第18話
どんどん話しが長くなってきましたね。
段々話しが読みにくくなってきましたね…
よし!感想をよろしく!!
悶々…
悶々……
悶々………
奏音さんを契約守護獣にした金曜日。帰りに偶然見掛けた矢原先生と修さんの姿が頭から離れないまま土曜日を過ごした。
二人を見ていて気付いてしまった。
修さんの好きな人、守りたい人というのは、きっと矢原先生のことで……
そして…矢原先生も修さんのことが……
悶々…
悶々……
悶々………
結局昨日は何をするでもなく、一日が終わって…――
ブブブブッブブブブッ………
電話?
[通話着信 香山 修]
修さん!?
「もしもし??」
「もしもし、ユキちゃん?」
「あっ、はい。おはようございます」
修さんからの電話…
あの喫茶店からわたしが見えたのかもしれない……
「おはよう。後10分位で着くけど大丈夫かな?」
「…はい……??」
何が……??
「じゃあ、用意をしておいてね」
「…はい……?」
何が……??
ツーーツーーツーー
きっ、切れた……
えっと……日曜日……用意しておいてね…
……あっ!???
あぁ??
現在時刻9時45分??
後10分位で着く???
はいぃぃぃぃ!!!!!
電気も点けず、膝を抱えて壁に凭れ掛かっていたわたしは、比喩表現でなく飛び上がった。
荷物を運ぶの今日じゃないですか!?
しかも、10時位って約束しました。……はい、確かにしました。
金曜日の夜から、只々鬱々として過ごしていたわたしは、すっかり今日の事を頭から追い出してしまってたわけですね。
と、取り敢えず……
あれ?特に何もする事がない?
いつも通り、決して可愛いとは言えない格好だけど着替えは済んでる。
荷物も多くはないから荷造りは完了しているし…
慌てて立ち上がったけど、何もする事がないと分かったわたしは、玄関前で出迎えることにして、運べるだけの荷物を抱えて部屋を出る。
「ユキさん」
うっ……出た…………
何故か、とっても薄暗い廊下の似合う………やっぱり…
「…はい。千草様」
「用意は出来ているのかしら?」
「はい。問題ありません」
「そう。修さんはもういらっしゃるの?」
「はい。もう来られます」
き、機械的な回答になってしまいます…
「…分かっているわね」
「はい……」
御婆様の望んだ通り、修さんと結婚します。
現実は分かってますから……逃げたりしませんよ…
「そう。しっかり務めなさい」
「はい…」
ピンポーン…
「来られたようね。…行きなさい」
「はい」
御婆様の視線を背中に感じながら、急ぎ足で玄関に向かう。
勝手口じゃなくて正面玄関に来るのは久しぶ――――初めてですね。
擦り硝子越しに見える人影。ドアの取っ手に手を掛け、ゆっくりと開けたその先に修さんの姿があった。
「おはようございます」
「おはよう。ユキちゃん。もう行けるのかな?」
「あっ、はい。もう用意はしてあるのですが、お上がりになりませんか?」
「用意が出来ているのであれば、今日はお邪魔せずに行こうかと思うんだけど…千草様が何かおっしゃってたかい?」
後半部分を小声で聞いてくる修さん。きっと御婆様がわたしに何か強要しているのなら、出来るだけ合わせてくれるつもりなんだと思う。
「御婆様からの指示はうけておりません。宜しくお伝えするようにと…」
「そうかい?じゃあ、慌ただしくて申し訳ないけど今日は時間もないですし、って伝えて貰えるかな?」
「はい。問題ありません」
「荷物は…これだけ?」
「あっ、いえ、残りも持ってきますので少し待ってください」
「わたしが行こうか?」
「いえ、重たいものはありませんので」
「わかったよ。じゃあ、この荷物を先に乗せておくから無理せずにね。重たいものは呼ぶんだよ」
あー、結構重いかなって思った荷物なのに男の人って軽々と持てるんですねー。
修さんの背中を見送って、残りの荷物を取りに部屋に戻る。
衣装ケース二つは流石に一回では運べそうにない。無理せずに二回に分けて運ぶ。
「あとどれくらいになるのかな?」
「あとは、これと同じ衣装ケースが一つあります」
「運べるかい?」
「はい。それほど重くはありませんので」
「そう。気を付けてね」
残りの衣装ケースを運び出すと、この部屋には殆ど何も残らない。
来週一週間を過ごす為の、制服と学校の勉強道具と鞄。それと、寝る時の服くらい。
なんとも御手軽な人間だ……あー…別に人間でもなかったか…
「これだけかい?」
「はい。載りますか?」
「問題ないよ。積んでくるから、準備をしておいで」
準備…?このまま行けますが??
玄関に待機しておきます。
「あれ?もういいのかな?」
「はい。このまま行けます」
「じゃあ、行こうか?」
「お願いします」
ミニバン??…ファミリーカー?ちょっとイメージ外なんですけど。
そういえば、矢原先生のとこもイメージ外だったっけ。
「今日は荷物があるから乗りなれない車なんだよ。運転は気をつけるから助手席にどうぞ」
「修さんの車じゃないんですか?」
「うん?わたしの車なんだけどね。普段乗ってるのではないよ」
「普段車…?」
そ、そんな何台も所有してるの?一人暮らしですよね?
