2話
叔父が用意してくれた特別仕様のリムジンは超上空を高速で飛行した。上級将校用エアラフトと同様に普通のエアラフトの倍ぐらいのスピードが出ている。
一般的なエアラフトの飛行速度は高速タイプで300km/hぐらいだが、特別仕様のリムジン型エアラフトは600km/hぐらいのスピードが出る。
ただし、ジャニアス星では300km/h以上の速度を出す場合、地上3000m以上と規制されている。
カトウに到着時間を確認すると11時半頃との返事があった。約1時間半のフライトだ。宇宙軍基地から造船所まではさらに2時間のフライトだそうだ。
飛行プランについてカトウと相談した結果、ヴァンに昼食用のサンドイッチを用意して貰い、宇宙軍基地から造船所へ直接向かうことにした。
造船所には14時頃に到着することになる。
11時半頃、予定通り宇宙軍基地が見えてきた。
事務局は、宇宙軍基地の入り口にある。奥の方にシャトルの発着場が見える。ジャニアス星では例え軍艦でも地上に降りることは禁止されているので、軍艦は惑星周回軌道上にある宇宙軍宇宙港に繋留される。
軍艦の乗組員はシャトルで宇宙港と地上の宇宙軍基地の間を往復して、地上で休暇を過ごすのが普通だ。
リムジンが降下して行くと、宇宙軍基地の入り口でヴァンが待っているのが見えた。
ヴァンは見た目は20歳ぐらい、身長は178cm。腰まである黒い髪。目は緑。スレンダーで超がつくほどの美人だ。
フルネームは、ヴァネウス・オリンピア。
マックスとお揃いの黒のスペースジャケットを着ている。ただし、こちらのジャケットは体の曲線美を際立たすようなデザインになっており、ヴァンがすばらしいスタイルの持ち主であることがひとめで分かる。そして、頭から黒い猫耳が出ており、お尻には黒い尻尾がゆらゆらと揺れていた。
普通の人間と違うのは耳と尻尾だけで明らかにアスラル人(猫人間)ではない。
小さい頃から一緒に育てられた仲だが、両親もどのような種族なのか知らないらしい。帝国宇宙軍に一緒に入隊し宇宙軍でもずっと一緒で、退役時、ヴァンは副官で階級は中佐だった。
リムジンは帝国宇宙軍基地入り口の前に着陸りた。
カトウがすぐに降りて、後部座席のドアを開けた。マックスはリムジンから下りてヴァンに手を振った。
マックスに気づいたヴァンは4人の兵隊に大きなトランクやボストンバックなどの荷物を担がせてリムジンに近づいて来た。
4人の兵隊は素早く荷物をリムジンのトランクに積み込むと、マックスとヴァンに敬礼して宇宙軍基地の中に入っていった。
「ヴァン、こちらは、叔父の秘書のカトウさんだ」
マックスはヴァンにカトウを紹介した。
「はじめまして、カトウと言います」
カトウは答えるとヴァンにお辞儀をした。
「ヴァネウス・オリンピアと言います。よろしくお願いします」
ヴァンがカトウに答えてお辞儀した。
「それじゃ、次はオクラ造船所に行こう」
マックスは2人に声を掛けてリムジンに乗り込んだ。
14時頃、予定通りオクラ造船所が見えてきた。
オクラ造船所は人里はなれた山間に建てられている。小型宇宙船、エンジン、ドライブ、登載武器などの新製品が開発されているため、最高レベルのセキュリティが施されている。
無許可で近づく飛行物体は容赦の無い攻撃を受けることになる。
オクラ造船所には5,6隻ぐらいの宇宙船が着陸できる宇宙船着陸床がある。完成した宇宙船はこの着陸床に移動されてから宇宙港に回航される。
リムジンは直接宇宙船着陸床に向かって下降していった。
真下に流線型で翼がある非常に美しい形をした宇宙船が見えた。あれがミネルバ号のようだ。
「トウゴウ様、下に見えている宇宙船がミネルバ号です」
助手席に座っているカトウが後部座席の方へ向いて声をかけた。
