第37話
これは!三週連続投稿なのですか?
頑張ったのですか!?
パタン
静かに閉じられたドアの音と共に近づく気配に読んでいた本を閉じて顔を上げると、ちょうどみちるさんが視界に入る。
まだ寝る時の格好のままのみちるさんが、わたしを見て欠伸を我慢したのを見て笑いそうになった。
まだ眠いのかな??
「おはよう」
「おはようございます」
挨拶だけ交わして、みちるさんが朝の用意をしている間に朝食の準備を始める。
3月も折り返しを過ぎ学期末を迎えた最近になって、やっと日常化し始めた毎朝の光景。
最初は和志さんが作ってくれた食事を居るメンバーみんなで食べてたんだけど病院勤務の二人と時間が合わないのに、無理して和志さんが作ってくれるのが申し訳なくて平日は別々に食べるようになった。
時間が合う時は和志さんが料理を教えてくれるから、最近レパートリーも増えた気がする。
今日は週末だから、お手軽朝食で勘弁して貰おう。
ハムエッグ、グリーンサラダ、フルーツヨーグルト
時計を確認しながらトースターにパンをセットしてコーヒーをカップに注ぐ。
ガチャ
パタン
よし、良いタイミング♪
「ミルクと砂糖はどうしますか?」
「任せるわ」
「……じゃあ、今日はミルクだけにしますね」
「毎日用意してくれるのは嬉しいけれど、ちゃんと寝れているの?」
「大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃないでしょう?睡眠時間…何時間なのかしら?」
えっと……大体、夜部屋に向かうのが日が変わる位だから………6時間位って言っておけばいいかな?
「6時間く――」
「ちなみにね、ユキちゃん」
「はい?」
「大体わたしがいつも起きるのが6時なのよ」
「へぇ……」
…という事は?
「睡眠時間は?」
「…5時間くらいですかね」
「……嘘おっしゃい………」
「えっ?いや嘘じゃないで――」
チーン
「あっ、パンが焼けましたね」
「はぁーーーー」
みちるさんの大きな溜息は聞こえない振りをして、パンを取りにキッチンに向かう。
修さんの部屋からこっちに引っ越して来たことで、悪夢を見なくなるなんて都合の良い事は考えてない。
食事も睡眠もColor coating《補色》の回数を減らす為にとるようにしていたけど、食事だけに切り替えた。
わたしが寝るたびに周りの人を起こしてしまうなんて……迷惑過ぎる!
「蘭は?」
「今日は来ないそうですよ」
「そう」
蘭さんは元々みちるさんと朝食を食べることが多かったらしい。
じゃあ、わたしが後からで申し訳ないですが一緒に食べさせて貰ってもいいですか?っていう話しになったのに………何故か強い口調で遠慮します!と……
そんなにわたしの料理が不安なんですかーーー!!!!!
結局、みちるさんにバカな事言わないで!とフォローして貰って、週の半分位は一緒に食べるようにしている。
……やっぱり……口に合わないでしょうか…
「――ゃん……ユキちゃん?」
「へ?」
「どうしたの、ボーっとして。コーヒーが零れるわよ」
「あっ、うわっ!」
危ない危ない。コーヒーは嫌いじゃないけど一日コーヒーの匂いが纏わりついてるなんてどんな香水だ。
「ユキちゃん……ちゃんと寝なさいよ」
「大丈夫ですよ。睡眠はとってますから」
「……しっかりととるのよ」
「はい」
◆―◆―◆―◆
ちゃんと睡眠はとってますよ?
年が明けてからもきちんと続いている放課後の定例行事。
コンコン
「どうぞ」
「失礼します」
ガチャ
もう、ここまで毎日通っていたら習慣と呼べると思います。
「あれ?」
「やほーーー」
「奏音…ちゃん?」
「そうだよー。ユキちゃんの目の前に居るのは奏音ちゃんです」
いつも通り保健室に来たはずなのに、どうしてここに奏音ちゃんが?
「奏音さん…いきなり喋り方が変わ――」
「やだなー、矢原先生。生徒のプライベートをばらさないで下さいよ」
「…………」
「奏音ちゃん、どうしてここに?みちるさんと何を話してたんですか?」
「カウンセリングですよカウンセリング。悩める年頃なんで」
「カウンセリング……?」
絶対ウソでしょう…
同じクラスなのに、わたしに隠れてわざわざみちるさんと話しをしてるなんて……どう考えてもわたしのことでしょ!
「そうそう、カウンセリング。それよりもユキちゃん。安東会長が来週の時間がある日は昼休み空けてくれーって」
「またお手伝いですか?」
「そういうこと」
「わかりました」
生徒会の裏方の仕事を手伝うという話しが正式に決まってから、何回かこんな風に呼び出しがかかった。
呼び出しと言ってもわたしの手が空いている時とかだけにしてくれて、仕事内容も事務雑務で、きちんと裏方という約束は守ってくれてる。
最初のインパクトが強かったせいで不安だったけど、意外と安東先輩は身内にはしっかり気を配れる人みたいだ。
良かった……インパクトだけの生徒会長じゃなくて………
って!!!
