第15話
テスト休み中の奏音ちゃんとの逢瀬前編。
ってわけで、今回もぶつっと切ります!!
毎度の事ながら…感想なんかを頂けると……嬉しかったり…
ブブッブブッ………
「うわっ!?」
充電器に繋ぎっぱなしになっている携帯電話が小さな振動と共に床に共鳴して、思いのほか大きな音がなったのに驚いて、つい声が出てしまった。
まぁ、この部屋にはわたししかいないから多少恥ずかしいとこがあっても誰に見られるわけでもないけど…
テスト休み4日目の木曜日。今日になって始めた荷造りの手を止めて、携帯電話に手を伸ばす。
バイブレーションのパターンからメールであることは分かっていたので、焦る必要はなかったけど、響き渡る振動音に急かされる結果となった。
[件名: 話しの続き]
あー、はいはい。
[差出人 : カノンちゃんだよ♪]
ちょっと待とうかーーー!!!??
確かに奏音さんだと思ってましたけど、なんて名前で登録してるんですか!!
あんな話し方だったくせに!!!
[ユキさん、元気~?
あの後は、体調大丈夫だった?
あんまり我慢せずに、無理そうなら矢原先生に連絡するのも手だと思うよ~。]
メールはこっちの話し方でいくつもりなのね…
[でさ~、前の話しの続きなんだけど、明日とか無理かな?
もし大丈夫そうなら、そっちまでいくから連絡してくれる?
よろ~~!]
…………ノリが軽すぎて、本当に同一人物なのか疑わしい…
取り敢えず返信する前に…アドレスの登録名を変えてやる!
【白崎 奏音】
ふー、これでいい。
ブブッブブッ………
「ぅえっ?」
またメール?普段は携帯なんて鳴りもしないのに、今日はなんなんですか?
[件名: 突然ごめんね]
や、矢原先生だったりします?
うん?
差出人は…名前じゃなくアドレスが表示されてる。
つまり、知らない人からのメールですよね?
えっと、これって架空請求詐欺みたいな?
[香山修です。勝手にメールアドレスを聞き出しちゃってごめん]
修さん?御婆様に聞き出したのかな?
[ユキちゃん個人と連絡を取る手段がなくて、ついね。
引越しの事なんだけど今週日曜日に荷物を運んで、ユキちゃんは学校が休みに入る来週末から来るってことでいいのかな?
千草様にも確認したんだけど、本当に今週末に荷物を運んでしまってもいいかい?
持ってくる荷物が少なくて、こっちの車だけで運べるくらいしかないと聞いているから、来週末でもいいんだよ?
その場合は今週予定していた荷物運びの日は、これから住む場所を事前に確認するというだけでいいと思うんだ。ユキちゃん次第だから、連絡してくれると助かるよ]
確かに持っていく荷物は少ない。
冬物の上着込みで衣装ケース2個分の服と、学校の勉強道具、教科書とかでダンボール一箱くらいの量だ。
だからこそ、荷造りに時間はかからないと思って引越しの差し迫った今日になってやっと着手したわけだし…
正直来週使用する荷物もないですし、どっちでもいいですが?
えっと、奏音さんの話しが明日で修さんの荷物運びが明々後日。
はいはい、了解です。
まずは、奏音さんに返信する。
[件名: Re:大丈夫です]
[明日で問題ありません。
何時に、どこへ行けばいいですか?]
送信
何の面白味もない文章になりました…
次にアドレスを登録してから修さんに返信する。
[件名: Re:大丈夫です]
あれ?
[荷物は今週で問題ありません。
何時頃にお待ちしていれば良いですか?]
送信
ごめんなさい。センス無い……
◆―◆―◆―◆
金曜日。わたしは朝から通勤ラッシュの満員電車に揺られてる。デジャヴ……
待ち合わせ時間は10時。かなり余裕を持って家を出てきてみたら、この状況。
わたしは学習能力が無いのか……
幸い、体調が悪いわけでもないし、雨も降ってない。電車が急停車することもなく目的の駅に到着出来た。
奏音さんとの待ち合わせは、わたしの最寄り駅と奏音さんの最寄り駅の丁度中間。
そして、そのホームには見覚えが…この駅って、和志さんに付き添われて降りた駅じゃないですか。デジャヴ……
前にも座ったホームのベンチに腰を下ろし、自動販売機で買ったホットのブラックコーヒーショート缶を飲みながらしばらく休憩。
一息ついて、時計を確認するとまだ9時を過ぎたところだった。
えっと、このホームから駅の改札前まで…どれだけゆっくり行ったところで5分で着いちゃうし…
駅前に喫茶店とかあったかなーーー。取り敢えず移動しながら、改札を抜けて周りを見渡してみる…。あれ??
「ユキさん。おはよー」
「おはようございます?奏音さん?」
奏音さんですよね?
何故いるんですか??
