第20話
おっとーーーー、段々季節が追い付いてきましたよ!!!
年越しは…どっちか早いのか……
「な、なんとおっしゃいました???」
「白崎さんは…」
ちょ、ちょっと待って!この先は聞いていいんですか!?
「もしかして……」
ちょ、ちょっと待って下さい!!
「ユキちゃんにとって………」
ちょ、ちょっと待ってってば!!!
「しぇぇぇーーーーーーい」
「へっ!!!?」
って、止めるにしても他に言い方なかったのか、わたし!!!
でも、矢原先生のびっくりした顔は貴重でした。
……じゃなくて!!!あー、いい感じで動揺してるわ!!
「し、白崎さんというと…それは白崎姉妹のお姉さんである、白崎奏音さんのことですか」
「…白崎奏音さんのことで間違いないわ」
「えっと…」
えっ?これなんて答えればいいの?
守護獣にしました。って…言いたくないし、奏音さん自身のことでもあるのに勝手に言えない!!
「単なるクラスメイトですね!」
「本当に?」
「本当です!」
何故そんなに疑うのですか?
「じゃあ…――」
……タ…バタバタバタ…ガチャガチャ!バタン!
「うん?」
「遠野さん!!!!!!!!!」
「「はい!?」」
わたしの名前を叫ぶ保健室のドア…………
じゃなくて、ドアを乱暴に開いて入ってきた女の子。
な、なにこの人?驚いて矢原先生まで返事しちゃってるし??
女の子は部屋に入ってきた勢いのままわたしの目の前まで来たけど、顔を下げ黙ったままで動かない……
えっ?どうしたらいいのですか?
「白崎さん、慌てて来られてどうしたのですか?」
白崎さん…?あぁ、白崎妹!
「こ、琴音さん?」
えっと?
「…わたしに用事でしょうか?」
「遠野さん………」
「…なんでしょうか?」
「遠野さんは奏音ちゃんに……」
「…はい」
なんだろう………
「…奏音ちゃんに…何を……」
…凄く嫌な予感がするんですが?
「……遠野さんは奏音ちゃんに何をしちゃったの!!!!?」
「………」
「…………」
どうしよう。物凄く矢原先生の視線を感じる…
「琴音さん…えぇと……何を―――」
「奏音ちゃんから遠野さんの匂いがするの!!!!」
「………」
「…………」
………何故…このタイミングなのでしょう。
「こ、琴音さん……あの―――」
「遠野さんからも琴音ちゃんの匂いがするし…」
「ユ、ユキちゃん!?」
あぁーー、琴音さんの前なのに矢原先生の話し方が戻ってる……
「えっとですね……」
「…いつ?」
「えっ???」
「あたしの知らないうちに……。先週までは普通だったの。ねぇ、いつ奏音ちゃんとしたの?」
気付いてる…
「…………」
「………………
「………」
琴音さんは、奏音ちゃんがわたしの契約守護獣になったことを推測じゃなくて気付いてしまったんだ。
……ここで誤魔化すことは…琴音さんを傷つけることになる。
「テスト休み…先週末の金曜日です。ごめんなさい。貴女の大切な家族を……」
「なんで!なんで奏音ちゃんなの!??」
「…………」
えっと、なんでと言われましても?
「どっちから…?」
「それは…」
おもいっきり向こうからですが……
「遠野さんが無理やり関係を結んだんじゃないよね!」
「違います!!合意の上です!!」
いや、ちょっと待てよ?えっと…だから奏音ちゃんの方からなんですよ??
「そっか……」
「あ、あの…」
「大切な家族なの…傷つけたら許さないから……!」
傷つけるつもりはないけど…
えっと、3年間の約束はしました………
って!いやいやいや!!!言えないでしょ!
「あの……それは…」
「ちゃんと責任を取れるの?」
なんて事聞くんですか!
「………」
「……………」
責任…
「………」
「……………」
……取れるわけないけど
「あの…わたしは――」
ガチャ
「ユキちゃーん」
「へ?」
ノックもせずにドアを開けるこの感じ…
「あら、琴音さんもおられますよ」
「奏音ちゃん、蘭ちゃん……」
ミサが終わった?
