第3話
出てきましたね女神様…
やっと暗い部分を抜けたー!!
そういえば第2話で記載してなかったけど、「日本語」『英語』という認識で読んでみてください
温かい…
穏やかな温もりに包まれ、たゆたう意識に身を任せる。
カタン
小さな物音がしてまどろんだ意識のままゆっくりと目を開けると、ぼんやりする視界の先には女神様がいて、手元に下ろしていた視線をわたしに合わせた。
あぁ、なんて温かな夢…
『…――女神様』
そっと呟いたわたしの言葉に一瞬で顔を真っ赤に染める女神様
「…お、起こしてしまいましたか?」
「???」
照れていることを隠しているのか早口で質問してきた女神様に一気に意識が覚醒する。
あれ?これ夢だよね?
確かにこんな夢、今まで一度も見たことないけど夢ですよね?
『大丈夫ですか?』
日本語が通じないと思ったのか、女神様が綺麗な英語で質問してくる。
いや、ちょっと待って?
…現実!?
「はぁっ!!!?」
思わず驚きの声を発しながら寝ていた体を勢いよく起こす。
「くぅぅ…」
急な動きについていけず激しい眩暈に襲われ傾ぐ体を女神様が慌てて支えてくれた。
いや、そもそも女神様じゃないしっ!
『急に起き上がってはダメですよ』
め、女神様が注意を…って誰ーーーーっ!!???
ってか、ここどこ?何がどうしてこうなった?
落ち着いて思い出そう…
――えっと、今朝もいつも通り寝覚め悪く起きた。珍しく学校に行く前に御婆様に呼び止められたと思ったら面倒くさい事を言われた。
うん、ここまではまぁいい。
学校について――
いつもと変わらず、声をかけないでオーラで読書をして――……たけど話しかけられたんだ。
はいはい、段々思い出してきた。
クラスメイトから逃げた先で、よりによって一番目立つ生徒の東條さんと不慮の事故により不本意な関わりを持ってしまった。
そして仕方なく一緒に全校集会に行って、離任式で美智子先生の姿を見て…着任…式……??
あぁ、なるほど
『あなたは全校集会中に倒れたんです。覚えていますか?』
『そうみたいですね』
今思い出したところです!
人が考えて考えて出した答えを先に言っちゃったよこの人!
『どこか痛むところ、気分が悪いとかはありますか?』
言いながら女がm…女性は手に持っていたファイルを置いた。
『特にはありません。大丈夫です』
自分の置かれている状況を理解するために、あたりを見回しながら答える。
自分が寝ていたのは白いカバーがかかったベッド。ベッドを囲むようにした白いカーテン。
ベッドを囲むカーテンレールの造りから、隣にはもう一台ベッドがありそうだ。
白い壁に白い天井。窓際の机と白のカーテン。壁にかかっている時計。
見回せる範囲で目に映るのは全体的に白を基調とした清潔そうな部屋。
『保健室…?』
『えぇ。集会中に倒れたあなたを病院に搬送しようかとも思ったのですが、呼吸も脈拍も安定していて、一度目を覚ましたあなたの様子から緊急を要する病気ではないと判断したんです』
よ、よかった。病院なんかに運ばれたら大変だった。
『ありがとうございます。少し寝不足が続いていただけですので、休ませていただいて回復しました』
『そうみたいですね。顔色が随分よくなって。これ書けそうですか?』
そう言いながらクリップボードに紙を挟んで手渡される。
問診表みたいなものかー。
『書いてある文字が読めなければ声を掛けてください』
そういえば、女性があまりにも綺麗な英語だったから違和感なく英語で喋っていたけど日本語が話せると言うべきだろうか?
伸ばした前髪の隙間から女性を窺う。
さっき置いたファイルを手に取り、何かを書き込んでいた。
落ち着いた雰囲気。日本人の年齢はよく分からないけど二十代後半くらいかな?
整った顔立ちは同姓のわたしから見ても美しいと表現できる。
薄く化粧をしているだけだろうその姿は、何故かわたしの目を離せなくさせた。
黒く真っ直ぐな長い髪が少しうつむいた女性の頬を滑る。
書いていたペンを置き、髪を耳にかける。
細い指先。手入れされた形の良い爪。
口角の少し上がった唇。高過ぎず整った鼻梁。
細いフレームの眼鏡の奥の少し伏せた目はやっぱりすこし鋭いのに…引き込まれそうな…なんて――
『綺麗な目』
ハッ!?