「誤魔化されませんよ!」
「どしたのユキちゃん。怖い顔しちゃって?」
「カウンセリングじゃないでしょ?わたしの事ですよね?コソコソされるのは不愉快です」
「ユキちゃん、あの…別にコソコソとかじゃないし……」
特に、わたしがみちるさんにColor coating《補色》している事を知っている奏音さんは、わたしに何かある度にみちるさんへのColor coating《補色》をしろとうるさい。
わたしは、必要最低限のColor coating《補色》で問題ないって言ってるのに……まさか強要なんてしてないです…よね………?
「奏音ちゃん」
「な、何…かな……?」
「話しがあるなら直接わたしに言って?それともわたしに内緒でみちるさんに何か言わないといけない事があった?」
「あっ、それは……でも………」
「ユキちゃん、あのね――」
「みちるさんも何かあったら教えて下さい」
強要されてColor coating《補色》をして貰うなんて、非道な事したくない。
俯いてしょげている奏音ちゃんにはしっかり反省して貰わないと。
「……………」
「ユキちゃん…」
「………」
「…………すみま――」
「ユキちゃん、違うのよ」
「みちるさん……」
ここで許したら、これからもみちるさんが困る事になるんですよ?
「…わたしが呼んだの」
「へ?……呼んだ?」
「そうよ」
「みちるさんが…奏音ちゃんを保健室に……呼んだ?」
「正確には、見掛けたから声を掛けたのよ」
「なんで…ですか?」
そんな危険な事?
「そんなに大きな意味はないのよ?」
「そ、それはつまり……本当にわたしとは関係なく保健医と一生徒として話しをしていたということですか?」
「……そうね」
あっ、まずい。
だとしたら……
「か、奏音ちゃん?」
「なんで…しょうか……」
……落ち込んでる。
「疑ってごめんなさい!!」
謝る以外にないですよね?
どんよりオーラ全開ですしね!?
「ユキ様は……」
「…はい」
恨み言くらい聞きますから!
「私の事を、どんな極悪動物だと思っておられるのですか!!!!」
動物って言っちゃったよ!?人物じゃなくていいの!?
「いや、あのですね!極悪だとか思ってないですよ!!」
「私が矢原先生に何をするというのですか!!!!」
最初の頃を思い出して下さい!?色々しそうじゃないですか!?
「いや、あのですね!Color coating《補色》で奏音ちゃんが色々心配性になってたから!!」
「私がユキ様のColor coating《補色》を心配するのは当たり前ではないですか!私で代用が可能なのであれば、いくらでも差し出しますとも!!だからと言って矢原先生を襲うような真似をするとおっしゃるのですか!!!!」
そんなにいりません!?ちょっと怖いです!?
「いや、あのですね!襲うなんて思ってないですよ!」
「しかし!ユキ様は――」
「奏音さん!!!少し落ち着きなさい!」
みちるさんの一喝で部屋に静けさが戻る。
「矢原先生を大切にしておられるのは存じておりますが……」
「もちろん奏音ちゃんも大切だって思ってますよ」
わたしに命を預けた奏音ちゃん。
きちんとその事を受け止めないと……奏音ちゃん事を大切に思っている人の思いも、奏音ちゃんが大切に思っている人の思いも…全部自分に返ってくる。
だから、ちゃんとColor coating《補色》もしますよ。
「でしたら、もう少し信用して頂けないでしょうか……私はユキ様が大切にしておられる方を………矢原先生を傷つけるつもりはありません。矢原先生は唯の餌ではないので――」
「え、餌って!!?」
「いえ。ですから、餌ではな――」
「そんなの!……でも…」
「いえ、あの…――」
それは……
「わたしがみちるさんでColor coating《補色》してるから?」
「……そうですね。矢原先生しかColor coating《補色》なさらないのですから。それは単なる栄養補給…餌としてではな――」
「Color coating《補色》……しないとダメなんですよね…」
「ユキ様……」
Color coating《補色》なんて言葉で濁してるだけ、それはわたしが生きていく為に吸血しているということ。
人の血を欲して……餌にしているということ。
………みちるさんを
餌…に………
みちるさんと目が合った事に気付いて、思わず無意識に向けてしまった顔を逸らす。
「あのね、ユキちゃん。バカな事考えないでね?」
「えっ?」
予想してなかった言葉に驚いて折角逸らした顔を戻してしまった。
「バ、バカとは!?ユキ様に対して……ガルルゥ」
「ちょっ!」
「奏音ちゃん、待て」
「ガウッ」
あっ、つい……
でも…それで止まれるんだ………
「ユ、ユキちゃん。いいかしら?」
「はい。すみません」
それで、何がバカな事?