「船の受け渡し処理は管理ビルの応接室で行いますので、ミネルバ号の上をゆっくり飛行してから管理ビルに行きます」
「ありがとう」
カトウの配慮にマックスはお礼を言った。
眼下に、白く輝くミネルバ号が見えてきた。
黒いラインが流れるように塗装されている。400tクラスとしてはすこし大きめのサイズだ。
全体的にスペースシャトルのような形をしており、丸くとがった先端から流れるような曲線美を描いてそのまま水平翼になって後方へ流れていく。縦に二枚の垂直翼。白く輝く船体。船尾には通常ドライブの大きな丸い噴出口が二つと小さな噴出口が二つ見える。
さすが母が設計した宇宙船だ。言葉で表現できないほど美しい船だとマックスはミネルバに見惚れた。
リムジンはカトウの言う通りミネルバ号の上をゆっくり一周した後、管理ビルに向かった。
リムジンはゆっくりと管理ビルの入り口近くに降りた。
運転手とカトウがすぐにリムジンを降りて左右の後部座席のドアを開けた。マックスとヴァンは開けられたドアから降りた。
「荷物は移動用カートに移します」
カトウはマックスに説明した後、運転手に指示を出してから大きなトランクをリムジンから引っ張り出した。
「それでは、こちらにどうぞ」
カトウがマックスとヴァンを先導して歩き出した。
3人は管理ビルに入りセキュリティのチェックを受けた後、カトウの案内で応接室に向かった。
カトウは応接室の扉を開いて、先に部屋に入った。
「どうぞ、そちらに座ってください」
マックスとヴァンはカトウガに勧められたソファに座った。
カトウは反対側に座り、運んできたトランクから書類封筒、ファイル、カードキー、カード証明書、データキューブなどを取り出してテーブルに並べた。
「ミネルバ号のことは、ご存知ですか?」
「叔父に少しだけ、聞きました」
「それでは、ミネルバ号のことを簡単に説明します。
ミネルバ号は排水素トンが400トン。自由貿易船の超高速型豪華旅客宇宙船として登録されています。
ジャンプ4に6Gの性能です。武装はミサイル発射装置2基、三連複合砲塔が4基、それに超小型のパルスレーザが16門装備されています。」
超小型パルスレーザーのことを初めて耳にしたマックスは思わず口を挟んだ。
「超小型パルスレーザーとは、どんな武器ですか?」
「多分、スーザン様が開発された武器だと思いますが、詳細は分かりませんので、後で設計図を確認してください」
「母がまた変な代物を発明したと言うことですね。分かりました。説明を続けてください。」
「ミネルバ号には、エアラフトが2台と小型の艦載艇が3台積まれています。積荷の積載量はメイン貨物室96tが2つと、サブの貨物室48tが2つで、サブの貨物室の片方に船の備品が積まれています」
ドアがノックされたので、カトウが「どうぞ」と答えた。
お茶のセットをお盆に載せた女性社員が入ってきた。
女性社員はお辞儀をすると、静かにお茶のカップを配った。マックスが「ありがとう」礼を言うと、女性社員がにっこりと笑顔をマックスに返してから静かに部屋を出て言った。
カトウは女性社員が部屋を出て行ったのを見届けてから話を続けた。
「客室は24部屋あります。ミネルバ号は特Aクラスに認定されています。24部屋全部が特等クラスになります。
エンジンやレイアウトの詳細については後で確認してください。船長室の金庫にミネルバ号の設計図が入っているはずです。金庫には社長とトウゴウ様のご両親が用意した物が入っているそうです。
貨物室には我が社の製品を積み込んであります。こちらが積荷の細目リストになります」
カトウは薄いファイルを指した。
「輸出規制の対象製品が含まれていますので、持ち込める星系に制限があります。気をつけてください」
マックスとヴァンが頷いた。
「さて、こちらのファイルが登録証になります」
カトウは分厚く閉じられたファイルを示した。ファイルは4冊もある。