「琴音、こんなとこにいたの?ミサの途中で抜け出したから何があったのかなーって思ってたけど…保健室にいるってことは体調悪かった?」
「ううん。もう大丈夫…奏音ちゃんたちは何しに保健室にきたの?」
「明日、蘭さんとこで集まってクリスマスパーティーしようかーって話しになったから、ユキちゃんも誘おうと思って」
「明日ですか?」
「うん、明日」
「でも奏音ちゃん、明日ってイヴだよ?」
「イヴだけど?」
「急に言っても、遠野さん予定があるんじゃない?」
まぁ、そんなのはありませんが。
「蘭さんとこ明日はお泊りOKらしいから、夕方早めに始めて、好きな時間に解散って感じでいいんじゃない?どうかなユキちゃん?」
「えっと……蘭さんの負担になりそうですし……」
出来れば行きたくないです!!
「ユキさん、御遠慮なさらないで下さい。私のところは問題ありませんし、寧ろ来て頂きたいと思っています」
「…………」
「……………」
断れない!!断れないですしーーー!!
「……あの…宜しくお願いします」
「あまり羽目を外さないように気を付けてくださいね」
「はーい。ってか、なんなら矢原先生もどうですか?参加したら、ばっちり監視出来ますし」
「遠慮しますよ。監視が必要な事をしないで下さいね」
「さぁ、どうですかねー」
「………………」
「やだなー、何もしませってば」
「奏音ちゃん、そのメンバーって?」
「えっ?ユキちゃんと蘭さんと琴音と私……と矢原先生??」
「わたしは参加しません!」
「……遠慮しなくてもいいのに」
「…………」
矢原先生の顔がちょっと怖いです。
「詳細は??夕方早目って何時に始めるの?」
「そんなのまだ決めてないって。蘭さん、どうする?」
「私のところは、いつでも問題ありませんよ」
「だって。じゃあ……まぁ後で相談しよっか」
「わっ!もうこんな時間なんですね!!」
「蘭さん、琴音、すぐに追い掛けるから先に行っといてー」
「はい。わかりました」
「奏音ちゃんは?」
「矢原先生に相談があんの」
相談って??
「蘭ちゃん、先に行っといて」
「えっ?」
「琴音?」
「あたしも話したい事があるの」
「わ、わかりました」
話しって………さっきの続きだったりします?
「あっ、じゃあわたしも席を外しましょうか?」
「ダメ。遠野さんはここにいて」
さっきの話しなわけですね……
「蘭ちゃん、ごめんね」
「いえ、ではまた後で」
で…蘭さんだけがいなくなった保健室は?
「…………」
「……………」
「…………」
「………………」
重苦しいです。
「……琴音」「……奏音ちゃん」
「「………」」
えっ?じゃあ姉妹だけで御話合いということで…
「「…席を外しましょうか」」
「「ダメです!」」
なんでしょう、この見事な会話。
「あの、矢原先生お仕事は大丈夫ですか?」
「そうね。もう殆ど終わったのだけど…」
「じゃあ……」
解散!ってことで……
「矢原先生、何度も同じことを言っちゃってるんですけど…」
「何かしら?」
やっぱり、解散って事にはなりませんか………
「昨日言ったことなんですけど大丈夫ですよね?」
「……大丈夫よ。ちゃんと分かってるから」
……??
「それにしても……今日は話し方が違うのね?ちょっと違和感があるわ」
「……………」
それは……琴音さんがいるからじゃないですか?
