第39話
奏音ちゃん来訪編続きです。
あのクリスマスの状況を思い出してみたら分かる。
あの時、蘭さんが血を流しているのを見て、匂いを嗅いで吸血衝動に駆られた。
恐らく血に飢えている状態だったんだと自分でも思う。
それでも、なんとか自分の意識を保っていられた。
例えばあれが蘭さんじゃなくみちるさんだったなら……
多分、周りに誰がいたとしても我慢できなかったんじゃない?
………そこまで自我を失うなんて…
「ねぇ奏音さん。さっきから言っていることが回りくどいわ」
「あえてですが……?」
「………結論は?ユキちゃんの好みの血がわたしの血だったのよね?それがなんなのかしら?」
「近くにいると、際限なく求めてしまう……」
そんな気がする…
「いえ。そんなことは御座いません」
「違うの?」
「ユキちゃん、違うわよ。さっきも奏音さんが言ってたでしょう?Color coating《補色》を一人でしていてもなんのリスクも無いって。つまり、奏音さんはリスクの話しをしているわけではないのよ」
え?
「はい。左様で御座います」
「じゃあ……」
「……Color coating《補色》にも相性があります。そして、その相性の良い者とのColor coating《補色》は他の者とColor coating《補色》するよりも効率が良くなります。今はこれだけ覚えておいて頂ければ…」
「全部を説明するつもりはないという事ね?」
「先に余計な知識を入れて頂きたくないのです。協会《Box》の説明もあるでしょうが、そういった事を抜きにユキ様自身での感覚も大事にして頂きたいと思っているのです」
「わたしには……説明される時がくるのかしら?」
「この先もユキ様の傍に居られるのであれば…」
「……そう。わかったわ」
「他に御質問が……あまり御答え出来ませんので、本日はこれで…――」
「あっ、聞きたい事があるのだけどいいかしら?」
「何で御座いましょう?」
どこまでが質問できる範囲なのかわからないから、今日はこれで終わるのかと思ったけど、みちるさんが何かある?
「以前狼の姿を見たでしょう?あれは奏音さんなのよね?」
「以前と申されますと元旦の事で御座いますね?」
「そうよ」
あーーー。
確かに良く分からないバカ者たちに絡まれた日に奏音ちゃんが駆けつけてくれたっけ。
そういえば……
「はい。確かに私ですが……――」
「あの」
「どうしたのユキちゃん?」
「話しに割り込んでごめんなさい。忘れないうちに質問したいんですけど、いいですか?」
「いいわよ?」
「奏音ちゃん、わたしの位置が分かるの?」
「と申されますと?」
発信機でも付いてるのかっていうくらい、わたしの位置を的確に把握してる気がするんです。
「えっと、例えば元旦の日もそうだし……引っ越した時もだけど、わたしのがいる場所ってどうやって把握してるのかなーと」
「それは、契約守護獣となって血の盟約が出来たからで御座います。私の血を介してユキ様のお力を辿れますし、逆にユキ様からでも可能で御座います」
「あっ、わたしからも出来るんだ…」
「はい。クリスマスの時を思い出して下さい。私の中のお力を意識して少し動かす感じにして頂くと……」
「あぁ!……近くにいる!!」
「……ユキちゃん、目の前にいるわ………」
「あっ、そ、そうですね…」
いや、だって結構ハッキリと自分を中心に把握する事が出来たから……ちょっと恥ずかしい…
「奏音さん、目が…」
「やはり変化しておりますか?ユキ様のお力が大きいからで御座いますね」
「ユキちゃんも目の色が変わってるわね」
「え?」
「少しお力を使われたからでしょう」
「そうなのね。外では気を付けないといけないわね」
「はい」
外で力を使うことが無いように祈ってます。
「あっ、話しの邪魔をしてごめんなさい」
「いいのよ。えっとなんだったかしら」
「元旦の獣型の話しだったかと?」
「そうそう。あの姿になるのは大変なの?」
「………いいえ?」
もしかして?
