10話
「みんな、準備はいいな?」
船長席からブリッジをゆっくりと見渡したマックスがブリッジに集まったクルーに念を押した。
「アイアイ・サー」、「はい、船長」...各自がコンソールを見つめたまま応答した。
ヴァンの特訓の成果が現れている。全員が自分の担当コンソールに目を向けたまま、声だけで返事をした。ブリッジには以前指揮していた「グリフィン」号のブリッジと同等の雰囲気が漂っている。鋭く引き締まった雰囲気で何かが起きてもクルーの全員が1個の固体であるかのようにたちどころに反応することができるだろう。
パイロット席にはヴァンとルーカス、右側コンソールにエドワードとテレサが並んで座っている。左側コンソールにはリズ。機関室にはリックとルイスがロピーを連れて待機している。
ミネルバ号の全乗組員が揃っている。
「よろしい。ワープアウトまで2分だ。全員待機」
マックスの普段の声がブリッジに響き渡った。
「磁場変動値が下降しています。」
ミネルバの声がブリッジに響き渡った。明瞭で聞き取り易い声だ。
「0.64、、0.34、、0.12、、0.05、、0.0、ジャンプアウトします」
ヴァンが報告した。
ブリッジの前方中央のスクリーンに表示されているオレンジ色の空間が歪み、星の輝きが表示された。
「周辺の探知を開始、現在位置を確認せよ」
「質量探知に反応。X113.25Y62.36、距離12万キロ。近づいています」
エドワードが報告するとブリッジが一瞬で緊張した雰囲気に包まれた。
「メインスクリーンに戦術画面を表示せよ」
「戦術画面、表示します」
ミネルバが答えると中央にあるメインスクリーンに戦術画面が表示された。
「対象のエネルギーを分析せよ」
「エネルギー放出を確認、こちらに向かって加速しています。距離11.6万キロ」
エドワードが報告した。
「エドワード、対象の分析を急げ」
「対象を分析中……。結果が出ました。400tクラスの宇宙船3隻です」
エドワードが報告した。
「コース変更しています。6Gで加速中。距離10.8万キロ。」
ヴァンが報告した。
「ヴァン、ビーコン解析を急げ」
「ビーコン反応ありません」
「エドワード、対象に呼びかけて船名を聞け」
「呼びかけを始めます。」
「こちら自由貿易船ミネルバ号、応答を願いします」
「ミサイル発射されました。12本です。迎撃プログラムを設定します」
砲術担当のリズが報告した。
「ミサイル接近中。距離8万キロ。第2波が発射されました。同じく12本です」
続けてヴァンが報告した。
戦術画面にミサイルを示すアイコンが表示された。二つのマークがミネルバ号に近づいている。
「リック。エンジンを戦闘用出力に設定。防衛スクリーンの強度を最高に設定せよ。」
「エンジンを戦闘用出力に設定。防衛スクリーンを最大強度に設定しました」
リックが応答した。
コンソールに表示されているエネルギーのグラフがどんどん上昇している。
「ルーカス、ミサイル回避コース設定。加速6G」
「ミサイル回避コース設定しました。加速6Gです」
「船長。ミサイル、ターゲットロックしました。発射しますか?」
リズが聞いた。
「よし、お返ししてやれ、中央の船に集中して発射、第二波で、右側、第三波で、もう一隻を狙え。」
「了解。ミサイル第一波発射しました。ミサイル充填中」
戦略画面に、ミネルバ号から発射されたミサイルを示すアイコンが表示された。
「第二波発射しました。ミサイル充填中」……、「第三波発射しました」
「ミサイルが、レーザー砲塔の射程に入りました」
「テレサ、リズ、各個に迎撃を開始せよ」
「アイアイ・サー」
リズが返答した。
「了解。船長」
ルイスが応答した。
「ミサイル撃破、迎撃を続行。もう1本、撃破」
ヴァンが報告した。
「ミサイルがパルスレーザ射程内に入りました。自動迎撃プログラム実行中」
ヴァンが報告した。
戦略画面に表示されている敵ミサイルのアイコンが次々と消えていく。
