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時主の食時  作者: 相上
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二章 バンドと転校生(3)

 六月二十九日、金曜日。登校すると、甲が静香ちゃんと話していた。

「おう、咲美。紹介しよう。この人が、俺らのバンドに入ることとなった、」

 甲が仰々しく大げさにオーバーリアクションで静香ちゃんを紹介してきたが、無視。面白くないっての。

「おはよ~静香ちゃん! よろしくねぇ~私ギターすることになっているから~なんでも訊いてね~っていうかよかったら教えてね~私もシロートでさ~まだまだ人様に見せられるじゃなくて聴いてもらえるほどの音が出せなくってさ~まいってんだよね~って静香ちゃんもさすがにギターまではわかんないかな~やったことあったりする~?」

「いいえ、私はピアノしかしたことないので。でも、実はギターにも興味ありますから、一緒に頑張りましょうね。」

 ニコッて笑って~可愛いわね~かなわないわ~。

「お~改めましてよろしくね~静香ちゃんなら大歓迎よ~時主もたまには役に立つわね~ってか一緒の中学だったんだね~知らなかったって言うか教えてよ~まあそういえば時主と最初から仲良さげだったか~わかっててもおかしくなかったわね~まあいっか~今更だしね。それより~甲! そろそろ個々で遊んでいるだけじゃなくて本格的に練習始めないとヤバイわよ! 時主は? まだ? おっそいわね~まあいいわ~じゃあ三人で決めましょうか!」

「定期練習時間のことだな。期間中は部室塔の四、五階自由に使えるけど、この日は絶対練習するって日を決めておいた方が予定もたてやすいしな。」

「私や藤代君は帰宅部だしバイトもないので、石川さんや遠藤君の都合で決めればいいんじゃないでしょうか。」

「そうね~甲はそれでもいい~?」

「かまわんよ。ちょうど時主も来たことだし、ちゃちゃっと決めてくれ。」

「え? 時主来た?」

 振り向くと、時主が教卓のところで琥珀ちゃんと話しているのが見えた。ま~た琥珀ちゃんですか。この頃ずっとじゃない?

「と~き~も~り~! ちょ~っとこっち来なさ~い。」

 時主はいやそうな顔をしてこっちを見た。なによ。まあ言い方少し悪かったけど。

「咲美、声でかいって。抑えろよ。頭に響くから。」

「遠藤君二日酔い? お酒は十八歳からよ。通報して差し上げましょうか。」

「酒は二十歳からだよ。笑えない冗談を。まあ朝鈴の故郷じゃどうだか知らんがな。」

「え? あ、あ~そうだったわね! うっかりしてたわ。」

「……何言ってんだ? お前。」

「ちょっとした間違いよ! いちいち気にしなくても良いでしょ!」

「……まあそうだが。」

 まだ何話してんのよ!

