょう……」
そんな、残念そうな目で見ないで下さい!
「ユキちゃんって……」
「……………なんですか?」
「…………」
「……………」
「……………じゃあ、行こっか!」
なんなんですか!
「ちなみに、奏音ちゃんは……?」
「ん?」
「クラスですよ」
「1クラスだよね?」
って聞かれても……
「あのねユキちゃん、良く考えてみてよ。一応これでも生徒会とかやっちゃってるわけだ」
「は、はぁ」
生徒会関係ある?
「生徒会役員が勉強出来ない……体裁つく?」
「………」
た、確かに…
「ちょっと、格好悪いですね」
「まぁ、あれだよ?勉強だけが大事ってわけでもないよ?例えば、人望とかカリスマも大切だと思うし」
「そうですね」
「その点、蘭さんは完璧だよねーーー」
「…………は、はぁ」
「ユキちゃんも完璧だとは思うんだけどねーー。いかんせん人付き合いが悪過ぎる」
「はぁ…」
「あっ、ユキちゃんも人気はあるんだよ?だから、少しだけ努力するとだな――」
「しません」
そんなところで努力するくらいなら、Color coating《補色》の回数を減らす努力をするから!
「まっ、それもユキちゃんの個性だと思うしいいんだけどね。ところでユキちゃん」
「な、なんですか!?」
急に顔を近付けたらびっくりするじゃないですか!
「私から離れて行動されないよう御願い致します」
「へっ?」
いきなり話し方が変わった事にも、言われた内容にもついていけないんですけど?
「迷わないよ?」
「……では御座いません!」
ですよね、良かった。
学年が上がったとはいえ流石に校内で迷うとか思われているのだとしたら心外だ。
「今日、何かありました?」
「いえ……どうも匂いが」
「匂い?」
すんすん
「何をなさっておいでですか」
「臭いのかなと思って?」
「ユキ様はいつも通りのお力の匂いです」
「お、お力の…」
匂い?とか分かるんですね………
「ではなく、ユキ様以外の――だから宜しくね」
「えっ?」
あぁ、人が来たのか。
この話し方のギャップにも大分慣れてきたわたしがいます。
「あ、あのっ!」
「うん?何?」
「…………」
奏音さんの知り合い?
「………あ、あの…あの…」
「……?」
「…………??」
どうもハッキリ言いたい事が言えないタイプのようですね。
奏音ちゃんの方を見たら、奏音ちゃんも困った顔でこっちをチラ見……って!!
もしかして、奏音ちゃんの知り合いじゃないとか言いますか??
奏音ちゃんとアイトーク……
「…………(フルフル)」
「……………(フルフル)」
うん。完全にアイトークじゃないけど……判明しました!
全く知らない生徒から声を掛けられました。
ネクタイの色は――コバルトブルーだから2年生だよね。
つまりは上級せ――違う違う。進級したから同じ学年だ。
「あの……1クラスですよね?」
「そうだよーー」
「あの!わたしも1クラスになりまして!!」
「あっ、そうなんだ。おめでとー」
「………」
「はい。ありがとうございます!あ、あの…お二人もおめでとうございます」
「うん。ありがとうねー」
「ありがとう…ございます……?」
何かおめでたいの?
あぁ、進級おめでとうございますって事かな?
「…………」
「………」
で??
「えっと……」
奏音ちゃん、頑張れ!
「も、もう行ってもい――?」
「あの!!!!!」
「「はい!!」」
この子、何!?
「教室まで御一緒しても宜しいでしょうか!!!!」
「「へっ??」」
そ、それだけを言うのにこんなに時間がかかったの?
「えっと……(チラッ)別にいいよー」
一瞬こっちを窺った奏音ちゃんだったけど、わたしが小さく頷くと簡単に返事を返した。
「あっ、ありがとうございます!」
なんでこの子は、こうも緊張気味なの?
同い年のわたしたちと一緒に教室に行ける事がそんなに嬉しい事なのかな?
「あの、奏音さんと遠野さんは仲がいいのですか?」
「えっ?そりゃ……まぁ?」
えっ?こっちを見るの?