「やっぱ、ユキさんは早いねー」
「あのー、今日って待ち合わせ9時でしたか?」
「いやいや、10時で合ってるよ」
ですよね…
「わたしとの待ち合わせの前に、何か用事があったとか?」
「何もないってば」
じゃ、単純に
「早く来ただけってことですか?」
「いやー、ユキさんは絶対待ち合わせの1時間前にはいるだろうなーって思ってさ。念の為早めに来てみたら正解だったわー」
「そうですか…」
じゃあ、11時集合とか言ってくれればいいのに。
「集合時間一時間遅くしてたら丁度良かったかもしれないねー」
「………」
なんだか、腹が立つなー…
「それで、どこに行きますか?」
「あれっ?今日は矢原先生来ないの?」
「なんで、そこで急に矢原先生が出てくるんですか??」
「えっ、だって矢原先生ってここら辺に住んでるんだよね?」
「そうですね」
「だから、わざわざこの駅にしたのかと思ってたんだけど?」
「偶然です」
「ふーん」
なんなんですか!?
「そちらは、琴音さんはいないのですね」
「琴音?連れてきた方が良かった?」
「そういうわけじゃありませんけど…」
「まぁまぁ、今日は二人で話そうよ」
「はぁ」
「っても、どこ行こっか?ホントはカラオケとかがいいんだけど、早過ぎて開いてないし…」
「カラオケ?」
「歌を歌う為の個室があるとこ」
そんな大雑把な説明いらない。
「そうじゃなくて、なんでカラオケなんですか?」
「話しがし易いから?」
「喫茶店とかじゃ駄目なんですか?」
「うーん、私らの身内には耳が良いのもいるからねー。あんま油断できないっていうか」
「…じゃあ、カラオケが開くまで喫茶店で待ちますか?」
「良い案があるっちゃあるんだけど…。取り敢えず、移動しよっか」
「はぁ」
移動する奏音さんの横顔を見る。
今日は、この話し方でいくのかな…
「奏音さんの話し方は、そっちが素なんですか?」
「………違うよー」
二重人格かと思うくらい喋り方が変わるし、どっちかで統一したらいいのに。
「あの、話し易い方でいいですよ?」
「…どっちの方がいい?」
うーん、あっちのはちょっと面倒くさい。
でも、こっちのは偶に神経を逆撫でしてくれる。
「どっちでもいいですけど…」
「じゃ、まぁこんなもんだと思って我慢してよ」
「分かりました…」
「おっ、やっぱあるねー」
「えっ?あぁカラオケですね」
奏音さんの視線を追った先に大手カラオケチェーン店の駅前店があった。
「でも、やっぱりオープンは11時ですか。あと1時間半くらいありますね…」
「そうだねー。うーん、じゃあ代替案でいこうか」
「代替案?」
「ここらだと…――」
また、歩き出した奏音さんについて行く。
カラオケがあった通りから裏道になっている通りを2本入る。
なんか…段々と……?
「あの…奏音さん……」
「うん?」
「どこに行こうとしてます?」
「ここら辺?」
「………」
あのですね、駅前から裏道を進んでいけばですね、こういったゴミゴミとした建物群が現れるんですよね。
「奏音さん…ここら辺って……」
「ラブホ街」
「ラブホ?」
「二人で入る休憩及び宿泊施設」
だから、そういう説明を求めてるわけじゃなくて!
「それは分かってます!そうじゃなくて、なんでラブホなんですか!?」
「代替案なんだけど」
「いえ、普通にカラオケがオープンするまで喫茶店でいいじゃないですか」
「時間がもったいないかなーって」
「大体、わたしたち女同士ですよ?」
「最近のラブホはそんなの規制してないよー。あっ、でも男同士は駄目ってとこはあるのかな?」
へー。じゃなくて!!
「それに、わたしたちまだ学生ですよ?」
「いやいや、ユキさん私らいくつに見えるよ?」
「へっ?」
奏音さん…165cmくらいの身長に彫りの深い顔立ちは年齢よりも大人びて見える。今日の服装は黒の細身のパンツに黒のセーター。セーターからは白いシャツの襟が見えていて、そのセーターの上からダークブラウンのロングモッズコートを羽織っている。肩甲骨くらいまでの紫黒色の髪はサイドテールに纏められていて、いつもより落ち着いて見えた。
わたしは…いつも通りの休日使用の格好だけど、そもそも日本人の年齢より老けて見える。
つまり、二人とも高校生と言っても信じて貰えないような見た目ということですか……。
「ってことで、ここでいっか」
「奏音さん、真面目に言ってます?」
「マジだけど?」
マジですか…
目の前の建物を見上げる。あぁ、間違いなくラブホですね。
「奏音さんは気にしないんですか?」
「別に単なる休憩施設だし?その用途通りに使う必要もないんじゃない?」
「じゃあ、友達と来れるって言うんですか?」
「話しが飛ぶなー。まぁ、そりゃ来ないね」
「じゃあ、止めときましょうよ」
「個室希望。寧ろカラオケよりこっちの方がいい。ってわけで、行こっか」
「…恥ずかしくないんですか?」
「誰も見てないって。それに、ここでグダグダしてて誰かに見られる前に入っちゃう方がいいんじゃない?」
もう入るのは確定事項なわけですか?
「はぁ、分かりましたよ…」
なんかよく分からないけど、奏音さんについて行く。
初めての場所ですが…なんでこんなところにいるんだろう?