「ユキちゃん、今頭の中で考えた事を言ってみて」
「何がバカな事だったのか…と?」
「その前」
その前は奏音ちゃんが待てが出来るんだーーって思ったんですけど、きっとそれを言ったら違うと言われ……
「待てがで――」
「その前ね…!」
……ですよね。
「Color coating《補色》なんて言葉では言っても……所詮…人を餌にしてるんだなと」
「あのね……。わたしはいつユキちゃんに食べられたのかしら?」
「Color coating《補色》そのものがそうでしょう?」
「あれが食べることになるの?あのたった数ミリリットルの血液のやり取りが?それも月に1度から2度よ?」
「………少ない…」
今、[待て]中の人物から小さな声で呟かれた声は聞こえなかったことにしとこう。
「その数ミリリットルの血液のやり取りでわたしは存在してますから」
「わたしはColor coating《補色》を嫌だと思ったこともないわよ?」
「それは、みちるさんが優しいからで……」
普通は嫌でしょう。だって、血を吸われるんですよ?
「害も無く人の為になっているのだからいいのよ。献血よ献血」
「そんなに軽いものじゃないです!みちるさんはもっと危機感を持った方がいいんじゃないですか!?」
「ユキちゃんは極端過ぎるわね。例えばこのColor coating《補色》が、もっとリスクのあるものだったら話しは別よ?死ぬとか、毎日貧血ぎりぎりまで血が必要とかね」
吸血されたらヴァンパイアになるとか……
「それでも……自分の血が…生存の為に吸われるって………」
「わたしの血がユキちゃんの生存の為に吸われるのなら嬉しいわよ?」
「そんなの…」
みちるさんが…優しいってだけ……
「あのね、わたしだって誰にでも血をあげたいと思うほどお人好しじゃ無いの」
「…………」
「ユキ様、発言をお許しください」
「えっ!奏音ちゃん?」
今まで、きっちり[待て]をしていたのに
「急にどうし――」
「もどかし過ぎで御座います」
「も、もどかしい?」
「こう……お二人の発言を黙って聞いているというのは………ふぅーー…」
……物凄く深い溜息をついたね
「何が言いたいのかしら?」
「まず基本的な事なのですが……矢原先生はユキ様の事をどう思っているのですか?」
「ど、どうって…?」
「つまり、ユキ様の事を――」
「あーーー、そうねそうね!」
わたしの事……怖いですか?
「誤魔化す必要があるのですか?」
「………貴女はどうなの?」
「確認する必要もないですね。私はユキ様の事をお慕いしていますから。私の命はユキ様の物ですし、私自身もユキ様の物です」
え……いや、そこまで……
……契約守護獣って重いですね
「そう……」
「それで矢原先生は?」
「……好きよ。大切だと思ってるわ」
みちるさん……ありがとうございます…
わたしを受け入れてくれる……怖がらないでいてくれるみちるさん…………
わたしも、好きですよ。大切だと思っています。
「まぁ、そうでしょうね」
「貴女には悪いけれど……」
「いえ、矢原先生はユキ様の御傍に居るべきです」
「Color coating《補色》があるからかしら?」
心配してたのはこれ!
わたしの契約守護獣の奏音ちゃんとColor coating《補色》対象のみちるさんですよ…?
Color coating《補色》させようとする奏音ちゃんと、werewolf《人狼》を恐れるであろうみちるさん……難しい関係ですよね?
こういう確執みたいなことが起こると思ってた。
「そもそも私が言った餌と言う発言が軽率であった事は認めます。ユキ様申し訳ありません。その上でColor coating《補色》というのは………あっ…」
「何?」
「何かしら?」
何か説明するんじゃないの?
どうぞ!
「よしっ!今日はもうこれくらいでいいかなーーー」
「「はっ?」」
「ユキちゃん、ありがとねー」
「えっと?」
きゅ、急にどうしたんですかーーー?
コンコン
えっ?
「どうぞーーーー」
「失礼します」
「蘭…さん?」
「はい。お邪魔してしまいましたか?」
あー、蘭さんが近づいたから話しを止めた?
「もう終わったから大丈夫。来週からのお手伝いOKだって」
「あっ、伝えて頂いたのですね。有難う御座います」
「ううん。うわっ、もうこんな時間なんだー。じゃあ、私帰るねーー」
「はい。また来週」
「あの……」
さっきの話しの続きは…?
「どしたのユキちゃん?あっ、何々?土日離れるのが寂しいとか?仕方ないなーーー夜にラヴメール送っといてあげるから!」
「いらない!」
「まぁまぁ、遠慮しないで。じゃーーーねーーー」
結局、中途半端に終わってしまった……
職員駐車場に向かう蘭さんの背中を見ながら、さっきの話しを思い出す。
奏音ちゃんは何か説明しようとしてくれたみたいだった……何を言おうとしてたんだろう………?
「奏音さん、夜に連絡してくるのね」
「え?」
何のことでしょう?
「さっき夜にメールするって言っていたでしょう?あれ、さっきの話しが中途半端だったからじゃないかしら」
「あ……」
なるほど!
いらないとか言っちゃった……
「気付いてなかったの?」
「……はい」
奏音ちゃんって、普段とのギャップがあり過ぎてどこまでが真面目会話なのか分からないし。
「わたしが言えた事ではないけれど……もう少し奏音さんの事も正面から見てあげた方がいいのではないかしら…?」
「そう……ですね」
……反省します
奏音ちゃん……犬扱いやね?
ユキちゃん……蚊扱いやね?
………どんまい




