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Last color  作者: 蒼井 紫杏
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第31話

一回データが飛んだ…

覚えてる通りにしたけど、なんとなく中身が違う気が……

しょぼーん

「あのー」

「どうしたの?あっ、なんか嫌いな物でも入ってた??」

「あっ、いえ。久しぶりだったので凄く美味しいです」

「ホント?良かった良かった」

「それで、どうしたんだい?」


大した事じゃないんですけど……


「わたしが日本の文化に詳しくないだけかもしれないんですが、大晦日はすき焼きなんですか?」

「あぁ、これは香山家の習慣だよ。大晦日の晩御飯がすき焼き」

「除夜の鐘を聞きながら年越し蕎麦ね」

「お陰で、僕まで大晦日にすき焼き食べないと年が終わる気がしないんだよね」


あー、ちゃんと年越し蕎麦なんですね。


「ユキさん、お腹に余裕をもっておかないと年越し蕎麦が苦しくなりますからお気をつけ下さい」

「あ、そうですね。美味しくて食べ過ぎるところでした」

「まぁ、蕎麦を食べてから初詣に行くから良い腹ごなしにはなるんじゃない?」

「初詣?」

「えぇ。知っているかしら?」

「はい」


それくらい知ってますよ。

というか、日本に留学してきた外人でも知ってるでしょ。


「えっと、じゃあ皆で年越し蕎麦を食べて初詣に行くんですね?」

「そうよ。毎年そんな感じで年越ししているから」


うん。みんな仲良くていいですね。


「あ、ユキちゃん」

「なんですか?」

「明日は本家に挨拶に行かないといけないから、初詣から帰ったら早めに休むんだよ」

「あ、はい分かりました」

「ユキちゃんの……遠野の方はいいの?」

「あぁ………………いいそうだよ」


…その間はなんでしょう?


「御婆様が何か言ってましたか?」

「………………」


言ってたんですね……


「正月は忙しいから時間がもったいないってさ」

「こら、和志言い過ぎだよ!そこまで直接的ではなかっただろう?」

「あ、あの………実際には…?」


なんて言っちゃいました?


「うーん……」

「香山の本家には挨拶に行くから、わざわざ来なくてもいい。って感じ」

「そ、そうだね……大体そんな感じだったかな?」

「す、すみません」


恐らく、もっと辛辣な言い方だったのでしょう……

わたしが修さんと結婚した事で香山との繋がりが出来たらそれで終了。

本家を継がない修さんに媚びへつらう事はしないだろう。

寧ろ、これを期に香山本家の方へ顔を売りに行く可能性大……

まぁ…御婆様と会わない方が修さんは気が楽かもしれないけど。

陽季様……ごめんなさい。御婆様のことは適当にあしらっておいて下さい!


「では、香山本家へ行くだけで良いのですね?」

「そうだね」

「昼前に出て、そのまま行くのね?」

「えっと、お昼時に御邪魔してもいいんですか?」


普通がどうかは知らないけど食事時間に行ったら迷惑にならないかな?


「あー、大丈夫。これも毎年恒例。おじさんがお昼を一緒に食べるの楽しみにしてるんだ」

「夜は親族が集まって大々的なものになってしまうからね」


うわー。それ…わたしも出るんですよね……

親族御一同様に顔合わせですか……気が重い…


「よ、夜は泊まりになったり……?」

「しないしない。遅くなるけどちゃんと帰ってくるよ」

「年末年始はなかなか忙しいからね。無理しないように」

「あ、はい」

「じゃあ、明日はゆっくり集合ってことで……――」

「和志……諦めなさい」


うん?

昼前に出発すればいいんですよね?


「ユキさん、元旦はきちんと挨拶から始まるんです」

「はい………?」


つまり?


「朝から、きちんと集まって新年の挨拶はするんだよ」

「なるほど」

「ほんと……香山家の恒例ってのは大変だよ。ユキちゃん、頑張って慣れてね」

「分かりました。大丈夫ですよ」


精神的疲労が心配ですけどね……


あーーー精神的疲労蓄積中…………

人が…多い……

気温は低いはずなのに、ここまでみっしりと人がいるせいであまり寒さは感じない。

……遅々として進まない景色…息苦しいなー。

年越し蕎麦をすすり新年を迎える事が出来たわたしたちは、当初の予定通り目的の神社から3駅離れた場所に車を停め電車で最寄り駅まで来て、連れ立って神社に向かった。

無事参拝は達成した!!