えーと、うん悪いわけではないか。
「……うん」
「そうですよね。遠野さんは東條さんとも仲がいいですから……も、もしかしてなんですけど、遠野さんは生徒会入り…――」
「しません」
そこはハッキリ言っときましょう。
「あははっ!どこからそんな噂が流れてるのか知らないけど、私とユキちゃんの仲がいいのも、蘭さんとユキちゃんの仲がいいのも個人的にだよー?」
「あっ、そうなんですか?」
「そりゃ、生徒会からしたらユキちゃんが入ってくれたら大助かりなんだけどね。おぉ、ユキちゃんが怖い顔してんじゃん。まぁ、そういうわけで、変な噂を流さないように!!」
わたしは元々こんな顔ですよ!!
「そ、そうですか……入られないのですか…」
な、なんでそこで残念そうなんですか!?
「あっ、お先にどうぞ」
「あぁ、ここだね。ありがとう。ユキちゃん行くよ」
うん?
あぁ、教室ですね。
うわぁ……聞いてはいたけど、1クラスっていうのは明らかに特別ですよね。
一般クラスの教室でも冷暖房完備は当たり前、業者の清掃が月に2回というお嬢様学校使用のこの学校の中で角部屋に当たる教室だし、普通の教室でも広いなーと思うのに……
机にノートPCがデフォルトで設置してあるんですよ???
まぁ、このPCに関してはどのクラスでも同じ。
これは、二年に進級したからってわけじゃなく今年度から授業に取り入れられる事になったからなんですけどね。
「ユキさん」「奏音ちゃん」
はい?
「うん?あぁ、琴音。蘭さんも早かったね?」
「早くない!奏音ちゃんが遅いの!!」
「そう?」
あぁ………
はい。予想はしてたよ?というか奏音ちゃんが言ってた通り生徒会ですもんねぇ。
それに、もちろん成績優秀者が揃ってるのも知ってましたよ?
だから、必然的に………
「ユキさん。改めまして宜しくお願いします」
「遠野さん。………よろしく」
はい。奏音ちゃんだけじゃなく蘭さんも琴音さんも同じクラスですよね。
琴音さん……嫌なら挨拶しなくてもいいんですよ?
「よ、よろしくお願いします」
「おーーーい。ユキちゃん、後ろがつかえてるから進んでくれるかなー?」
「っと、あ、ごめっ!?」
言いながら振り返ったら、さっき一緒に教室に来た女の子が、まだ後ろにいました。
いや、これ教室のドアを塞いでるのは完全にこの女の子ですよね???
というか、いつまで後ろにいるの!?びっくりするから!!!
「い、いいえ。あ、あの…――」
「はいユキちゃん、邪魔にならないとこ行くよー」
「う…うん」
えっと、まだ何か喋りたそうな女の子置いてきてしまいましたが?
いいんですか??
「ユキちゃん。あんな感じのミーハーな子とはあんまり仲良くしない方がいいよ」
「へっ?」
ミーハー??
「そうですね……。私もそれに関しては同意見です」
「……ですか」
蘭さんまで、こんなこと言うなんて凄く珍しんじゃないですか?
「あのね!分かってるの!?ポヤンと聞いてないでよね!……奏音ちゃんも蘭ちゃんも、遠野さんの事心配して言ってるんだから!!!」
「ポ、ポヤンって……」
言われても………
「琴音……静かにね」
「むーーーーだって!」
「ユキさん、あの……さっきの生徒の名前を知っていますか?」
「えっ?」
そういえば………聞いてないなー
「知らないです」
「ちなみに、私もしらないからねーー」
やっぱり、奏音ちゃんの知り合いでもなかったんだ。
「つまりさ、あの子は顔見知り程度……でもないくらいうっすい関係の二人に近づいてくるタイプの人間なわけ」
「…………?」
『つまり』と言って説明してくれた琴音さんには悪いけど良く分からない…
「だから!!!」
「名前も名乗りもしないで、校内の有名どころにお近付きに……ってこと。お近付きになるだけが望みなら可愛いもんなんだけどね」
「誤解を招くような噂を流された事があり、少々不愉快な思いをしましたので」
あーーー
確かにそれは困るね。
有名な子のお近付きに……ていうのは分からなくもない。
この学校の生徒会役員っていうのは人気者が揃ってるからね。
チラッと、さっきの子の方を見る。
一年の時のクラスメイトなのか数人の女子に囲まれ、楽しそうに笑っていた。
その内の一人が、わたしが見ているのに気付いたのか、その子に何かを言うとその子は嬉しそうにこちらを見ながら小さく会釈をしてきた。
えっと………これは返さないとまずいか。ぺこり
「「「ハッ!!!!!?」」」
「えっ?」
な、何!?