御医者様って無駄なとこでお金使うの??
「仕事に行くのに、大きな車で行く必要はないからね。でもこういう車も遊びに行くのには便利だから。ユキちゃんは車酔いしやすかったりする?」
「いえ、車酔いしたことはないので、大丈夫だと思います」
「1時間くらいだけど、少しでもしんどくなりそうなら早めに声をかけて」
「わかりました」
車で一時間くらいか…そういえばどこらへんに住んでるのか聞いてなかった。
信号待ちをしてる修さんの横顔を見る。
あの喫茶店で見た横顔と同じ………
あっ、わたしの視線に気が付いた修さんがチラッとこっちを確認して…
「うん?どうかしたのかな??」
「なんでもありません。…えっと、家の最寄駅はどこになるんですか?」
「千草様から何も聞いてなかったのかい!?」
あー、御婆様と会話なんて殆どしませんから。
「申し訳ありません…」
「あっ、いや責めてるんじゃないんだよ。唯、場所も知らないで引っ越しする決断をしたのかと思ってね」
「と、遠いとかですか?」
今更ですけど…不安になってきたかも…
「いやいや、遠くはないよ。ユキちゃんの学校なら、今のユキちゃんの家より大分通い易くなるんじゃないのかな?通学時間半分くらいになるかもしれないね。なんだったかな…通勤通学時間帯の…特別快速?みたいなのも止まるから」
「特別区間快速?」
「そう、それだ」
えっと、今の最寄駅も特別区間快速は止まりますけど?ま、まぁそれでも近くならいいんですけど…
「駅から離れてたりしますか?」
「うーん、徒歩だとどれくらいかな…車だとすぐなんだけどね」
ということは、そんなに離れてはいないかな。
今はバスの経路が大回りとはいえ20分くらい乗ってるから、それよりはきっと近いでしょう。
でも…学校から近くなって特別区間快速が止まる駅なんて限られてる……
「このまま家に行ってもいいのだけど、折角だから駅を経由して道順を見てみようか?」
「…お願いします」
見覚えのある景色…きっとその駅は……
「ここが駅の正面ロータリーだね」
「………」
あぁ……やっぱり…
その駅は、一昨日奏音さんと待ち合わせた…そして矢原先生が住んでいる街の駅……
「じゃあ、駅から家までの一番明るい道を進むからね。少し周りを見ながら確認してくれるかい?」
「…はい」
見たことのある道を辿る…
そこは…きっと……きっと………
「着いたよ」
「……………」
…矢原先生が住んでるのと同じマンション………
「衣装ケース2個はわたしが運ぶから、こっちの段ボールを持ってくれるかな?」
「…はい」
「大丈夫かい?」
「だ、大丈夫です」
…大丈夫。
「最上階だからエレベータで行くんだよ。あっ、ごめん。ボタン押してくれるかな」
「………」
高級マンションの最上階。それは広いフロアを4区画だけで区切った一区画がとても広いVIPフロア。
その4部屋のうちの一部屋が修さんの部屋。
そして…それは矢原先生が住んでる部屋の隣……
「あー、ドア…」
「え?」
修さんは衣装ケース2個で両手が塞がってる…それじゃ開けれないよね。
「……うーん。ユキちゃん、ジャケットの胸ポケットにキーケースが入ってるから、その段ボールをこっちの荷物の上に置いて…―――」
ガチャガチャ
修さんの説明を行動に移そうとしていたわたしの耳に、どこからか鍵を開ける音がした。
その音源は、隣接するドアの……
それは……
「あっ…?和志か」
「へっ?」
和志さん?
「な、何してんの??」
「ドアを開けようとしていたんだけど」
「あー、両手が塞がってて無理ってこと?」
うん。無理ってことです。
「鍵はどこさ」
和志さんが、修さんのジャケットのポケット部分をパンパンしながら鍵を探してるらしい。
「胸ポケット」
「あぁ、あったあった」
ガチャガチャ
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「いいよいいよ」
矢原先生じゃなかった
和志さんと修さんも知り合いなんだ。和志さんは気が付いてるのかな…
修さんが、玄関に入ってすぐの廊下に荷物を置く。
「どこか行くのかい?」
「みちるを迎えに行かないと」
「そうだったね」
「そっちは…あぁ、ユキちゃんの荷物を運ぶの今日だったっけ」
「見ての通りだよ」
「ユキちゃん、お隣さんだよ。これから宜しくね」
「あっ、よ、宜しくお願いします」
わたしが引っ越してくることも知ってる?矢原先生も知ってるってことだよね…
「あれ?実際に引っ越してくるのは…?」
「今週末です」
「そっか。修になんかされたら遠慮せず逃げてきていいからね」
「えっと…はい、ありがとうございます」
「和志…立ち話してていいのかい?迎えに行く時間が…――」
「うわっホントだ!やばっ!!修、ユキちゃんまたね」
あっという間に走り去っていく和志さん。
「はぁ…落ち着きがないね……鍵もせずに…」
呆れたように溜息をついた修さんが、胸ポケットからキーケースを出して和志さんが締め忘れたドアに向かう。
ガチャガチャ
えっ?し、締まったの??
