7話
店の出入り口で、イライラとしながら待っているチークの耳に微かに騒動の音が聞こえてきた。
どうやら、上手くいったらしい。
宇宙軍のミサイル横流しで知り合ったヴァンスキーが、偶然、通りかかったのは幸運だった。上手くいけば博士からたんまりと大金をせしめることができだろう。
チークは嬉しさのあまり、嫌らしい笑い顔を浮かべた。店に入ろうとした女性3人組みがはっとした様子で立ち止まって素通りして行ったが、チークは全く気づかなかった。
チークはルイスとテレサと同じ海賊船の乗員だった。
解散した時、ルイスとテレサは古代種族の研究で有名なさる教授、チークは名前を忘れたが、有名な教授のところに訪ねていったが、チークはブラッディ・カレンが率いる海賊船マルシア号に売り込みに行き、乗員にして貰った。
売り込みに使った切り札がミサイルの横流しだった。
海賊船マルシア号は本格的な点検とミサイルなどの武器・弾薬の補給をするためにジャニアス星系に寄港した。
船長のカレンはマルシア号の本格的にメンテするなら技術レベルが高いことで有名なジャニアス星系にかぎると考えて、ジャニアス星系にしばらく滞在することにした。
チークは偶然に宇宙軍からの横流しミサイルの情報を得ていたため、カレンとヴァンスキーに接触し、仲介役を買って出て、無事に取引を済ましたところだった。
そして、祝杯をあげるために、ある高級クラブで高い酒を飲んでいるところで、古代種族を研究しているピッカード博士を見つけた。
その時、ピッカード博士は古代種族の学説について、高級クラブの女の子に講義しているところだった。
ルイスが古代種族の遺跡の手がかりである円筒の記憶装置を持っていることをルイスが仲間に話していたことを小耳に挟んでいた。
チークはルイスが持っている円筒の記録装置をピッカード博士に買わないかと話を持ちかけたところ、なんと100万クレジットで引き取ると申し出てきた。
話を聞くと、博士はフォーニス星系の領主であるピッカード伯爵の長男だった。
今晩、その記録装置を引き渡す手はずになっている。
宇宙港を探せばルイスが見つかるはずだと考えて、ずっと探し回っていた。そして、先程、やっとルイスとテレサを見つけた。
ルイスに気づかれないようにつけながら、どうやって、円筒の記憶装置を取り上げるか、思案していたところにヴァンスキーとばったり会った。と言う訳である。
突然、店のドアが乱暴に開けられると、ヴァンスキー達4人が出てきて、そのまま通りに出た。
「ヴァンスキー」
チークは慌てて呼びかけた。
チークの声に気づいてヴァンスキーは立ち止まった。
「任務は失敗だ。運が悪かった。後は知らん」
ヴァンスキーは早口で言うと3人を追いかけて行ってしまった。
チークは4人が走って行くのを唖然と見送った。はっと気づいたときは追いかけるにはすでに遠すぎた。
仕方がないので、ルイスに張り付くためにチークは店の中に入った。ルイスに張り付いていれば奪い取るチャンスがあるかもしれない。
店の中を見渡すとルイスとテレサの2人は見知らぬ3人組み、一人は猫耳の頭飾りをした女性と男性2人と一緒に歩いてくるのを見た。
ルイスに見つからないように素早く横を向いた。5人で同じテーブルに座ろうとしているようだ。
チークの前を給仕が通った。
「ちょっと、すみません」
チークは給仕を呼び止めた。
「何でしょう」
給仕は立ち止まるとチークに答えた。
「先ほど、店の入り口から4人の大男が飛び出してきて危うくぶつかりそうになったんだが、何かあったのか?」
「あぁ、あの4人組みですか、お客さん、惜しい物を見逃しましたよ。
いやぁ、凄いのなんのって、とにかく凄かったんですよ。
何が凄かったかと言うと、店の奥で4人とそちらのウォルフ人が突然けんかを始めたんですよ」
給仕は興奮が冷めていないのか、仕事をすっかり忘れている。
「それで」
チークは適当に相槌を入れた。
「そしたら、あの猫耳のお客さんが物凄い声で「きおつけー」と怒鳴ったんですがね。
