第1話
目標1週間に1話更新…
とかムリムリ!
遅筆ですから!!
シリアスになり過ぎないように気をつけてるんですけどねぇ
※蘭ちゃんの話し方に違和感があったので修正
「おはよう」
「おはよー」
毎日変わらない、いつも通りの挨拶が教室に広がる。
自分に向けてかけられた言葉じゃないと分かっていたので、わたしは手元の文庫本から顔を上げることなく、まわりとの壁を作ることにした。
この学校に入学して半年以上が経ち、友達のグループが出来上がっているこの時期に、いつも一人でいるのは女子高生としては希少な存在だろう。
入学当初はクラスに一人はいるようなおせっかいな級友が、なんとかクラスに馴染ませようとしていたようだが、休み時間の度に本を読み、声をかけないでオーラをだすうちに諦めてくれたらしい。
中学の時は声をかけないでオーラが通じず、気取っているだとか調子に乗っているだとか言われてよく女子から絡まれていたが、この学校にはそんな生徒はいないようで助かった。
幼稚舎から大学まであるカトリック系の女子校。聖アンテルス女学院。
比較的裕福な家庭環境の子供が集まり、歴史も古く、イギリスに姉妹校があり国際交流学科もある為、留学生も多い。
御婆様から入学する事を決められていたので自分で選んだわけではないが、この学校の校風は気に入っていた。
声をかけないでオーラを出して静かに気配を消していようが、非常に目立つ事くらい自分でも分かってる。
長く腰まであるストレートの金髪。
長い前髪で隠した緑の瞳。
日本人では見かけないような、白い肌。
未だ成長途中の身長と細く長い手足。
わたし自身、自分が目を引く容貌だと認識していたし、それ以外ではなるべく目立たないように気をつけていた。
そんな事をぼんやり考えている間に少女たちの挨拶の声が多くなった気がして、なんとなく手元の文庫本から顔を上げた。
「あっ、遠野さん、おはよう」
ちょうど前の席の子が登校してきたところだったらしく目が合ってしまった。
目が合ってしまったからには挨拶をしないといけないと思ったのか、彼女はさらっと挨拶をしてくる。
「…おはよう」
自分にかけられた挨拶を返さないほど人間を忘れているつもりはないので小さな声で挨拶を返す。
彼女は少し驚いたような表情をしたあと、自分の席に座った。
普段、滅多に言葉を交わすことのないクラスメイトと挨拶できたことに驚いたのかもしれない。
出来るだけ交流を避けているだけで、挨拶くらいは返すのに…
どんな人でなしとおもわれてるんだろう?
「今日は、朝拝はなくて講堂だね」
「…?」
あれ?わたしに言ってる?
前を見ると、少女が座ったままこちらを振り向いている。
まだ会話は終わっていなかったようだ。
「…そうなんだ。教えてくれてありがとう」
こんな時期に全校集会?何かあったかな?
「新しい先生の着任式らしいよー」
あっ、説明してくれた。
「新しい先生?」
こんな中途半端な時期に?
「保健の美智子先生が産休で、代わりの先生がくるみたい」
「それは知りませんでした。ありがとう」
養護教諭の名前が美智子先生だということも知らなかった。
「いーえ、どういたしまして。私、情報通だから、なんでも聞いてね」
まず聞きたい。あなたの名前はなんですか?
なんて、同じクラスになって半年以上たつのに聞けるわけないけど…
ましてや目の前の席なのに…
うん、ごめんなさい。やっぱり人でなしでした。
取り合えず、これ以上打ち解けるつもりもなかったので小さく微笑んで会話を終了させる。
情報なんてものに興味はないし必要性も感じないから、彼女と話す機会はあまりなさそうだ。
わたしは、この学校で誰とも関わらずに静かに過ごしたいと思っている。
だから、わたしに必要なのは情報ではなくクラスメイトとのいい距離感。
名前を覚えてないのは行き過ぎかもしれないけど、他人に興味を覚えることは他人との距離を縮めることに繋がるから、これくらいやりすぎでいいのかもしれない。
半年は無事に過ぎたんだから、このまま誰にも興味を持たず誰からも注目を集めることなく静かに生活していけば大丈夫。
ちょっと日本人離れした容姿かもしれないけど、幸いこの学校には留学生も多いからそんなに目立っていないはず。
誰かと仲良くなるなんて…
そんなの怖い……
だから、誰もわたしにかかわるな。
「…―――さん」
「……」
「――さん、遠野さん!」
「えっ!?」
どうやら少し考え込んで、ぼんやりしてたらしい。
何度か名前を呼ばれていたみたいだ。
前の座席の彼女がこちらを見ている。
もう話は終わったはずなのに、まだ何かあるのだろうか。
「…なんでしょうか」
できるだけ喋りかけるなオーラを出しながら質問してみる。