それに、矢原先生も喋り方が戻ってますけど…
「奏音ちゃん、だ、大丈夫?」
「……えっ?大丈夫だよー」
「奏音ちゃん!」
「な、何?」
「遠野さんに聞いたの」
「………」
あー奏音ちゃんが、絶対大丈夫じゃないっていう顔色になってます…
「…なんのこと?」
「またそうやって、あたしを騙すの?」
「………」
「誤魔化さないでよ!あたしだって成長してるの!!奏音ちゃんの雰囲気が変わったのだって気付いてるし、奏音ちゃんから遠野さんの匂いがずっとしてるし…」
「琴音…」
「ホントは…ホントは奏音ちゃんの口から聞きたかった……遠野さんに問い詰めたりするんじゃんなくて、奏音ちゃんから言って欲しかった!!」
「…私の事だから」
「奏音ちゃんの事だったら、あたしは関係ないの!?何も教えて貰えないの?」
「違う!そうなじゃなくて、これは私だけの事じゃないの!!私とユキちゃんの事だから!!」
「あたしには言えない??」
「何物にも代えられない…大事な事なの……」
「なんで!?あたしたち家族だよ!!!」
「家族でも…言えないことはあるの………」
「………」
これ…どうすればいいんですか?
めちゃ重い空気なのですが……
「…あの、琴音さん……ごめんなさい」
「……なんで、遠野さんが謝るの?」
「わたしが、誰にも言わないようにお願いしたんです」
って、事も無いんですけど…
「そうなんだ……それでも言って欲しかった…」
「………」
救えないです!!
「奏音ちゃん、さっき遠野さんにも聞いたの……二人の同意の上だったって。ねぇそれで奏音ちゃんは幸せになれるんだよね?」
「……私から無理矢理お願いしたの。どうしてもユキちゃんが良かったから…だから……幸せかどうかは私が決めるから」
「……構うなって……こと………」
「琴音!!」
「そういうことでしょ?」
「琴音さん、そうじゃないでしょ?奏音ちゃんは、奏音ちゃんなりに琴音さんの事を大切にしてるんだよ。出来るなら巻き込みたくないって―――」
「そんなの他人に言われなくても分かってる!!でも、何も知らないまま成長なんて出来ないの!!!知らない振りをしたまま、それを優しさだなんて受け止め続けるのは……もう嫌なの!!」
「琴音!!!!!!!」
バタン
バタバタ……
バタバタ……
どうしよう…二人が走り去った保健室……
奏音ちゃんも琴音さんも二人とも傷ついた。
わたしと奏音ちゃんの契約が悪かったの??
「ユキちゃん…」
「矢原先生……わたしも追い掛けた方が良いんですかね………?」
「琴音さんの事は、奏音さんに任せるのが一番いいんじゃないかしら」
「わたしは…どうしたら良かったんですかね……」
「……奏音さんとの事は…後悔しているの?」
後悔……
「…わかりません。もしかしたら誰かに必要とされたかっただけかもしれません。寂しかっただけかも……でも、例えもう一度やり直すことが出来たとしても断らないと思います」
「ユキちゃん……」
「…気持ち悪いですよね」
人でなくなった今でも、誰かに必要とされたいなんて…
「どういう意味?」
「そのままの意味ですよ……」
「怒るわよ!?」
「怒る??」
「ユキちゃんは、わたしたちの事も理解してくれたのよね?なのに、わたしがユキちゃんを気持ち悪く思うと言うの?」
えっ?
「だって、それは全然違いますよね?」
「違わないわ!」
えっと……
「………そうですか…?」
「そうよ!!それに、誰だって人に必要とされたいと願う心はあるもの」
「わたしが……望んでもいいものなんですか?」
「当たり前よ!わたしだってユキちゃんに必要とされたいと思ってるわ!!」
「…………」
「………………」
「………うん?」
「……えっ?ち、違うのよ!えっと、なんて言えばいいのかしら、ユキちゃんの力になりたいというのかしら……。ユキちゃんは何もかも溜め込んで抱えてしまっているのよ。そうじゃなく、貴女の助けになれたらと思って……」
矢原先生の気持ちは嬉しいし、きっと矢原先生にしかお願い出来ない。でもColor coating《補色》の為だけの関係は嫌だ……。
「矢原先生……ありがとうございます。正直言って……わたしには矢原先生が必要です。でも…今のままだと依存するだけの関係になってしまう。それはわたしの心が弱いから…。だから………せめてわたしから矢原先生に近づくことはしないでおこうと思います」
いつもわたしから求めてしまう関係なんて、唯の捕食になる。矢原先生に選択権があって、矢原先生が距離感を保ってくれたら、わたしはその距離感を守ろう。
「そう……。ごめんなさい、変なことを言ってしまったわ…」
「矢原先生の気持ちは凄く嬉しいです。だから、今までみたいに一緒にいてくれますか?」
「もちろんよ。だから…少しは甘えなさい……」
「ありがとうございます……」
矢原先生は…ホントに優しい。その優しさにつけこんでるって分かってる。でも、わたしは…我が身可愛さに矢原先生から離れることも出来ない……
「…そろそろ行きましょうか」
「もういいんですか?」
「大丈夫よ。職員室に寄ってから行くから、…そうね職員用駐車場の所で待っていてくれるかしら?分かる??」
「あっ、はい分かります」
「じゃあ、そこでね」
保健室の前の廊下で別れ、履き替えた靴を袋に持って駐車場に向かう。
広い駐車場に停まってる車は、もう数えられるくらいしかない。
そして……見覚えのある車が………
矢原先生…………この車で通勤してるの……?
