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Last color  作者: 蒼井 紫杏
11/44

第10話

なんか姉妹出てきたー。


ちょっと、名前が主人公より目立つのですが…


「やはり寂しいですね」

「うん。そうですね」


恒例となりつつあるお昼休みの時間、いつもの保健室とは違う空間に少しの違和感を覚えながら、もう何度目かになる会話を繰り返す。


「イギリスですか。遠いですね」

「まぁ、そうですね」


今週は月曜日からずっと同じような会話をしている気がする…


11月に修学旅行というイベントがある聖アンテルス女学院では、体育祭が終わり一息ついたと思ったら、すぐに一週間の日程で2年生がイギリスへ飛び立つ。

今年に関しては、自分には関係ない事として忘れていた修学旅行なんだけど、矢原先生は養護教諭なわけで…

引率者として同行するということを行く直前である先週末に知らされたわたしと蘭さんは、部屋の主のいなくなった保健室でお昼を食べることも出来ず、蘭さんの提案で生徒会室を間借りしているのである。

部外者のわたしが勝手に使用するのはどうかと思ったんだけど、修学旅行の期間は生徒会長が不在だし、一週間だけだし…と蘭さんに押し切られた。


「そういえば、ユキさんはイギリスの御生まれでしたか?」

「そう…ですけど…」


なんで分かったんだろう?


「わたし、言ったことありましたっけ?」

「いいえ、以前みちる姉さんとお話しされていた時イギリス英語だったようなので」


あぁ、矢原先生と話してたときか。


「よく分かりましたね。そういえば矢原先生もBritish Englishでしたか」

「みちる姉さんはイギリスに住んでおられたんです。私も2年程みちる姉さんと一緒にイギリスにおりましたから、イギリス英語は問題ありません」

「えっ?イギリスにいたんですか??」


初耳ですが!?


「みちる姉さんがお医者様なのはお話ししましたでしょうか」

「えぇ。聖アンテルス病院にお勤めというのも和志さんからお伺いしました」

「そうですね。留学して大学を飛び級。そのままイギリスの病院で経験を積まれて、日本に戻られたんです」


もの凄くエリートじゃないですか。


「凄いんですね…あれ?蘭さんは留学ですか?」

「私は、母が亡くなってからみちる姉さんのところに引き取られたのです。父もわたしが産まれてすぐに亡くなっていましたので、そのままイギリスに」

「御爺様がおられたのでは?」


あっ、しまった突っ込み過ぎた。


「大した理由ではないのですよ。元々みちる姉さんと仲良くして頂いておりましたし、みちる姉さんから一緒に暮らさないかと声を掛けて頂いたので。祖父も私のことを考えてみちる姉さんの方がいいと判断されたのでしょう」


大した理由じゃなくて良かった。


「本来であれば、みちる姉さんはイギリスの病院で実績を残されていたでしょうし、日本に戻ると決めたのも私の為なのでしょう…申し訳ない事です」


大した話しになりました。


「で、でも日本に戻ってきたから矢原先生は和志さんと出会って結婚出来たんですよね。日本にいることが運命だったんですよ」

「みちる姉さんと和志さんは幼馴染らしいのですが、結婚されたのは日本に戻ってきたからかもしれませんね」


幼馴染でしたか…


「いつイギリスから戻ってきたんですか?」

「4年前ですね。私が中学に入学する時に戻ってきました」

「あれ?今は一人暮らしなのですか?」

「そうです。と言いましても、みちる姉さんの住んでいるのと同じマンションですけれど」


あの贅沢マンションか…


「じゃあ、心強いですね」

「みちる姉さんも、祖父も心配性ですから」


心配してくれる誰かがいるということは幸せなことなんですよ。


「矢原先生が向こうにいる間は和志さんも寂しいですね」

「ふふふ。私達も寂しいですしね」

「そ、そうですね」


また冒頭の会話を繰り返すの?