一瞬、自分が声を出してしまったのかと思って驚いて我に返ると、いつの間にかファイルじゃなくわたしを見つめていた女性の視線とぶつかる。
その瞬間、まるで時が止まったかのように視線を外せなくなる。
『前髪が長すぎるかもしれませんね。視力が落ちてしまいそう。』
そう言いながら手を伸ばしてわたしの前髪を掻き上げる女性の指。
動くことも出来ずに固まったままのわたし。
『それに折角の綺麗な目が隠れてしまう』
隠すものが無くなったわたしの視線と女性の視線が正面から絡み合い、女性の視線に囚われて動けなくなる。
何もかも見透かされているような、そんな気持ちになり不安を煽る。
胸が苦しい…
死ぬことのないわたしの胸をしめつける女性の視線……
――キーンコーンカーンコーン…
チャイムの音にびくっと体を震わす。
女性がわたしの前髪から指を外し壁掛けの時計を確認した。
『午前中の授業が終わったようですね』
はぁーーーー
何事もなかったかのように動き出した時間にホッとして、いつの間にか止めてしまっていた息を吐き出し固まっていた体から力を抜く。
午前中の授業が終わった?そんなに寝ちゃってたのか。
女性と同じように時計に目をやり時間を確認してから手元の問診表に視線を戻す。
えっと、日本語で記入してもいいのかな?
『あの――』
コンコン
ガチャ
女性に話しかけようとした時、いいタイミングで小さくノックの音が聞こえ続いてドアの開く気配がした。
「失礼します」
「あら、またきたの?」
「心配ですので」
「休憩時間になるたびに来なくても心配ないわよ」
女性が扉のある方向を向いて生徒と話をしている。
…けど、この声って
「別に彼女が倒れたのは蘭の所為ではないでしょ」
「それはそうなのですが、集会が始まる前の時点で体調が悪そうだと分かっていたのに、保健室に付き添うこともせず講堂まで連れて行ってしまったのは私の責任です」
やっぱり東條さんでしたか。
…で、何故にそこまで責任を感じておられるのでしょうか。
高校生にもなって体調管理出来ずに倒れたら、そりゃもう自分の責任でしょうに。
「相変わらずの生真面目さね。もう少し緩く生きなさい。疲れるわよ?」
「ふふふ。みちる姉さんは相変わらず息抜きがお上手ですね。そのままでお話になってもかまわないと思いますよ?」
「私のは処世術よ」
さっきの女性がみちるさんだということが判明。
名字としては珍しすぎるので常識的に考えて名前だと思われる。
「それにお昼休みになりましたので、みちる姉さんとお昼をご一緒しようかと思いまして。保健室で食事をしても問題ないでしょうか?」
東條さんのことを蘭と呼び、女性のことをみちる姉さんと呼ぶ。
姉妹?はないだろうけど…
「お昼はかまわないけど、彼女目を覚ましたわよ。今保健室利用の書類に記入して貰ってるわ」
「本当ですか?安心致しました」
あっ、書いてない。
『東條さんが様子を見に来ています。調子が良さそうならこちらの机に移動してみてはどうでしょうか?』
みちるさん?がカーテンを開けながら声をかけてきた。
しかし、日本語と英語でえらくギャップがある気がするんですが気のせいでしょうか。
「顔色がよくなられているようで良かったです」
机に移動すると、予想通り東條さんが椅子に座ってこちらを見ながら安心した顔を見せた。
わたしはその笑顔に軽く会釈することで返し、用紙に記入する作業に戻る。
「矢原先生、彼女はもう食事を済まされたのでしょうか?」
「まだよ。さっき目が覚めたところだから。そうね、彼女も食べられるようならお昼を食べてもらったほうがいいわね」
「あの、矢原先生…?」
みちるさんの名字が矢原だということが判明。
そして、恐らく東條さんはあえて矢原先生と呼んだんだと思うけど、矢原先生は気付いてないのでしょうねー。
『お昼を食べられそうであれば少しでも何か胃に入れたほうがいいと思うのですが、気分はどうですか?』
『あっ、はい大丈夫ですので教室に戻ります』
体調不良の原因である睡眠は十分取れたし午後の授業くらい出ないと。
「お昼を御一緒しませんか?」
「そうね、食後様子を見て今日は早退してもらおうと思っていたし」
『東條さんが心配して、ここでお昼を食べようと用意してくれたようです。クラスメイトの方が早退用にカバンも用意してくださっているので、ここで食べましょう』
東條さん…なんてこと言うんですか。
そして、矢原先生…通訳御苦労様です……
そしてそして、今は早退するほど体調が悪いってこともないんですけど…?