「あぁ、ユキちゃんここにいたのね」
「あっ、すみません、勝手に動いてしまって」
「車、覚えていたのね」
そりゃ……
「お、覚えやすい車だったので」
このお嬢様学校で、フルスモークの外車ですから嫌でも目につきますよね。
「荷物は後ろに置いて前に座りなさい」
「いつも車で通勤しているのですか?」
「そうね」
「あれ?確か和志さんも車通勤って…?」
「もう一台軽自動車があるのよ。わたしが乗ろうかと思ったんだけど、和志がこの車よりも乗り易いから、そっちがいいって」
うん。和志さんはこの車を運転してるよりも軽自動車の方が似合います。
もの凄くイメージ通りです。
「で、先生がこの車で…?」
「そうよ」
鋭い目を眼鏡で隠したスラッとしたスーツ姿の矢原先生……似合います。
「ユキちゃん…」
「えっ、なんですか?」
「その、先生っていう呼び方やめましょうか」
「えっ?」
「修さん、和志さん、矢原先生…ってなんだか寂しいじゃない?」
「……矢原さん?」
「………間違ってはいないけれども」
「………み……みちるさん」
「……そ、そうね…/////」
な、なんだか凄く照れ臭いです。
「ユキちゃん。荷物を持って一旦こっちの家に寄ってくれる?」
「わ、分かりました。修さんは?」
「今日は、早いらしいの。和志が晩御飯を用意してくれるから皆で食べましょう」
「分かりました」
凄く複雑な人間関係ですね…
それで、生活とかが成立しているところが凄いです。
「荷物は…そうね、そこに置いて手洗いうがいをしてきなさい。場所はわかるわよね?」
「あ、分かります」
間取りは、殆ど一緒ですから。
「そこに座っておいて」
前と同じソファーに腰かける。
あ、リビングはパーテーションで仕切りを作ってるのか。
だから、修さんの部屋のリビングと違う感じがしたんだ。
「着替えてくるから、ゆっくりしておいて。テレビとか勝手に観ていていいわよ」
「あ、はい」
テレビとか観てないなー。日本でどんな番組やってるか分からない。まぁ、興味もないけど。
入れて貰った紅茶を指先を温めるようにカップを抱えて飲む。
ふーーーーーー
眼鏡?
息を吐いて顔を上げた先にテーブルの上に乗っていた眼鏡に、無意識に手を伸ばす。
先生がいつもかけてる眼鏡だ。
銀色の細いフレーム。持ち上げても殆ど重さを感じる事のない眼鏡。
いつも矢原先生の鋭い目を隠して……
「ユキちゃん??」
「えっ??」
あれ???
「「……眼鏡??」」
そ、そうですよね。
リビングのドアを開けて、こちらを不思議そうに見ている矢原先生。
…を眼鏡越しに見ているわたし……?
和志君が御飯当番なわけだね?
ホントにどうやって生活してるんですか?
乱れに乱れてますな……
ほんで…「しぇぇぇーーーーーーい」って………ユキ…………