「こらー時主! さっさと来なさいよー」

「はいはい。何だよ。」

 やっとこっち来たか。

「練習時間決めるわよ~あんたのバイトは火木土日だったわね~じゃあ月曜と金曜の放課後でどう? なんか不都合ある?」

「いや、俺は大丈夫だ。でも、咲美は部活あるんじゃ」

「月曜はいつも休みだし~この時期は軽音祭に出る人結構いるから武術部は週に一回ならバンド練習のために休みとってもいいんだな~これが~阿部先生優し~。」

「甲と伊藤は? それでいいか?」

「ああ。」

「いいですよ。」

「じゃあ決まりね~あとは昼休みとか土日に時間作ればなんとかなるっしょ~」

 こうして、本格的にバンドが組まれることとなった。


 その日の帰り道。前から朝鈴が歩いてきた。なんか背の高いイケメンと一緒だ。

「よう。お前もこの辺に住んでんのか?」

 もう八時回ってるから、これからどっかに行くってわけじゃないはずだ。

「ええ。遠藤君もこの辺りだったのね。」

「すぐそこに見える、あのアパートに住んでる。それで、そちらは……お兄さんかな。彼氏に見えなくもないが、よく見たら顔似てるし、デートって雰囲気でもないし。」

「ええ、私は琥珀の兄の、朝鈴安馬といいます。よろしく。」

 ニコッと笑って、手を差し出してきた。社交辞令だが、好印象。

「あっ、ども。はじめまして。俺は遠藤時主です。」

 なんか、ひさしぶりに人と握手したな。

「私たちは今から食事に行くところだから、一緒に食べましょうか。焼肉、奢りますよ。」

 ほう、焼肉。しかし、いきなりそう言われてもな。初対面だし。

「どうせ孤食でしょう。親切は黙って受け取りなさい。」

「こしょく?」

「独り寂しく食べることよ。一人暮らしだって静香さんから聞いたわ。」

「なるほどね。確かにその通りだがな……」

「何か不都合ある? もしかして、もう食べた? そういえば、もう八時だったわね。」

 朝鈴が気を使ってくれている。妙に優しいな。兄貴の前だとしおらしくなるのか?

「いいや、まだだよ。不都合って言うほど大したことじゃないから、そうだな、遠慮なくゴチになりますか。ありがとうございます、安馬さん。」

「いやいや。それじゃあ、行こうか。」


 プルルルル、プルルルル。

「はい、朝鈴です。」

「あ、琥珀ちゃん? 石川だけど~今いいかな~? メールでもいいかと思ったけど~電話のほうが楽だと思ってね~。」

「周りちょっとうるさいですから、外出ますね。」

「お、咲美か?」

 ん? 今後ろから聞こえたのは……

「琥珀ちゃんちょっと待った。今、どこにいるの?」

「今は近所で焼肉食べてますけど。」

「そこに時主いるわね。」

「ええ、いますよ。」

 ということは……。

「代わってもらえる?」

「はい。遠藤君。咲美さんが、代わってほしいって……」

「ん、わかった。ちょっと借りるな。」

「もしもーし。なんか用か?」

「あんた今何してんの?」

「ハラミを食ってる。」

 なんだとコイツ! おいしそうな声出しやがって!