達成したのだが……

見事にはぐれたよねー………

人混みのせい!というより、初めての初詣に足並みを揃えられなかったわたしのせいでしょう。

不幸中の幸いなのは……


「…ごめんなさい」

「いいのよ。全員で行動しないといけないなんて理由はないのだから」


みちるさんが隣にいる事。

まぁ、巻き込んだとも言いますが…


「でも……」

「大丈夫よ。こういう時の為の携帯電話でしょ?」

「繋がりませんけどね……」


どうやら規制がかかっているらしく、さっき電話してみたけど繋がらなかった。


「み、みんないい大人なんだから心配いらないわ」

「………はい」


まぁ、この人混みのどこかにはいるだろうから大丈夫でしょう。

それに、ここからなら電車を乗ってでも帰れる。幸い年越しの時刻表適用で終電なんて関係ないし。


「あっ、ユキちゃ――」


うん?


「みちるさん?」


隣にいるはずのみちるさんを見たはずなのに、全然知らない兄ちゃんがこっちを見てる。

……何故?


「ちょ、あー」


少し目線を移すと少し離れた位置で、人混みに揉まれるように離れていく焦った顔のみちるさんを見つける事が――

って、まずい!みちるさんともはぐれちゃうよ!!!!


「みちるさん!」


慌てて人を掻き分け、少し伸ばされたみちるさんの手を握り引き寄せる。


「あ、ありがとう。ユキちゃん」


どうやら、このゆっくりとした流れに絶えられなかった人が流れを乱したみたい。


「これだから最近の子は……」


うんうん。我慢が出来ないっていうのは幼い証拠だね。


「みちるさん、こっちへ」


さっきから、その『最近の子』っていうのがチョロチョロと………


「ねぇ、もう初詣は終わったの?」


とか声掛けてくるから問題なんですよ。

しかも、割と声掛けてくる『最近の子』が多い。

みちるさんもいつもの眼鏡とスーツじゃないし声が掛け易いのかもしれないけど……

なんだか腹が立つな……


「あれ?聞こえてないとか?」


聞こえてるけど無視してるんだよ!


「そこの美人なねぇーさんと、外人ちゃん!聞こえてるっしょ?」


外人ちゃんって………

なんて御馬鹿……


「無視しないでよーーー。新年早々良い出会いがあったんだから親睦を深めようよ」


良い出会いって……

一方通行過ぎるでしょ。


「……連れがいるから」


あ…………あまりにも鬱陶しかったのか、みちるさんが答えた。


「マジで?オレも連れがいるんだよねー」

「よぉ、おめぇ何やってんの?」

「何、この美人な姉さんら」

「レベルたけぇーな。ちょ、こっちの子日本語喋れんの?」


うわーーー。増殖したよーーーー!

あっ、日本語分からないって事にして、無視に徹しよう。


「な!これオレの連れ。って事で今から遊びに行こう!!」

「おぉぉ!いいねぇーーー」

「行こう!!」

「よしゃーーー」

「………………」


あぁ、みちるさんの不機嫌度が凄い。

眉間の皺が…深いです……

人が多くて振り切る事も出来ず、ずっと付いて来るこの人たち迷惑です。

というか、流石にここまで粘るとは思わなかったし……


「行きません。貴方達だけでどうぞ」


きっぱり。はっきり。

さて、みちるさんの言葉はこの人たちに通じますか?


「いやいや、男だけなんて華やかさに欠けるし花を添えてよ」

「そうそう。絶対楽しいって!」

「ねぇ、二人はいくつなの?」

「そっちの外人ちゃんは日本語喋れんの?」


いやいや、この御馬鹿さん達に日本語が通じないわーー

堂々と、人の流れを無視して通せん坊。

幼稚にも程がある。

出店の間のスペースから動けなくなったわたしたちに同情的な視線は感じるけど事なかれ主義の日本人は見て見ぬ振りですか。

まぁ、自分の家族や恋人の方が大事ですからね。


「ほら、立ち止まったって事はその気になってるんでしょ?」

「さぁ、行こう!!」


無理矢理引き止めておいて何を言う?


