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Last color  作者: 蒼井 紫杏
35/44

第34話

いつも、感想等ありがとうございます!!

この小説を投稿する活力にさせて頂いてます!

「車、停めてくるよ。先に入っておいて」

「分かったわ」


分かりませんけど……?

あのですね、お見送りにしてもみんなでする必要ないでしょう?

これも毎年恒例とか?


「よく来たね、待ってたよ」

「「明けましておめでとうございます」」

「あぁ、そうだね。明けましておめでとう」

「は、陽季様、明けましておめでとうございます」

「そんなに硬くるしく様なんて付けなくてもいいんだよ?」

「は、はい」


そうなんですけど、いきなりフランクにはいけませんよ?


「和志君、元気にしてたかい?」

「はい。小父様もお元気そうで」

「なかなか、倒れてもいられないからね」

「お忙しいんですか?」

「年内に少しゴタゴタがあってね。ようやく落ち着いたところだよ。みんなは最近どうなんだい?ユキちゃんの引っ越しは落ち着いたかな?」

「そうですね。大分いい感じですよ」

「そうかい。それは良かった。おや、修はどうしたんだい?」

「車を停めに行っているわ」

「あぁ、人をやればよかったね」

「それくらい自分でやりますよ。父さん」

「おや、噂をすればだね」

「小父様、京香小母様は?」

「今、来ると思うよ」


どうしよう。この当たり前にみんなを受け入れて話してますという空気……

陽季様は、どこまで知っていて受け入れているんだろう。

物凄く複雑なのではないですか?

えっと、息子の恋人……恋人の旦那さんと、息子の恋人の姪御………

全て知った上で受け入れているのなら、陽季様って凄い。


「それにしても、ユキさんも和志君も……もう少し私との壁を壊してだね……どうだろう、そろそろお義父さんと呼ぶと――」

「お義父さん」


ま…!まさかのみちるさん!!


「……うーむ、みちるに呼ばれるのは少し気持ちが悪いね。まぁ、それでも構わないけれど」


か、構わないんですか?

というか、こういう複雑な関係って意外と一般的だったりするんでしょうか?

えっと、わたしってどういう反応をすればいいんでしょう?

よくよく考えたら、旦那様の……恋人が御義父様の事を自分より先にお義父さんと呼んだんですけど…


「呼んできましょうか?」

「うん?誰をだい?」

「母さんでしょう」

「そうよ。その間に部屋に移動したらいいんじゃないかし――」

「あら、まだこんな所にいらしたの?」

「京香小母様」

「「あけましておめでとうございます」」


京香様?えっと、御義母様とお呼びすればいいんでしょうか?

というか、しょ、初対面なのですが!?


「あ、あの――」

「まぁ、貴女がユキさんね!ジョシュと同じ綺麗な髪色。御顔を良く見せて。綺麗な目の色ね……本当にジョシュと茜さんの面影があるわ。抱き締めてもいいかしら?」


あ、えっと……もう抱き締められてるのですが………


「母さん、ユキちゃんがびっくりしているよ。少し落ち着いたらどうだい?」

「そうね。ユキさんにやっと会えたものだから感動してしまったわ」


な、泣いておられます!!


「ユキちゃん、母さんとは初めてだよね」

「は、はい」

「もの凄く…おおら――」

「天然ね」

「みちる……言い過ぎだよ。ええと、おっとりし――」

「空気を読まないわね」

「……みちる」


確かに、京香様はほんわかとした空気を纏っておられますね。

しかし…みちるさん、そんなに強気で大丈夫なんですか?

追い出されたりしませんか?


「もう、みちるさんったら相変わらず棘々と。偶にしか顔を見せないのだから、もう少し優しく接してくれてもいいと思うのよ」

「そうだね。京香さんから和める空気を譲渡して貰うといいよ。その眉間の皺は酷いんじゃないかい?」

「陽季さんもそう思うでしょう?」

「と、棘々も皺もないわよ!それより、いい加減に移動しましょう」

「あぁ、またやってしまったね。申し訳ない。いつまでもこんなところで立ち話しはスマートなおもてなしとは言えないね」


この受け入れてますという会話……

何故、修さんはみちるさんと結婚しなかったんだろう…?