「「「……………はぁーーー…」」」
な、何かあった??
いや、分かってますよ?あの子の『将を射んと欲すればまず馬を射よ』作戦の会釈を返してしまったのは問題かもしれないけど……
そんなに、盛大に溜息をつかれるほどですか?
「ねぇ、奏音ちゃん………」
「何かな…?」
「通じてるの……?」
「うーーーん。………難しい質問だね…」
「ねぇ、蘭ちゃん………」
「なんでしょう…?」
「いつもこうなの……?」
「そうですね。………答えづらい質問ですね…」
なんですか、みんなして!!!
「……………な、何かな!」
「……もう、いいよ。うん」
「……そうですね。はい」
「……あたしたちが気をつけとくから。うん」
…………はい。ごめんなさい?
「あっ、それより奏音ちゃんに聞きたい事があるんだけど!」
「うん?どしたー?」
「えっとさ………」
「…………」
いつまで経っても会話の続きが……?
「ユキさん、先に座っておきましょう」
「えっ?」
「ごめんね。蘭ちゃん」
「あ、あぁ」
そうか、琴音ちゃんに聞きたい事であって、わたしたちには聞かれたくない事か。
「……匂い…る…」
立ち去り際に聞こえた琴音さんの言葉。
「出席番号が続いていますので、ユキさんの席はここですね」
「あ、そうですね。ありがとう御座います」
言われて、蘭さんの後ろの席に座る。
「奏音さんも琴音さんも席が続いてますし。ほらあそこです」
言われた方を見る。列を挟んだ斜め左前。丁度二人が席に座ったところだった。
そりゃ、苗字が同じなんだから出席番号も続きになるでしょう。
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴り、入って来た先生が昨年度と一緒。顔と名前を覚えなおさなくて済む!
ちょっとした喜びと体育祭の苦い思い出が……
今年はやらないよ!!!
「――の子ですが…―――」
そういえば、あの体育祭の怪我のせいで色々周りが動き出したんだよね……
「――珍しい時期…彼女は―――」
みちるさんにバレたし、奏音ちゃんもあれで分かったって言ってたし………
「――自己紹介で…――」
werewolf《人狼》って鼻が良過ぎでしょう?
「――可愛い子ちゃんwelcome…――いつでも受付中――」
「「「「キャーーー」」」」
違うか。純粋な血の匂いで分かったんじゃないんだ。
「――アメリカンジョークで…――」
血の匂いの識別に関しては、ヴァンパイであるわたしの方が断然優れてるに決まってる。
「――冗談じゃないけど――あぁ、このクラスには可愛い子ちゃんがいっぱいいるから――」
「「「「キャーーー」」」」
確か、力の匂いって言ってたかな…
「も、もう自己紹介はいいで――」
匂い……匂いか…
そういえば確か、さっき奏音ちゃんが何か言ってたなー
「――席は…の横にしました――」
「「「「キャーーー!!!!!」」」」
煩いなーー。今日のホームルームクラス替えではしゃいでるとはいえ煩過ぎる!まったく……
えっと、なんだったけ……確か………
「――…――野さんは言葉も心配ないですし、勉強も――」
確かわたしとは異なる……
「あぁ、そんな事は知ってるよ」
「うん?」
いきなり目の前に影が落ちた事と物凄く近くから聞こえた声に驚いて顔を上げたら、認識できない位目の前に顔が………って!!!!!
「「「「…………!!!!!!!!キャーーー!!!!!」」」」
「な、な、な!!!!?」
思わず突き飛ばして、相手の顔を見ても驚きすぎて言葉にならない。
「何をしたか……か?ならキスと答えるな」
「違っっ!いやっ、それもそうだけど!!」
「ならなんだ?オレとキスするのが初めてでもないのに」
「「「「…………!!!!!!!!キャーーー!!!!!」」」」
この観衆の中宣言する言葉でもないわ!!!
「なんでこんなところ――」
「会いたかった」
「……はっ?」
「会いたかったんだ。……待たせてしまった。ユキ……」
「……………フィー……」
出たよ!出たーーーー!!!
フィーついに出番が来ましたよ!!!
いやー、それにしても鮮烈な再登場ですな………




