第36話
二週連続で投稿となりました。
来週も……頑張ります。
つ、疲れたのですが……
わたしのイメージだと、20人くらいが集まって大きなテーブルで会食……みたいな感じだと思ってた。
ところが実際行ってみたら、100人以上で立食パーティーみたいになってますよ?
これ、事前情報と違いません??
親族の顔合わせ?どこが??えっ?これって全員親族なの???
っていう状態で、何も分からないまま修さんの横で挨拶…
新年早々、こんな強制イベントを毎年こなさないといけないのでしょうか。
やっとのことで、わたしに向いていた興味の視線が減り少しだけ緊張から解放されたら一気に疲労がやってきた……
「あ、あの修さん」
「どうしたんだい?」
小さな声で話しかけたわたしに、同じように小さな声で返してくれる。
「どこかに少しだけでも一人になれる空間は無いでしょうか?」
「疲れちゃったか……。そうだね、じゃあ前のコスモスの部屋は分かるかい?」
「はい、分かります」
「あそこで休んでおいで。無理して戻らなくていいからゆっくりしてきなさい」
「すみません……。ありがとうございます」
大丈夫です。なんて言えない……
だって、疲れたんです!
人の視線って一気に集めたら凶器ですよ。
………しばらく一人でボーっとさせて貰おう
はぁーーーー
電気も点けない真っ暗な部屋の窓際に椅子を寄せ、背もたれに深く凭れ掛かりながら大きく息を吐き出す。
着物が着崩れちゃうと気付いたのは凭れ掛かった後なのでどうしようもない。
開き直って完全に脱力して―――
「疲れたかしら?」
「えっ!?い、いえ!そんなことはないです」
いつの間にうとうとしてたのだろう。
何も気配に気付けないまま廊下から掛けられた声に驚いた後、修さんの妻として見せてはいけない失態に、慌てて振り返りながら弁明する。
「御見苦しいところをお見せし――」
未だに電気も点けない室内から、明るい廊下側に立つ人を見る。
その人影は逆光でもハッキリと誰だか分かる。
「みちるさん?」
「そうよ」
ですよね。
「どうしてここに?」
「ユキちゃんの姿が見えなかったから、修兄さんに聞いたのよ」
「あ、そうですか」
言われてみれば納得。というか、それ以外に考えられないじゃないですか。
それにしても、みちるさんの修さんに対する呼び方が違和感あり過ぎる……
「疲れたのね」
「……そうですね。少し…」
もう、ここは正直に言ってもいいと思うんです。
だって……
「想像と違った?」
「もっと、小規模なものだと思ってました…」
「夜が大々的だから昼にわたしたちだけが呼ばれたのよ」
確かに修さんからも大々的だーーーっていうのは聞いてましたけど……
「みなさん親族…ですか?」
「親族よ。と言っても、香山重工が血族会社だからかしら。血の繋がりがあるような、ないような……殆どの役員が来てるわね」
「……あるような、ないような?わざわざ元旦にですか?」
「この場は一応会社とは関係なく親族として集まったという名目があるでしょう?だから、役職関係なく挨拶が出来るわ。それは結束力に繋がるのよ」
「結束力ですか」
「そうよ」
大人の社会って大変ですね。
でも、媚を売るために集まって来てるのよ。とか言われなくてよかった。
「新年の挨拶だけは逃げられないのよ。他の呼び出しはそれとなく断っておくから、これだけは耐えてね」
「……戻らないといけないですか?」
「ふふふ。そんなに嫌そうな顔しないの。今日はもう終わりよ」
「はぁーーー」
良かった。今から戻ってとか言われても耐えられる気がしないし…
「終わるまで休んでていいわ」
「みちるさんは……?」
戻るんですかね…
「…どうしようかしら。一通り挨拶は終わったんだけど――」
「じゃあ!いっしょ…に――……」
「えっ?何かしら?」
「………」
わたし、何を言おうとしたの?
「どうしたの?」
「……………」
「………………」
「…………」
「……そうね…。ユキちゃんにこの家を案内してあげるわ。どう?」
「……はい」
わたし、戻って欲しくないと思った?
「この部屋は修兄さんのお気に入りね」
「修さん…の……」
なんで戻って欲しくなかったの?
「あの人は季節毎の花が好きだから。この部屋からは――」
「コスモスですね」
……一人は寂しいから?
