第22話
活動報告でも喜びを伝えましたが、総合評価が200を超えました!
これも皆様方が忘れずにいて下さるからです!!
まだまだ続きますので、宜しくお願いします……
『………』
『………る』
『……――ある?』
はっ?
ぼんやり聞こえた声に慌てて閉じていた目を開ける……目を…開ける……?
……ここはどこ?
目を開けたはずなのに、開ける前と何も変わらない真っ暗な空間に数度瞬きを繰り返す。
『死はどこにある?』
『ひぅ!!』
思いの外近くから聞こえた声にじっと目を凝らすと真っ暗な空間よりも更に暗い闇が見えた。
その闇は人型の輪郭を持ち、立ち姿に見える。俯いている……?
『孤独は死よりもつらいんだ』
……な……に…?
俯いていた顔が持ち上がったと思った瞬間、真っ暗で何も見えないはずなのに誰なのかが分かった……
あいつだ…
『僕は君から死を奪う。君は君で死を見つけろ』
やめて!何故わたしなの??わたしがなにをしたの!?
わたしから何も奪わないで!!
いつも繰り返す悪夢……
あいつがわたしの家族を奪った…
あいつが…わたしの……死を奪った……
身動き一つとれないわたしに近づいてくるあいつ。
首筋に牙を立てようとする瞬間見えた顔は………………わたしの顔だった……
「いやぁぁぁーーーー!!!!!」
叫ぶと同時に体が動くことに気付く……ベッドの上…?
目が覚めてるのか、まだ夢の中なのか…曖昧なまま震える自分の身体を両手で強く抱き締める。
はぁはぁはぁ……
落ち着かない呼吸……落ち着かない動悸……
止まらない震え……止まらない冷たい汗……
……コンコン
「ユキちゃん?ユキちゃん??どうしたんだい??」
はぁはぁはぁ……
修さん?
「あ…あ……の……」
喉が凍りついたように声を発する気持ちだけが空回りする。
「ユキちゃん?大丈夫かい??」
はぁはぁはぁ……
大丈夫、大丈夫、大丈夫……
いつもの夢だから…
「ユキちゃん、入ってもいいかな?」
「も、もう大丈夫です」
声を絞り出して答える。
「無理しなくても良いんだよ?」
「……すみません。大丈夫です」
大丈夫、大丈夫、大丈夫……
いつもの夢だから…
「そうかい…何かあるなら私でもみちるでも良いから言いなさい。良いね?」
「はい…」
「うん、おやすみ」
「……おやすみなさい」
静かに遠ざかる足音を聞きながら強張った体から力を抜く。
はぁーーー
大丈夫、大丈夫、大丈夫……
いつもの夢だから…
震えが収まり、ようやく今の自分の状況を確認する。
用意してもらっていた部屋のベッドの上で本を読んでいたはずだったけど…
「いつの間にか寝てたんだ…」
ベッドの下に落ちていた本を拾い上げて、バラバラになっていたカバーを掛け直す。
最近……あの夢見てなかったんだけどなーーー
まぁ、寝てなかったから夢を見ようがなかったんだけど…
枕元に置いてた携帯のディスプレイに映った時間を確認すると4時過ぎだった。
もう寝れそうもない…というか寝るつもりもない。
汗を吸って冷たくなった服を着替えて、まだ温もりの残っていた布団に足を突っ込む。
壁に凭れてカバーを掛けた本に手を伸ばした。
もう読む本がなくなるなー。また借りて来なきゃ…
ブブブブッブブブブッ………
[通話着信 白崎 奏音]
……何これ
「もっしーーー」
「…………」
「あれ?電波悪いのかな…もしもーし」
「現在電話に出ることが出来ませ――」
「なんだ、聞こえ点じゃん!」
「……なんですか?」
「おはー」
「…おはようござます?で、なんですか?」
「メリクリー!はまだ明日か!えっと、メリクリイヴ―!!!」
「…………で?」
「ユキちゃん、ノリ悪っ!!」
朝からそのテンションについていけないです!
「朝から……」
あー、言うのも面倒臭い。
「何なに??」
「何の電話ですか?」
「最近スマフォに買い替えたんだけどねー」
「……」
「…………」
「………」
「……冗談です。えっと、今日何時にくるかなーって」
「奏音ちゃん……奏音ちゃんの見てる時計は何時を指してる??」
「ちょっと待ってよー。4時28分だって。合ってる?」
「………早いと思いません?」
「えっ?合ってない?やっぱ電波時計とかの方がいいのかなー?」
「……」
「…………」
「………」
「冗談です…。えっと……」
「……」
「…………」
あれ?静かになった。どうした?
あの後、琴音さんと何かあったのかな…
「今、どこにおられるのですか?」
さ、囁きになりました。
「えっ?い、家だけど?」
「家におられるのですね?」
何?急にどうしちゃったの??