『わかりました。ですが、お昼を食べたら教室に戻ります』
『今日は様子をみて帰るようにしたほうがいいですね。まだ月曜日ですし、担任の先生も御家族にそのように連絡したと話しておられました』
なんですってー!家に連絡しちゃったですってー!!
あぁ、御婆様の能面が目に浮かぶ。
『…わかりました。御迷惑をおかけして申し訳ありませんでした』
…渋々ですよ
『用紙の記入は終わりそうですか?』
『もう少しで終わりますので、お二人は先に食べて下さい』
『用意しながら待っていますので大丈夫ですよ』
わかりましたー。サクッと書きます。
「蘭、お弁当なんだけど温めることもできるわよ」
「そうなのですか?保健室なのに電子レンジもあるのですね」
「隣の予備室だけれども、コンロもあるわ」
へー
「矢原先生のも温めましょうか」
「えぇ、おねがい」
「冷蔵庫もあるのですか。保健室はなんでも揃っているのですね」
「普通の学校がどうだか知らないわよ?この学校だからではないかしら」
「確かにそうかもしれませんね。生徒会室にも一揃いありますし」
それは、間違いなくこの学校だからでしょう……
「それにしても、蘭はやっぱり自作のお弁当なのね」
えっと、矢原先生のも自作のお弁当にみえるのですが?
「矢原先生のお弁当もおいしそうですよ」
「まぁ、あの子の作るものは基本おいしんだけど、何故か乙女弁当なのよね……わたしが作らないから文句は言えないんだけど」
確かに乙女弁当。子供の運動会みたいで可愛いけど矢原先生作ではないということですね。
「…矢原先生」
「どうしたの蘭?」
「いえ、あの…どうしたのと聞きたいのは私のほうなのですが…」
「???」
微妙な空気が流れる中、取り合えず記入し終わったのでペンを置く。
『あぁ、書き終わりましたか。温めるものがあれば電子レンジがあるので言ってくださ…――』
『いえ、パンですので大丈夫です』
わたしの記入した用紙を見た矢原先生の言葉が途中で途切れるのをスルーし返事をする。
「あの…。何故お二人は先程から英語で会話をなさっているのでしょう」
それには、深くも無い事情がありまして……言うタイミングを逃しただけですけど?
「……遠野ユキ?」
「はい」
「…に……」
に?
「…―――日本語」
あぁ、うんごめんなさい。
「話せます」
「!!!?まさか、みちる姉さん気付いていなかったのですか!?」
「……彼女の名前を確認していなかったのよ」
「だから口調を直しておられなかったのですね…」
なるほど。矢原先生は公私で口調を変えているのに、わたしが日本語を理解出来ないと思い込んでいたと。
「………」
「……」
「……………」
く、空気が固まってます。
「あの―――お二人のお弁当が冷めてしまいますが」
もう、大分冷めていそうですが
「そ、そうですね。いただきましょう」
東條さんが同意し、半解凍のぎこちない動きで矢原先生もなんとかお弁当に箸をつけた。
「………」
「……」
「………」
非常に気まずいです。
「と、遠野さん体調はマシになられましたか?」
トウジョウサンガガンバッテイル
はぁーーーー。
仕方ない付き合うか。
「はい。御迷惑をお掛けしました。少し睡眠不足が続いていただけですので大丈夫です」
「睡眠不足?テスト期間でもないのにですか?」
「…少し…眠りが浅くて」
「身体の不調があるようでしたら、矢原先生に相談してみると良いかもしれませんよ」
養護教諭に期待はしていませんし、あまり関わりになりたくありません。
「遠野さんは着任式の途中で倒れてしまわれたので聞いておられなかったかも知れませんが、矢原先生は本来内科の御医者様ですので」
た、たとえ医者だろうと期待はしていませんし、関わりになりたくありません。
とは言えず…
「ありがとうございます…。ところでお二人は御親戚ですか?」
あっ、しまった。話しを逸らしたつもりだったのに知りたくもない質問をしてしまった。
「…叔母と姪の関係です。私の父の妹が矢原先生ですね。別段、隠しているというわけではないのですが」
「大丈夫です。吹聴したりしません」
というより、なんで聞いちゃったわたしーーー
「遠野さん、今日は早退されるのですね?」
「そうなるかと思います」
「明日もあまり無理をなさらないように」
「そうですね。ありがとうございます」
いい子だなー
「蘭、そろそろ予鈴が鳴るわよ」
あれ?矢原先生は仮面被ったバージョンを諦めたのか?