「それにしても、めちゃくちゃ可愛いねーーー」

「こんな人混み危ないから、ほらほらエスコートしてあげるよ」


無理矢理肩を抱き寄せようとする御馬鹿。

避けるけど――


「止めなさい!」


みちるさん!?

こいつら……しつこい…

みちるさんの手を引っ張って人混みに紛れようとするけど人が多すぎる事で進む事が出来ない。

わたしたちの後を一定の間隔でにやにやしながら追い掛けて来る馬鹿共……

より距離を開ける為に出店の隙間に見つけた横道に滑り込む。

人がいなくなった事で走る事が出来るようになったわたし達が追いつかれたのは神社の裏手と言えるくらい人の通らない暗い細道だった。

みちるさんのペースで走ってたからね…………


「ほらー、はいはい。追いついた」

「オレ体力ないから、もう逃げないでくれよー」

「こんな暗いとこで、こんな時間に美人な姉さんらが二人だけで歩いてたら危ないよー」

「俺らがナイトしてんよ」

「いい加減にしてください。迷惑です」


うーん。

その言葉で引き下がるでしょうか……


「迷惑とか、効くわーーー」

「そんなこと言わないでさ。ほらほらお姫様ーー」

「ユキちゃん!」


懲りもせず肩を抱こうとする御馬鹿。

まぁ、これも避けますけど。


「ぷっ、避けられてんじゃん」

「ユキちゃんって言うんだ。可愛いねー。オレが楽しませてあげるから遊ぼうぜーー」

「ちょっと!貴方達、いい加減にしなさい!迷惑だって言ってるでしょ!!」

「おーーー。威勢がいいねーー。これってあれ?ツンデレ??」

「いやいや。まだデレてないじゃん」

「いや、おれこういう抵抗されてる感じ嫌いじゃないし。デレは後でな」

「おっめ、きめぇーーー」

「うっせ!ツンツンでもいいんだよ!!おれに従わせる感がよ!」


言いながら、みちるさんの腕を乱暴に掴む。

はぁ?乱暴に掴む??


「みちるさん!?」

「おいおい!日本語喋れんじゃん!!」

「ちょっと、ユキちゃんユキちゃんなんで今まで黙ってたのさ!!」


うるさい!!


「みちるさんを離して」

「おー、こっちのツンツンさんはみちるさんね。りょーかい」

「で?みちるさんを離せってよ?」

「じょーだん。折角捕まえたのに離すわけないでしょ?」

「だよなーーー」

「離しなさい。警察に言うわよ」

「おいおいおい、やっぱツンツンだねー」

「警察だってよ!」

「おーーーこえぇーこえぇ」

「まぁ、この後の事が人様に話せる内容だといいな」

「みちるさんを離せ!」


明らかに空気がおかしい。

ちゃかしてるとかじゃない。


「ほらほら、ユキちゃん!ユキちゃんはオレらと遊ぼうな」

「つっても、みんなで遊ぶ事になるんだけどな」

「最初は俺だからな?俺が見つけたんだからよ」

「はいはい」

「おれは断然こっちのツンツン」

「わぁーったよ」


何を言ってる?


「いいじゃねぇーかよ。この前のはおめぇーに譲っただろ?」

「あれをカウントするか!?しゃーねぇー。まぁーいいよ」


何を話してる?

まずい……まずい気がする。


「遊ぶ気はありません。わたしたちを帰してください」

「はい、むりーーーー!」

「キャッ!」

「みちるさん!!」

「離しなさい!!!」

「っつぅ!」


無理矢理腕を引かれたみちるさんが抵抗した。

それは些細な攻撃だけど、馬鹿男の顔に赤い線が引かれる。


「おおぉ、凶暴だね!」

「手こずってんじゃん」

「……ってぇな!調子にのんじゃねぇよ!!」


パァーーーン

それは…あっけないくらい一瞬の出来事。

振り下ろされた男の手と、勢いを殺しきれず倒れこむ…みちるさん……?

