第17話
これ…ちゃんと繋がってるんか?
是非とも感想なんかを…
血がーーー
また貧血になりそうなんですけど?
右手の傷は綺麗に治ってるけど、左手の傷は貫通してただけあって治りにくいみたい。
血は止まって、ピンク色の薄い膜みたいな状態まで治癒は進んでるけど、当たり前の様に痛みはある。
奏音さんは…
「はぁ…はぁ…」
まだダメそうだ…現実にはいなさそうな位に大きな狼姿の奏音さんは、伏せの状態で荒い呼吸を繰り返している。
奏音さんの右前脚?の貫通していた傷は、紫黒色の毛に隠れてハッキリとは見えないけど、血は止まっているようだ。
…あれ?紫黒色だよね??
なんか、光の加減で一瞬…――
うん?やっぱり見間違えじゃない
「金色?」
「はぁはぁ…どうかされましたか…」
「えっ」
思わず声が漏れてたか…
「あの、奏音さんの毛の色が光の加減で金色っぽく見えたんですけど、元からそんな感じだったのか記憶がなくて」
普通に見てるだけだと紫黒色なんだけど…
「それは…ユキ様のお力が……入ったからです…はぁ…今、治癒で力を…使っておりますし…はぁ……恐らく…目も…」
そう言って、わたしを見つめる瞳は確かに今までの金色に混じって……赤色が…
赤?
「奏音さんの目は赤が混じってるみたいですが?」
「やはり…そうですか…」
えっと、わたしはグリーンアイなのですが?
思わず、部屋に備え付けの鏡を振り返る。うん、緑の瞳だ。
「ユキ様は…はぁ…お力を解放されると…綺麗な赤い瞳ですから…」
「…わたしの目が赤い?」
思わず眉間に皺がよる。
あぁ、そんなにも化け物なのですか…
「ユキ様…有難う御座います…」
「少しはマシになってきました?」
「そうですね…大分楽になってきました」
呼吸がさっきよりも落ち着いてきたみたいだ。
「これって、今わたしの血が奏音さんの中にありますよね?」
「はい」
「奏音さんに害はないのですか?」
というか、苦しんでる時点で害が無いわけない気がするけど…
「ユキ様の血が…お力が馴染んでしまえば…違和感もなくなります。ユキ様の血を媒介に…お力の供給がありますから…契約をする前より…力も強まりますし、寧ろ体は動きやすくなるでしょう。ユキ様…治癒は進んでいますか…」
「うーん、そうですね…」
進んではいるかな。痛みはあるけど…
「…矢原みちるを…呼び出しますか?」
「はっ?何故ですか??」
「Color coating《補色》が必要かも…しれません。守護獣でのColor coating《補色》は…あまりお力になりません。…契約守護獣の場合は…更に悪いです。矢原みちるでのColor coating《補色》が理想的です」
「まだ大丈夫です…」
「…そうですか」
自分が血を求めてると思いたくない…
「あの、奏音さん」
「…なんでしょうか?」
「矢原先生の事、どう思ってるんですか?」
「どうとは?」
いや、なんか凄く厳しく当たってる気が…
「蘭さんとかと比べて態度がキツイ気がするんですけど」
「そうでしょうか?」
自覚なしですか!?
「嫌いですか?」
「いえ、そうでもありません。…ユキ様にColor coating《補色》をする貴重な者ですし」
「人としては、受け入れられませんか?」
「…嫌いではありません。良い人だと思います」
「では、もうちょっと普通に接しませんか?というか、少し話し方砕けませんか?」
「…努力致します」
是非努力して下さい。
せめて、普段と今の中間くらいまでにしてくれると丁度いいかも。
「今の話し方が素なんですよね?」
「そうです」
「じゃあ、琴音さんの前でもそれなんだ…」
姉妹の会話なのに…堅苦しいよ
「…いえ、……琴音の前では…、この話し方はしておりません」
「あー。琴音さんに堅苦しくて止めてって言われたとか?」
そりゃ、姉妹の会話っぽくないもんね。
「…琴音の前で、この話し方にした事は御座いません」
「えっ?こっちの話し方が素なんですよね?」
「…はい」
「素で話した事がない?」
姉妹なのに?
「話し方だけの問題です。感情を偽って会話している訳ではありません」
でも…、本当の話し方で接して貰えてないってことじゃないの?