「みちるさん、見たいんですか?」
「見たいわね!」
「別に構いませんが……」
「な、何故いきなり脱ぎだすのよ!」
「服が破れますので」
「貴女には羞恥心がないの!?」
「羞恥心?それを言っては獣型になどなれません」
……良く考えたら、おっしゃる通りです
「それにしても……」
「みちるさん、普段はきちんとしてるんですよ。クラスでも浮く事無く過ごしてるって事は、ちゃんと人としての生活に順応してるわけですし」
「ユキ様……一応恥ずかしいという思いはあるのですよ?獣ではないのですから………」
「あっ、そうなんだ」
「ただ、主やそのパート……大事にしている方には隠すのは適当でないと判断しただけで御座います」
いや……隠すべきところは隠して下さい。
話してる間に服を脱ぎ去った奏音ちゃんが、みちるさんの前に立つ。
「何か必要なの?」
「いえ。ではいきます」
急に脱ぎだした事に関しては羞恥心どうこうで騒いだみちるさんも、裸になる必要があるという事自体を受け入れれば、裸自体は気にならないらしい。
……流石お医者様
ホテルでの時と同じように、輪郭がぼやけたと思った時には既に姿は変わっていた。
「前も思ったけど、大きいわね。まだ成長するの?」
「多少は大きくなるかと。ですが、これでほぼ成体で御座います」
「狼って、このサイズなの?」
「それは、獣の狼を言っておられますか?」
「そうね」
「どうでしょうか……私の獣型の胴長が160cmを超えますから…」
「へぇ、狼って大きいのね」
そ、そんな狼がいるの?
「触っても?」
「どうぞ」
「見た目よりも柔らかいのね」
う、羨ましい……
「奏音ちゃん、わたしもいい?」
「ど、どうぞ?」
もふもふーーー
なでなで……
「この手触り……癖になりそうね」
「ですね。つやつやのふさふさ」
「尻尾は自分の意志で動かせたりするの?」
「動かそうと思えば可能で御座います。ただ、普段から意識して動かすことは御座いません。普段は獣の狼と同様に感情を表したりするようで御座います」
「犬とかと一緒?」
「恐らく」
へーーー。
なでなで……
奏音ちゃんの尻尾……
うん、撫でられて喜んでるんですね。
「あ、あの……もうそろそろ…――」
「小さい時の姿が見たかったわね…絶対可愛いわよ!」
「ですね。想像しただけで可愛いです」
動物っていうのは小さい時が一番可愛い。
それは人間も同じなのだけど、このもふもふは……見たかった!
なでなで……
「しゃ、写真があり、ありますが」
「「今、持ってるの!?」」
「…持ってます………が?」
「「見せて!!」」
今持ってるなら見ないといけないと思うんです!
なでなで……
「わ、分かりました。では、一旦離れて頂けますか?」
「何故かしら?」
なでなで……
「写真を取り出すことが出来ません」
「……分かったわ」
みちるさんは動物好きなんですね。
凄く名残惜しそう。
「では、人型に戻りますので少し離れて――」
「戻るの!?」
「戻りますが?」
「何故かしら?」
「いえ、あの…ですから獣型では写真が取り出せませんので……」
確かに、あの肉球のついた手じゃあ無理ですよね。
………手?
「奏音ちゃん!お手!!」
「お手?……はい」
あっ、やってくれるんだ。
「ユキちゃん?」
「あれ?思いの外ぷにぷにじゃない…?」
「何がかしら?」
「肉球です」
意外と硬い……
「どれ?あぁ、本当ね」
「どういうイメージなのでしょう?幼獣では無いのですから、ぷにぷにでは御座いません。硬くないと足の裏を怪我してしまいますし」
「確かにそうなんだけど…」
ちょっと、残念……
「あの、では写真を…」
「そうね。では後ろを向いてるから人型に戻りなさい。服を着てから声を――」
「奏音ちゃん!獣人型が見たい!?」
「獣人型?」
「で御座いますか…?」
「そう。元旦の時に奏音ちゃんは獣人型になれるとかいう話しが出てたから……なれる?」
あの時から、凄く興味があったんです!!
「可能で御座います」
「そういえば言ってたわね。力が無ければなれないとか……獣人型は獣型より力を必要とするの?わたしのイメージだと、人型、獣人型、獣型の順で力が必要なのだと思ってたわ」
そうですね。そういわれてみれば、より人から離れる変化の方が力を使いそうな気がする。
「簡単に説明させて頂きます。変異する力を殆ど必要としないのが人型です。人型で居る限り使用できる能力に制限が御座います。当たり前で御座いますが、人型で居る時に獣型の身体能力は出せません。獣型は変異の力を必要とします。能力の低い者は獣型になる事が出来ません。獣型で居る時は人型の時の能力操作等が劣ります。獣人型は変異の力を多分に必要とします。能力の高い者の中でも極一部の中の者しか変異する事が出来ません。簡単に言いますと、人型と獣型の良いところ取りといったところでしょう。人型の時の能力は全て使用出来ますし、獣型の時の身体能力も著しく落ちる事は御座いません。能力操作に関しましては格段に力が上昇致します」
「それだけ聞いてると獣人型で居る方が便利な気がするわね」
「獣人型は確かに能力が高いのですが、獣人型という姿をとっているだけで力を一番使用するのです」
「燃費が悪いということね」
「そうで御座いますね。獣人型をとれるwerewolf《人狼》が主従契約をした場合に、獣人型を多用出来るようになるという事でしょう」
「契約守護獣になると力が強くなるとういうことかしら?」
「それも御座いますが、常に主の力を一定量流して頂いているというのがあるのでしょう。今は、ユキ様自身のお力が安定しておりませんので、私自身の能力使用も控えておりますが、ユキ様はお力が強いので定期的にColor coating《補色》して頂ければ問題なく獣人型を取れるようになるかと思います」
「て、定期的に…?」
「定期的に、で御座います」
それは……
「奏音さん、そこは管理するので安心なさい」
「宜しくお願い致します」
「…………」
何故か、奏音ちゃんとみちるさんが結託してる。
いつの間にか、奏音ちゃんがみちるさんにも礼儀をもった言葉遣いになったからいいんだけど…
「さっきから、能力操作っていう言葉が出てるけれど、それはなんなのかしら」
「werewolf《人狼》……だけではありませんが、守護獣と主ヴァンパイアには特殊な能力が御座います。例えば主ヴァンパイアであれば、記憶操作であったり魅了、血液操作であったりしますし、守護獣でも記憶操作は可能です。また、それぞれに自分の特殊能力が御座います」
「特殊能力?」
それは、わたしも知らないですけど?
