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Last color  作者: 蒼井 紫杏
17/44

第16話

うん、事前に前後編とか言うの止めた方がいいかもしれん。

またしても、2部構成では追いつかなかった…


か、感想とか…くれたり…しませんか……

い、意外と大きいな…

お座りをした状態でも、かなりの迫力があるんですが……

狼ってこんなに大きいもんなの??

金色に光る瞳に、艶のある紫黒色の毛皮。

無意識のうちに手を伸ばし、見た目よりも柔らかい毛並みを撫でてみる。

き、気持ちいいかも…


「あ、あの…ユキ様……」

「はっ!ご、ごめんなさい!!」


思いの外気持ち良くて、つい手が止まらなかった。


「いえ、御触りになるのはいいのですが…」

「えっ、本当ですか!?」

「は、はい」


じゃあ……なでなで…


「あの…それで……」

「??」


なでなで…


「契約守護獣の話しなのですが…」

「あぁ………」


なでなで…


「…………」

「……………」


なでなで…


「…やはり私では……」

「…ダメってわけではないんですけど」


現実逃避を一旦ストップして話しをしようか。


「えっ?」

「質問してもいいですか?」

「はい。なんでしょうか?」

「さっきの奏音さんの話しを聞く限り、契約というのは後から解除できない一対一のもので、そんなに簡単に思い立ってするようなものじゃないと感じたのですが?」

「その通りです。契約守護獣は主となった方に一生お仕えしますし、契約した主も守護獣にお力の一部を引き渡すことになります」

「一生というのは…」

「まず、守護獣には寿命があります」


寿命…あるんだ


「わたしは?」

「ユキ様は、主ヴァンパイアですのでありません」


化け物ですから…


「そうですか。それで?」

「はい。守護獣は人間よりも長命で大体130年程生きるでしょうか」

「130年…確かに長いですけど、それだとヴァンパイアは何回も守護獣を変える必要があるんじゃないですか?」

「はい。そのままですと主と共に歩むことは出来ません。ですので契約の話しになります」


つまり…


「契約守護獣になると寿命が延びる?」

「正確に言いますと、契約守護獣になった場合主と同じ不老の存在となります」

「あー、確かにそれなら一対一で永続契約ですね」

「はい。契約守護獣は主と共に生きる事を誓いますので、主の消滅が己の死となります」

「はぁ!?」

「つまり。主が死を迎えれば契約守護獣も同時に死にます」


なんか、とんでもないことおっしゃいましたよ。

ちょ、ちょっとその前にどうしても聞きたいことが…


「ヴァンパイアって死ぬことがあるんですか??」

「あ……はい…御座います」

「不老だけど不死じゃない??」

「ユキ様……」

「…それも話せないことなんですか……」

「…申し訳ございません」

「……わかりました」


また協会《Box》か…


「それじゃあ、主が死ぬと契約守護獣も死んでしまうのに、それでも契約をするメリットを教えてください」


「メリットですか…主ヴァンパイアが契約をした場合、自分を護る盾と武器を同時に手に入れたことになるでしょう。契約守護獣は主に逆らわず、主にお仕え致します」

「守護獣側のメリットは?」

「不老、力の増強。それと…番への力の譲渡。つまり番をも不老にすることが出来ます」


それがメリット?

どんどん人外になることがメリットなの?


「デメリットは?」

「契約守護獣がいる限り、主は一定量のお力を垂れ流しにする必要が御座います」

「力を垂れ流す?」

「そうです。より正確に言いますと、常時一定量のお力を契約守護獣に譲渡する必要が御座います。ただ、意識して譲渡するわけではありませんので垂れ流しという方が合っているかと思います」


餌を与え続けろってことですか


「守護獣側は?」

「主が消滅すると契約守護獣もその番も死にます」

「………酷いですね」


他の人の命まで左右するなんて…何様なんだ……


「それだけ聞いても、奏音さんがわたしと契約したい理由がわかりません。長生きしたいということですか?それだったらわたしでは不向きですよ。わたしは死ぬ方法があるなら死にたいと思ってますから」

「生に執着は御座いません」

「では、力が欲しいのですか?それとも、契約するのは一種のステイタスなんですか?」

「私は、werewolf《人狼》のなかでも力が強いと自負しております。故に力に執着も御座いません。契約するということが守護獣の目標で憧れであることは否定致しません。しかし…正直申しますと、自分でも何故このような事を言っているのかよくわからないのです」


わからない?自分の気持ちが??


