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アルカディア・サーガ  作者: 秋月 スルメ
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第九話 カンストプレイヤーVS魔法少女

 日が天頂を過ぎ、風が温い熱気を帯びる昼さがり。ギルド青の旅団の練武場では二人の人間が火花を散らしていた。片やはつらつとした栗色髪の少女、片や黒いローブを着た線の細い少年。対照的な二人は、穏やかな顔をしながらも目の奥で闘志を燃やす。


「さーて、そろそろ始めよか」


「そうだね。もう良い時間だ」


「それじゃ、その前に……リンクオン!」


 少女ことアリアの持っていた本が白く輝いた。百科事典ほども大きさのある本が強烈な光を纏い、にわかに姿を変えていく。アリアの足元には紫に煌めく魔法陣が現れ、彼女自身をも飲み込み光を解き放つ。


 アリアの服装が急速に変化していった。淡い桃色をしていたドレスの上で無数の光が弾けると、たちまち青を基調としたカラーリングに変化。スカートや上着が短くなって、白いへそや太ももがあらわになる。髪もまとまり、可愛らしい紅い髪留めで一つになった。


 さらに服の上から彼女を包み込むように輝く青い装甲が現れる。関節や肩などを、流れる光の粒とともに流線型の装甲が覆い尽くす。近未来的でスタイリッシュなフォルムのそれは、軋むような鋭い音と同時にアリアの身体に密着した。


 そのとき魔導書は細く華奢な光の杖へと姿を変えていた。やがてその光は硝子のように砕けて虹色の粒となり、中から黄金色の中身があらわれる。豪奢にして繊細、稀代の職人が魂を捧げたような輝きを持つ杖。その先端には紅い宝玉が備わり、変化の完了を告げるように雷のごとき光を撃ち放つ。


「よしっ、戦装完了!」


 アリアは杖を眼前に構えると凛々しく力強く叫ぶ。その勇姿を見たカイルは呆然としていた。彼の頭の中で、「魔法少女」という単語が無数にリフレインされる。変身機能は彼にとって完全に想定外だった。


 しかし戦わないわけにはいかない。さきほどまでと違い、押し潰すような気配のアリアを彼は果敢に睨みつける。練武場の雰囲気は緊迫の度を深めていき、決戦はいよいよ間近だ。


「ほな、始めるよ!」


「いいよ、身体が疼いてたとこだ!」


 戦端は開かれた。アリアの周りに三つの光弾が上がり、彼女の周りを巡る。カイルの目には見えないが、強力な魔力の壁もまた展開された。いずれもカイルの勝利を阻む凶悪な障害だ。


「世を吹き抜けし自由なる風よ。我が身に来たり、これを地の力より解き放て! ウイングアクセル!」


 カイルの身体が重さを失った。重力から解き放たれた身体は距離を忘れて疾走していく。その速さは音にも匹敵しそうなほどだ。


 補助魔法ウイングアクセル、効果は対象一名の速度の上昇。効果時間、上昇する比率は使用者のレベルに依存。レベルカンストであるカイルが使用した場合は一分間速度二倍というものだ。


 いきなり速度の上昇したカイルにアリアは驚愕した。しかしさすがはギルドマスターとでも言うべきか、すぐに彼女は必要な行動を開始する。そのふっくらとした唇は薄く開かれて呪文を紡ぎ始めた。


「っ……! 天より降り注ぐは裁きの雷。我は我が身の敵を滅さんと欲す。今こそ神よ、裁きを! サンダーレイ!」


 驚くほど速く、正確に呪文は唱えられた。杖が青白い火花を散らせて、光がカイルへ向かう光条を描き出す。その速さたるや、まさに雷速。息もつかせぬうちにカイルはスパークした。夏の太陽を倍したような閃光が彼から発射されて、アリアは一瞬だが顔を緩ます。


「よっしゃ……なああ!」


「残念っと!」


 光の中からカイルは無傷で現れた。彼はそのまま、アリア目掛けて一直線に加速していく。その時アリアはさすがに驚いていて、初動の対応がわずかに遅れてしまった。呪文を唱えることができずに、彼女はとっさに杖を構える。


 しかし、遅れたアリアに代わって三つのデコイが敵襲に対応した。デコイは一気に飛び出すと、カイルに殺到していく。淡い光の螺旋を造り出したそれらは、彼の身体を穿たんとした。人の頭ほどの光の弾が、不規則なリズムでカイルを襲う。


 次の瞬間、光は散った。一つはかわされ地面にぶつかり、一つは杖で引き裂かれ。最後の一つは魔法耐性の高いローブの表面で弾け跳んだ。地鳴りのような身体の底へと響くような爆発音が轟き渡って、耳がにわかに飾りとなる。


 そんな最中、カイルは呪文を唱えていた。いや正確には唱え続けていたというべきか。彼はデコイが襲ってくる前に唱え始めた呪文を、冷静に唱え続けているのだ。その口はカイル自らを巻き込んだ爆発が起きたにも関わらず、速度を落とさず動き続けている。


--このままだと、負ける、負けてしまう……!


 にわかにアリアの心に敗北への恐怖が芽生えた。迫りくる初めての敗北は恐怖を彼女にもたらしたのだ。その恐怖は彼女のもともと持っていた強い精神力を糧にして、一瞬のうちに成長を遂げる。心を埋め尽くしたそのアリアにとって未知なる黒い感情は、爆発的な感情の激流となって刹那、彼女を飲み込んでいった。


 身体にかかる強烈な重圧や痛みのもと、アリアの視界の端に見えていたゲージの数値が急速に伸びていく。今や百パーセント前後だったその数値は、二百を超えようとしていた。


 Fゲージと呼ばれるそのゲージ。これは魔導士が強い感情を抱けば抱くほど上昇し、それに応じた力を彼らに与える。だがその反面、負の感情によりゲージを上昇させた場合、魔導士の精神自体が崩壊してしまう危険を孕んでいた。


 しかしそんな事情にはお構いなく、アリアの前でゲージは勢い良く上昇していった。その数値はいよいよ二百五十を突破して、三百に到達せんとする。だがその時、アリアにとって近いようで遠くに感じられる場所から朗々たる詠唱が聞こえた。


「……我、行使するは光の力。闇を切り払い我が道を示せ! ライトニング・スマッシャー!」


 カイルから放たれた圧倒的な光の波動。それは地面を裂き、空気を打ち破る。轟音とともに走るそれは、可視化するまでに強化されたアリアの防御魔法と激突した。


 人間ほどの太さを誇る大出力の光線と、それを阻む薄緑の六角形が無数に組み合わさったような魔力のバリア。それは一時、拮抗を見せたがすぐに光線が勝った。バリアはまるで鉛でできた風船のように弾け跳び、アリアは光に染まっていく。


 こうして光が収まった時、練武場にはクレーターができていた。そしてその中心には、目を回してしまったアリアがふらふらと立っていたのだった--



今回は微妙にシリアル(誤字にあらず)が入りました。


でも、すぐにもとの調子に戻る予定ですのでご心配なく。



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