「あまり広めるべき情報ではないのですが……。例えば私は絶対物質低温度操作を得意として………温度を下げるのが得意で御座います」
「「へーーー」」
なんか、凄い事が出来そうな名前だった。
「ユキちゃんも何か出来るの?」
「えっ?わたしですか?」
何が?血を吸う事とかしか出来ませんが……
「ユキ様は、お力を使うことを意識されてからまだ時間が経過しておりません、特殊能力につきましてはこれからでしょう」
……そんな変な能力いりません。
血を吸うっていうだけでも抵抗があるのに…
「それで、先程から話しが脱線しているのですが……写真は必要でしょうか」
「見せて頂戴」
「では、ユキ様の御命令ですので獣人型となります」
「そうね。見せて」
いやいやいや、御命令じゃなく御願いですからね?
「だから、後ろを向くまで待ちなさいと……」
人の形に戻る過程を直視したのは初めてだけど、人型から獣型になる時よりも違和感がある。
人型から獣型になるときはぼんやりとした感じで曖昧なままいつの間にか…という流れだったのに対し、獣型から人の形になるのは……それこそ変異するという表現が正しい。
実際、変化の時間はとても短いのだけど、全てのパーツが変わっていくような違和感。
「これは……!ユキちゃん、定期的にColor coating《補色》するわよ」
「きゃう!!」
「えっ?あ……」
チャラってない奏音ちゃんでは滅多に聞けないような、可愛らしい声が聞こえて目をやると、みちるさんがふさふさ尻尾を抱え込んでた……
みちるさん……奏音ちゃんの毛がばふばふになってお腹側に入ろうとしてるからいきなり掴んじゃダメだと思うんです。
「や、矢原先生!手を……」
「みちるさん、尻尾が苦手みたいなんで離してあげましょう」
「そ、そうね。ごめんなさい」
我に返ったみちるさんから少し離れた奏音ちゃんに大きめのバスタオルを渡す。
「有難う御座います」
「見た目は尻尾と耳だけが狼?」
「あとは、首筋から尻尾の付け根までの毛、爪と歯には狼の名残があると思われます」
言われて見てみると確かに。
「しゃ、写真ですね」
警戒しながら尻尾を自分で抱え込んでる姿が可愛い。
脱いだ服の手帳から取り出した写真を受け取ったみちるさんの手元を覗き込む。
「可愛いけれど……」
確かに可愛い……よ?
「この写真、人型の奏音ちゃん?」
まだ一歳にもなっていないような赤ちゃんが、写真の中で無邪気におもちゃを振り回している写真……にしか見えない。
「いえ、人型なのは琴音で御座います」
「あ、そうなんだ」
「奏音さんの獣型の赤ちゃんの写真は持ってないの?」
「ですから、それです」
「「……は?」」
言われて、もう一度写真をじっくり……
「………いた」
「えっ、ユキちゃん。どこ?」
いえ……いたんですけど…………
「……琴音さんが持ってます」
というか、握ってます……
「嘘でしょう…。これ、大丈夫なの?」
赤ちゃんって、意外と力強いですよね?
幼獣握ってますけど…?
「大丈夫で御座いますよ」
そりゃ、実際目の前に奏音ちゃんがいるんだから無事だったのはわかってますけど、周りの大人は何してたんだーーー。
「何も問題なかったのかしら……」
「しゃぶしゃぶ、にぎにぎは日常茶飯事だったようですが、何も問題なく逞しく成長致しました」
「そ、そう……」
それは、良かったね……
しゃぶしゃぶ、にぎにぎ……
こ、琴音さん、おもちゃじゃないのよ………?
………It is not toy.




