第26話
サラッとクリスマス。
イブ長かったのに……
では、どうぞ!
あっ、感想とか応援とか感想とか応援をお待ちしております!!
はい。もの凄くすっきりと目覚めました。
これだけ睡眠を取ったのは久しぶりだし頭もすっきりはっきりしてる…
けど、身動きが取れません……
充分な睡眠を取り、自然と目が覚めたわたしは起き上がろうとして何も考えずに右に身体を向けたところで固まった。
同じようにこっち側に身体を向けて無防備に寝顔を晒している女神様の顔が、それこそ目と鼻の先に存在していたから。
思わず右に向いた体勢のまま呼吸さえ止めて固まる。
しばらくして、みちるさんが眠ったまま動かないのを確認したわたしは、そこでようやく忘れていた呼吸を再開する。
ふぅーーーーー
静かにゆっくり息を吐き出し、振動を与えないように気をつけながら呼吸を繰り返す。
どれくらいの時間がたっただろうか……
外が明るくなってきたのか穏やかな寝顔をカーテン越しの暖かな光が覆う。
「うぅー…ん……」
眩しかったのか、小さく動いたみちるさんの髪の毛が一房頬を滑るように流れた。
あまりにも美しい光景に無意識に伸ばした手が、みちるさんの髪の毛に触れた。
「……あ」
「………あ?」
寝起きがどうのこうの、なんて無視するくらいぱっちり開かれた目が、みちるさんの髪の毛に触れているわたしをしっかりと写していた。
「お、おはよう」
「……おはようございます」
起こしちゃった…
「起こしてくれたのね」
…………!?
「そ、そうですね」
「少し、寝すぎてしまったかしら。ユキちゃんはちゃんと眠れた?」
「はい。久しぶりにこんなに寝ました」
「そうなの?良かったわ」
もう、外明るいですもんね。
「………ユキちゃん」
「はい?」
「取り合えず、起きましょうか」
「あっ!」
みちるさんが壁側なんだから、わたしが動かないと!
固まってる場合じゃないし!!
「す、すみません」
「いいのよ。着替えを済ませたら朝食に……」
「みちるさん…?」
「なんでもないわ。朝食を済ませてから出掛ける用意をしましょう」
「えっ?…はい」
先に朝食にするってことですね。
「あ……」
うん?
テーブルの上に並んだお皿たち…
「みちるさん?」
「和志ね……」
ですよね。今まで一緒に寝てたのに、これを用意する暇はなかったはず。
「ということは、和志さんと修さんは帰られたのでしょうか」
「…はぁ。あの子は……全く………」
「ど、どうしたんですか?」
なんか、ぶつぶつ言っておられますが…
「これ、ユキちゃんのでしょう?」
示された場所には見覚えのある衣装ケースが……?
「あれ?そう…ですね……?」
なんで、こんなところに?
「これに服が入ってるのね?」
「そうです」
「そう……まぁ、いいわ」
「えっ?」
「和志が用意してくれたみたいだからパンを焼いて………コーヒーを入れている間に着替えなさい」
「分かりました」
衣装ケースの中から、いつも通り適当な服を選んで引っ張り出す。
「ユッ…!」
「へっ?」
「なんでもないわ」
何だろう?
取り合えず着替えを再開。早く服を着ないと流石に寒い。
借りていた服を軽く畳んで……
「終わった?あぁ、それは洗ってしまうから畳まなくてもいいのよ」
「はい。ありがとうございました」
「じゃあ、コーヒーが出来たらカップに注いでおいて」
「はい」
コーヒーのいい香りがリビングに広がり、しばらくしてコーヒーメーカーのランプが消えてることを確認してから用意してあったカップに注ぐ。
えっと、みちるさんは砂糖とミルク使うのかな?
うーん、砂糖……ミルク…
どれだ??
「どう出来た?」
「あっ、コーヒーはOKです。砂糖とミルクはどうしますか?」
「ユキちゃんは使うの?」
「わたしはブラックで」
「そう。じゃあ、わたしもブラックでいいわ」
コーヒーをテーブルに置いて昨日の椅子に座る。
「いただきます」
「いただきます」
………………
「お茶の方がよかったのかしら…」
「…………」
判断に困るところですね。
綺麗に巻かれた出し巻き卵を口に運ぶ。
「……おいしいのよ?」
「おいしい……ですよ?」
ジャムを塗ったパンを齧りながら答える…
「御飯はセットしてあったわね…」
「みたいですね」
あっ、このほうれん草の御浸しおいしい……
「スイッチは入ってなかったけれど…」
「みたいですね」
うーん、やっぱりコーヒーよりはお茶の方がマシか?
