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Last color  作者: 蒼井 紫杏
14/44

第13話

はい。まさかの3部構成…

だって…終われへんかったんやもん…

というわけで、次回に持ち越しです。



痛い!

ジンジンとした痛みと、まだ熱さを訴える感覚を机に突っ伏して我慢する。


治癒速度が遅い気がする……


体育祭で怪我をしたときから薄々感じてたけど、今日の火傷でハッキリ分かった。

あの程度の怪我も今日の火傷も、2年くらい前なら見てて分かるくらいの速度で治ったのに…

今なら…死ねるのかな……


ガチャ

バタン


うん?

保健室に誰か入ってきた?

今日は、部活もないし残ってる生徒もほとんどいないはずだから怪我とか病気とかじゃないと思うけど…

予備室の鍵はかかってるから、誰もいないって分かったら急用じゃない限り出て行くと思うし。


ガチャ


えっ!!!

予備室に入ってきた!?

突っ伏していた状態から体を起こし、顔だけでドアの方を振り向く。


「な、なんで鍵…」

「開いてたけど?」


矢原先生…閉め忘れたのか…


「ノック…」

「あぁ、ごめん」


そういう人でしたっけ…


「で、何してんの」

「…奏音さんこそ」


振り向いた先にはノックもなく予備室のドアを開けた奏音さんがいた。


「作業が煮詰まってきたから気分転換に。きっとまだいるだろうなーって思って来たんだけど…思いがけない格好でお出迎え?」

「へっ?あっ!」


言われて、慌ててバスタオルで上半身を隠す。


「矢原先生は?」

「シャワールームに」

「…えっと、あんまり堂々と言われるとどうしていいか分かんないね」


……ん!?


「ち、違いますから!」

「いや、いいんだけどさー」

「いや、だから違いますって!!大体、女同士ですよ!?」

「別に性別は関係ないんじゃない?この学校多いよ?遠野さん人気あるし」


そんな情報いらないっ!!


「ど、どちらにせよ、わたしと矢原先生はそんなんじゃないです!」

「そんな必死で言わなくても…で、ホントのとこどうしたの?」

「ちょっと……二人して水浸しになってしまっただけです」


結果的には間違ってない…


「ポット…?」

「えっ?」


奏音さんの目線を追う…床にぶちまけられたままのお湯だった液体と、端の方に寄せられた中身のないポット、外れた蓋。


「あっ、そうですそうです。ポットに水を入れて運んでる最中に手が滑っちゃって」

「…………」

「奏音さん?」

「…かかったの?」

「そ、そうですね。あっ!!」

「熱湯がかかったんだね…」


素早く近付いてきた奏音さんに、羽織っていたバスタオルを取られる。

バスタオルの下には赤く爛れた皮膚が…


「これは…その」

「いつ?」

「えっ?」

「どれくらい前に火傷したの?」


どれくらい?


「30分はたってると思いますけど…」

「治りが遅い…」

「はっ?あの……」


奏音さんが温くなったバスタオルを水で濯いでくれたから、冷たくなったバスタオルで患部を覆う。


「痛みは?」

「マシです。あの…ありがとうございます…」

「………」

「…………」


なんか、今更隠すのもどうなのよって感じなんだけど、この状況も…どうなのよ…


「矢原先生はなんなのですか?」

「えっ?」

「どういう御関係なのでしょう?」


なんか急に雰囲気が変わった気がする。

けど…


「さっきも言いましたけど、矢原先生とはなんにもありません!普通です普通!!」

「蘭さんとは?」

「はい!??????普通の友人です!!」


なんで、そんなに誰かとくっつけたいの??何を期待してるんですか!!


「やはり……誰もおられないのですか…」

「誰ともお付き合いしてません!」


あっ、でもよく考えたら、もうすぐ結婚します。


「まさか一人もおられないとは思っておりませんでした…」

「………」


わたしをどんな目で見てたんですか!?

というか何股させるつもりですか!!!


「…では、申し訳ありませんが私で我慢してくださいますか?」

「………」

「……………」

「…………………はぁ????」


こ、これはどういう状況ですか?