「宇宙船で貿易を行うには会社の登録も必要になります。全て、トウゴウ様の名前で登録されています。全種類の貿易許可、船の武装に関する許可と学術探索の許可、拿捕許可証もあります。武器の携帯に関する許可証も用意してあります。
こちらが、船長登録証、貿易許可証、武器携帯許可証になります。そして、こちらがヴァン様の武器携帯許可証です」
カトウはテーブルにおかれているカードを示しながら説明した。
「会社関係の者は誰も乗船していません。食料や備品を運び入れただけです。
現在、ミネルバ号には2名の乗組員が乗っていますが、会社関係者ではありません。トウゴウ教授が船を管理するように依頼した者だと聞いています。
それから、わが社のMX2最新モデルを2体、運び入れましたので、後で起動してください」
「2名の乗組員と言うのは、誰ですか?」
「さぁ、私は存じません。直接会って確認してください」
「分かりました」
マックスはカトウに返事をしたが、誰なのか予想もついていなかった。
「商業用宇宙港の着陸ポートを予約してあります。V28番、こちらに着陸ポートの番号をメモしておきました」
カトウはメモが書かれた紙をテーブルの上に置いた。
「出発の用意が整いましたら宇宙港に回航してください。ご存知でしょうが、ここから直接、他の星系に向かうことはできません。それに乗組員を雇う必要があると思います。
宇宙港の貿易センターで乗組員を募集した方が良いでしょう。宇宙港の着陸ポートの利用料金の支払いは会社が支払う手筈になっています」
カトウは、一息ついてカップに口をつけた。そして、静にカップを受け皿に戻した。
「以上で説明は終わりです。かなり厚いですがこのファイルには一通り目を通しておいてください。それと、ファイルと許可証は船長室の金庫かキャビネットにしまった方が良いでしょう。
何か質問はありますか?」
マックスは叔父がカトウは自由貿易船に乗っていたと言ったのを思い出した。
「叔父から、自由貿易船に乗っていたと聞きましたが、自由貿易船の商売はどやってやるのですか?」
「そうですね、お二人とも経験がないのでしたら、商売に慣れた者を乗組員に雇うのが一番いいでしょう。慣れていないとなかなか儲けが出ません」
「そうですか。」
「個人所有の自由貿易船の商売でも会社を設立して運営するのが普通です。船の所有者または船長が社長になり、乗員が社員になります。そして、船長と乗員の給料を決めて会社として経営していきます。
乗客や貿易により得た利益を会社の売り上げとして扱い、宇宙港の利用料金、貿易品の購入資金、消耗品や食料の購入は会社費用で支払いをします。
船長や乗員の給料は寝泊りや食費を宇宙船で賄えるので安く設定しておいて、投機品で大きな利益が出たときは、一時金の扱いで乗員に分配する良いでしょう。
それと、個人の投機品を積む許可をあたえるのが普通です。一人あたり2,3トン程度です。
契約輸送貨物はトンあたり1000Cr、特等乗客は一人あたり10000Crの収入になります。乗客はそれなりに儲かりますが接客が大変です。宇宙船に慣れていない客の場合、色々と問題が発生したりします。
乗客も輸送貨物も目的地の星系によっては、まったく集まらないことがあります。
定期航路を運行する客船や規模の大きな運輸会社は別ですが、規模の小さな自由貿易船では、乗客も輸送貨物もあてに出来ません。
輸送貨物で倉庫一杯にしてもあまり儲けが出ないものです。
自由貿易船は投機品を扱うのが普通です。
投機品で儲けるのは安く買える星系で購入し、高く売れる星系で売るのが基本です。購入元の星系と売却先の星系によっては、かなり儲かることがあります。
私の経験では、最高40倍で売れたことがあります。
