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海へ

 美しい彫刻が施されたモアナのワカ(カヌ―)の出現に言葉を失っていた一同だったが、同じ疑問が皆の頭に浮かぶ。

「どうやって乗るの?」

「飛び乗るのか?」

 皆がカヌーへ乗り込む方法を頭で想像している合間に、大きな波がモアナのワカを持ち上げると、島ギリギリに着岸する。全員が安全にモアナのワカに乗り込めるよう、モアナは彼の力で海面を島の高さまで上昇させたのだ。

「すっげー」

 感動する壮星は、恐怖も疑問も抱くことなくモアナの後に続いてカヌーに乗ると、全員も難無くカヌーに搭乗する。

 内装も木彫りのカヌーだが、座席は見た目よりも座り心地よく広々としており、皆足を伸ばすと、まるでレジャーボートに乗った気分になる。

「モアナ、外から見えていたパドルがないぞ、俺達は漕がなくていいのか?」

 カイの指摘したように、カヌーの外観からは何本ものパドルが出ているように見えたが、船内からはその持つ手が見当たらなかった。

「あれは飾りだ」

「飾り?」

「プっ ハハハ」

 カイが不思議な表情をモアナに向ける傍らで、ウルタプの笑いが噴き出した。

「アイツは見た目によらず、カッコつけやねん」

 先程までの緊張した面持から一遍、腹を抱えながら笑い出すウルタプにモアナの鼻が大きく膨らんだ。

「外観も大事だもんな」

 肘で軽くウルタプを小突いたカイから優しい言葉を貰ったモアナは、大きくなった鼻を萎めると軽くカイに頷いた後、再び彼のポウナム石が光を放つ。

 一行を乗せるために上昇していた海面が静かに揺れることなく元の位置に下り始める。カイ達は、ウルタプの移動の様に、猛スピードで海の上をカヌーが駆け抜けるのだろうと予測すると、口を閉じ身構えた。ところが、カヌーは止まることなく下降を続け頭上に煌めく海面が見えたかと思うと輪になった海の生物の群れにいつの間にか囲まれていた。群れの中には、シャチやアザラシ等、魚を主食とする海洋生物も小魚達と肩を並べて首を垂れていた。そんな彼等に応えるようにカイの背に美しいタ・モコ(タトゥー)が広がると、カイの表情が凛々しくなる。

「皆、健在でなにより。ウルタプが世話になったな。感謝する」

 カイの口から、彼の言葉とは思えない声音が零れると、レイノルド達の視線を一同に集める。そしてカイがマウイ神の器なのだと改めて思い知らされた気がして、全員神妙な面持ちに変わった。

 マウイ神の言葉を有難く受け取った海洋生物達は、一斉に道標を示すように一列になる。

「すごい・・・」

 凜の口から実直な感情が零れると、皆も続くようにマウイ神の器であるカイを心配していた気分が、ほんの少し高揚に変わる。

「マウイ神って皆から愛されてるんだな・・・」

 カイの声を聞いたレイノルド達の視線が再びカイに戻ると、マウイ神からカイ自身に戻ったことに全員、安堵の色が顔に浮かんだ。

「カイ」

「あ、レイ」

「マウイ神になってたみたいだけど、大丈夫?」

 旅で時折見たカイの不可解な行動が全て、マウイ神の器だったからだと気付いたレイノルドは、カイ自身に戻ったことにホッとしながらも、憂慮な感情が消えずにいた。

「不思議な感覚だけど、痛いとかそんなのはない」

「カイ君の背中、凄い光ってて、ウルタプちゃんが言ってたマウイ神のタトゥーってあれよね」

「カイ、ごめん、ビックリしてさ、スマホで写真撮れなかった」

「ホントだ。カイ、次は撮るからね」

「皆、サンキュ―な」

 初めてマウイ神に変貌したカイを恐れもせずに受け入れてくれる仲間にカイは安心した面持を浮かべると感謝を述べた。

「出るぞ」

 カイ達の様子が落ち着いた所で、モアナが声を掛ける。

「うん、行こう」

 船の先端から振り返ったモアナは、力強く頷くと仄かな光を出していた彼のポウナム石が眩い輝きを放つ。その眩しさから、カイ達は耐えられずに顔を手で覆うと、視覚が奪われてしまう。

 強い光の出現に瞼を閉じてしまった一同は、カヌーが若干揺れる振動を身体で感じると、モアナのワカが始動したのだと理解した。だが、最初に少しだけ左右に震えたが、その後は瞼の向こう側が明るいだけで動いているのか疑問に思うほど静かな時間が流れた。

 状況が掴めないカイが、もどかしさから、少しずつ瞼を上げようとした時、脳に直接モアナの声が届く。

「おい、ウルタプ、どうしてアイツを同行させているんだ」

「モアナが心配するのは分かるで、うちも最初は驚いた。けど、カイが信用してるみたいやし、引き裂いたら恨まれるで」

【何を話してるんだ? アイツって誰の事だ?】

 声を介さないウルタプとモアナの会話が、直接カイの聴覚に響くと思わず心で応じてしまったカイに、モアナとウルタプが視線を送る。

 ウルタプとモアナの会話が止ったことに、自分の声が彼等の耳に届いたのだと気付いたカイは、固く閉じていた瞼を少しずつ開こうとする。

「着いたで」

 ウルタプの声と同時に強烈だった明るさが薄れていくと、全員が目を開いた。

「あれ?」

 一同が驚きの表情を浮かべたのは、カヌーが島の岸に着けらたままで、出発した時と同じ光景だったのだ。

「ここって、出発した島と同じ?」

「進んで無いって事?」

「ぷっあははは」

 皆の意見を聞いたウルタプが、隣に立つモアナの肩をバンバンと叩きながら、腹を抱えて笑い出した。

「結構な距離移動したのに、報われへんな」

「うるさい」

 モアナは大きな鼻孔を膨らませると、逞しい両腕を前で交差する。

「どこ行っても島と洞窟が同じやから、景色が変わらんのや。ここはオマルーや。クラストチャーチから車で移動してたら、4時間弱はかかるで」

「マジかよ。そんな距離を一瞬だったじゃん。モアナすげぇ~」

 モアナファンの壮星はウルタプの言葉を疑う事なくモアナの力を称えたると、カイもモアナに熱い視線を送る。そんな二人を横目で眺めていたレイノルド達は、心ではマウイ神の僕の力を認めながらも、自分達が本当に移動したのか確認するように辺りを見渡した。

「早く降りろ」

 既に下船し島に立つモアナに呼び掛けられたレイノルド達は、一面に広がる海から視線を島へと移す。すると、先を急ぐウルタプとそれに同調するカイと壮星が、島の上からレイノルド達に手招きをしていた。

「何をしてるんだ」

「早く行こうぜ」

 カイ達に催促された結月達は慌ててカヌ―から飛び降りるが、出発地と同じ風景の島に少しだけ浮かない顔をする。

「行くぞ」

 モアナの呼び掛けと同時に洞窟が現れると、大きな入口がその場に居る全員の目に映ったため、一斉に驚きの声を上げた。


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