いやぁ、迫力がありましたよ。私も思わず気をつけの姿勢をとっちゃいました。
私だけじゃなくて、テーブルに座ってたお客様が何人も立ち上がって、気をつけをやってましたね。
そのあと「きさまーなにしてるか」、「私の命令に反抗するつもりかー」てな具合で、あっと言うまにけんかを収めてしまったんです。
当の4人組みは慌てて逃げましたね。お客さんとぶつかりそうになったのがその4人組みでしょう」
「そうか」
チークがちらりと後ろを見ると、ルイスとテレサの丁度後ろのテーブルが空いたところだ。
「ちょうど、あそこが空いてるな、座ってもいいか?」
チークが給仕に指差して聞いた。
「えぇ、もちろんです」
「それじゃ、ビールを持ってきてくれ」
「承知しました」
チークは給仕に先導させて空いた席に向かった。
チークはルイス達に気づかれないようにルイス達に背中を向けて座ると給仕は汚れ物を盆に載せて奥に行った。
チークはいつも持ち歩いている盗聴用補聴器をルイスのテーブルの方に向けて。何げない風を装いながらルイス達の会話に集中した。
「ご馳走様、とても美味しかったわ」
テレサはおなかを撫でながら満足そうに言った。
「おせっかいかも知れないけど、これからどうするつもり? これでもジャニアス出身だから安い宿とか紹介できるよ」
ルーカスが口火を切った。
「あぁ、宿は確保してあるから大丈夫だ」
テレサの代わりにルイスがルーカスに答えた。お金に困っている訳ではないが働き口を早く見つける必要はある。
「ねぇ、トウゴウ教授のことを聞いてみたら。ジャニアス出身なら知ってるかもよ」
「トウゴウ教授? 船長の親戚ですか?」
ルーカスがマックスに聞いた。
「そうだな。ひょっとしたら俺の親父のことかもしれないな」
「お前、教授の息子か?」
ルイスが驚いてマックスに聞いた。
「俺の父親はシュウイチ・トウゴウで確かに教授と呼ばれてる」
マックスが答えた。
「そうか、それなら頼みがある。トウゴウ教授に会わせてくれ」
ルイスがマックスに頼んだ。
「それは無理だな。両親は個人用宇宙船で出発したよ」
「何処へ行った? いつ戻る?」
「俺の両親は古代種族の研究のために、宇宙のあちらこちらと自分用の宇宙船で飛び回ってる。何処にいるのか全く分からないし、いつ帰ってくるも分からん、何年も帰ってこないかもしれない」
ぶっきりぼうな質問に気を悪くした様子を見せないでマックスがルイスに答えた。
「えぇー、宇宙船で行いっちゃったのぉ。ルイスちゃん。どうしよう?」
テレサがルイスに聞いた。
「そうか、それなら仕方がない」
ルイスはテレサの質問を無視して、がっかりした様子で言った。
「どうして、親父を捜してるんだ。親父のことを教えたんだから、そっちも、理由を教えてくれてもいいだろう?」
「あぁ、そうだな、さっき、あんた達に取り返してもらった円筒が古代種族の遺跡に関する情報らしい。それで、円筒を調べて貰うつもりだった」
「へぇ、古代種族の遺産ですか? そいつは凄い」
ルーカスが驚いて言った。
「船長なら、なんとかなるんじゃないですか?」
ヴァンがマックスに言った。
確かに、ミネルバ号には研究用の設備が整っているので調査することは可能かもしれない。
「どうかな、試してみないと、何とも言えないね」
マックスはヴァンに答えた。
「船長のお父様を探し出すのは大変ですよ。超高速宇宙船をチャーターしないと無理だと思います」
ヴァンがルイスに言った。マックスはヴァンがルイスに調査を依頼するように誘導しているのが分かった。
「ルイスちゃん。こちらの船長に調べてもらったら? トウゴウ教授の息子さんだから大丈夫だよ」
テレサがルイスに言った。ルイスはじっとマックスを見た。
「分かった。船長を信用する。調べてくれないか?」
マックスはルイスの話に興味を持った。しかし、ミネルバ号は2日後に出発する予定でいる。今晩と明日の2日間で調査できるかどうか難しいところだ。