それって、なんか…寂しい気がする……
「家族の中で、この話し方をしないということなんですか?」
「…琴音にだけです」
「そんな…なんで……?」
「琴音が覚醒すると思っていなかったからです」
「どういう意味ですか?」
「…私と琴音は腹違いの姉妹です。母親同士が姉妹で父親が同じ人間」
「えっ?」
姉妹だけど、従妹だけど…姉妹…?ややこしい……
「複雑な事情などはありません。単純に姉妹で同じ人間に惚れ、男も姉妹どちらかに肩入れできず、争うことなく3人で家族になりました。そして、それぞれが子供を産んだというだけです」
いや、複雑過ぎます。
「それって、ヴァンパイアとか守護獣とかの間では良くあることなんですか?」
「守護獣では珍しいことではないです。主ヴァンパイアは必ず一対の番となりますので、有り得ません」
「そうですか…」
モ、モラルが…
「ですので、琴音の母親も私の母親もどちらも仲が良いですし、どちらの事も母親だと思っております。私と琴音も姉妹として生活しておりますし……家族仲は良いと思います」
なのに、琴音さんだけには話し方が異なる?
「私と琴音は同日に生まれていますので、双子のように育てられました。しかし、私は守護獣としての力が強く生まれた時から覚醒しておりましたし、逆に琴音は覚醒しないまま育ったので、このまま人として生きるのだと…そう信じておりました」
「人間だと思ってたから、壁を作ってたってことですか?」
「それは違います!…人であるならば守護獣の考え方に囚われず人としての生き方だけ知っていればよいと…それが琴音の…人の幸せですから……。家族で琴音を護ると決めたのです」
わたしの感覚で言うと、壁を作って暮らしていたというのと明確な違いが見出せない。
「つまり…琴音さんは自身が覚醒するまで守護獣のことを知らなかった?」
というより、自分の家族が人ではなかったというのも知らなかったということ?
「まだ私が幼獣としての姿しか取れなかった頃の記憶は曖昧で覚えていないようです。物心がつく頃には隠していましたから…知らずに育っておりました」
それは…わたしならツラいと感じる……
「じゃあ、きっと琴音さんは急に覚醒してしまって戸惑ってますね…」
「……それでも、受け入れなければならないのです」
異形の者が存在していることを知らずに、自分自身も人だと信じて生きてきたのに急に全てを否定される…
「ツラいですね…」
「…………」
境遇は違うけど自分自身の姿とダブって…
「ユキ様……」
「な、なんですか?」
「…いえ、なんでもございません」
「…………」
「………私、白崎奏音はユキ様の契約守護獣としてお仕え致します。宜しくお願い致します」
「…はい」
奏音さんはホントにわたしの契約守護獣になっちゃったんだ…わたしと一緒にいる事に何も利点なんてないのに……
「ユキ様、本当に矢原先生を呼ばないのでしょうか?」
あっ、なんか呼び方が変わった?
「こだわるんですね。でも必要ないので」
「しかし…まだ左手の治癒が終わっておられないのでは?」
「えっ?」
確かにまだ完治してない…さっきの治癒ペースだったら完治しててもおかしくないのに、急に治癒速度が遅くなった気がする。
「私がユキ様の契約守護獣となったことで、常にお力を供給して頂いております。恐らくユキ様自身の治癒に回せるお力が薄くなってきたのだと推測されます」
そ、そんなところにも契約守護獣にしたことへの影響が出てきてしまうのか…
えっと、つまり……
「……定期的にColor coating《補色》が必要になる?」
「はい。今までよりColor coating《補色》の感覚が短くなるのは間違いないはずです。ユキ様は矢原先生以外にColor coating《補色》する当ては御座いますか?」
「矢原先生でColor coating《補色》をすることも望んでないです!」
「ですが……!!」
わかってる…。自我を保つ為にもColor coating《補色》は必要なんだ……
「…わたしが人ではないと知っているのは矢原先生だけです」
フィー……フィーは知ってるのかもしれないけど…
少なくとも、わたしが認識しているのは矢原先生だけ。
「では、矢原先生が拒否しない限りColor coating《補色》を控えないようにお願い致します」
「……必要最低限だけです。だから今日は大丈夫です」
「………はぁ」
えっ、だって話しをしてる間に傷も目立たなくなってきたよ?
「奏音さんは、もう大丈夫ですか?」
さっきから普通に会話してるし大丈夫だとは思うけど。
「はい。私はユキ様からのお力も安定しておりますし治癒も完了致しました」
そうですよねー。奏音さんに力を提供してるから、わたしの治癒が進まないんですもんねーーー。
「じゃあ、そろそろ出ます?」
「そうですね。今…――」
サイドテーブルの上の卓上デジタル時計を見る。
「13時半??」
「そうですね。思いの外早く契約が済みました」
早かったの?部屋に入ったのが10時前くらいだったから…
「契約するのにかかったのは3時間くらい?これは早い方なんですか?」
「私もどれくらいかかるのかは知らなかったのですが、少なくとも5時間はかかると予想していましたので」
あー、確かに5時間かかると予想してたのなら早い方かな。
「えっと、じゃあ…向こうで――」
「失礼致します」
うん。人の姿に戻る必要はあるんですけどね…
そんな堂々と……なんで、わたしが恥ずかしがって顔を逸らさないといけないんですか??