「そうですよ?」
「……引っ越しをされたのでしょうか?」
「な、なんで?」
「ユキ様のお力を感じる場所がいつもと異なります」
「そうなんですか……。引っ越し…しました」
「本当に場所を移されただけなのですね?先程お力の乱れが御座いましたが、協会《Box》の者が何かしてきたわけでは御座いませんね?」
あぁ、それを心配して電話してきたのか。
「大丈夫です。ホントに引っ越ししただけだから」
「それならば良いのですが…何かなさるのであれば事前にお知らせ下さい。本来でしたらユキ様の御側にお仕えさせて頂かなければならないのです。ユキ様も……どうかお気を付け下さい」
「うん。ごめんなさい……ありがとう」
「昨日はColor coating《補色》されましたか?」
「えっと、してないけど……」
「……ユキ様」
「あの、大丈夫だから!ちゃんとしますから!昨日も、もうちょっと!!ってところまでいったので!!」
なんでしょう、この少し恥ずかしい報告をしている感じ。
「承知しました。くれぐれも宜しくお願い致します。で、現在はどちらに?」
「…家ですよ?」
「引っ越し先の所在地のことで――矢原先生と一緒におられるのですか??」
「はぁ!?い、一緒じゃないからっ!!」
なんでそういう発想になるんですか!?
「ユキ様のお力と矢原先生の気配が非常に近い場所にあるようなのですが?」
「一緒じゃないです!家が隣りなだけでっ!!」
って、言っちゃった……
「ユキ様……色々お聞きしたい事があるのですが…?」
「そ、そうですね……色々話さなきゃいけないみたいですね…」
………………
「そういうことでしたか」
「そういうことです」
結局家の事情で修さんと結婚した事、隣がみちるさんの家という事を説明した。
みちるさんと修さんの関係は話さずに、職場が3人とも同じで隣家同士で仲が良いと話した。
「矢原先生以外にお力の事は?」
「誰にも言ってないよ……」
「承知致しました。では、何かありましたらすぐに御連絡下さい」
「…分かりました」
「………」
「…………」
「ユキちゃん、今日は何時に来る?」
…急にいつもの調子に戻れるその切り替え能力が凄いね……
「確か夕方って言ってたけど…結局みんなは何時位に行くの?」
「えっ?13時くらいかなー」
「…………」
それは昼過ぎであって夕方ではありません!
「で、ユキちゃんは?」
「……適当に顔を出します」
◆―◆―◆―◆
ピーンポーン…
うん?ここ??
手元の本から顔を上げて耳を澄ませてみる。
ピーンポーン…
あー、やっぱりここだ。
修さんは早くに仕事に出掛けたから、今この家にいるのはわたしだけ…
出るべき?
勝手に対応に出ていいのかな……
ガチャガチャ
どうしようか迷っているわたしの耳に、鍵を開けている音が聞こえた。
修さんが帰ってきたとか?
部屋のドアを細く開けて、様子を窺う様にそっと顔だけ出してみる。
「あぁ、ユキちゃん。良かった」
「みちるさん?」
「えぇ、そうよ。…大丈夫なの?」
「大丈夫ですけど?」
貴女も鍵を持ってるんですね…
「どうしたんですか?」
「朝食」
「えっ?」
「食べたの?」
「……はい」
まぁ、食べてる訳ないから嘘ですけどね。
「ウソね」
はやっ!
「……い、今からです」
「ユキちゃん……今から食べるのなら昼食と呼ぶのではないかしら?」
11時30分……
「……ブ」
「ブ?」
「ブランチ……」
「………」
「…………」
「はぁーーー。いらっしゃい。一緒に食べるわよ」
「はい…」
呆れた顔のみちるさんに連れられてみちるさんの家に行き、言われるままにテーブルについて待つ。
「あの、和志さんは?」
キッチンに立つみちるさんの横顔を見ながら話す。
「仕事に行ったわ」
「そうなんですね。あの…御迷惑をお掛けして申し訳あ――」
「一緒に食べたいと思ったから呼んだのよ。御迷惑でもなんでもないわ」
「ありがとうございます」
「…体調悪いみたいね」
料理を乗せたトレーをテーブルに置きながら、みちるさんがわたしの顔を覗き込むようにして窺う。
「そんなに、悪いというわけでもないんですよ?」
「……食べられるかしら?」
トレーの上に並んでいるのは、和風きのこパスタ、スープ、それにサラダ
「おいしそうですね。もちろんいただきます」
和志さんが用意していったのかな?
マメですね……
「いただきます」
「はい、どうぞ」
うん、美味しい。朝食べてなかったけど、さっぱりしてるから胃に重くなくて食べやすい。こういうのを優しい味っていうのかな。
「どう?」
「凄く美味しいです」
「本当?良かったわ」
えっと?