「ミサイル11本撃破、1本が抜けてきます。第二波、迎撃中。6本、撃破」
ヴァンが報告した。
「ルーカス、緊急回避操舵」
「回避します」
ルーカスがミサイルから逃げるように船体を傾けた。なんとか、すり抜けて行きミサイルをパルスレーザが撃破した。
「ミサイル10本撃破、2本が抜けてきます」
ヴァンが報告した。
「ルーカス、緊急回避」
「回避します」
今度は反対方向に船体を向ける。そして、ルーカスは2本のミサイルの間に入るように船を回転させた。ぎりぎりでミサイルが抜けていった。先ほどと同様にバルスレーザが2本を撃破した。
「よし、いいぞ、ルーカス」
「こちらのミサイルが敵船に接近中。命中まで、あと5秒、4,3,2,迎撃されました」
「敵船、距離7万キロに接近中」
「第二波が接近中。命中まで、5秒、4,3,2,1,1本が命中しました」
ヴァンが報告した。
「敵船、距離6万キロ。レーザー射的距離まで、あと10秒」
「散乱砂砲、発射」
「散乱砂砲、発射しました」
テレサが報告した。
「第三波が迎撃されました」
ヴァンが答えた。
「敵船、砲撃可能距離です」
ミネルバが報告してきた。
「テレサ、リズ。敵船のエンジン部分を狙って発射せよ」
「アイアイ・サー」、「了解。船長」
リズとテレサが返事をした。
「レーザ射程距離まで、5秒、4、3、2、1、敵船からレーザが発射されました」
スクリーンには、敵船を示すアイコン二つがミネルバ号に接近しているのが表示されている。
「敵船のエンジン部分に命中」
テレサが報告した。
「レーザ被弾、散乱砂により、エネルギーを吸収しました」
ヴァンが報告した。
「散乱砂砲、発射」
「散乱砂砲、発射しました」
リズが応答した。
スクリーンに表示されていた敵船を示すアイコンが消滅した。
「敵船にミサイルが命中。撃破しました」
ヴァンが報告した。
「敵からの攻撃は止みました。敵船二隻を破壊しました。1隻は行動不能状態です。エネルギーを放出していません」
ヴァンが報告した。
「よし、シミュレーション終了」
「シミュレーション終了します」
ミネルバの声がブリッジに響いた。
「みんな、よくやった」
「へへー。ありがとうございます。船長」
誉められたテレサは嬉しそうだ。
「ルーカスが2本のミサイルをすり抜けたのは凄いわ、文句なしよ」
ヴァンが珍しくルーカスをほめた。
「ありがとうございます。副長」
ルーカスが嬉しそうに答えた。
「テレサも、砲術仕官として十分に使えるわね」
ヴァンはルイスも褒めた。
「それじゃ、これで訓練を終了する。明日の朝10時に本当のワープアウトの予定だ。それまでシミュレーション訓練はなしだ」
マックスが言った。
「副長。今晩はゆっくり寝られますか?」
ルーカスがヴァンに聞いた。
「申し訳ありませんが、何とも言えません。緊急召集は予告なしで行わないと効果がありませんので」
ヴァンが澄ました顔で答えた。ルーカスがげっそりした表情をした。
今回の航行中。ヴァンは海軍の訓練と同じ過酷な訓練を乗組員に実施した。
商船に乗っていたテレサが最初に降参すると予想していたが、テレサは海軍の精鋭将校並の成績を上げている。反してルーカスが随分と参っているようだ。
ルーカスは時々弱音を言うがテレサとルイスはまじめに戦闘訓練に励んでいる。二人とも格段に成長している。
「それでは解散。各自、自由にしてくれ」
マックスが宣言した。
船長室に戻ったマックスはテレサとルイスについて考えていた。マックスとヴァンは2人は商船ではなく海賊船に乗っていたのではないかと疑っている。
データベースを検索した結果、テレサとルイスの2人とも指名手配のリストには載っていなかった。そして2人が乗っていた船も海賊船のリストに載っていなかった。
普段の言動からルイスはまじめで信頼できると判断し、マックスとヴァンは過去のことは問わないことにした。
ルーカスは開発局出身だけあって一通りの戦闘訓練を受けたようだが格闘はあまり向いていない。ミネルバ号のクルーの中で最弱だ。