「あの子…急いでたのかしら……」
「やっぱり、御飯の方が良かったですか?」
「御飯用に作られたおかずじゃない?パンだとちょっと…」
「……ですね」
あー、実は冷凍庫にまだ冷凍ごはんのタッパーがあったんだけど……
今更言わない方がいいかな。
「おいしいですよ?」
「…そうね。まぁ……おいしいわ」
「…………」
黙々と食べましょう…
「ユキちゃん」
「はい?」
「今日は、その格好なの?」
改めて自分の格好を見る。
………何か?
「そうですね」
「……そう。今日の買い物が楽しみね」
「へ?えぇと……はい…?」
「わたし、頑張るわ!!」
◆―◆―◆―◆
………………
みちるさんは頑張った。
わたしも…頑張った………
頑張った結果が、後部座席をまるまる埋め尽くしてますもんね。
……いや…頑張りすぎじゃないですか?
「み、みちるさん」
「何かしら?」
「終了ということでいいですか?」
そろそろ満足でしょう?
「そうね、服と小物はこれでいいわね」
…………
「後はお昼が遅くなってしまったから食べてから見に行くわよ」
「ま、まだ………了解しました」
確かに手持ちの物は少なかったですけど、そんなに一気に増やさなくてもいいんじゃないですか?
朝食を食べ終わったわたしたちは、用意をして早々に家を出た。
みちるさんが運転する黒い車に乗せられ、普段の服装と好みを聞かれたので、『値段が高くなくて、シンプルで動きやすいパンツルックです』と答えたら、無言のまま連れ歩かれる事に……
基本的にわたしの言ったベースは抑えてくれたようで、後は……ひたすらみちるさんの指示の元着せ替え人形と化してました。
服だけじゃなく、みちるさんの見立てで揃えられた小物は、センスの良さがわかり派手なものが苦手なわたしが気に入るように選ばれていて……
そういえば……
「みちるさん」
「どうしたの?」
「この、買い物のお金って……」
「あぁ、気にしなくていいのよ。ちゃんと預かってきているから」
修さんか……なんか申し訳ないな。
「あの…ありがとうございます」
「わたしたちが好きでやってるのよ」
うん、ありがとうございます。
「お昼は何か希望ある?」
「いえ、なんでもいいですよ」
「じゃあ、適当に入るわね。あぁ……あれでいいかしら」
話してる途中でちょうど進行方向左手に見えたファミリーレストランに入る。
うん。朝がどっちつかずな感じだったから、はっきり洋と言える物を食べよう。
「後は何を見るんですか?」
注文したえびグラタンを食べながら、ミートドリアをつついてるみちるさんに質問する。
「靴と……下着類ね」
「あ、あぁ…そうですか」
そんなものもありましたね……
下着とか着てればいいでしょ?改めて買いに行くと言われるような物だという認識がない。
み、みちるさんが選ぶの…!?
◆―◆―◆―◆
「ユキちゃん…大きいのね………」
はい。みちるさんが選ぶんです。
何故…そんなに楽しそうに人の下着を選べるんですか……
「た、唯の脂肪です……」
何故……周りの女性人が睨んでくるんですか………
「…敵が増えるわよ」
何故…みちるさんまで睨むのですか……
「そ、それより、適当に選びましょう」
「却下よ。ユキちゃんも女の子なんだから、ちゃんと気にした方がいいの」
「えっと…そうです……けど…」
そんな、誰も見ないようなものにお金かけてもね……
「はぁー。本当にユキちゃんは乙女心を失ってるわね」
「お、乙女心!?」
「普通ユキちゃんくらいの年頃なら、もっと買い物でキラキラすると思うのよ」
「キラキラ…ですか……?」
「そうよ。キラキラ」
と言われましても……
今更、「わー、これ可愛いーーー」とか…?