「そうよ。見たの?」
「はい。以前この部屋に案内して貰った時に」
「そう。この季節は……あの部屋から水仙が見れるかしら……」
「水仙ですか?」
寂しい……
「そうよ。見に行ってみる?」
「……それも修さんのお気に入りの部屋ですか?」
「そういえばそうね。ほら、さっきも言ったけれど花にこだわりがあるから、それぞれ季節毎にお気に入りの部屋があるのよ」
「そう…ですか……」
「部屋だけじゃないわよ。あの人は多趣味だから色々変わった物もあるわ。それにスポーツ関連は一通りやってみるって人だから、この部屋なんか面白いわよ。ほら御覧なさい」
賞状、トロフィー、メダル、盾……
「浅く広くで色んなスポーツに手を出して、こうやって大会で成績を残されたら、それ一本で頑張っている人からしたら嫌味でしょうね」
それらは、修さんの輝ける歴史……
「ほら、これなんて兄さんが中学2年生の夏に……――」
……みちるさんが楽しそうに語る修さんの………過去…
なんで…どうして……こんなに……
……………寂しい……
「――…でしょ?だから今度一緒に――」
「何故…修さん……なん…ですか………」
「えっ?」
「どうして全部修さんの話しになるんですか!」
「ど、どうしたのユキちゃん?」
「みちるさんが……案内してくれるって言ったのに……修さん修さん修さん…!みちるさんの中に修さんが溢れてるのは分かってますよ!でも、みちるさんがわたしを案内してくれるって言ったんです!!こんな時くらい修さんじゃなくてもいいじゃないですか!……わたしの前で惚気ないで下さい………」
一人が嫌なんじゃない……
わたしを置いて戻るのが寂しいんじゃない……
修さんの所にみちるさんが戻るのが寂しい……
修さんの傍にみちるさんがいる……のが………
……………はい?
「あ、あのね!!ユキちゃ――」
「ナシです!」
「ナ、ナシ??」
「今の全部ナシですから!!!」
何を考えてるんですかーーーーー?
みちるさんが修さんのところに戻るのは当たり前ですから!!
それが寂しいに繋がる意味が分からない。
「ナシじゃないわ!」
「ナシですから!」
それに、本当の兄妹でもあるんだから思い出が修さん寄りになる事だって当たり前じゃないですか!
「ナシにしないで頂戴!」
「ナシナシです!」
惚気るのも当たり前!
好き…なんだから……
「ナシにさせないわよ!というか、聞き捨てならない言葉があってナシに出来な――」
「あーあーあー!ナシです。そうだ!ほら、もう一回最初の部屋からやり直しってことに!」
時間を巻き戻したりする力は有りませんか?
うーん、ヴァンパイアの力なんて肝心なところで役に立たない!
「そんな子供みたいに人の言葉を遮らないの!それにやり直しなんてしないわよ!!重大な誤解をされて――」
「わーわーわー。分かってますから!もういいですよ――んっ!!!」
………うん?
「どう?いつもやられてばかりじゃないのよ?」
「え…と…?……あ…」
また近づくみちるさんの顔……
唇に触れる温かさを無意識に求める。
「んはぁ…ん……」
みちるさんの唇から洩れる息まで、全部……全部…自分のモノに………
「…んちゅ……ふぁあ…ん……ぅ…」
温かい…みちるさん……
「ちょ、…んふぁ……ユキちゃ……はぁ…ん……んんん!」
うん?肩をバシバシされてる……
あっ……
「み、みちるさん?」
「はぁはぁ……どこ……ちゃんの……しら…」
真っ赤な顔のみちるさんがわたしを睨みながら、ぶつぶつ言っておられます……
「ごめんなさい。つい…?」
「……わたしからしたのだからいいわよ」
「あ、はい…」
そういえば、何故かみちるさんからキスをされて……
キ、キス…?
挨拶?なんの挨拶だったのでしょうか?
「えっと、今日はおやすみの挨拶が早いで――」
「違うわよ」
「えっと、おかえり?」
「どこに行ってたの」
「どこ…でしょう?」
「ユキちゃんは、挨拶じゃないとキスしないの?」
「えっと……」
嬉しい時とか?
親愛の感情が昂ればするでしょう…
「大体……ユキちゃんの挨拶のキスの基準は…あ、あれなの?」
「基準?」
「し、舌とか―――」
「何故!!!」
そんなことをした、わたし!!!!
そんな挨拶嫌です!
「絶対違います!!!!」
「じゃあ、ユキちゃんからしても挨拶じゃないじゃない……」
「……挨拶じゃない?」
ですか…
それって、どういう意味ですか?
「わたしはユキちゃんとキスしたかったからしたのよ!」
そ、そんなに真っ赤になりながら宣言して……
………って!
「へっ?」
「ユキちゃんは違うのかしら?」
わたしは……みちるさんとキスしたかった?
「そう…ですね……。ごめんなさい」
「何故謝るのよ!わたしからもしたでしょう?」
「それは、いいんです」
全てを知ってるみちるさんが怖がらずに親愛の情を持ってくれてるっていうことが奇跡だから。
素直に嬉しいと思える。
だけど、わたしはダメ。
どこまでが親愛の情なのか分からないから。どこからがヴァンパイアとしての欲求なのか分からない。
血だけじゃ飽き足らず…止めどなく……みちるさんを………食べるのだろうか…
「何が違うのよ!?」
「…………」
「あのね、ユキちゃんは大きな誤解をしてるみたいだから訂正しておくけれど」
「……誤解?」
「わたしと修兄さんは兄妹よ!?」
「はい」
知ってますけど?
「兄妹なの!!!」
「えっ?は、はい」
二回も言わなくても、今日きちんと理解しましたから!