「あっ、そういえば今日の分も和志さんからお預かりしていますよ」


おっ、どうやら繰り返すのは回避したみたい。


蘭さんが冷蔵庫から取り出したタッパーの蓋を外すと数種類のフルーツが彩りよく詰められていた。


「ありがとうございます」

「今日はサラダじゃないですね」

「デザートですか…」


何故か矢原先生が毎日持ってきてくれてたサラダを、今週は和志さんが継承してくれてるらしく金曜日の今日はフルーツになっていた。

しかし、ただのフルーツなのに皮の剥き方とか飾り切りとか……


「色々な切り方があるのですね」

「…食べるのがもったいないような気がしちゃいますね」

「和志さんらしいですけれど」


普通で良いのに…


「蘭さんも一緒に食べましょう」

「有難う御座います。遠慮なくいただきます」


しかし、和志さんってホントに…


「可愛らしいですね…」

「そうですね…」


やっぱり、誰でもそう思いますよね…


ガチャ


うん?


「あー、いたいた」


誰??


食べ終わったタッパーを片付けてるところに、ノックも無しに空けられたドアから一人の生徒が入ってきた。


「ごめん、食事の邪魔しちゃった?」

「いえ、もう食べ終わりましたよ。奏音(かのん)さん、今日は何かありましたか?」


奏音さん?

うーん、知ってるような知らないような…


生徒会室に来たって事は生徒会の人なんだろう。二年生は修学旅行だから、必然的に一年生か三年生ということになる。チラッとネクタイの色を見た。


聖アンテルス女学院は御嬢様学校のイメージであるセーラー服…ではない。

所謂デザイナーズ制服と言われるもので、基本の形はブレザーにプリーツスカートとカッター、ネクタイ、ハイソックス、ローファー。


ネクタイは各学年毎に色が指定されていて、一年生はワインレッド、二年生はコバルトブルー、三年生は黒。全てのネクタイに白で斜めに細めのストライプが入っていて校章の入ったシルバーのネクタイピンを使用する。

スカートはプリーツスカートで、基本色をワインレッドに白・黒・コバルトブルーでのチェック柄で、スカートの裾の部分に白色の細いラインが2本引いてある。

カッターは白色に少しだけ黒色を落としたような薄い灰色。

ブレザーは逆に黒色に少しだけ白色を落としたような濃い灰色でダブルボタン、左胸のポケットの部分に校章の刺繍。

今の時期は、Vネックのセーター、ニット生地のVネックベストかカーディガンを選択して着用出来る。色は全てブレザーと同じ濃い灰色で、胸元に小さく校章が入っている。

靴下は校章が小さく入った黒色の膝下丈ハイソックスで、靴は学校指定の黒のローファー。

ちなみに、鞄も学校指定だったりする。


わたしは制服に可愛さとか求めていないけど人気のある制服らしく、聖アンテルス女学院の象徴、御嬢様ブランドとして憧れる女子は多いらしい。


それで目の前の奏音さんはというと、セーターから見えるネクタイのカラーがワインレッド。つまりわたし達と同じ一年生ということになる。


「いやー、生徒会の用じゃないよ。遠野さんに話しがあってさー。今週は生徒会室で遠野さんと昼食を取るって聞いてたから、丁度いいかなって」

「ユキさんに?」


わたしに??


「あ、あのなんでしょう?」


というか誰?


「妹の琴音(ことね)を助けて頂いて、有難う御座いました」

「へっ?」


急に頭を下げられたけど……どういうことですか?


「体育祭のときですか?」

「そう。ちゃんとお礼を言わないとと思ってたんだけど、なかなか機会がなくてさー」


蘭さんが助言してくれたけど…体育祭?

体育祭体育祭……??


「ユキさん、体育祭の棒倒しの時にお助けになった女の子を覚えていますか?」

「えっと、あんまり覚えてないですね…」

「あっ、覚えてなかったんだー。あん時のは白崎琴音(しろさきことね)。で、私は姉の白崎奏音(しろさきかのん)


同じ一年生で姉妹ということは、双子ってことか。

って言っても、ホントに顔も覚えてないし気にしなくていいのに。


「そんな怪我もしていないですし、気にしないでください」

「いやいや、そんなわけにいかないっしょ。大きな怪我はしてないかもしれないけど、助けられたのは確かだしね。琴音も来るって言ってたんだけど、担任に捉まってるから遅れてるんだよね」


えっ、いやそういうの遠慮したいんですよ……


「そんな、わざわざいいですよ。今日はもう教室にもどり…――」


ガチャ


あっ?