うむむ…
「ユキちゃん、これとこれならどっちが好き」
「う……」
そんなに、キラキラした顔で見られても………あぁ、これか……
えっと
「ど、どっちも大人っぽくて好きですけど……」
その、右手に持ってるブラウンの花柄刺繍はみちるさんに似合いそう。
「けど?」
「右手のは凄くいいですね」
「じゃあ、一つはこれでかくて――」
「みちるさんに凄く似合うと思います!」
「………」
うん、うん凄く良い。
「ユキちゃん」
「はい?」
「今は、ユキちゃんの物を選んでるのよ?」
「あっ、はい。あの……左手のやつで御願いします」
「右のこっちじゃないの?」
「いえ、だから、それはみちるさんに似合うと思うんです」
「……そ、そう」
あれ?
あぁ……ほら、他の人に選ばれるの恥ずかしいでしょ?
「そうです。だからこれはみちるさんのです」
よし、ここはわたしだけじゃなく、みちるさんにも恥ずかしい思いをして貰いましょう。
「わ、わたしのは良いのよ!」
そんなに嫌がらなくても……
センスを疑われてるわたしが似合うと言ったから嫌だった…とか?
「……あっ、じゃあ、あの…」
「他のも選ぶわよ」
あっ………
みちるさんは他の商品を見に奥へと歩いて行く。
………ホントに似合うと思ったんです。
◆―◆―◆―◆
「持てるかしら……」
どうでしょう?
「一回で行くんですか?」
「……無理ね」
はい。
「そうですね」
「二回に分けましょう」
「はい」
うーん………
二回でも厳しくないか?
二人で持てるだけの荷物を両手にぶら下げ玄関に入ると、美味しい匂いが漂ってきた。
「あら?帰ってるのね」
「和志さんですか?」
修さんの家に帰ってきたのに和志さんの名前が出るのは変かもしれないけど[食事の匂い]=[和志さん]
今更、修さんが料理出来るとか言われてもイメージが沸かないし……
「そうよ」
言いながら、みちるさんがリビングのドアを開けた瞬間、良い匂いが強くなる。
「おっ?お帰りー」
「ただいま」
「あ、ただいま帰りました」
か、和志さんがエプロン着けてる……保父さんですよ…保父さん
「あれ?荷物それだけ?」
「一回では持って上がれなかったのよ」
「だよね。修がもう帰るって連絡あったから、ついでに持って上がって貰おうか?」
「あぁ、じゃあ御願いするわ」
あー、でも!
「一人では無理じゃないかと……」
「うん。僕も鍵持って行くから大丈夫だよ。取り合えずその間に二人は手洗いとうがいしておいでよ」
「あっ、はい」
「御願いね」
みちるさんより先に手洗いうがいを済ませた後、リビングに置きっぱなしにしていた荷物を部屋に運び入れる。
少なくともこれの倍以上?
整理が大変かも……
最後の方は、ぼへーっとしてただけだから、みちるさんが色々買ってたみたいだけどあんまり記憶に残ってないし。
「ユキちゃん」
「は…い……」
うわー
「一回では運びきれなかったよ」
そこには、荷物を両手にぶら下げた修さんが。
「ま、まだありました?」
「そうだね。みちるが行ったから、その分で終わりだね」
いつの間にか、みちるさんが行ってくれたんだ。
「あ、お帰りなさい」
「ただいま。今日は楽しかったかい?」
「はい。あの、色々とありがとうございます。今日のお金も――」
「それ、みちるにも言った?」
「えっ?はい……」
「みちるに、わたしたちが勝手にやってるんだーとか言われなかったかな?」
「い、言われました」
ばっちりです。流石に良く御存知ですね。
「そういうことだよ。ユキちゃんは何も考えずにされときなさい」
「あ、ありが………はい」
「うん。じゃあ、荷物は取り合えず部屋に入れてしまうね。クローゼットにしまうのなんかはみちるに手伝って貰いなさい」
「分かりました」
「修ーー、みちるが戻ってきたら晩御飯にするよー。用意して来て」
「分かった」
「ユキちゃんは料理を運んでくれる?」
「はい」
「シチュー……」
リビングには食欲をそそる匂いが溢れていた。
「そうそう。やっぱり寒い日にはシチューだよ。ホワイトにしようか迷ったんだけど、今日はブラウンな気分。捻りも無いビーフシチューだけどね」
「美味しそうです」
「美味しそうじゃなくて、美味しい、が正しい」
「はいはい。分かった分かった。ユキちゃん、残りの荷物も部屋に入れておくわよ」
「あっ、はい」
「うわー、みちる冷たい。修、躾がなってない!」
「はいはい。分かった分かった」
「なんだよ、二人してー。ユキちゃん、こんな大人に染まっちゃダメだよ」
「えっと……?」
仲良い会話に入り込めないですから、そっと見させて下さい。
「ほら、ユキちゃんが困るから」
「ユキちゃん、みちるの躾は頼んだよ」
「は?えっ……」
「はい?馬鹿な事言ってないで食べるわよ!いただきます!!」
「あっ、もう。いただきます」
「「いただきます」」
「ほんと、みちるは口が悪いなー。そんなんじゃ、生徒達から怖がられれるよ。ねぇ、ユキちゃん」
へっ?えっと、みちるさん……?そんなに見なくても口が悪いとか思ってないですよ?
