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告白

 男性の低い声に導かれるように辿り着いた洞窟を指し示すように、カイのTIKIが緑金色の眩い輝きを放つ。

 一同が息をのむ中、洞窟の中で二つの頭を持つ影がユックリとカイ達の前に姿を見せた。

「ウルタプっ!」

 洞穴から現れるや否や、その姿を目に留めたカイが大きな声でウルタプに呼び掛ける。

 洞窟から姿を見せた影は二頭ではなく、大男がウルタプを背におぶっていたのだ。

 カイが知るウルタプとは全く違う覇気のない姿に動揺を露にすると、見知らぬ大男の危険性も顧みずカイは彼女に駆け寄った。

「マウイ様、お久し振りです・・・ そして無礼をお許しください」

 大男はウルタプを背負ったままで肩膝を着くと首を垂れ敬意を示したが、即座に見上げるとカイを睨み付ける。

「今回の器は僕に随分と手荒いのだなっ!」

 厳しい口調でそう吐き捨てると、ユックリと背負っていたウルタプを地面に下し、筋肉粒々の腕に優しくもたれさせた。

 大男は、肝心な部分だけを海藻で隠したような装いで、全身をモコ(タトゥー)で覆っており、2mもある背丈は跪いた状態であってもカイとの身長差を感じさせないほどであったが、カイは怯まずにウルタプに呼び掛けた。

「ウルタプっ! どうしたんだよ? 何があったんだ?」

「相変わらず、うるさいなぁ」

 カイの憂慮する声に反応したウルタプは、重い瞼を開け力無く右腕を上げるが、直ぐに下してしまう。

 ウルタプの忍びない姿に胸が痛むとカイは大男に掴みかかった。

「ウルタプに何があったんだ」

 カイの問いに鋭い視線をカイの背後に移すと険しい表情になる。

「お前の連れが知っているだろう。アイツに聞け」

「俺の連れ? どういう意味だよ」

「船から落ちただけや、心配せんでええ」

 再びか細い声を発したウルタプが目を開くと綺麗な金緑の瞳にカイが映る。

「どうしたんだよ。何があったんだ」

 カイはウルタプの手を取ると声のトーンを落とし優しく話掛けた。

「落ちたって、ウルタプ泳げないのに、無事でよかった、また会えて良かった」

 安堵の様子を見せるカイはその場に崩れ落ちると何度も溜息をついた。

「ちっ」

 苦虫を嚙み潰したような顔を、再びカイの背後に送る大男に気付いたカイは、ウルタプとの再会でホッとした面持を再び固くした。

「ウルタプを助けてくれたのは、お前なのか?」

「ああ」

 短く応えた大男は険しい顔を崩さないまま、カイとも向き合わず遠い目をする。

「そうか、ありがとうございます」

「ちっ」

 中腰だった姿勢からウルタプを抱えたままで胡坐をかいた大男は、先程までの厳しい表情を若干緩めると、初めてカイと視線を合わせた。

「あんたが助けたんちゃうやろ。クジラちゃん達やろが」

 しっかりと目を開いたウルタプは、大男に支えられていた腕から身体を起こすと、嫌味な表情で口を尖らせた。

「アイツ等は自分の命でお前を助けたんだ。自分が助けたのと同じだろうが」

「ハァ――― あんたの世話になるとは一生の不覚や」

 ウルタプが頭を抱えると背後にある洞窟内に響き渡るような大きな溜息を一つついた。

「クジラ・・ そう言えばクジラとかイルカとか、沢山フェリーの周りに集まってたな。あの時に助けられてたのか・・・ ごめん、俺何にも知らなくて」

 カイは深く反省した顔付きと共に大きく頭を下げる。

「無事なんや、もうええって」

「良いわけ無いだろ」

 隣でカイとウルタプの会話を静かに聞いていた大男が鼻息をたてると反論する。

 カイの様子を背後で伺っていたレイノルド達は、二つ頭の妖怪だと思っていた影がウルタプと大男で、その大男もカイと会話をしている状況から危険ではないと考えユックリとカイ達に近づいて来る。

「カイ」

 驚かさないように、静かに呼び掛けたレイノルドがカイの肩に手を置いた。

「レイ、皆も、ウルタプが船から落ちて、大変だったんだよ」

「えええっ! それはそれは、ウルタプ様。でもご無事でよかった」

 壮星が大きな声を上げると、慌てた様子でウルタプの傍に寄ろうとするが、大男が大きな腕をウルタプの前に出すと、壮星を睨みつけたため、壮星はその場で硬直してしまう。

「お前ら、自分達に近づくな、特にそこの女、ウルタプを船から・・・」

「あああああっ! カイ、腹減った」

 大男の言葉を遮るように大声をだしたウルタプは腹に手をあてると辛そうな顔をする。

「おい、ウルタプ、お前」

「もうええ言うてるやろ。月のせいや、あの子が悪いんとちゃう」

「ウルタプ、月族に落とされたのか? 何を隠してるんだ」

 ウルタプと大男の話す内容が理解できないカイの心に靄がかかると我慢できずに強く問い掛けた。

「私のせいよっ! 私がウルタプちゃんを・・・」

 予期せぬ者からの想像外の告発に全員理解できず、声の主でさえ定かではなく、ゆっくりと振り返った。

 皆から少しだけ距離を取り一人立つ結月は、ガタガタと震えながら荒い呼吸をする。

「姉ちゃん?」

「結月、どうしたの?」

 結月の態度と状況が掴めない一同は、お互い顔を見合わせると苦笑いをする。不自然な笑い声が潮風に乗るが、それを吹き消すように大男が立ち上がった。

「そうだよな。お前がウルタプを海に落としたんだ。覚えてるなら月族に操られたんじゃないよな」

「ハァー、もうええ言うてるやろ」

 地面に座り込むウルタプは、大きな溜息を吐くのと同時に見上げると大男に難しい顔を向ける。

「ちょっと待て、結月がウルタプを海に落としたって言うのか」

 ウルタプが否定する中、正確な情報が知りたいカイは、腰を上げると大男の前に立つ。

「そうだ」

「結月がそんな事をするはずがないし、ウルタプが言うように月族が関係しているはずだ。俺も月族に船の上で襲われた」

「知っている。お前なかなか腕がたつな」

「ありがと・・ そうじゃなくて、ウルタプも月族に襲われたはずだ」

「本人がやったって言っただろう」

 大男は結月を指し示すように顎を上下させ、カイの視線を彼女に向けるよう促した。

「結月、何か知っているなら教えてくれ。ウルタプを助けようとして誤って落としちゃったのか? 何があったんだ?」

 服を強く掴んでいた結月の瞳からボトボトと涙が零れ落ちる。

「ウルタプちゃんが、カイと仲良くするから・・・」

「え?」

「私の方がずっとずっと前から、カイが日本に来た時から好きだったのに。従姉弟だからダメだって分かってるよ。だから我慢して、我慢して、我慢してたのに、突然現れたウルタプちゃんがカイと仲良くするのを見てたら、腹がたって、私、わたし・・」

 カイを想う結月の気持ちに誰も気付いていなかった。皆は驚きよりも自身の洞察力の欠如と彼女への配慮のなさに、言葉を失くすとその場に立ち尽くした。


「カイ、そろそろ皆に本当の事情を話すべきではないか?」

 音の無い時間が続いた後、レイノルドから状況を通訳されたアリがカイに助言する。

「アリ・・ そうだな」

 結月の告白、アリの発言、知らない大男の出現と、戸惑いを隠せないレイノルド達の表情を一人一人確認した後にカイは決意をする。


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