購入する投機品を決めることは非常に難しいです。素人ですと赤字続きになって倒産してしまうことになります。
経験を積んだ者でも自由貿易船を運営していくのは大変です。毎月、船のローンと乗員の給料を支払い、故障に備えて船の修理費を積み立てていく必要があります。
トウゴウ様はローンを払う必要はありませんが、故障したときの修理費と投機品を購入するための資金を準備しておく必要があります。
貨物室に積み込んだ我が社の製品を売れば良いでしょう。十分な運用資金が得られるはずです。フォーニス星系で売れば高く売れます。
最初の目的地はフォーニス星系がお勧めです」
「なるほど、良く分かりました」
「書類を入れるトランクを用意させますので、暫くお待ちください」
カトウは暫く質問を待った後にマックスに言うと、近くに置いてあった電話で何か指示を出した。
3人が黙って待っていると、数分でドアがノックされた。
「どうぞ。」とカトウが答えると、先ほどの女性社員がトランクを運んできた。
カトウと女性社員は、素早くテーブルの上の物をトランクにしまった。
片付け終わると、女性社員はお辞儀をして応接室から出て行った。
「それでは、ミネルバ号に行きましょう。こちらにどうぞ」
カトウは2人を応接室の外へ案内した。
管理ビルの出口にマックスとヴァンの荷物を積み込んだ移動用カートが待っていた。
「それでは、私は会社に戻りたいと思います。よろしいですか?」
「はい。ご丁寧にありがとうございました」
マックスがカトウにお辞儀をして礼を言うと、ヴァンもマックスに合わせてお辞儀をした。
「とんでもない、これが、私の仕事ですから、気にしないでください。
トランクはセキュリティ登録をしてない新品ですのでロックは掛かっていません。トランクも差し上げますので、お使いください」
カトウはトランクをマックスに差し出した。
「それから、エアロックの入り口に着きましたら名前を言ってください。乗組員が応答するはずです」
マックスはトランクを受け取ると、再び、お辞儀をした。カトウも深々と頭を下げてお辞儀を返した。
マックスとヴァンは踵を返して、移動用カートに乗り込んだ。
マックスは後ろの座席にカトウから渡されたトランクを置いて運転席に座った。隣の助手席にヴァンが座った。
マックスはヴァンが隣に座ったのを確認して移動用カートを出発させた。
マックスはミネルバ号に横付けされたタラップの近くで移動用カートを止めた。
移動用カートから降りて、後ろの座席から、カトウに渡されたトランク引っ張り出し、自分のボストンバックを荷台から取り出して肩に担いだ。
ヴァンも助手席から降りると、荷台から自分のボストンバックと大きなトランクを取り出した。
マックスはタラップを見上げてエアロックを見つめた。
新しい艦に初めて乗り込む時と同じ気分だ。新しい艦への期待と好奇心で一杯だ。
マックスはタラップを昇ってエアロックの前に立った。すぐ後ろにヴァンが続いている。
「マックス・トウゴウだ。開けてくれ」
マックスはエアロックの前で自分の名前を告げた。
「音声確認しました。マックス・トウゴウ様、扉の右の緑のプレートを見つめてください」
感情のない女性の声が聞こえた。コンピュータの合成音声のようだ。
マックスは言われた通り緑のプレートに顔を近づけて見つめた。
「網膜パターンを確認しました。もう一人の方、名前をどうぞ。」
「ヴァネウス・オリンピア」
「音声確認しました。ヴァネウス・オリンピア様、扉の右の緑のプレートを見つめてください」
マックスはヴァンが緑のプレートを見つめられるように横に移動した。
ヴァンはマックスと同様に緑のプレートに顔を近づけて見つめた。
「網膜パターンを確認しました」
「乗組員に知らせました。暫くお待ちください」