しかし、長い付き合いなので分かるのだが、ヴァンはかなり興味があるようだ。ルーカスも期待した顔をしている。
「ちょっと、見せてくれないか?」
マックスはルイスに聞いた。
ルイスは、懐から円筒を取り出すとマックスに渡した。
マックスは円筒を色々な角度から眺めてみた。銀の円筒は古い形式のアスラン人の記憶装置に思えるが、データは消えているかもしれない。
「昔の記憶装置だな。まぁ、詳細に調べないと分からないが、データは消えてる可能性もある。期待しない方がいいだろう」
マックスは円筒をルイスに返した。
「データが消えていなければ、取り出すのに2日か3日、データを解析するのに何日必要かは入ってるデータによるね。はっきり何日とは言えない。
俺達は2日後に出航する予定だから、出航する前に解析を終わらせるのは無理だ。入ってるデータを取り出せるかどうかと言ったところだな」
マックスは答えた。
「そうか」
ルイスはがっかりして言うと、マックスから受け取った円筒を懐に入れて黙り込んだ。
「船長、フォーニス星系につく頃には、解析が終わっているんじゃないですか、ルイスとテレサにはフォーニス星系まで乗客として乗って貰うってのはどうですか?」
ルーカスが提案した。
「乗客を乗せる予定はありませんでしたから準備が出来ていません」
ヴァンが残念そうに答えた。
「それなら、遺跡を見つけるまで運賃代わりに働かせてくれ」
ルイスはマックスに頼んだ。テレサも期待した顔でマックスを見た。
「ルイスとテレサさんは何ができるんですか?」
ルーカスが聞いた。
「エンジニアの資格を持ってる。メカの扱いも得意だ」
ルイスが答えた。
「私は砲撃手とスチュワートの資格があるわ」
テレサが答えた。
「へぇ。商船か何かに乗ってたんですか?」
ルーカスが聞いた。
「あぁ、つい最近までな。ジャニアス星系に着いたら船長が船をスクラップにして解散した。船長は引退だ」
「船長。フォーニス星系まで試験採用ってことで、どうですか?」
ルーカスが提案した。
「乗組員はもう十分に揃っているからなぁ」
マックスが答えた。ルイスがマックスを真剣な表情で見ている。
マックスは、何やら、事情があるように思えた。これだけ真剣な表情はなかなか出来る物じゃない。
「いいだろう。遺跡を見つけるまで試験採用だ。ただし、給料は通常の半額だぞ」
マックスは提案した。
「やったー!」
テレサが嬉しそうに言った。
「ありがとう。助かるよ」
ルイスはマックスに礼を言った。
「それじゃ、乗船の準備をしてミネルバ号に来てくれ。V28番にドッキングしている。乗船するときに履歴書を出してくれ」
「分かった」
ルイスは答えると懐から円筒を取り出してマックスに差し出した。
マックスは円筒を受け取った。
「これは、船長に預ける。よろしく頼む」
ルイスはマックスに頭を下げた。
「それじゃ、ミネルバ号に戻ろう。乗船は明日になるか?」
マックスは尋ねた。
「遅くてもいいなら、今日中に乗船したいが、いいか?」
ルイスが聞いた。
「あぁ、何時でもかまわんぞ」
マックスが答えて立ち上がった。
「それでは、行きましょう」
ヴァンもルーカスに声を掛けた。ルーカスも立ち上がった。
「それじゃ、また、後で」
ルーカスはテレサとルイスに手を振って船長の後を追った。
ルイスとテレサはマックス達3人を見送ると、すぐに、立ち上がって店を出た。
後ろのテーブルで、最後まで会話を聞いていたチークは5人が出て行った後、しばらくじっと座っていた。
ドウゴウ教授の息子がもしデータの取り出しに成功したとすると、きっとお宝を探しに出かけるだろう。会話の中で船の名前らしいのが出てきた。「ミネルバ号」だ。
船の名前が分かっていれば、行き先を調べることが出来る。
カレン船長か隊長を説得して後を追えないだろうかと考えたが、説得する理由が何も思いつけなかった。
チークは残りのビールを飲み干すと勘定をすませて店を出た。
博士との約束はブツが手に入らなかったのですっぽかすことにした。