マックスは不満に思っているがミネルバは艦載コンピュータらしく振舞っているらしい。乗組員は特に怪しんではいない。
マックスはミネルバ号はファンドール・コーポレーションが極秘で開発した新型宇宙船であり、艦載コンピュータを筆頭にエンジン、ドライブ、武装、船内施設の全てが新技術が応用されており、ファンドール・コーポレーションの極秘事項であるため、絶対にミネルバ号のことは口外しないように誓わせた。さらに秘密を絶対に漏らさないと言う誓約書を書いて貰うことで強引に納得させている。
パイパー・スペースを航行して1週間。ジャンプアウトする時間が近づいている。
シミュレーション訓練を毎日実施したおかげでクルーの反応は素早いし的確に反応している。
ジャンプアウト10分前に全員配置について待機した。
あと数分でジャンプアウトする予定だ。
「ハイパーフィールド変動値が下降しています」
ミネルバが報告した。
「0.64、、0.34、、0.12、、0.05、、0.0、ジャンプアウトします」
一瞬、空間が歪んだような感触がした。ジャンプアウトするときの現象だ。
ブリッジの展望窓から見えていたオレンジ色の空間が歪み星の輝きが戻ってきた。
「質量探知はクリアです」
エドワードが報告した。
「星系座標確認します」
ヴァンが報告した。
ブリッジの大スクリーンに恒星と惑星の相対位置が順に表示される。
「スペクトル測定値でました。フォーニス星系のスペクトルと一致します。フォーニス星系の宇宙港は第5惑星になります」
ヴァンが報告した。
「ルーカス。第5惑星にコースを設定」
「コース設定完了。第5惑星到着予定時間は16時間後です」
「オートパイロット起動せよ」
「オートバイロット設定しました」
「よし、通常勤務を開始せよ」
マックスが命令すると「アイアイ・サー」、「了解」……と各自は返答した。
フォーニスからの通信到達距離に達成する頃、ブリッジにはマックス、ヴァン、ルーカスが待機していた。
通常空間を航行中はブリッジに最低1人が待機する勤務スケジュールとなっている。勤務スケジュールは乗客を乗せている場合と載せていない場合の二通りのパターンがある。通常空間航行中とハイパースペース航行中の2種類があるので4パターンになる。
今の時間はルーカスがブリッジ担当になっている。他のクルーは各自で自由時間を過ごしているはずだ。
フォーニス星系の宇宙港は惑星周回軌道にある。
ジャニアス星系と同様に環境保護のため、宇宙船が地上に着陸することを禁止している。
宇宙港は、ジャニアス星系と同じく帝国海軍、開発局、商用の3種類の宇宙港がある。
「フォ-ニス宇宙港の通信到達距離に達成しました」
ミネルバが報告した。
「宇宙港の管制塔に連絡、着陸誘導を依頼してくれ」
「こちら、自由貿易船ミネルバです。フォーニス宇宙港。応答を願いします」
ヴァンが通信を開始した。
「……こちら、フォーニス宇宙港の管制塔です。自由貿易船ミネルバ、どうぞ。」
「フォーニス宇宙港着陸の誘導をお願いします」
「了解、チャンネル22165にセットしてください」
「誘導チャンネル22165、セットしました。」
「チャンネルセット確認しました。コースデータを転送します。ようこそ、フォーニスへ。以上」
「ありがとう。以上」
「コースデータ確認、コース設定完了。宇宙港到着まで27分です」
ルーカスが答えた。
「では、このまま、待機」
「了解」
宇宙港まで、あと5分。
全員がブリッジで配置について、待機している。
ミネルバ号は宇宙港にかなり接近しており、前方の視界の殆どが宇宙港で占領されている。
下には、緑に輝くフォーニス星が広がっている。
宇宙港の誘導波にのっているため、全て自動操縦で着陸できる。
ミネルバ号がドッキングしようとしているポートが正面に見えてきた。
ミネルバ号はポートの空いている場所に向かってゆっくりと進んだ。……
「ドッキングポートに接舷しました」
ミネルバが報告した。
「ドッキングポートをロックしろ。」