「ユキちゃん凄く日本が堪能なのだけれど、もしかして間違って覚えたのかしら……」
「何がですか?」
「惚気る」
「惚気る……」
「あのね、確かに自慢の兄ではあるけれど、あれはあくまで家族を誇らしく語ったのであって、惚気たわけではないでしょう」
「すみません。あのときは…ちょっとおかしかったんです。みちるさんと修さんが家族としての視点じゃなくなってたので……失言でした」
Color coating《補色》してから、みちるさんに対して独占欲が強くなってる気がする。
冷静にならないと……
「まず、そこで家族以外の視点っていうのが気になるわね」
「いえ。だから、本来ならみちるさんと修さんは兄妹として見なければいけないのに、本来の関係を思い出しちゃって、わたし――」
「ストップ!何故だか凄く嫌な予感がするわ……わたしと兄さんの本来の関係って何?」
「……恋人」
「oh my God!!!」
「えっ???」
いきなり、悶絶しだしたみちるさん……どうすればいいですか?
「どうやったら…」
「なんですか?」
「どうやったら、そんな勘違いが出来るのかしら!!」
「か、勘違い???」
どこの部分が勘違いなのでしょうか?
「何回も言ったでしょう?わたしと兄さんは?」
「恋人?」
「じゃないわ!兄妹!!どこから恋人が出てきたのよ!?」
「どこから……?えっと最初は………修さんと話しをしてたみちるさんが見たことないくらい優しい顔してて…」
「そ、そんな顔してないわ!」
「してました!」
「それはいつのことなの?」
「えっと……修さんの家に荷物を運び入れた前日です」
そう。奏音ちゃんを契約守護獣にした日の帰り……
遠くからでも分かった二人は、とてもお似合いで優しく笑ってた。
「前日……それって喫茶店ね」
「…そうです」
自覚…あるんじゃないですか。
「優しい顔して話していた……。そうね。確かに、二人の姿を見るまでは修兄さんと楽しく語らっていたわ。主に貴女の事について話しをしていたのだけれど?」
「わ…わたし?へっ……???」
「……奏音さんと歩いてたわね」
「えっ?みちるさんも……気が付いて…?」
どういうこと??
「駅に向かう姿を見ただけだけれどね。………ホテル街から…」
「はい?」
「いいのよ、別に。琴音さんとの時にも話しをしたでしょう?誰かを必要とする…必要とされたいと望むことはあるのよ。ただ……あの時点ではちょっと負の感情に揺れたってだけだから」
「えっ?いや、あの――」
「それは、もういいのよ。恋人疑惑の要因その次はなんなのかしら?」
いいのでしょうか?
負の感情に揺れたって控え目に表現してますけど、イライラしたとかカチンとしたとかムカついたとかですよね?
それ、そのままスルーしていいんですか?
「他に変な誤解を生みそうな事があった?」
分かりました。スルーします。
「隣りの家に住んでます」
「……あのマンションはそもそもお父様のものだから。兄さんもわたしも蘭もいるでしょう?」
「あっ…」
そう言われたらそうですけど!
「修さんも否定しませんでした…よ?」
「ウソでしょう!?」
「本当です」
「なんて言ったの?」
「修さんの好きな人は矢原さんですね?ってストレートに。そうしたら修さんは、そうだって」
聞き間違いであるはずがない!
「それで?他に何を言っていたのかしら?」
「えっと…確か軽蔑するか?とか…」
「なんて答えたの?」
「しない……と……後は、幼馴染だったけど…好きに……なった?あれ?」
「他にも誤解した原因があるかしら?」
「……みちるさんが4人の関係をどう思う?って。許されない関係だと思うかって……」
「えぇ」
「……………」
「そうね」
「………」
おかしいですね……
おかしいですよ…?
「頭の中は整理出来たかしら?」
「みちるさんと修さんは兄妹?」
「そうよ」
「恋人ではない?」
「当たり前でしょう」
「あれ?修さんと許されない関係……?あれ?」
「はぁーーー。分かっていなかったとは思わなかったわ」
「わたしと和志が幼馴染。修兄さんと和志は?」
「お……幼馴染…?」
「そうね。わたしたち家族は受け入れているのよ。でも世間を誤魔化さないといけない事もあるの」
「和志さんが……」
「もう一度聞くわ。許されない関係だと思う?軽蔑する?」
「……しません」
「そう。良かった」
そうか…そうなんだ……
「どうしたのユキちゃん。嬉しそうよ」
「いえ、なんでもないです。……みちるさんは…」
「何かしら?」
「………」
「どうしたの?」
「なんでもないです」
「そう?」
「はい」
みちるさんは……
修さんの恋人じゃなかった。修さんの元に帰るんじゃなかった。
それを嬉しく思うなんて……また独占欲が強くなりそう…………
やっと気付いたかーーー!ユキちゃん鈍い!!
修さんと和志さんが付き合ってた事より、みちるさんがフリーやった事の方が嬉しいのね。
和志さん……よかったね…?