和志さんはこの状況をどう思ってる?


「部屋にお通しして直ぐで申し訳ないのだけれど――」

「着ないわよ」

「陽季さん修さん、和志さんは奥の間に――」

「着ないわよ」

「みちる、ユキさん蘭ちゃんはこちら――」

「着ないわよ」

「みちる…諦めろ」


何の会話ですか?


「ほら、蘭もユキちゃんも抗議の声を上げていいのよ?」

「折角用意して頂いたのですから」

「蘭、もっと自己主張しなさい。ユキちゃん!嫌よね?」


えっと……


「何がですか?」

「あれよ」


あれ?えっと…木の箱みたいな物ですね。


「あれって、なんですか?」

「ユキさん、御覧になったことがありませんか?」

「まぁ、ユキさん初めてなのね!」


木の箱…

何が??


「はい!移動しましょう!!」

「着ませ――」

「「「みちる。諦めろ」」」

「んっ……」


えっと、みちるさん諦めましょう。


「ふふふ。新しく仕立てたのよ。拒否権はないわ」

「わざわざ用意しなくても……」

「年々、華やかさを失っていく女性陣を憂いたのよ」

「親族内での新年の挨拶なのだから、華やかさが必要だとは思えないけれど?」

「新年の挨拶だからこそ華やかにしてはどうかしら?男性陣のスーツは仕方ないにしても、貴女と蘭ちゃんは集まる御婦人方の中でも悪目立ちしてしまうわ」

「こ、これもいけませんか?」

「蘭ちゃんのは制服でしょう?学生の正装なのでしょうけど、華やかとは言えないわね?」

「そう…ですね」


確かに、制服に華やかさを求められても困りますし……


「みちるさん……貴女の…悲しいわ…」

「失礼極まりないわね」


みちるさんのパンツスーツは似合うんですけどね。

学校でも、その上に白衣って感じですしピシッとしてて格好良い……けど華やかではない。


「ユキさんはとても良く似合っているわ。華やかね」

「あ、ありがとうございます。みちるさんに選んで頂いて…」

「まぁ、そう……。ふふふ…。そうなの…ねぇみちるさん。ふふふ…」

「そうよね!!良く似合ってるでしょう!?だからこれでいいんじゃないかし――」

「貴女、ユキさんの着物姿見たくないの?」


はい?着物??


「……………」

「さぁ、どうしましょう?」


あぁ、あの木の箱って桐っていうやつですね!

つまり、中身は着物…


「着物!?」

「そうなのよ。ユキちゃん御着物って着た事ないでしょう?」

「な、無いです。でもわたしの容姿には合わないんじゃないでしょうか…」

「そんなことは無いわ。ユキさんのイメージに合わせてみたのよ」


イメージって……完全なる外人使用って事でしょうか?


「見てみない?ほら、全員の柄を梅で統一してみたのよ」

「綺麗ですね」

「そうでしょう?みちるさん、どう」

「………そうね」


やっぱり似合わないかな…


「ユキさん、色違いですよ。着ましょう」

「そうね。蘭ちゃんはこの桜色よ。柄も大きめで華やかでしょう?」

「ありがとうございます」

「じゃあ、蘭ちゃんとユキさんは御着物でいいかしら?」

「……着るわよ」

「あら?みちるさん何か言った?」


お二人は仲が悪いのでしょうか?