「怖がられたりしてないですよ。保健室の綺麗な先生は優しいってみんな言ってます」
治療も丁寧だし人当たりもいいから、結構人気があるんじゃないかな。
「それは普段のみちるじゃないからでしょ?仕事モードのみちると普段とを一緒に考えちゃダメだって。普段のみちるが保健室にいたら、殆どの生徒が怖がるよ」
「仕事中に普段の通りで話すことなんてないからいいのよ。万人に好かれようなんて思ってないわ」
「だとしても、家族にも愛情を!ユキちゃんにも怖がられるよー?」
ん?そこでわたし?
「えっ!?ユ、ユキちゃん……?」
「怖くないです!」
そんなに心配しなくても、和志さんだって本気で言ってるわけじゃないですよ。
「そうよね」
「そうです。みちるさんは、綺麗で格好良くて優しくて可愛いって、ちゃんと分かってすから」
「…………」
「………だって」
「…あ、ありがとう…///」
「はいはい。ごちそうさま」
「あっ、ご馳走様です」
「……………」
「…………」
いつの間にか、みんな食べ終わってたのか……
◆―◆―◆―◆
「チェストなんかも買わないとね。それまでは使うものだけ出すようにしなさい」
「はい」
御飯を食べ終わり、みちるさんに手伝って貰いながら荷物の整理をする。
「下着は一度洗うから一つに纏めておいて」
「分かりました」
袋の中身をチェックしながら、言われた通りに下着類を探し出す。
「あれ?」
これって……
「どうしたの?」
「いえ、あの………」
発掘した下着の袋から、疑問に思った物を取り出す。
うん。ブラウンの花柄刺繍??
「あっ、そ、それは……!」
こっちを買ったんだっけ?あれ?でも袋の中に見覚えのあるデザインの下着が見える。
「いいのよそれは!!」
「えっと……」
「わ、わたしに似合うのでしょう!?」
あ…
「はい。似合います」
わたしが言ったやつ………買ってくれたんだ。
そういう心遣いが、みちるさんの優しさだなーって思います。
「それで全部ね?洗っておくから貸しなさい」
「えっ、あの自分でやりますよ」
「いいのよ。ついでだから」
「でも…あの……」
食事も洗濯も掃除も、お風呂を洗うことでさえ気付いた時には終わってる。
ここに引越してから何かをして貰ってばかりで、わたしが何かをするという事が無い。
「男性陣と一緒の洗濯物だと気を遣うでしょう?だから、わたしのついでなのよ」
いえ、確かに気を遣うかもしれませんが…
「やっぱり、お風呂とかお手洗いなんかも問題かし――」
「あの!わたしは何をしたらいいんでしょうか!?」
「ど、どうしたの急に?」
「わたし……何もしてないです。みなさんに何をしたらいいんですか?何が出来るんでしょう…」
「そうね…わざとユキちゃんに何もさせてないわけではないのよ?今までの生活が抜けないのね……」
「ご、ごめんなさい」
「謝らなくてもいいの。きっと、これからよ。みんな仕事があるからね。色々と頼む事になると思うわ。だから今のうちくらいはゆっくりしておきなさい」
「そうですね。……分かりました」
分かりました……!
一日でも早く、みなさんの力になれるように頑張ります!!
あれ?みちるさん??
デレたの?今デレたよね??
ってか、デレデレだよね!!?
…しかし……ユキちゃん響かないね。