重い荷物を持っているのだから、認証が終わったなら、とっとと、扉を開けばいいのに、このコンピュータは融通が聞かない奴だとマックスは思った。
暫く待つと扉が開き気密ドアがシュッと鋭い音を立てて開いた。
マックスは荷物を持ったまま中に踏み込んだ。中は気密室になっており船内側の扉が開いている。マックスは気密室を通って船内に入った。
「ご主人様、お久しぶりです」
船内に入るとスーツ姿の男性、黒と白のメイド服を着た美少女、青と白の人間型ロボットが深々とお辞儀をしていた。
3人の後ろには人間型のロボットが数体、同じようにお辞儀をしている。
ヴァンもマックスの後に続いて船内に入りマックスの横に並んだ。
「おぉ、ロビンじゃないか、懐かしいなぁ。
それと、ロバートとシオンだったかな。お久しぶり」
マックスは2人に挨拶した。
「こんにちわ。お久しぶりです」
ヴァンも挨拶した。
「ヴァン様もお久しぶりです。お会い出来て、とても嬉しいです」
メイド服のシオンが答えた。
シオンは見た目は16歳ぐらいで身長が165cm、腰まで伸びた黒髪に黒目の超美少女だ。
隣のロバート・エイムズは26歳。髭を生やしているので少し老けて見える。身長はマックスより少しだけ高くて188cmで細身だ。
マックスとヴァンが4年前に自宅に帰ったとき、新しい雇い人としてロバートとシオンを紹介された。
白と青の人間型ロボットはロビンだ。
マックスが製作したロボットでマックスが設計したMX2はロビンの劣化版になる。
「スーザン様からミネルバに留まってご主人様を待つように命令されました」
ロビンがマックスに答えた。
「父さんが、返すように、説得してくれたのかな?」
ロビンは非常に優れたロボットで母は助手として重宝していた。父親からマックスに返すように言われた時、手放すことを相当渋っただろうとマックスは予想した。
「はい。ご主人様。その通りです」
マックスの予想通りだったらしい。
「ご主人様の母上様からポログラフを預かっています。再生してもよろしいでしょうか?」
ロバートがマックスに聞いた。
「そうだな、再生してくれ」
ロバートはマックスとヴァンの前にポログラフ再生装置を置いて後ろに下がった。
4年前に会った母の等身大の姿が映し出された。
「マックス。ヴァン。元気かしら、私は相変わらずよ」
母の声が聞こえた。母はにっこりと微笑んでいる。
「ミネルバ号は気にいったかな?
今までに製作した宇宙船の中で最高傑作よ。と言っても、まだ、外見しか見てないでしょうけどね。ミネルバを起動すれば、あなたでも驚くわよ。うふふ。」
母が手で口元を押さえて含み笑いをした。悪戯を仕掛けた子供のように期待で目が輝いている。
「2人が驚く顔を見たいけど無理ね。
そうそう、ロバート達のことを説明するね。ミネルバ号はあなたの家も同じだからロバートとシオンをあなたの執事とメイドにしたわ。
これから、貴方は一人立ちして一家の主になるのだから、しっかりとがんばりなさい。
ミネルバ号に色々と積んでおいたから使って頂戴。
それじゃ、元気でね。私達のことは心配しなくても大丈夫よ。ばいばい!」
母の姿が消えた。
ロバートが再生キューブを取りポケットにしまった。
「ポログラフは、一度、再生したらデータが消去されるようにプログラムされています」
ロバートが説明した。
「母上様が説明していましたように、これから私とシオンはご主人様のお世話をします」
ロバートが深々とお辞儀すると、シオンもお辞儀をした。
マックスはなんだか狐に騙されているような気分だった。
「お荷物をロボットに命じて運ばせても良いですか?」
唖然としているマックスにロバートが尋ねた。
「あぁ、そうだな、外の移動用カートに荷物を積んである」
マックスが答えると、ロバートは後ろに控えていたロボットに命令した。