「つい口走っちゃったってことですか?」

「主ヴァンパイアのお力の匂いは知っていたのですが、体育祭の時にユキ様の匂いを感じて、私の主はユキ様しかいないと思ったのです」

「よくわからないな…」

「…申し訳ございません」


奏音さん自身がよくわからないと言っている通り、漠然と感じたってことなんだろう。

けど、わたしは誰かの命を背負うなんて無理だ…


「奏音さん…限りある命がある方が幸せなんじゃないですか…?」

「私も、そう思って生きてきました…いえ、今でもそう思っています」

「矛盾してるよ……」

「私の感情とは別の部分がユキ様の守護獣となることを望んでいるのです」

「好きになった人も生に縛り付けるの?」

「番にするつもりはありません!」

「大事な人がいるんですね…その人と生きる方が幸せなんじゃないのですか?」

「頭では、そう思っています。ですが……きっとユキ様の守護獣は私なのです」

「そんなの…後悔するよ……」

「抗えない気持ちを後悔するでしょうか?」

「大切な人の死を見つめる事しか出来なくなることに後悔しないと言い切れますか?」


目の前で大切な人が死ぬ。止めることも追うことも許されない。

ごめんなさいと謝っても一緒にいたいと泣き喚いても、わたしにはどうにも出来なかった…


「既に感情論の問題ではないのです。白崎奏音がどう思おうと、例え後悔する事になるとしても………後悔すると初めからわかっているとしても私はユキ様の守護獣なのです」

「わたしに…奏音さんの命まで責任を取れと言うのですか………」

「…私は、私の責任でユキ様の守護獣であると誓います」

「わたしは死にたいんです。いつでも自由になりたいと思ってるんです。奏音さんまで巻き込むとわかっていてわたしを選ぶんですか?」

「はい」

「意味がわかりません…」


自分が自分で生きてるって実感を得られないのに、そこまでしてわたしを選択する必要がわからない。


「…………」

「……………」

「………では…それに関して一つだけ願いを聞いて頂けませんか?」

「…死ぬことに関して?」

「はい。私は自分の意志でユキ様の守護獣となることを望みます。また私がユキ様の守護獣となった場合、ユキ様の御意思には逆らいません。ユキ様が生を終える選択をされた場合も同様です。ですが、…5年…いえ3年!今から3年間だけ生きる事を選択して頂けませんか?」


3年…それだけでいいの?