「ロックしました」
ヴァンが答えた。
「リック。駆動ドライブを停止」
「駆動ドライブ、停止しました」
ゴードンが答えた
「連結パーツを固定。ステーションリンクが接続されました」
ヴァンが答えた。
「システムグリーンです」
「生命維持装置。反重力装置、重力補正装置を停止」
「生命維持装置、反重力装置、重力補正装置を停止しました」
ルイスが応答した。
「核融合エンジンを停止」
「核融合エンジンを停止しました」
「よし、ドッキング完了」
最後にマックスが宣言した。
「やっと、到着しましたね。なんだか今回の航行はえらく長かったなぁ」
ルーカスが感想を言った。
「ところで、上陸休暇はどれぐらいですか?」
「そうだな、次の出航予定は通常通り1週間後だ。ルーカスには積荷の購入を頼むよ」
「了解しました」
ルーカスが嬉しそうに応答した。
「積荷を積んだら、2,3日の休暇を取ってくれ」
「アイアイ・サー」
「それじゃ、全員で談話室に行って乾杯しよう」
「アイアイ・サー」
談話室には、全員が集合していた。
宇宙港にドッキングしたのは2127時。夕食は既に済んでいる。
「みんな、ご苦労さん。シオン、全員にビールを配ってくれ」
「はい、ご主人様」
シオンは、人数分のジョッキをワゴンに載せて運んでくると全員に配った。
ビールジョッキが全員に行き渡るのを確認してマックスが口を開いた。
「それでは、初航海の成功を祝って、乾杯!」
マックスはジョッキに口をつけて一息にぐいと飲んだ。
「乾杯!」..他のクルーも、皆、ジョッキに口をつけた。
そして、一斉に拍手が沸いた。
「次の出発は1週間後の予定だ。リックとルイスは念のために機関室の点検を頼む。ルーカスは積荷の購入。ヴァンは備品の確認と必要物資の補給。後は適当に休暇を取ってくれ。
個人の投機品用に予備の貨物室を開放する。一人あたり3tまでだ。それと今回の積荷は会社の費用で購入してないので正式な会社運用の開始は次の積荷からにする。フォーニス星系から我が『黒猫運輸』の正式発足と言う訳だ。
今回はミネルバの試運転の意味があったから。今回の航行の手当てとして約束した給料を払う。準備してあるから後で配る。次の給料は1ヵ月後だ。
すでに説明したが、4半期で決算し、利益が多かった場合は、ボーナスとして支給する。必要な備品などは貸し出す。消耗または消費した備品は必要に応じて支給する。ただし、退職する場合は返却して貰う。外出する場合は使用してよい。渡した通信装置は常に身につけてくれ。何かあれば、必ず、連絡すること。
まぁ、後は常識の範囲で考えてくれ。何か質問は?」
マックスは質問が出るのを待ったが、みんな黙っている。
「ここには、ワンダーロックと呼ばれる観光地があるそうだ。エドワード、みんなで行ったらどうだ。ゆっくりと羽を伸ばして来い、ついでに、テレサとルイスも連れて行け」
マックスがエドワードに提案した。
「アイアイ・サー」
エドワードが答えた。
「船に残ってると、訓練をやらされるからな、息抜きにいいねぇ」
リックが同意した。
「ルイスはそれでいいか?」
マックスがルイスに聞いた。
「あぁ、行ってくるよ。たまに、自然に触れるのはいいことだ」
ルイスも同意した。
「いやぁ、若者はいいですね。羨ましい。ところで、船長。次の目的地はバイレット星系ですよね。」
ルーカスがマックスに聞いた。
「そうだ。フォーニス星系からパイレット星系まで2パーセクだからな、1回のジャンプで行ける。」
「乗客はどうしますか?パイレット星系なら、乗客なしでも十分に儲けを出せます」
「ミネルバ号に乗客を乗せる予定はない。交易品だけで利益を上げてくれ。まだ、ミネルバ号に十分に慣れてないから、次も訓練優先だ」
マックスが答えた。
「そうですね。まだ、訓練が十分とは言えません。次の航行も訓練した方がいいでしょう」
ヴァンが賛成した。
「うぐっ!。薮蛇だったかぁ、また、訓練航行ですか?」
ルーカスががっかりした。みんなが爆笑した。