クライストチャーチ
ニュージーランド南島最大の都市クラストチャーチは、ビルが建ち並ぶ都会でありながら、緑豊かな公園と芸術に溢れた美しい街である。だが、2011年に発生した地震により、街のシンボルであった大聖堂やラグビースタジアムを含む数々の建物が崩壊し、多くの犠牲者を出した。その後、安全な街づくりを掲げゆっくりと復興に向っており、活気が戻りつつある。
ハンマースプリングで温泉とプールを満喫した一行は、ウルタプの力でクライストチャーチからは、まだ少し距離のある森に辿り着いていた。
「やっぱり、ウルタプ様の力はすごいなぁ~」
目尻を下げた壮星だが、へつらう事なく本音を口にする。
「ホントね。フェリーが着いてからカイコウラまでの車での移動と早さが全然違うもんね」
ウルタプにすり寄る壮星の態度が気に入らない凜であったが、車での移動よりも遥かに快適なウルタプの力に正直な気持ちを告げた。
「うちがおらんかったら不便やと分かったか。ハッハッハ」
腰に両手をおくと高らかに声をあげて笑うウルタプに、安堵した表情をカイがおくる。
「だよなぁ~ ウルタプ、サンキューな。それと、快復してよかったよ」
「お、おお」
感謝の言葉とともに真っ直ぐにウルタプを見つめるカイの視線を受け止めたウルタプは、ほんのりと頬を染めると思わず目線を反らしてしまう。
「お前の移動は相変わらず雑だよな。森がかわいそうだ」
肩に付いた緑の葉を取り、右親指と人差し指でくるくると回しながら、モアナが不満を零す。
「なんやてぇ。海中を移動するより大変なんや。うちが雑やったら他の2人はどないやねん」
「だよな。あはっはっは」
「あははって」
皮肉を言いながらも仲の良い僕二人を眺めていた一同は、彼等の人間的な面に繋がりを感じると頬を緩める。
「さてと、ここからどこへ行ったらいいのですかね?」
クライストチャーチ近郊に到着後、一旦車から降りたアリがウルタプとモアナに尋ねた。
「オマルーに行くんだろ」
「その前に腹ごしらえや」
「またか、ハァー」
食事に時間を費やさないモアナは常に空腹を訴える同朋に呆れ顔を向けると思い切り溜息を付いた。
「まぁまぁ、モアナ、俺も腹が減ったし、久し振りにクライストチャーチに行ってみたいしさ」
「カイはよう分ってるわ」
顎を上げ腕組をしたウルタプがモアナに冷たい視線を突き返す。
「地震が起こる前にクライストチャーチに行った時にさ、飲茶が旨かった」
「ニュージーランドで飲茶?」
「食いたい」
カイが告げた「飲茶」に皆が興味を示すと舌なめずりをする。
「ニュージーランドには色んな国から移民してきた人が多いから、本格的な異国の料理が食べれるよ」
「だよな。飲茶は英語でDim Sum でさ、看板を沢山見るさ」
「ほな、クライストチャーチの近くまで行くで」
車上にモアナと共に登ったウルタプの声掛けに反応した一同は、車に戻ると定位置に座り出発を待った。
ウルタプの移動は超高速による重圧があり、普通の人間にとって快適とは言い難かったが、短時間で目的地に辿り着けるため、毎回感動する壮星を筆頭に旅行者にとっては最高の手段であった。
いつものように森に降り立った車に、ウルタプはレイノルドをカイの隣から引き離すと遠慮なく乗り込んだ。結月達は、流れ作業のように車内から追い出されたレイノルドを3列シートに座らせるために一旦車外に出た。レイノルドに続いて、大きな身体を折り畳みながら車内に乗り込もうとするモアナの姿が目に入る。
「モアナ、今度は俺が後部座席に座るからさ前に乗れよ」
ノッポなモアナの肩に手を置いた壮星がウィンクをする。
「いや、でもガールフレンドが怒るだろ」
「私も壮星君と後ろに座るから大丈夫よ」
凜も壮星と同様にモアナにウィンクを送るとニコリと笑う。