「ユキ様」
「はい?って!」
隠してよ!!
「どうなされました?」
どうもこうもないでしょーーーー
「なんで、服を着てないんですか!?」
「これから着ようかと思っております」
着てから呼びましょう!
「で、なんなんですか?」
「私の目の色は、どうなっておりますか?」
いや、それホントに服着てからでも良くない?
……あれ?
「えっと、そんな色でしたか?」
奏音さんの目の色は…守護獣としての力を使用している時は金色で普段は少し色素の薄い焦げ茶色っぽい感じだった気が?
わたしの契約守護獣になって力を使っている時は金色に少し赤色が混じった感じで、今は……
あぁ…そうですか、なんだかわたしのグリーンアイが混じってる感じなのですね……
「ユキ様の目の色が頂けているでしょうか?」
「…そのようですね。普段からその目の色になってしまう?」
「はい。ユキ様のお力を体に循環させておりますので…。特に目にはユキ様のお力が溜まり易いのです」
「周りからしたら、急に変わった様に見えるとか?」
「いえ、その心配はありません。私の目の色がユキ様の目の色と混じって見えるのは、先程も申し上げました通りユキ様のお力が溢れているという状態なので、力を持つ者でないと変化を認識することは出来ません」
ってことは…
「琴音さんとか?」
「はい。琴音にはわかるでしょうが、何の力も持たない人間にはわからないでしょう」
「琴音さんは、奏音さんがわたしの契約守護獣になると知ってるんですか?」
「……いえ」
「バレますよ?」
「構いません…」
「…………」
「……ヘ…プシュン…」
「…取り敢えず……服を着ましょうか」
「……はい」
なんか、視覚的におかしいですから…
「奏音さんがわたしの契約守護獣になって……で、これから何をしたらいいのですか?」
「特に成すべき事はありません。私はユキ様を御護りする為に存在しますので、御側に控えさせて頂くことが多くなるとは思います。…近い内に協会《Box》の者が接触してくるかと思いますが、協会《Box》と接触される際は私が必ず御側に居る時にお願い致します」
「分かりました」
協会《Box》か……わたしも聞きたい事は沢山ある………
「所で、ユキ様お昼はどうされますか?」
「お昼?」
「少し遅くなってしまいましたが、お食事がまだですので」
「えっと、食事とかしなくても関係ないですよね?」
「確かに、食事をしなくとも身体的な問題はありませんが、活動エネルギーを全てColor coating《補色》で補うよりも食事の栄養素からも摂取する方が効率が良いのです」
…えっ?
絶食しても死なないけど、食事をしたらColor coating《補色》の回数を減らせる?
「……食べます」
「では、御供致します」
話してる間にちゃんと服を着た奏音さんと連れ立ってホテルを出る。
コソコソと……
誰かに監視されてるわけでもないけど、なるべく早くホテル街から遠ざかりたい。
「あれは……」
「??」
急に立ち止まった奏音さんにぶつかる様に止まり、奏音さんの視線の先を追う。
ホテル街から抜ける道、正面の喫茶店?
道路に面したガラス越しのテーブルに…
「………矢原先生?」
「みたいだね。旦那さんかな?」
違う……和志さんじゃない…
「……なんで」
修さん………
「声掛ける?」
「………」
「遠野さん?」
「…………」
「遠野さーーーん??」
「……笑ってる」
「あぁーーー、笑ってるね」
あんまり笑わない矢原先生が…
「矢原先生って、旦那の前では無防備に笑うんだね」
「………」
そう、無防備に…笑ってる……
「声掛ける?」
「掛けない…」
どんな顔して会うの?
「丁度会ったんだし、Color coating《補色》とか…――」
「必要ありません」
「…さっきより顔色が悪いんだけど」
「問題ありません」
「……じゃあ、行こっか」
「はい」
二人に気付かれないうちに離れないと。
「遠野さん」
「……はい」
矢原先生と修さん…
「敬語じゃなく喋ってよー」
「……はい」
二人は知り合いだった…
「はい。じゃなくて、うんでしょ?」
「……はい」
それも、矢原先生が心を許すくらいの…
「………ユキちゃんって呼んじゃうよ?」
「……はい」
まるでデート中のカップルみたいに…
「………じゃあ、奏音ちゃんって呼んでくれる?」
「……はい」
矢原先生と和志さんって言われるよりも、よっぽど夫婦っぽい。
「…ユキちゃーん」
「……はい」
うん。釣り合ってる。
「…矢原先生が好きとか?」
「……はい」
あー、そうか修さんの好きな人………
矢原先生なんだ。
あー、修さん久しぶりー。
って、いきなり浮気ですか!?