「非常事態ですので」

「ちょ、ちょっと待って下さい!ホントに非常事態です!というか理解が出来てません!!」


パ、パ、パニックです!!!


「あまりにも異常です。最近補色されたのはいつですか?」


この状態が異常だと思いますけど!!

…うん?


「………」

「……………」

「……補色?」


補色ってなんですか?そんな日本語知りません…


「そうです。Color coating《補色》です」


Color coating?補色??塗料?


「……なんの話しですか??」

「…えっ?」


いや、何を驚いてるのか分からないですけど、ホントに理解出来ませんから!!


「お、お待ちくださいColor coating《補色》が分からないのですか?」

「分かりませんけど…」


えっ?常識??


「協会《Box》の方で御説明は…」

「協会《Box》?…なんのですか?」

「そんな…まさかユキ様は……Different color《覚醒者》………」

「な、なんですか?」


最後の方の呟きは聞き取れなかったけど…

………なんでいきなりユキ様なんですか!!?


「………」

「……あの、奏音さん??」

「はっ!し、失礼致しました!!取り急ぎはColor coating《補色》を優先致します」


あのですね、だからまず…


「そもそもColor coating《補色》ってなんなのですか?」

「ユキ様の栄養補給です。どうぞ」

「………へっ?」


奏音さんが、髪の毛を掻き上げて首筋をわたしに向ける。


「私のではあまりお力になりませんが、どうか我慢してください」


………で、どうしろと?


「…何をしてるんですか?」

「遠慮なさる必要は御座いません。お口に合わないとは思いますが、この程度の火傷を治癒するくらいのお力は戻るはずです」

「………」


…この人は、何を言ってるの?……何を知ってるの…?


「…ユキ様!お嫌かもしれませんが、これ以上は御身体に障ります!!!」

「………」

「……ユキ様…………」

「……………」

「…………無理にでも飲んで頂きます」

「…えっ?」


突然、奏音さんの目の色が変わった。比喩ではなく、黒目だった部分が金色に…それと同時に口元にも変化が表れる。犬歯のように鋭く尖った……


「……御無礼をお許し下さい」


奏音さんが袖を捲り、自分自身の腕に噛み付いた。

濃厚な血の香りが辺りに漂う。

これがいい匂いだと思う自分自身が恐ろしい…でも、この匂い…酔いそうだ………


気がついたら、血を含んだ奏音さんの真っ赤に濡れた唇が近づいてきて…――


カチャ


「えっ?」

「あっ?」

「ぶっ!!ごふっ!!!ごほっごほっ!!」


や、矢原先生!!

あぁあぁ、奏音さんが盛大に咽ちゃってる……


「…し、白崎さん??」

「あの、矢原先生」

「ごほぅごほっごほっ!」

「な、何をしてるの!?」

「な、何もしてません!?」

「ごふっごふっ!!」


なんで、わたしまでどもっちゃうの!?

奏音さんは簡単に栄養補給って言ってたけど、これ以上怖がられたくない。

幸い、シャワールームから出てきた矢原先生は奏音さんの斜め後ろの位置だから、何をしてたかまで見えてないはず。


「あ、わたしは別にあなたたちがどのような関係でもいいと思うけれど、誰か来るかもしれない場所では、ひ、控えたほうがいいのではないかしら?学生の間は節度を守ったお付き合いが必要だと思うわ。え、えぇそうね、多感な年頃なのは分かっているわ。そ、そういったことにも興味が湧き出すでしょうし、お、抑え難い衝動というのあるのでしょうけど、世の中にはまだまだあなたたちの知らない偏見もあるのだから。い、いえ、わたしはそのような偏見はないわ。わ、わたしもアンテルス女学院に通っていた時代は、そういった関係の方たちもおられましたし、そ、そういった憧れから感情が高ぶることもあ、あると理解できます。だ、誰かを好きになるという気持ちはとても尊いものですし、でもだからと…――」


ど、どうしよう…なんかスイッチ入っちゃってる……

しかも、これは…あらぬ方向で勘違いしてるよね……

…………ねぇ、女同士ですけど…いや、奏音さんは性別関係ないって言ってたし、矢原先生も延々と語ってるけど…これが日本の普通なのかな…そ、そんなことないよね。だって中学ではそんなカップルいなかったよ?えっ、これが高校との違いなの?そ、それとも…―――


「ガハッ!はぁはぁ……不味い」

「………はっ!?奏音さん、大丈夫ですか!?」


何やってんの!わたしまで現実逃避してる場合じゃないのに!!