「きたきた。琴音ー」


どっかに隠しマイクでもあるんじゃなかろうかというタイミングですよね…


「奏音ちゃん、どこまで言った?」

「取り合えずお礼は言ったよ。琴音も言いなね」


…もう好きにして


「お礼が遅くなってごめんなさい。体育祭の時に遠野さんに助けて頂いた白崎琴音です。あの時はホントに有難う御座いました。遠野さんが咄嗟に動いてくれなかったら大怪我してたかもしれません」

「いえ、あのお姉さんにも言ったんですけど気にしないでください。無意識に動いてしまっただけですし、怪我も治ってますから」

「ユキさん、そこは素直に受け入れてはいかがでしょう?」

「えっ?」

「あの時は、私もユキさんの背にかばって頂いて助かりました。感謝しています」

「えっと、はい。あー…どういたしまして…?」


なんで蘭さんまで便乗しちゃってんですか?


「はい。それでいいと思います」


なんで、そんなにみんな満足気?


「で、ここまでは琴音のお礼なんだけど、ここからはお願い」

「蘭ちゃんからは何か言った?」

「いえ…あのユキさんはそういうことにあまり関心がおありではないので…」


なんだなんだ?


「蘭さん言ってないんだ?」

「す、すみません」

「んじゃあ、どうしよ」

「あたしが説明しようか?」


なんでもいいですけど、聞かなきゃいけないならサラッとお願いします。


「いえ、私が話します」


蘭さんが、何故か申し訳なさそうな顔でこっちを見る。

そんなに話しにくい内容なの??


「蘭さん?なんですか?」

「あの、ユキさんはこの学校が好きですか?」

「へっ?」

「「えっ???」」


もの凄く唐突な質問でびっくりした…

というか、白崎姉妹も驚いてるってどういうこと?


「えっと、…好きですよ」

「ありがとうございます」

「「「はっ?」」」


今度は完璧にハモレました。


「私もこの学校が好きです。周りに住んでおられる方。学校を好きでいてくださっている方達。都会の喧騒から離れ、守られてきた周りの自然。歴代の先輩方が守ってきてくださった校風。この学校を好きだと思って頂けるように、私は生徒会に入っているのだと思います。ですから、ユキさんがこの学校を好きだと言って下さって凄く嬉しいです」

「は、はぁ…頑張ってください…?」

「ユキさんは、生徒会のメンバーを御存知ですか?」


これ、どういう展開?


「……知りませんが…」

「二年生が4名と一年生が3名。現在は実質この7名で生徒会を運営しております」

「あっ、ちなみに一年生3名の内訳が、蘭さんと私と琴音ね」

「はぁ…」


それは、なんとなく


「選挙前までは、三年生が4名おられて、会長・副会長も三年生でした」

「はぁ」


で??


「現状の7名で運営していくのは、少ししんどいですね。来年度の一年生が入学するまでは、この状態が続くのでしょうか…」

「はぁ…大変ですね…」


この話しは、どこに向かってるんでしょう。


「ところで、ユキさんは生徒会役員がどのように決められているか御存知ですか?」


うん?


「9月に生徒会役員選挙がありましたね」

「そうですね。会長と副会長は生徒会役員選挙で決まりますね。では、その他のメンバーは?」


なんだか嫌な流れを感じる…


「確か…会長からの指名だったかと…?」

「その通りです。今の会長は二年生の安東(あんどう)先輩で、副会長は私が任を受けております。現在その他の役員をしてくださっている方たちは、以前の会長が指名された方たちで、そのまま安東先輩が指名を継続されました」