「耳が遠くなったのかしら?わたしも着ると言ったのよ」

「あらあら。そうよね、ユキさんとお揃いですものね」

「……わたしのはどれなの?」

「ふふふ。貴女のはこれよ」

「灰桜?」

「そうよ。そういう少し落ち着いた色合いが似合う年になったのね」

「はいはい。そのようですね」


険悪ってわけではないけど、このドキドキするやり取り…痛いですよ……


「でも、この色も綺麗ですね。ユキさんのはどういう色なのですか?」

「これよ」

「綺麗な赤色ですね」


濃赤色。少し不思議な色。


「ユキさんの髪と目の色が綺麗に映えると思うのよ」

「確かに綺麗な色ね。今様…臙脂になるのかしら?」

「臙脂よりも少し青が強い感じでしょう?一目惚れしちゃったのよ。ユキさん、どうかしら?」

「はい。とても綺麗ですね」


どこまでも奥のありそうな赤色、見てると目が離せなくなりそうな………


「じゃあ、御着替えしちゃいましょうか。まずは蘭ちゃんね」

「お願い致します」

「その次はみちるさんにしましょ――」

「鏡を貸して頂けたら一人で着付けます」

「…覚えていて?」

「まだ、そんなに経ってないわよ」

「そうね……。じゃあ、ユキさんは少し待っていて頂戴ね」


あっ、えっと着替え中ってどこで待っていればいいんでしょうか?


「と、隣の部屋で待ってます」

「あら、わざわざ部屋を移動する必要はないわ。蘭ちゃんもみちるさんも気にしないわよね?」

「はい。着付けの過程を見ているのも面白いですよ」

「そこにいなさい」

「…はい」


だからって、人の着替え中の過程を見るのもどうかと思うんです。


「みちる姉さん、今度着付け教えて下さい」

「着物なんて偶にしか着ないのだから、一人で着れるようになってもあまり活用できないわよ?そうやって、人に着付けて貰うので十分だと思うけれど?」

「折角、着付け出来る人が近くにいるのですから」

「そうよね。今日の御着物も貴方たちの物になるのだし、そういうのもいいわね」


えっ?


「はぁ…そうよね。有難く頂くけれども……今度からは事前に相談して」

「ふふふ…」

「あ、あの――」

「ユキさん。私たちの為に御仕立からして頂いたのですから」

「あ…」

「そうなのよ。置いて行かれても困ってしまうわ」

「…頂戴致します」


着物って、どういう風に保管する物なのでしょうか。

というか、着物ってどういう場面で着るんですか?

そんな価値の分かっていない者に与えてもいい物なのですかーーー?


「ユキさんの着付け、今日は私にさせて頂戴ね。今度からはみちるさんがやってくれるわ」

「はい。ありがとうございます」

「日本文化に興味があるのなら茶道・華道もみちるさんが一通り出来るわよね」

「みちる姉さん。…是非」

「………暇があればね」


みちるさんって、名家のお嬢様だったのかな…

今までは、香山家という家に対してみちるさんが嫁ぐことの出来ないのは香山家の問題だと思ってたけど、みちるさん自身の御家の問題でもあったのかな……

相思相愛で、香山家は受け入れているのにみちるさんの御家が認めない…

ロミオとジュリエット…みたいな?


着物を着るのに邪魔になるからだろう、ざっくりとアップにした髪の毛から纏めきれなかった後れ毛が背中に流れる。


「こんな感じかしら?蘭ちゃん苦しくはない?」

「はい。ありがとうございます。ユキさんどうですか?」


掛けられた声で我に返りそちらを見ると、お人形さんが立っていた。


「うわぁ、可愛いですね」


ふわふわの髪が桜色の着物の上で揺れて、ミスマッチなような、凄く自然なような…


「あら、みちるさんも終わったのね」

「……………」

「みちる姉さん。とてもお似合いです」

「蘭、貴女も可愛くなっているわね」

「かんざし?コサージュもあるのよ?」

「いいわ。これで纏まっているから」


い、いつものみちるさんがいない…


「あら?」

「ユキちゃん?」

「どうされたのですか?」

「あ…あの………」


だ、だってみちるさんはパンツスーツで……

白衣で…

いつもかっちりとした………


「ユキさん?」

「みちるさんが何かしちゃった?」

「………えっと…ユキちゃん…変かしら?」

「いいえ!」


変ではない!