「………全室同じ鍵とか?」
「いやいや、まさかそんな事はないよ。矢原家とは懇意にしていてね。偶々だよ」
懇意にしてたら鍵を持ってるの?偶々で隣の家の鍵を??
でも、そうなのかもしれない…和志さんに知られずに鍵を手にする事は出来る。
矢原先生がいるんだから……
「一部屋空けたから、荷物を運んでしまおうか。こっち。この部屋を使って」
「ありがとうございます」
矢原先生の部屋を見てたから、驚きは少ないけど…ホント無駄に広い部屋……
そりゃ、この階に4区画しかないんだからある程度広いとは予想がつくけど、前に矢原先生の家にお邪魔した時は体調が悪くてあんまりじっくり見てたわけじゃないし、入ったのはリビング…のはずなんだけど、修さんのとこのリビングはもの凄く広く見える。
えっと…間取りが違うとか?
な、何畳くらいあるの?30畳??40畳位あるのかも…広すぎて良く分からないし、寒々しいし…
わたしの荷物を運び入れた部屋は…10畳くらい。良かった。まだ想像の範囲内と言える広さだよね。
「客用の部屋として用意したからベッドしかないんだよ。後々必要な家具を揃えるから、見に行かなきゃね」
「そんなに荷物も多くないので大丈夫です!」
というか、今までから比べたら……落着けない…
間取りは…4LDK??
「荷物が多くなってくるだろうから、こっちのウォークインクローゼットはユキちゃん用だよ」
えっ!!!!!!??
4LDK+WICでしたか…
「そ、そんなに必要ないですから!修さんが使用して下さい」
「大丈夫だよ。ウォークインクローゼットは2つあるからね」
…4LDK+2WICなんですね……御医者様って…………
確かに遠野の家も旧家で広いけど、わたしが今遠野家から借りている部屋と修さんから指定された部屋…明らかに修さんの家の勝ち。
「こんなにして頂いてありがとうございます」
「あー、実はこのマンション、香山の…父の持ち物でね。あまり苦労せずに手に入れてしまったから、ありがたがる必要はないよ」
「そ、そうですか」
そうでした。修さんは香山家の人間でしたよね。その上御医者様…湧き出るお金ですね……
「この階の住人もみんな顔見知りで」
そりゃ、4区画しかないし…
「みんな家族みたいなもんだよ」
………そこに深い意味はありますか
「和志さんとも……仲が宜しそうでしたね」
「そ、そうだね」
隣に住んでて、矢原先生とのことはバレないのかな…
「職場が一緒だから」
「そうなんですね。職場が…――」
うん??
「聖アンテルス病院!?」
「そうだよ」
そうだよ、って!!医療エリート!
「た、確か次期医院長先生にとかいう…」
「ユキちゃん、あくまで噂だからね」
でも、そんな噂が流れる程優秀なんですよね。エリート中のエリートなわけですよね。見た目も肩書も矢原先生とお似合いなんですよね…
「凄いですね」
「いや、環境が良かっただけだよ」
…聖アンテルス病院……修さんと和志さんが勤務している病院。そして……
「修さんの大事な方というのは…」
「えっ?」
「矢原さんですね」
「なっ!!?なぜ、そんな!!??」
あぁ…やっぱり……
「そうなんですね…」
「……誰かに聞いたのかい?」
否定はない…
「いえ…そう感じただけです」
「そうか…。そうだね。ユキちゃんに隠すのは卑怯だね」
そうですね…わたしは気付いてしまったから……
「確かに、ユキちゃんの言った通りだよ」
「どうして……」
あんなに仲の良さそうだった和志さんを裏切るようなことを…
「わたしたちは…幼馴染でね。いつの間にか守りたいと思う存在になっていたんだよ」
「お二人が結婚した後ですか?」
「…前だよ。もっと前からだ…」
じゃあ、和志さんと結婚する前に修さんが幸せにしてあげる道があったんじゃないの?
「…和志は理解してくれてる」
「そんな!!和志さんも承知の上でなんて!」
……偽装結婚
「それも家の為ですか…?」
「わたしを軽蔑するかい?」
軽蔑なんて…
「いいえ」
修さんと話しをしていた時の矢原先生は、とても無防備な…リラックスした顔で笑ってたから。
だから…例えそれが世間から後ろ指を指されるような関係でも……
「…軽蔑なんて出来ません」
「そうか…」
「和志さんが納得されているなら……お二人で幸せになって下さい」
「…ありがとう」
まだ悶々とする、晴れないこの気持ちが心の片隅に残ってる。それはきっと、矢原先生も修さんも、和志さんにも幸せになって欲しいという思い。
「修さん!必ず和志さんも幸せにしてください!!」
「あっ、あぁ分かっているよ」
そう…みんな幸せになって欲しい。矢原先生のあの笑顔を…守って下さい。
…4LDK+2WICなんですね……御医者様って…………この金持ちが!!!
けっ!!