マックスとヴァンは担いでいた荷物を近づいて来たロボットに渡した。4,5体のロボットが外に出て行った。多分、荷物を取りに行ったのだろう。
「それでは、お部屋に案内します。どうぞこちらへ」
ロバートが、マックスに声を掛けた。
マックスとヴァンは、ロバートの案内で船長室と副船長室に向かった。
気密室からまっすぐ進んだ先のエレベータの乗り込み上のフロアに出た。
エレベータを降りてすぐに左に曲がった。船内の通路は豪華旅客船のように広い幅がある。
「こちらが、船長室になります」
ロバートが通路の左側のドアを指して言った。
「こちらが、副船長室です」
シオンが通路を挟んだ向かい側のドアを指指して言った。
マックスとヴァンは船長室、副長室に入り、ロボットに荷物を運び入れさせた。
外に出て行ったロボットが運んできた荷物をマックスとヴァンは仕分けて、それぞれの部屋に入れさせた。
「移動用カートはロボットに命じて、管理ビルに戻しておきます。しばらくお部屋でお休みになられますか?」
ロバートがマックスに尋ねた。
「そうだな、まずは、船内を見ておきたいな、案内してくれ」
マックスはロバートに答えた。
「かしこまりました。」
ロバートがお辞儀をして答えた。
ミネルバ号の上位フロアが乗組員用、下位フロアが乗客用になっていた。
乗客用フロアにはバーとスタジオ設備を備えた食堂兼談話室、厨房と大きな業務用冷蔵庫に食料保管庫、客室が24部屋、医療室、保管庫、応接室、各種のトレーニング機器を備えたリクレーションルーム、5,6人が一度に入れそうな大浴室に共用バスルームなどがあった。
船外への出入り口は一箇所のみ、乗組員用フロアに上がるためのエレベータ。乗組員用フロアに登れる緊急用の梯子と緊急脱出用のエアロックが二つ用意されていた。
上位の乗組員用フロアには船橋、船長室、副船長室、乗組員用個室が14部屋、共用バスルーム、備品倉庫、武器格納室、作戦会議室、乗組員用の談話室兼食堂、こちらは、乗客用の談話室と比べると少し狭くて見劣りがするが、それでも贅沢で十分に広い。
最新式で高性能のコンピュータと各種のデータライブラリが用意されたコンピュータ室に工作兼研究室まである。研究所としても十分な設備が整っていた。
船外への出口は船の側面に二つと上面に一つ。そして、エアラフトと艦載艇の格納庫、機関室へ行くための通路が続いており、そちらにも、船外への出口が側面に二つと上面に一つある。
また、貨物室へ行くためのエレベータが用意されていた。
機関室には、メインの複合核融合エンジンが2基と補助用に小型の複合核融合エンジンが2基、通常ドライブはメインが2基に補助が2基、反重力スラスターが2基、慣性駆動ドライブが2基、ハイパー・スペースドライブが2基。どれも、今まで見たことがないエンジンだった。
見て回った感じでは1000tクラスの超高級豪華船並の広さと設備のように感じられ、とても、400tクラスの船内とは思えなかった。
メインの貨物室は96tが2つ。コンテナを吊り下げて移動させる積荷ロボットのレールが天井を網の目に走っていた。
積荷ロボットは各貨物室に2台用意されていた。
船内を一周して談話室兼食堂に戻ってみるとすでに夜になっていた。
マックスとヴァンは久しぶりに豪華な夕食をゆっくりと堪能した後、自分の部屋へ入った。
船長室はかなり広い。とても船内の部屋とは思えない広さと設備だ。
執務用に大きな机が置かれており、正面に大きなスクリーンと端末、机の両脇にも、それぞれスクリーンと端末が置かれている。
椅子の上の方には、頭から被るような用途の分からない装置が設置されていた。
マックスはカトウから渡された書類に目を通し、データキューブを調べた。
ミネルバの設計図を熱中して見ているうちに外が明るくなってきたことに気づいて慌ててベッドに入った。