「だと思うの…――えっ!白崎さん!!吐血!!!それに、腕、酷い出血!!!」


あっ、それはきっと吐血ではないです。


「はぁはぁ…違います。……私とユキ様はそのような関係ではありません」


あっ、吐血の方を否定するのが先じゃないんだ。


「白崎さん、そんなことよりも早く腕の手当てを…――」

「必要ありません。それよりも、先ほどの行為は………救護活動です」


救護活動?うん、間違ってはいない気がする。それに未遂ですし…


「えっ!そんな…」

「や、矢原先生、どうかしたんですか?」


ホントに未遂ですよ??


「傷が無い……」


あぁ…奏音さんの腕の事か……


「はい。ですので手当ては必要ありませんと申し上げました」

「怪我をしたわけじゃなかった?ではこの血は吐血…?」

「吐血したわけではありません。腕に噛み付いて血液を吸い出したんです。腕の傷は自然治癒で治りますから」


そ、そんな説明で大丈夫なの!?


「な、何を言ってるんですか?それじゃ、まるで………」

「まるで…?なんでしょう?」

「まるで…………し、白崎さん……目の色が………」

「……矢原みちる」

「がぁ!!?」


なっ!!!


矢原先生と奏音さんが目を合わせた瞬間、奏音さんの目の色がさっきと同じように金色に変わり名前を呼ばれた矢原先生の動きが止まったかと思うと、一瞬のうちに片手で矢原先生の首を掴んだ。


「ちょ!ちょっと、奏音さん!!!」

「ユキ様、しばしお待ちください。矢原みちるの処理は私が行います」

「いきなり何をするつもりなんですか!?矢原先生から手を離してください!!」


驚いた顔のまま固まる矢原先生の大きく開かれた目が、わたしに助けを求めている。


「手を離すと大声を出されると予想しますが?」

「処理とか望みませんから、手を離してください!」


というか、処理ってなんなんですか!?


「…承知しました」

「ごほっけほっ……」

「矢原先生!大丈夫ですか!?」

「…だ、大丈夫よ」


奏音さんが怖いのか、すぐにわたしの後ろにまわって奏音さんから距離をとる矢原先生。


「首が赤くなっちゃってますね…痛いですか?」

「大丈夫。大丈夫よ」


矢原先生の首筋にはっきりと指の跡がついてしまっている。相当な力で絞めたんだ…


「…ユキ様。どうなさるおつもりですか?」

「…何をですか?」

「矢原みちるの処理はユキ様が?」


奏音さんの不吉な言葉に、矢原先生の体がビクッと震えた。


「何を言ってるんですか?大体、処理とか軽々しく口にしないでください」

「…失礼しました。ですが、矢原みちるへの記憶操作は必要かと考えます」

「記憶操作?」

「処理というお言葉が禁じられましたので。記憶操作という言い方もいけませんか?」

「あっ…」


処理って記憶操作のこと!?紛らわしい言い方しないでよ!

って!!!!


「記憶操作とか出来るんですか!?」

「…はい。そうですか。御存知ないのですね」

「それって、副作用みたいなものは…」

「発生いたしません。不要な部分の記憶を誤魔化すだけです」

「………」


それなら…やってもらった方がいいんじゃないかな?