「…もしかして……いちるさんが作ったんですか?」
「……そうよ」
「あ、あの…今度はわたしも作りますね」
「ユキちゃん、料理出来るの?」
「ブランクはありますけど、人並みには出来ると思いますよ」
昔はよくママの手伝いもしてたし、お菓子作りなんかは得意だった。
「そうなの?楽しみにしているわね。あと、食事に関してはいらないと言われない限り用意してあるから食べなさい」
「えっ?」
「和志が作りたくてやっているんだから遠慮しないのよ?お、お昼は頑張るわ」
本当にみちるさん、修さん和志さんは3人で一家族みたいに暮らしてたんだ……
「はい…いただきます」
「それで……これね。はい」
「!?」
な、なんですか?このでっかいお重は……デジャヴ………
「今日、クリスマス会をやるのでしょう?蘭から聞いた和志が嬉々として…」
「……あ、ありがとうございます」
ずっしりですね…
「何時に帰るの?」
「そうですね…特に考えてないですが……」
「もし泊まるのであれば、伝えておくから連絡してくれるかしら?」
「わかりました」
まぁ、泊まらないと思いますけどね。
「それじゃあ、前髪を切りましょうか」
「へっ?な、なんですか急に」
「急ではないでしょう?昨日から言っていたじゃないの」
「えーと……」
確かに聞きましたけど……
「その話し…まだ続いてたんですね……」
「いつ終わったのかしら?」
「…………」
「ほら、ユキちゃん見て」
「はい?」
言われるままにみちるさんの顔を見る。
目が合った…
「わたしも眼鏡をかけてないでしょう?ユキちゃんともっと目を合わせて話したいわ」
えっ?……いやいや、切りませんよ?
「………」
「……………」
切りませんってば
「………」
「…………………」
えっと………き…切らないよね……?
「ユキちゃん……そんなにわたしと目を合わせたくない?」
「そんなっ!違います!!」
みちるさん限定ではないですし!
それに、言い方ってものがあると思うのですが!?
「わたしに切られるのは不安?」
「そうじゃないです!」
根本的に、そんな話しじゃないですし!!
前髪くらいで心配しません!どんなファンキーな切り方するんですかーー
「ユキちゃん……」
「……あぅ」
「…切るわよね?」
「……切り………ます…か?」
えっ?ほ、ホントに?
「切るのよ。いらっしゃい」
結局、わたしに選択権ありました?
「……これは?」
「それを持って目を瞑ってなさい」
「はい……」
渡されたポリ袋の口を大きく開き、顔の前にキープして目を閉じる。
シャキシャキ
静かな空間の中でみちるさんが操るハサミの音が大きく聞こえる。
少し冷たいみちるさんの指先が、火照った頬に気持ち良く感じる。
「うん、やっぱりこれ位が良いわね。目を開けてみなさい」
言われた通りに目を開けてみると目の前にみちるさんの顔があって、ストレートに見る事の出来るみちるさんの瞳に、わたしの姿が映ってるのまでハッキリ見えた。
凄い……綺麗…
「ホントに綺麗ね」
「えっ?」
「ユキちゃんの瞳には魅力があるのよ。前から思っていたのだけれど……吸い込まれそうだわ」
それは……何か変な力を発揮しちゃってます?
「ユキちゃんのその瞳には、世界はどんな風に映ってるのかしら」
えっ?複眼ではないので普通に見えてると思いますが…
「みちるさんの瞳の方が綺麗です。きっとわたしより綺麗な世界が見えてると思いますよ」
「ふふふ…。ありがとう。ユキちゃんかの瞳に映るわたしは、どんな風に映ってるの?」
「そうですね………女神…」
「えっ?」
「な、なんでもないです!!」
確かに第一印象は女神様でしたけど!!つい、ポロッと言っちゃった!
「す、凄く美しい女性!です!!」
よし!誤魔化せた!!
「…あ……ありがとう……///」
「いえ……」
「………」
「………」
「……………」
ピーンポーン
「だ、誰か来られたみたいですよ」
「そ、そうね」
二人でリビングに戻り、みちるさんがモニターフォンに向かってる間にテーブルの上に広げたままになっていた食器をキッチンに運ぶ。
洗っちゃってもいいよね?
清潔に掃除が行き届いてるキッチンに食器を置いて、スポンジで洗剤を泡立てまだ温かくなる前の冷たい水に手を浸す。
えーと、洗い終わった食器は……あっ、このキッチン食器洗浄機備え付け…えっと……
「ユキちゃん…」
「あっ、みちるさん。食器、洗っちゃったんですけど――」
どこで乾かしましょう……って……あれ?
「どうかしました?」
なんか疲れた顔ですけど…?
「ユキちゃんにお客様よ」
「わ、わたしですか?えっと?」
でも、ここ矢原家ですよ??
「ユーキーちゃーん。あっそびましょーーーー♪」
「………」
あぁ、はい誰か分かりました。
「白崎奏音さんよ」
「……そのようですね」
玄関からリビングに続くドアを見てると、奏音さんが勢いよく入ってきた。
なんで、みちるさんの部屋にきちゃうかな……
奏音ちゃん……大暴走!
二重人格みたいになってますやん?
ちょっと、誰かカウンセリングしたげて!!