「…そうなんですか」

「ユキさん」

「………」


返事しちゃいけないと本能が訴えてます。


「ユキさん」

「……………」


うぅぅぅぅぅ


「…はい」

「生徒会からユキさんに指名が出ております」


やっぱり、そういう事かー

蘭さんの話しが遠回り過ぎだわ。


「申し訳ありません。非常に光栄なお話しですが、お断りします」

「えっ、なんで?」

「断る流れじゃないと思ったのになー」


いや、もの凄く断る流れだったし…

寧ろ受ける要素が何も無かったでしょうに。


「ですから、ユキさんに御声掛けするのはお止めするように申し上げましたのに」

「最近、蘭ちゃんと遠野さんが仲良くなったからチャンスだと思ったんだけどなー」

「えーーー、ねぇ理由を聞いていい??」


理由なんて分かりきってる。


「わたしは目立つのが苦手なので」


生徒会に入ったら、平穏な学生生活から遠ざかる。

今の平穏で静かに人の関わり最低限の生活を乱したくないし!


「「………」」

「…ユキさんにはあまり御自覚がないようで」

「にしてもさー」

「遠野さん十分目立ってんじゃん」

「えっ?どこがですか??」

「容姿、成績・スポーツ」


まぁ、容姿は髪の毛だけでも目立つから仕方ないけど、成績、スポーツはそうでもないはず!


「高身長で整いすぎた顔立ち。嫉妬すら出てこない日本人では有り得ない理想のプロポーションに、サラッサラのブロンドヘアー」

「成績優秀で学年2位。テストは常に蘭ちゃんと1位争いしてるし」

「だからと言って運動出来ないわけでもなく、球技だろうが陸上競技だろうが武道だろうがなんでもこい。運動部でもないのにどのスポーツでもレギュラー争い出来そうな運動能力があって、でもどの運動部の勧誘も断ってる」


あれ?目立ってるの??

成績は主席じゃないならいいかと思って調整してたし、スポーツなんかも部活をやってる生徒にその競技では勝たないようにしてたし…もちろん一つの方向に特化しないようにどの部活からの勧誘も断ってたし……

何がダメだったの??


「正直申しますと、ユキさんの生徒会指名の御話しは随分前から上がっていたんです」

「ぶっちゃけ、蘭さんより目立つ生徒だしねー」


蘭さんより目立ってる!?

そ、そんなはずない!!


「ただ、遠野さんって人を寄せ付けないというか話しかけにくい雰囲気で、今までは指名の話しも延び延びになってたんだけど…」


それは、話しかけないでオーラです。


「そっかー、ダメかーー」

「すみません」

「どうしても?」

「ユキさんの意思を尊重致しましょう」

「そうなんだけどさー」

「申し訳ありませんが…」


今までが目立ってたって言うなら、これ以上目立つのは控えなきゃ。


「あっ、生徒会役員が目立つってならさ、裏方のお手伝いとかはダメ?」

「お手伝いですか?」

「それいいかも!要は人手が足りないときに助けてくれるメンバーがいればいいんだし」

「確かに、そうして頂けるなら助かりますが…」


そりゃ、まぁ生徒会に入れと言われるよりはマシだけど…


「…少し考えさせて頂いてもいいですか?」

「そうだね。安東会長が帰ってくる来週くらいに返事決めてくれたらいいよー」

「分かりました」


なんか、面倒なことになったな…


「じゃあ、うちらは先に教室戻るわー」

「蘭ちゃん、また放課後ねー。ばいばーい」

「はい、ではまた」

「遠野さん、じゃあねー」

「「お邪魔しましたーーー」」


バタン


「はぁーーー」


ドアが閉じられて、思わず溜め息が出た。


「ユキさん、強制ではないのですし気楽に考えればいいと思いますよ」

「まぁ、そうなんですけどね…」

「もちろん、一緒に生徒会の仕事が出来れば嬉しいですが、私はユキさんと御友達としてお話し出来るだけで嬉しいですし、お手伝いの事も無理する必要はありませんよ」

「ありがとうございます」


うん。嬉しい。


「私達も戻りましょうか」

「そうですね」


ガチャ


面倒だけど、ちゃんと考えよう……


和志さん…


何こだわり?


まぁ、きっとみちるさんに乙女弁当を作る事が出来ないからストレスが溜まってたんでしょうが…

来週には帰ってくるよ。良かったね。


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