「ねぇ、顔色が悪いんだけど大丈夫?」
あー、心配してくれてるのか。
友達でもないただのクラスメイトの事まで、そんなに気を配らなくていいのに。
正直、こういう時はそっとしといてくれたほうがありがたい。
「えぇ、ありがとう。少し外の空気を吸って来ますね」
心配してくれてる彼女には申し訳ないけど、このまま彼女と会話を続けると、どんどん気分が滅入ってくるので物理的に会話を終了させるために教室から離れることにした。
さて、いざ教室を出ても特に行く当てはない。
彼女には外の空気を吸いに行くと言ったけど、中途半端な時間だし登校のピーク時間を迎えている校舎周りをうろうろするのは余計にしんどいことになりそうだし……
時間があるなら図書館で一人の時間を満喫するんだけど…
いっそのこと全校集会なんかサボりたいんだけど、なるべく目立たないようにしている身としてはそんな選択肢もないからなー。
うーん、仕方ない。ここは無難に一度トイレに行ってくるか。
顔でも洗って戻ればちょうどいい時間になるだろう。
最近あんまり眠れてないせいで少し頭もぼーっとするし、丁度いいかもしれない。
蛇口から出る冷たい水で顔を洗う。
濡れたままの顔をそのまま正面の鏡に映した。
確かに顔色は良くないかもしれない。
今日はなるべく早く寝てみようかな。
キーンコーンカーンコーン…
顔をハンカチで拭い、トイレから出ようとしたときに予鈴が鳴り響いた。
この学校の生徒は大体予鈴が鳴る前には学校に着いているので、そろそろ廊下を移動する生徒の数も減ってきている。
えーっと、今日は朝拝がなくて全校集会なんだから一旦教室に戻ってみんなで移動すればいいんだよね。
いいタイミングで教室に戻れそうだ。
そんなことを考えながら廊下の角を曲がろうとしたとき前方から小さな影がぶつかってきた。
「っきゃ!」
「っう」
衝撃でしりもちをついたユキの上に紙の束がバサバサと降ってきた。
「大変!ごめんなさい!」
恐らく、ぶつかってきた小さな影の主である少女が慌てて起き上がり驚いてフリーズしているユキに声をかけてきた。
「荷物であまり前が見えなかったもので。私の不注意でした、申し訳ありません」
ぶつかった理由と謝罪の言葉を口にしながら、未だ立ち上がらないユキに手を伸ばしてきた少女の手を避け一人で立ち上がる。
「どこか痛むところはないですか。念の為、保健室に行きましょうか?」
手を避けられたことに気分を害した様子もなく、少女は心配そうな顔で少し俯き気味のユキの顔を覗き込んでくる。
「少し驚いただけです…。怪我もしていないですし、大丈夫です」
少女の目線から逃げるように顔を逸らしたら、廊下に散乱した紙の束が目に入った。
表向きの用紙には[○○○清算書][○○○報告書]などの文字が見える。
何かの委員会?それにしても凄い紙の量だなー
「遠野さん、顔色が悪いようですが頭を打ったりしたのではないですか?」
あれ?名前を知ってる?
逸らした顔を元に戻し彼女の方を見る。
背は低く、ユキの口元くらいまでしかない。
色素の薄そうな焦げ茶色の髪はウェーブがかかり長く伸ばされいる。
万人受けしそうな整った顔立ちは日本人の同級生にしては大人びた印象を与えた。
「大丈夫です。少し気分が悪かっただけなので…。心配はいりませんよ、東條さん」
東條蘭
わたしは少女のことを知っていた。
というか、周りの情報を一切シャットアウトしているユキでも知っている有名人なのである。
入学早々に生徒会から指名を受け生徒会入りし、9月の生徒会役員選挙で副会長となった秀才。
この学校の生徒会は生徒会長と副会長だけが選挙で選ばれ、その他の役員は会長が任命するのだ。
幼稚舎からずっとこの学校で中学の時も生徒会長をしていたらしい。
卒業式では卒業生代表、入学式では新入生代表と非常に目立つ存在。
学年主席で人当たりもよく、1年で生徒会役員選挙に名前があがるくらい人気がある。
同じくエスカレーター組の生徒たちからの人気も高いが外部受験組、違う学年の生徒からも慕われているので恐らく来年は生徒会長様だろう。
目立ちたくないと思って生活しているユキとは正反対の存在だ…
一緒にいるだけでも注目を集めるのに、廊下に書類をぶちまけた今の状況は全く持ってよろしくない。
登校の時間なんてとっくに過ぎて移動を始めてるクラスも出てきたようだ。
なるべくなら早くこの場を離れたいけど、廊下に散乱した書類と東條さんを放置するのは間違ってる気がするし…
「気分が悪いようならお送りしますから、保健室に行ったほうが良いのではないでしょうか?」
東條さんは、誰に対しても分け隔てなく優しいらしい。
がしかし、この書類が散乱している状況はどうするつもりなんだ?