「他に望みはないんですか?」

「ユキ様の守護獣にして頂くことが私の願いです」

「大切な人と生きるという選択肢を捨てても?」

「…はい。その為の3年間です………」


目の前の大きな狼が、金色に光る静かな瞳をわたしに向けたまま口を閉ざす。

エアコンが動く微かな音しか聞こえない部屋で、どれくらい時間が経っただろうか。

見つめ合ってた視線を、根負けしたように外したのはわたしだった。


「…奏音さんの事まで気を配れるような優しさはありませんよ?」

「はい」

「…きっと長生き出来ませんよ?」

「はい」

「…わかってるんですか!?後悔するんですよ??」

「はい。……わかっています」


こんなどうしようもない条件なのに…


「………契約はどうやるんですか?」

「っ…!ありがとうございます!!」


表情は分からないけど、感情を隠せない耳と尻尾がわたしに喜びを伝える。


「ユキ様、お力を解放して頂けますか?」

「どうやって?」

「………」

「…………」


知らないものは仕方ないじゃないですか。


「…失礼致しました。では、Color coating《補色》の時のことを思い出せますか?」

「Color coating《補色》…」


Color coating《補色》と言われて思い出すのは矢原先生の匂い。


「はい。では、そのまま目を瞑ってユキ様自身がColor coating《補色》をした時の感覚を思い出してください」


矢原先生の赤い血が…甘い……甘い…


「ユキ様、目を御開けになって下さい。今、お力が解放されている状態です」


あぁ、分かる。

感覚が研ぎ澄まされたようなヒリヒリとした感じ、目が熱く、そして舌先で触れることの出来る牙…


「ユキ様、お力で血を操ることは出来ますか?」

「なんですか、それ??」

「………」

「…………」


いや、だから知らないものは仕方ないじゃないですか。


「……失礼致しました。では、分かり易い方法でいきます。ユキ様、指先から血が流れる程度に少し噛んで頂けますか?」

「えっと、わたしの指先に傷をつければいいってことですか?」

「はい」


痛い…自虐趣味はないのですが……


「これでいいですか?」

「はい。そのままでは、すぐに治癒してしまいますので……申し訳ありませんが、ユキ様の牙を傷に当てた状態にして下さい」

「うー」


へーーー。自分の血は美味しく感じないんだ。


「ユキ様、このコップの水の中に指先を入れて下さい。指を入れたら治癒が始まるまでに傷口を意識して見て下さい。血が水に広がっていくのを見て下さい」

「こうですか?」


あー、貴重な血が…


「ユキ様、今コップの中にはユキ様の血と水があります。水の中に広がっていく血はユキ様の物です。ユキ様、コップの中の液体が回転してきました」

「えっ?」


いやいや、回転なんてしてませんけど?


「回転してます」

「えっと…―――」

「回転しています!」


もう一度しっかりと確認する。

いや、回転してないよね?


「回転――」

「してるんです!!」


うーん…回転…回転……してるんだろうか?

回転??


「あっ!?」

「回転していますね」


してる…コップの真ん中に指を突っ込んでるだけなのに…指を中心にして液体だけが回転してる……

そのスピードは段々と速くなっていき、コップの淵から零れそうな程になった。


「あ、あの。これどうするんですか?」

「ユキ様、まだ傷口から血が流れているのが分かりますか?」

「はい」

「では、そのままコップから指をゆっくり引き抜いていくと液体は回転したまま付いてくると思われませんか?」


ついてくる?


「そんなことが――」

「付いてくるのです」

「…付いてくる」


ゆっくり指をコップから持ち上げる。

液体は……付いてくる…


「付いてきますね」

「これ…」


どうなってるの?


