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アルカディア・サーガ  作者: 秋月 スルメ
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第十三話 線路は続くよどこまでも

 軋む鉄路、唸る鋼の巨体。蒸気機関車から煙突を取ったような列車がプラットホームに出入りする。そのたびに人がわらわらと客車や駅舎の方から現れて、にわかにホームが慌ただしくなる。


 カイルたちは依頼をこなすべく駅に来ていた。オルシアが調査をするガルテニア遺跡はこの街から列車で丸一日、そこから馬車でさらに三日進んだ場所にある。護衛期間にはこの移動の日数も含まれていたため、早々に出発する必要があった。


「列車なんてあったんだ……」


「料金が馬鹿高いからな、私も来たのは初めてだ」


 カイルとメリナは田舎から来たお上りさんよろしく、駅の中を見回していた。木造の三角屋根をした白い駅舎に、煉瓦と石を積んでできているホーム。そのホームにある低めの屋根からは、木でできた手書きの時刻表が下がっている。それを見る限りでは、だいたい一時間に五本から六本は列車があるようだ。


 アルカディアに列車はない。基本的に中世から近世にかけての西欧をモチーフにした世界観なのである。だがこの世界は五階建てぐらいの煉瓦の建物があったり、列車があったりともう少し文明の進んだ世界であるようだ。カイルは改めてここがゲームではないとの認識を深くした。


 そうしてあちこち見回しているカイルとメリナを、オルシアは困ったような顔をして見ていた。頼りなさそうな少年と、強そうだが脳筋そのもののような女。彼女の目にカイルとメリナはそのように映っていた。魔導士だが技術畑の人間であるオルシアには、そうとしか見えないのだ。もちろん、きちんとわかる人間が見れば、カイルたちの実力は明白なのであるが……。


「はぁ……。あんたたち、さっさと行くわよ! もうすぐ列車が来るんだから。ほら、荷物持って」


「ああ、わかりましたよ!」


「カイル、列車だ。急ぐぞ!」


 よっこらしょとカイルが荷物を持とうとすると、列車がホームに滑り込んできた。カイルとメリナは慌てて荷物を背負う。まるで探検家のような荷物を背負った二人は、降りてきた乗客を避けながらなんとか客車へと駆け込んだ。二人は手動ドアを閉めると、やれやれと息をつく。


「乗り遅れるとこだった……」


「危なかったな、カイル……」


「もう、気をつけてよ。あんたたちがいなくなったら困るんだから。……座席に行くわよ、えーとチケットはこうだから……」


 オルシアはチケットを取り出すと、それを座席の肩の部分に書かれた番号と見比べ始めた。彼女は左右に首を振りながら、ゆっくりと通路を歩いていく。そのあとにカイルたちも続いていった。


 列車の中は、とてもゆったりとした高級感のある内装だった。飴色の木の外枠に、緑の柔らかなクッションが付けられた座席が左右に二つずつ備えられている。前後の感覚はかなり開けられていて、足を延ばせそうなほどだ。さらに壁には、魔法による落ち着いたランプが取り付けられていた。


「ずいぶんと高級だなぁ。ちょっと場違いに思えてきたよ」


「私もだ。オルシアさん、列車というのはどこもこうなのか?」


 メリナが気後れしたような顔をして、オルシアに聞いた。彼女は一旦カイルたちの方を振り向いて、足を止める。そして彼女は手を挙げてやれやれと肩を竦めた。


「まあね。運賃が半端じゃないから金持ちしか乗らないもの。ああ、今回は協会から経費で落とすから別に私は金持ちじゃないわよ。それと私のことはオルシアで良い。一緒に旅をするんだから、堅苦しいのは嫌なの」


「わかったオルシア」


「わかったよ、オルシア」


「それでいいわ。さっ、座りましょう」


 オルシアはチケットを一瞥すると、奥の窓側の椅子へと身体を滑り込ませた。続いてカイルとメリナは座席の下に荷物を下ろすと、その向かい側に座る。座席のクッションは柔らかく、三人の身体をふんわりと包み込んだ。


「うわぁ、柔らかい……! やっぱ列車は良いわね。経費で落ちて良かったぁ」


「……良くこんなのが経費で落ちたな」


「普通はありえないね……」


 カイルとメリナは疑わしげに眉を歪めた。二人には経費でこれだけの列車の運賃が下りるとは到底思えなかった。しかし、オルシアはそんな二人を見ると不敵に笑う。


「そう思うのも無理ないわ。私も最初はびっくりしたもの。でもこれには理由があって……」


 オルシアは持っていた大きめのポーチから、小さな紙を取り出した。そしてその紙を広げてメリナやカイルの方へと向ける。その紙には日付となにかの数値らしきものが事細かに記されていた。


「これは?」


「ガルテニア遺跡付近のマナ濃度の推移よ。魔法で送られてきたのを私が記録したの。ほら見て、ここ数日間で急上昇してるわ」


 オルシアは桁が急に一つ増えている場所を示した。すると露骨にメリナの顔が曇る。その急にしかめっつらになった彼女の顔を、カイルは覗き込んだ。


「マナ濃度? 何の話?」


「大気中に集まるマナの量だ。これが高くなると強力なモンスターが現れたりする。ダンジョンの近くはたいてい高いものだが……。あの数値は異常だな」


 メリナは紙に書かれた数字を睨んだ。すっと目が細まり、いつもとはひと味違う引き締まった表情になる。それを見たオルシアもまた、さきほどまでとは違う深刻な顔になった。彼女の額には深いしわが刻まれ、その細い眉は歪む。


「そうよ、これだけ異常な数値が出たから一番近くにいた契約魔導士の私に調査依頼が来たの。しかも、移動時間節約のために列車を使う許可までくれたわ。はっきり言って、いつどんな化物が現れてもおかしくないからね--」



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