「……」
「………」
ダメだ、保健室に連れて行く気満々で書類が視界から消えている。
「あの…ホントに大丈夫なので教室に戻りましょう」
そう言いながら廊下に散らばった書類を拾いだすと、東條さんもやっと状況を思い出したらしく慌てて書類を拾い集めだす。
「大変!もう移動が始まっているのですね!!」
なんだ?想像してた人物像より人間くさい。
もっと完璧人間を想像していたんだけどこんな一面もあるんだ。
「順番とか関係なく積んでしまいますので、後で整理して下さい」
声を掛けながら自分のまわりに散らばった書類を持ち上げ東條さんの方を見ると、彼女も書類を抱えて立ち上がったところだった。
「ありがとうございます。この上に置いて下さいますか?」
そう言いながら自分の持っている書類を目で示した。
「……」
「…?」
いやいやいや、その書類の上に置いたら目線が隠れるよねっ???
というか前とか見えないよね?
そりゃ人にもぶつかるよね?
はぁーーーー
思わず溜め息も漏れるよね?
「東條さん…一緒に運んでしまいましょう。その方が早く終わります」
「あっ!」
あー、係わりたくないーーー!
さっさと運んでしまおうと書類を持って先に歩き出すと、東條さんも追いかけてきて横に並んで歩き出す。
目立ってるよーーー
「東條さんの教室でいいですか?」
「すみません。そうしてくださると助かります。ぶつかってしまった上にお手伝い頂くなんて…御迷惑をお掛けしてしまい重ね重ね申し訳ありません」
「…凄い量の書類ですね。一人で運ぶのは無謀だと思いますよ」
「そのようですね。お陰様で自分の限界が判明致しました」
そう言いながら笑った東條さんは学校のスーパースターではなく普通の女の子だった。
ユキの望む普通がそこにある。
羨ましい…と思うと同時にこれ以上近づいちゃいけないと思った。
東條さんの教室に書類を置くと全校集会の始まるぎりぎりの時間となっていた。
今から向かったらぎりぎり…
「一緒に運んで頂けて本当に助かりました。集会には間に合わないようですが、先生方には生徒会の手伝いをしていたとお伝え下さい」
間に合わないかー
「分かりました」
取り合えず集会中に堂々と入るのは目立ち過ぎる。こっそり入らないと!
こっそり!
こっそり…
「………」
「……………」
「…東條さんもこのまま講堂に行くんですか?」
「はい、そのつもりなのですが?」
はい、こっそり入っても目立つことが確定しました。
あぁ、そんな「何か問題でも?」みたいな目で見られても…
「…では、いきましょうか」
「えぇ」
講堂の重い扉を静かにゆっくり開き、生徒達の中をこそこそと移動する。
こういった全学年が集まる集会では1年生から順に、2年3年と前から座っていく事になっている。
つまりユキたちの座る席は前方なので、たどり着くまでに嫌というほど注目を集める羽目になった。
そんなにこっちに注目してないで前見なさい!前!!
美智子先生とやらが何か喋ってるよ!!!
聞いたげてーーー
注目の視線に耐えてクラスの近くまで来たのはいいけど、ユキのクラスは生徒達の前を横切らないといけない。
「通路側の空き席に座りましょう」
小さな声で東條さんが空いてる席を指差す。
2席並んで空いてる気がするんですが…
このまま立ってても目立つだけので座る方がマシだと思うことにしよう。
カタン
……
カタン
やっぱり隣に座るのね。
座れたことで衆目に晒されることはなくなったが、近くに座っている少女達は興味津々でこちらを気にしているのを隠そうともしない。
東條さんも煩わしいとか思うんだろうか?
隣を窺うと何事もなかったかのように正面を向き、式に集中している。
なるほど、全く気にしていないんだ。
わたしも東條さんを見習うことにしよう。
正面を向く。いつの間にか離任式は終わっていたようで、結局【美智子先生】がどんな先生だったのか分からずに終わってしまった。
続けて着任式が行われ、教頭先生が新しい先生の略歴と紹介をしているようだ。
なんだか寒い
教頭先生が何か話してる。
ぼーっとする。
あー、そういえば体調悪いんだったっけ
気がつけば教頭先生の話は終わって、今は女の人の声が聞こえる。
聞こえるけど…何を言ってるの?
体が冷たい
目の前が暗い
周りがざわついてる
隣から体を引き寄せられた
寒い
重い
暗い暗い…
そしてわたしは意識を手放した。
ユキ、よく聞きなさい。
蘭ちゃんは普通じゃないでしょ…
普通の少女を目指すなら蘭ちゃんじゃまずいって!