「ユキ様、回転が止まりますね。回転が止まっても水は指先に球状になって留まります」

「回転が止まる…」

「はい」

「指先に球状になって留まる…」

「はい」

「そんな…」


なんで、こんなことが……


「完璧ですね。ではユキ様、液体の中に、まだ血が流れ出てますか?」

「はい」

「何故、治癒されてないのでしょうか?」

「えっ?」

「それ位の傷であれば、すぐに治癒されてしまうと思うのですが?」

「えっと…」


確かに…


「その水は、何故その状態で保っているのでしょう?」


…そんなの


「…わからないです」

「ユキ様、その液体の中にユキ様の血はどれ位混じっていますか?」

「…ペットボトルのキャップに半分位ですね」


結構出てるな…


「ユキ様、何故そんな事が正確に分かるのですか?」

「へっ!?」

「コップの水が少し赤みをおびてきていますが、流れ出た血がどれ位かは判断出来そうにありませんが?」

「…なんで……」


なんで…分からない……


「今指先にある液体の中にユキ様の血がキャップに半分程混じっていると仰いましたね?」

「…はい」

「では、その血だけが指先に集まります。ユキ様、血を回収して下さい」

「血を回収…」


ぱしゃ


指先に血が集まると感じた瞬間、机の上に水が零れ落ちる。


「ユキ様、それが血を操るという事です」

「…これが?」


指先には、水と溶けあっていたはずの真っ赤な血だけが、小さな球状になって存在していた。


「球状から形を変えましょう」

「はい。…なんとなく、感覚がわかってきました」


球状からキューブ、星、ハート、紐状


「ユキ様、主ヴァンパイアのお力の主軸になるものが血の操作です。血その物を操り、先程のように水を操作することも可能です。血は傷口から流れ出ている必要はありません。また、操作にお慣れになれば離れていても操ることが可能です。但し、流れ出た血を操作する事は可能ですが、体内に戻す事は出来ませんので御注意下さい」

「…変な力ですね」

「これが出来ませんと、契約をする事が出来ません」


紐状の血を振り回しながら呟いたわたしの言葉に奏音さんが反応した。


「それじゃあ、契約はどうするんですか?」

「まずは、今操作しておられる血を手放して下さい」

「はい」


ティッシュを何枚か抜き取り、その上に紐状にしていた血を乗せて意識から外す。

上に乗ってた事が嘘みたいにティッシュに吸い取られた血を見て奏音さんを振り返る。


「ユキ様は、非常にお力が強くセンスも素晴らしいですね」

「そうですか…流石化け物ですね」


…別に望んで得た力じゃない。


「…ユキ様」


うん?なんでそんなに悲しそうな…

し、尻尾と耳が垂れ下がってる!?


「あ、それでこの後どうするんですか?」

「…はい。血を消耗してしまいますが、大きめの傷を作りますので痛みを我慢して下さい」

「契約って痛いんですか?」

「はい」


即答ですか?


「失礼致します」

「っぐぅ…!」


奏音さんの大きな牙がわたしの右手に突き刺さる。


「ユキ様、流れる血を操作して下さい」

「っう……どうすればいいですか?」

「杭の様な形で保持出来ますか」


どくどくと流れる血を操って長さ20cm程の杭を作る。


「…これ位で良いですか?」

「はい。それを右手で構えて下さい」

「構える?」


杭を握り込む様に治癒の始まった右手で逆手に持つ。


「ユキ様、痛みを耐えて躊躇わずに貫通させるつもりで振りぬいて下さい」

「えっ?」


奏音さんの手が私の左手の上に重ねられる。

思いの外硬い肉球を感じる左手…

貫通させる??


「お願い致します」


い、痛いですよね…

はぁー……


「いきますよ!」

「っ…」

「っぐう…!」


勢いよく下した杭は、思ったよりも簡単に奏音さんの手とわたしの手を貫通した。

凄まじく…痛い……


「…先程の水を操っていた時のように、今ユキ様から出ている血を私の血に混ぜて下さい」

「…奏音さんの血を見つけました」

「私の血を介して傷口から、私の体の全ての血を掌握して下さい」

「掌握…」


それって、奏音さんを操るってこと?


「…ユキ様、躊躇わないで下さい」

「………」

「ふぅ…っう……」


血を巡らす事で、奏音さんの体の全ての事が鮮明に分かる。


「…うぐぅ…はぁ…」


相当な痛みがあるのか苦しそうな奏音さん。


「循環しました」

「がぁ……はぁはぁはぁ………では…循環させている…血はそのままで…はぁはぁ…杭を抜いて…下さい」


切れ切れのまま言葉を紡ぐ奏音さんに従って、杭を引き抜く。


「っふぅ…!」

「はぁはぁ」


呻き声すら上げずに荒い息を繰り返す奏音さん。


「奏音さん、大丈夫ですか?」

「大…丈夫…です。はぁーー。ユキ様の血が…馴染むのに少し…時間が…はぁはぁ…」


時間がかかるのだろう…

わたしも、左手に開いた傷の治癒に少し時間がかかりそう。

ふぅーーー

最近、よく血を流すなー…


ユキ!ちょっと「お手」とか言ってみてよ!!

奏音ちゃんなら、なんだかんだできっとやってくれるって!!

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