「寒くないでしょうか?」
上着をハンガーに掛けながら、奏音さんが聞いてくる。
また喋り方が急に変わるんですね…
「大丈夫ですよ」
「今日はわざわざお時間を頂いてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえ、用事もありませんし。それに、奏音さんの話しも聞きたかったので」
「ユキ様、あれからColor coating《補色》されましたか?」
「…してません」
まだ一週間しか経ってないし…
「お辛くはありませんか?」
「特に体の違和感は感じませんよ」
「本当に、矢原みちるも呼ばなくていいのですか」
「あの、さっきも思ったんですけど、なんで矢原先生なんですか?」
「ユキ様に必要な存在かと…」
「わたしはColor coating《補色》の為に矢原先生と仲良くしているわけではありません!」
「…失礼致しました」
「矢原先生のこと嫌いなんですか?」
「そのようなことはございません」
でも、その呼び方とか酷いし…
そういえば、蘭さんのことは蘭さんって呼ぶのに、なんで矢原先生はフルネーム?
「人間が嫌いなんですか?」
「…相容れない部分もありますが……嫌いではありません。私の父も人間ですし」
「えっ?奏音さんはwerewolf《人狼》と人間とのハーフってことですか?」
「そうです。といいますか、ほとんどの者が人間とのハーフです。主ヴァンパイア同士や守護獣同士の番は、あまりいないのではないでしょうか」
「番?」
「…夫婦ですね」
「生き方が全く異なるのに夫婦になる?」
「私はあまりわかっておりませんが、番に出会うと抗えないのだそうです」
そんなの…相手の人間が可哀想だ……
「それに、主ヴァンパイアの番は共に生きる事が出来ますし、契約守護獣となった守護獣の番も共に生きる事が出来ます」
「どういう意味ですか…?」
「人間としてではなく、主のお力が付くということです」
「………」
化け物に魅入られ…人間じゃなくなってしまう…それは、なんて呪いなんだろう……
「奏音さんのお父様も?」
「いえ、母が契約守護獣ではありませんので」
あー、そもそも契約守護獣ってなんですか?
「あの、守護獣と契約守護獣って何が違うんですか?」
「失礼致しました。守護獣の中で主ヴァンパイアとの従属契約をした個体を契約守護獣と申します。従属契約とは主ヴァンパイアと守護獣の一対一の契約で、一度契約をすると取り消すことは出来ません。また互いにそれ以外の者と契約することは出来ません」
なるほど。ヴァンパイアは少ないって言ってたから契約守護獣は少ないのかな。
「琴音さんもwerewolf《人狼》なんですか?」
「琴音は……はい。werewolf《人狼》です」
それにしては、体育祭の時の動きは硬かったような…
「わたしの事は知ってるんですか?」
「気付いていないと思います。…琴音は、最近になって力が覚醒したので……」
「力の覚醒?」
「はい。全ての者が守護獣や主ヴァンパイアの力を生まれた時から持っているわけではありません。そもそもハーフとして生まれてくるので、力を持っておらず人間として生きる者も多くおります。力が覚醒する者の約10%が生まれた時から約85%は生まれてから5歳までに、約5%が5歳から10歳までに覚醒致します。そして稀に……稀に15歳頃に覚醒する者が現れます」
「琴音さんは…」
「そうです。琴音は15歳の時に覚醒致しました…」
「わたしは…なんなのでしょうか…?」
「……私では、お応えしかねます」
「そうですか…」
「申し訳ありません」
協会《Box》の人からじゃないと話せないってことか…
「奏音さんは何歳くらいに覚醒したんですか?」
「私は生まれた時点での覚醒者です」
「生まれた時からの覚醒者って、どうやって判断するんですか?」
だって、本人まだ喋れないでしょうし。
「守護獣が生まれた時点で覚醒していると…幼獣の姿となり、人型をとれません」
「へっ?幼獣?」
「はい。幼獣です」
といいますと…?
「狼の赤ちゃん?」
「……そうです。個体差はありますが、生まれて半年程は獣型と人型が安定しないようです」
えっ?ど、どいいうこと?
「奏音さんって狼の姿に…?」
「………御覧になりたいのですか?」
正直言うと
「ちょっと見たいと思いましたけど、無理にとは言いません」
わたしも、自分の化け物な姿は見られたくないし…
「…ユキ様になら構いません」
立ち上がった奏音さんが着ているものを脱いでいく。
って!!!!
「奏音さん!?」
「流石に替えの服まで用意しておりませんので」
目を逸らす間もなく着ているものを全て脱いで裸になった奏音さん。
「失礼致します」
一瞬で黒目が金色になり、尖った犬歯が見えたと思った瞬間に体の輪郭が夜に塗り潰されたように曖昧になる。
「ユキ様。契約守護獣を持つ気は御座いませんか?」
「えっ?」
目の前に座った体長160cm程の紫黒色の狼がお座りをした状態でわたしに向かって流暢に言葉を投げかける。
「私を契約守護獣にして頂けませんか?」
「はぁ!?」
こらー、学生がラブホに入っちゃいかーん!
君たち、まだ高校一年生なんだぞーーー!!