「いけない。次の時間移動教室でした」
そうだった。意外とうっかり屋の東條さん。
「それでは、お先に失礼します。遠野さん、気をつけて帰って下さい。やはらせn…みちる姉さんも移動後初日頑張って下さいね」
東條さんも隠すの諦めましたか…
「ありがとうございます」
「ありがとう。蘭も遅れないように行きなさい」
東條さんが保健室を出た行ったので、必然的に矢原先生と二人きりとなる。
「………」
「……」
ですよねー。
「あの…わたしもそろそろ帰宅します」
こういう時は早々に退散するに限る。
「…そうね。念の為に帰宅後学校に連絡をしなさいね」
「わかりました。御迷惑をおかけして申し訳ありません。では失礼します」
「気をつけて」
◆―◆―◆―◆
いつも帰ってくる頃には真っ暗になっているはずの自分の部屋は、いつもとは異なり昼間の明るい日差しを受けている。
「はぁーーーー」
そんな、明るい部屋に入ったユキは大きな溜め息をついた。
なんでこうなったかなー。昨日までと同じように過ごすはずだったのに…
まぁ、今日のことはイレギュラー過ぎる出来事なだけだし、時間が巻き戻るわけでもないんだから…諦めよう!
明日から、またいつも通りに過ごせば大丈夫!!
◆―◆―◆―◆
結果…大丈夫じゃなかった…
この状況はなんでしょう。
右を見る…東條さんが卵焼きを食べていた。
前を見る…矢原先生がたこさんウィンナーを食べていた。やっぱり乙女弁当…
わたし…コンビニのパンをかじってます。
いつも通り静かに過ごすと決めた火曜日。
朝の登下校時間クリア。
朝拝クリア。
1時間目数学クリア。
2時間目歴史クリア
3時間目体育クリア
4時間目英語クリア
昼休み…強制イベント発生
いつも通り、教室の自分の席でお昼を済ませようとしていたわたしに来客の知らせ…
とてつもなくイヤな予感がしたわたしの予想を裏切ることなく東條さんでした。
お昼を誘われました。衆目に耐えられず断れませんでした。
そして、現在強制イベント中…
「遠野さん、今日も放課後は図書館に行かれるのですか?」
「そうですね」
なんで知ってるんでしょうか?
「私は最近生徒会の方が忙しく、なかなか行けなくなってしまいました」
東條さんも図書館通いしてたのかー。
「そういえば、凄い書類の量でしたね」
「選挙が終わって三年生の先輩方がおられなくなった分の負担が増えてしまって、事務雑用が追いつかなくなってあの状況です」
うわーご苦労様です。
「それで、今日も今から生徒会室に行かなくてはならなくて。お誘いしておいて申し訳ないのですが、お先に失礼しますね」
そう言って、東條さんは慌ただしく保健室を出て行った。
「………」
「……」
本当に…なんで誘ったんですか……???
この状況、昨日の二の舞で居た堪れないのですよ??
「遠野さん、今日も顔色があまり良くないわね」
「えっ?」
「また眠ることが出来なかったのかしら?」
「…そうですね。睡眠が浅いのかもしれません」
えっと、確かにいつものように家でとった睡眠は仮眠と呼べるくらいのものだったと思うけど、そんなに顔色悪いってこともないはず。さすがは医者ってことかな。
「放課後はいつも図書館なの?」
話しがとぶなー
「そうですね。閉館ぎりぎりまでいると思います」
「放課後、適当に本を持ってここに来なさい」
「はっ??」
「眠れそうならここで寝なさい。眠れなさそうなら本を読んでいればいいでしょ」
なんで、そういうことになる?
「いえ、先生のお邪魔になりますし」
やんわり拒否
「本を読んでいようとベッドで寝ていようと邪魔にはならないわ」
拒否を否定
「……」
「……………」
「……わかりました。お言葉に甘えさせて頂きます」
強制イベントの結果――――…敗北……
みちるさん、名前が出てきてよかったね。
女神様…m9(`∀´)Ψプププ