馬鹿共の向こう側の光景が現実味を無くし色を…失う………


「………………」

「おいおい!あんまり顔に傷つけんなよー!後が控えて…………って、あれ?」

「うぉ!!いつの間にそっちに動いたのよ!」

「ちょ!今どうやった?すげぇーー」


馬鹿男の腕を掴んだまま、みちるさんを右手で引き寄せる。


「おぉ、美人二人の図は美しいなー」

「なになに!そういう関係のお二人さん!?」

「ってか、おめぇ嬉しいからって長過ぎ!いい加減ユキちゃんの手を振り解けっての!」

「いぃぃいががぁああ!!」


振り解けたら……ね


「ちょ!おめぇ、なんだよ!!」

「うぅぅうでーーー腕がーーー!!!」

「はぁぁ!!?」


そこで、ようやく腕を放す。


「ななななんだよそれ!!!」

「うががががぁぁ!!!!」


大袈裟。

ちょっと、握り潰しただけです。


「おい!てめぇ、何したんだよ!」

「うるさい」

「はぁ!!!!?」

「なんか隠し持ってやがんぞ!気ぃつけろ!!」


万一にもみちるさんに被害がいかないように強く引き寄せ、

震えてる身体を馬鹿共が見えないように抱き込む。

……震えてる…

馬鹿共が…………

誰を怯えさせてるんですか………


「大人しくしとけば良かったのに……」

「何言ってんの?それはこっちのセリフ」

「折角色々楽しい事があったのに、全部無駄にしちゃってよー」

「煩い」

「はぁ?」

「煩いだってよー」

「この状況で何粋がっちゃってんの?」


黙ろうか…


「おいおいおい」

「自分の腕噛み付いて、どんな威嚇方法だよ」

「頭いっちゃってんじゃね?」


温かいはずの血が苔むした石畳の上に広がり温もりを失っていく……


「…ユ、ユキちゃん?」

「大丈夫ですよ」


大丈夫。

もう……大丈夫ですから。

みちるさんを抱き締めたまま身動ぎするみちるさんの視界を塞ぐ。


「何二人で空気作っちゃってんですかーー?」

「俺らも混ぜて貰わないとね」

「ほらっ!こっちに来いって……言ってんだよっ!!」


バキン

空中で止まる馬鹿の拳。

へぇ…………

殴ろうとしてくるんだ…

あのね……力の使い方……大分…覚えたんですよ……


「ふぅーーーー」


顔を上げ馬鹿共を視界に入れる。


「…………おい…」

「あぁぁぁ。今…どうやったんだよ…」

「ちょ……あんな目だったか……?」

「な、なぁ……あいつ…怪我どこいったんだよ……」


人を傷つけるのは駄目だけど……

こいつらは……わたしよりも…化け物だよ…ね?


「…………騒ぐな」

「………あぁ?」

「!?何言ってんだよ!」

「なんのマジックかしらねぇがトリックがあんだろ!」

「そ、そうだよな。カラコンとかよ」

「…………で、でもよ」

「びってんじゃねぇよ」

「おめぇ怪我してネガティブなんだよ。そこで見とけ」

「おらぁ!!」


3人一斉に来ようが無駄ですよ。

あぁ…黙りましょうね……


「「「!?んんんんんんん!!!!」」」


自分の血を薄く空中に霧散させ襲い掛かってきた馬鹿3人の口を覆う。


「ひ!!ひぃぃぃ!!!ば、化け物!!」


はい。正解です。

地面に座り込んだまま腰でも抜けましたか?

腕を庇いながら立とうとしてるみたいですけど…

でも……逃げられませんね…………


「う、うがああああぁぁ!!!」


煩い……

霧散した血で腕をちょっとだけ捻っただけなのに…

あぁ…そんなことしてる間に他の馬鹿共が逃げようとしてるし……


「!?……んん!!」


全員の脚の腱を認識出来ない位薄い血刃で絶つ。

綺麗に切れ過ぎて、血が吹き出るような事も無い。

優しすぎますかね?


「…ユキちゃん」

「もう。大丈夫ですよ」


静かになったでしょう?


「ど、どうなってるの?」

「……………」


どう?駆除しただけですが…

違った、駆除する直前ですが?


「ユキちゃん……離して」

「嫌です」


腕に力を込める。


「ユキちゃん、離しなさい」

「………………」


何故…離さないといけないの……

ユキちゃん!

やっちまえばよろし!!

法律?何それ、おいしいの??

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