「ハンマースプリングの時は車で直ぐだったけど、ここからクライストチャーチまでは距離があるから、モアナそうした方が良いよ」
カイコウラから森で囲まれたハンマースプリングまでは、目的地のギリギリまでウルタプの力で辿り着けたため、車での移動は短時間であったが、身体をまるで半分に折り畳んだようなモアナに皆が同情していたのだ。
「車は嫌いだと思ったが、これなら楽だな」
壮星達の気遣いに心を良くしたモアナは車に乗り込むと長い両腕足を伸ばして見せた。
「壮星、凛、サンキューな。次は俺も後ろに乗るからさ」
「カイ君は、TIKIの反応を見る必要があるから、気にしないで」
「そうよ。次は私が後ろに座るし、TIKIからの合図で次のポウナム石を見付けるのがカイの使命なんだからね」
アリが座る運転席の後ろから声を上げ強く主張する結月にカイは振り返ると深く頷いた。
「皆、有難うな」
「全員座ったんなら、飲茶に早く行くで」
「お前は食う事ばかりだな、はぁ・・ 痛いっ」
ウルタプの後ろで大きな溜息を付いたモアナの頭を叩いたウルタプは素早くシートベルトをする。
「あははは」
二人のコントのようなやりとりに車内に笑い声が広がった。
青々と育った芝生のグランドを超えると、ヨーロッパ調と近代的な建物が入り混じる街の中心部が現れ、町中を流れるエイボン川をパント船と呼ばれる小船が観光客を乗せて、のんびりと進む姿にガイドブックにあるニュージーランドが飛び出したような気分になる。
「やっぱり、随分と変わっちゃったんだな」
カイは車窓から見える地震によって姿を変えたクライストチャーチに若干寂し気な言葉を零した。
「道路が広くなったし、建物も簡単には壊れないだろう。安全な街に変わったんじゃな」
「アリ・・だよね。カセドラルが無いから寂しいと思ったけどさ、安全が一番だもんな」
「仮のカセドラルって段ボールで出来てて、日本人が設計したんだよ」
「そうなの? 段ボールで、凄いね」
「見てみたいね」
結月達は車から見える街並みの中にレイノルドが語る大聖堂を探した。
クライストチャーチで飲茶を堪能した一同は、路面電車で町を一周した後、クライストチャーチ・ゴンドラに乗りクライストチャーチの町と周辺の港町の雄大な景色を堪能した。
「海が綺麗ね~」
「山の頂上に羊がいるなんてニュージーランドらしいよな」
「この後、これに行くのよね?」
凜は、開いたガイドブックをカイに見せる。
「そう、それ」
「南極なんて絶対行けないから、めっちゃ楽しみだぜ」
凜とカイの間に顔を突っ込んだ壮星が興奮気味に会話に参加する。
クライストチャーチ市内やキャベンディッシュ山からのカンタベリー平野とサザンアルプスの眺めから刺激された一同は、もう少しクライストチャーチ観光を続ける事になり、クライストチャーチ空港近くにある国際南極センターを訪れる事になった。
南極探検を実体験できるこの施設では、4Dシアターでのバーチャル体験や、防寒具を身に着けマイナス20度の世界を経験できる。またペンギンの餌やりや、かまくらなどに加えて、人間が動植物の生態系に与える影響なども学ぶことができる。
カイ達が訪れた以外にクライストチャーチでは、キウィバードがオープンな環境で飼育されているウィローバンク野生動物公園や、世界代3位の広さを誇るハグレーパークがあり、サイクリング等を楽しめ、ハグレーパーク内には歴史あるクラストチャーチ植物園も併設されており、ニュージーランドだけでなく世界から集められた1万種以上の美しい植物と出逢える。カジノやカンタベリー博物館、地震によって崩壊してしまったショッピングセンターを色取り取りのコンテナを活用して復活させた
『 Re;Start 』等、見どころは満載である。