なんだか、いつもと違うみちるさんにちょっと戸惑ってるだけです。

えっと…えっと?感想をストレートに言うなら…


「とても綺麗です」

「……………」

「……そうですね!」

「…そうね。じゃあ次はユキさんの番よ。みちるさんと蘭ちゃんは隣で待っていらして」

「はい。さ、さぁ、みちる姉さん行きましょう」

「あ、あの――」


蘭さんと連れられたみちるさんが出ていきドアが閉まる。

もっと早く言わないと嘘くさかった?

う、嘘じゃないのに怒ってしまったんだろうか…


「うふふふ…みちるさんったら……ふふ」

「……怒らせてしまいました」

「あらいやだわ、みちるさん怒っていないわよ?」

「で、でも顔が赤く…」

「あらあら、あれは照れているのよ」


照れている?


「そうでしょうか?」

「そうなのよ。京香御母様を信じなさい。…ふふふ」

「はい。きょ、京香御義母様」

「あら……うふふ…」


ダ、ダメでしたか?


「可愛いわーーーーーー」

「!!っ…!」


自分よりも身長の低い京香様に抱き締められているこの状況…

しかし…修さんは本当に京香様の息子なのでしょうか?………纏う空気が似て無さ過ぎる!


「まぁ、どうしましょう。折角の御着物が乱れてしまったわ」

「は、はぁ」


それは…何故でしょうね……


「髪は結い上げてもいいかしら?」

「はい。お任せします」

「綺麗ね…」


パパと同じブロンドを優しく優しく櫛で梳く……

なんで…そんなに悲しい顔をして………


「京香様」

「京香御母様でいいのよ」

「あ、はい。あの」

「なあに?」


鏡越しの京香様が優しく微笑む。


「あの……すみません、質問を忘れてしまいました」

「あら。…そうなの」

「はい…」

「……………」


声を掛けたりしなければよかった…


「………………」

「…………」

「ジョシュはね…」

「………はい」

「自称6歳の時に引き取ったのよ」

「はい?」


自称?


「陽季さんが仕事でイギリスに行って帰って来た時にね…拾って来たって言ったのよ。ふふふ」

「拾って来た…?」


そんなこと聞いたことないよ。パパは天涯孤独…それしか知らない。


「本当のところはどうなのでしょうね。問質する前に私ったら思わずジョシュを抱き締めてしまったのよ。あまりにも感情を出さない子だったから…」


パパは…しぶい顔をする…怒る…優しく笑う……わたしの為に大泣きする……


「文哉さんと同い年なのよ。養子として引き取ろうと思っていたの」


もしパパが香山になっていれば何か変わったのかな……


「お断りします」

「えっ?」

「そう言われてしまったの。一度じゃなく、それこそ毎年のように言ったけれど…」


拒否?


「何かを背負っていたのね。私たちにも決して見せようとしなかったけれどあの子は一人で……小さな……まだ小さな子どもだったのに……ジョシュが私たちのことを愛してくれていると分かっていたけれど最後まで共有することは出来なかったわ」


……何を?…………パパは何を背負っていたの?


「ジョシュは優秀だったわ。あっという間に日本語を覚えた。教育が不十分の状態から2年で首席となったわ」

「………」

「常に文哉さんの傍で本当の兄弟のように成長したのよ。文哉さんもジョシュの事を兄のように慕い、私と陽季さんも本当の息子のように……」

「母が……」


ママ…

……全ての関係を壊してしまった。


「茜さんね!ユキさんと同じ綺麗な瞳の色をしていたわ。きっとウェディングドレスも凄く似合って…あぁ、ジョシュの仏頂面でタキシードなんて。ジョシュったら茜さんの前でだと微笑むのよ?私たちが見てると眉間に皺を寄せて耐えているの。うふふ…二人の結婚式見たかったわねー」

「………?」

「………本当に……本当に見たかったわ…貴女が産まれたら私が御婆ちゃんですよーって抱っこして…」

「きょ、京香様!?」

「……私たちは…」

「…京香様」


泣かないで下さい。

その思いを込めて抱き締める。


「……最後までジョシュと家族にはなれなかったのね…」

「……………」


泣かないで…下さい……


京香様……ぐすん…

そして今回の新事実!

ジョシュパパって、ユキちゃんよりも無表情だったのね!!

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