このまま矢原先生の記憶をいじって貰ったら…わたしもまだ人間でいられる……


「私がおこないましょ…――」

「勝手に記憶を消さないで!!」

「矢原先生…?」

「全ての記憶をなかったことにするのではない。ユキ様との関係が変わるようなことはないぞ?隠すべき部分だけ隠匿するだけだ」

「わたしは、ユキちゃんに関する全ての事を忘れるつもりはないわ!」


えっと…


「…ユキ様のことも知っているのか?」

「……人ではないのね…」


人では…ない……


「それを知って、尚一緒にいると?」

「いけない?」

「……ユキ様」

「えっ?」

「矢原みちるとは普通の関係ではないのですか?」

「いえ、あの普通ですが?」

「矢原みちるは、ユキ様のことを知っているようですが?」

「そう…ですね?」

「知られていても、ユキ様は何もしないのでしょうか?」

「矢原先生が望むなら、記憶を操作する必要はないでしょう…」

「わたしは、記憶を操作されるのは嫌よ!」

「ということなので…」

「…………」


矢原先生が、わたしのことを知ってる上で恐怖するよりも記憶を消すほうが嫌だというなら、わたしには何も出来ない。


「あの…恐れながら……ユキ様は何故矢原みちるでColor coating《補色》なされないのでしょうか?」

「へっ?」

「そこまで知られていて、記憶操作もColor coating《補色》もなさらないのは何故なのかと…」

「そんなの…」


あいつみたいになるのは嫌だ…


「Color coating《補色》ってなんなの?」

「ユキ様の栄養補給」


うん、説明に優しさも何も無い。


「ユキちゃんの栄養補給?…………血が必要ということ?」

「そういうことだ」

「矢原先生を巻き込むつもりはありません!奏音さん、勝手なことは言わないでください」

「申し訳ありません。失礼致しました。ですが、至急Color coating《補色》が必要で御座います。矢原みちるでしないのであれば、やはり私をお使いください」

「…必要ありません」

「ユキ様。先程から火傷の治癒が殆ど進んでおりません。あまりにもお力をなくされております。Color coating《補色》だけは妥協致しかねます」


確かに、火傷の治りが遅い。

…だからこそ……もしかしたら


「このままColor coating《補色》をしなければ死ねますか?」

「ユキちゃん!?」

「…いえ。ですが、吸血衝動で身体と精神のバランスがとれなくなると予想されます」


なんだ。どうやっても死ぬことはないんだ…


「具体的には?ユキちゃんはどうなるの!?」

「精神崩壊…力の暴走……人を死に至らしめるだけの存在…」

「そんな…」


わたしはなんなんだろう…人として血を求めたくないのに、血を求めなくても人ではいられない。

何をしても、わたしは人として存在することは出来ない…

死ぬことも出来ずに、ただ人の血を求めるだけの…化け物………


「ユキちゃん…わたしの血を使いなさい」

「…嫌です」

「ユキちゃん!!」

「わたしは、矢原先生を穢したくありません!!」

「白崎さん。Color coating《補色》のことを教えて。どうすればいいの?」

「矢原先生!?」

「ユキ様が血を飲む。ただそれだけ」

「わたしはどうなるの?」

「どうにもならない」

「「えっ?」」


どうにもならない?


「わたしもユキちゃんみたいになったり…?」

「何故?ただのColor coating《補色》でそんな現象はおこらない」


どういうこと?だって…わたしは……


「ユキちゃん、聞いた?わたしは穢されたりしないのよ。貧血くらいは我慢出来るから」

「私がユキ様にColor coating《補色》する場合、多量の血液が必要だが、矢原みちるは人間だからそんなに必要ない。10ml程あれば十分だ」

「そんなのでいいの?」

「ユキ様、矢原みちるで宜しいですか?」

「…………」

「ユキちゃん?」

「…………」

「ユキ様?ユキ様!」

「えっ?な、なに?」

「どうされたのですか?」

「…少し考え事してただけです」


わたしはなんなんだろうって…


「ユキちゃん。わたしでColor coating《補色》しなさい」

「矢原先生?」

「いいわね?」

「よ、良くないです」

「ユキ様。どうか御願い致します」

「白崎さん、血はどこからのでもいいの?」

「構わない」

「そう。じゃあ」

「矢原先生!!何してるんですか!!!」


流しにあったナイフで自分の腕に薄く赤い線をつけた矢原先生の姿が……

あぁ…この匂いが……


ちょっとー、誰かユキに服着せたってー!!

女の子やのに…



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