「さっき用があるからって帰ったあんたが、なんで琥珀ちゃんとご飯食べてるのって訊いてんの! 答えなさい!」

「んなこと訊いたか?」

「答えなさい!」

「誘われたからだが。」

「約束してたの? それっていつよ!」

「今さっきだが。」

「さっき? ということは……別に約束してたわけじゃないのね。」

 なら、まあいいか。

「ああ、たまたまだよ。家が近所らしくてな。バッタリ会って、メシおごってくれるっていうから。それは助かるってんで、ついてきた。」

「何? じゃあ琥珀ちゃんのおごりってこと? 何それ? なんで琥珀ちゃんが?」

「いや、朝鈴じゃなくて、朝鈴のお兄さんのおごりだよ。」

「あ~お兄さんも一緒なのか~。」

な~んだ。

「そうだ。知ってんのか?」

「前に話だけ聞いたわ。会ったことはないけどね。」

 なんか疲れたわ。

「それで、何の用だ? ああ、朝鈴への用だったな。代わるぞ。」

「ええ。そうね。」

 力が抜けてて変な声になってるわ。

「咲美さん、電話代わりましたよ。」

「あ、ええ、そうね。」

「どうしたんですか? さっきまでの、というか、いつもの元気がないですけど。」

「なんかど~でもよくなっちゃって。大した用でもないから、明日にするわ。ごめんね。」

 ホントにヤバいくらい力入らない。棒読みになってる。

「はい、明日ですね。」

「それじゃ、またね。」

「おやすみなさい。」

                          ……もう本当に寝ちゃおっと。


 朝鈴はケータイを閉じた。すぐ横に置いてある自分のカバンにケータイをしまう。

「咲美、なんだって?」

 朝鈴はカルビに手を出し始めた。

「明日でいいそうです。疲れているようでしたね。」

 俺はタン塩かな。

「あの咲美がか? そりゃあめずらしいこともあるもんだ。」

 安馬さんはレバーが好きらしい。

「琥珀、学校の友達かい?」

「そうよ。石川咲美さん。」

「安馬さんとは会ったことないって言ってましたね。まあ、会わないほうが平穏でいいと思いますけど。」

「イジワルなことはしないし、変に理屈っぽくないし、よく気が利いて優しいし、とっても明るいし、朝強いし、フレンドリーだし、とっても楽しくていい人なのよね~。」

 なぜこっちを向いて言うんだ? 朝鈴さんよ。俺とは違って、と言いたそうな口だな。

「そうだな。背は高いし、ドジしないし、一般常識あるしな。飲酒は何歳からだっけ?」

 目には目を。歯には歯を。いやみにはいやみを。

 朝鈴はグッと身構えて、首を九十度ゆっくり右に回し、俺をにらんできた。やっぱ気にしてたんだな。

「なるほど。ただ、二人とも外見のことを言っていないね。こういう場合、かわいいかキレイの一言はお世辞でもあった方がいいと思うよ。」

安馬さんはよく焼けた輪切りタマネギの真ん中を熱そうに食うと、俺と朝鈴にその周りの輪っかを分けてくれた。

「咲美にお世辞は要りませんよ。自分はかわいいと信じこんでますから。」

「明日咲美さんに伝えておくわね。そっくりそのまま。」

「かまわんよ。俺は隠し事などする必要ない。」

「じゃあ参考までに、私のことはどう見えてますかね~遠藤君? 隠さず本音で。」

「琥珀にもお世辞はいらないよ、遠藤君。暴れたら私が抑えつけるから。」

「いえいえ、そのときは自分でやりますよ。えーっとそうだな。朝鈴は…………………………妹キャラ…………だな。お、タマネギうまいな。」

「いもうときゃら?」

「これも知らんのか。まあ妹キャラにも色々あるが、今の場合は、小さくてからかいがいのあるかわいい奴ってことかな。ほら、喜べ! ほめてるんだから。」

 しかし、朝鈴はもうおれの言葉を鵜呑みにしてくれない。まあ散々からかわれたからと思ってるからな。わざとじゃないのに。

「兄さん、本当は良い事? 悪い事?」

「それは……人によるね。それがいいという人はうれしいだろうけど、琥珀のように子供扱いされたくない人なら、不満に感じるかもしれないなぁ。」

「なるほど。ということは、やっぱり悪意ある言葉なのね! 遠藤君!」

「いや、これは本当にほめてるんだって! なんで悪い方を取るんだよ、お前は!」

「私は遠藤君より兄さんの言うことを信じるわ。それにね! これまでの経緯を考えれば、あなたがまた私をからかっているに決まっているでしょう!」

「オオカミ少年かよ! つーか安馬さん! 素直に良い事だって言ってくださいよ!」

 安馬さんはキムチを食いつつ、笑いをこらえている。

「兄としては、(ふふふ)妹に誤った知識を与えるわけには(ふふふ)いかないからねぇ。(ふふふ)悪い、遠藤君。(ふふふ)」

「笑いながら言っても説得力ないっすよ! どう見たってわざとでしょ!」

「で、本当はどんなつもりで言ったのか、薄情しなさい! 遠藤時主!」

「襟を締めるな! 苦しいから!」

 それからもにぎやかな焼肉パーティは続いた。どうもごちそうさまでした。


 遠藤君とは夕方会った所で別れた。それから兄さんとアパートに帰り、すぐお風呂。

長かった一週間がやっと終わったわ。

「琥珀、上がったのかい?」

「ええ。兄さんも入れば?」

「後でな。これ終わってから。」

 兄さんはパソコンで報告書を書いていた。提出は明日の朝早くだから……間に合う?

「まだ火曜までしか書いてないじゃない。昨日とか何してたの?」

「昨日は気分が乗らなくてね。なーに、大丈夫だよ。十分間に合う。私は何事もあきらめず、目標に向かって常に最善を尽くすことを信念としているんだから。」

「…………なまけてたからじゃない。」

「…………まあな。」

 ま、兄さんのことだから、ちゃんと間に合わせるんだろうけど。

「それで、遠藤君はどうだった? 率直な感想を。」

「そうだね…………なかなか面白い人だった。加えて頭もよく回るし、メンタルも強そうだ。適任と言えるんじゃないか?」

 やっぱりそういう感想か~。ま、兄さんの言う通りなんだけどね。

「私も……同感よ。口は悪いけど。」

「ははは、そこが面白いんじゃないか。とにかく、引き続き頼むね。内面はとりあえず合格だから、今度は周辺環境や生い立ちの調査に入ってくれ。」

「わかったわ。」

 それで会話は終わりと思ったので、今度は自分の報告書に取り掛かろうとした。けど、兄さんはまだ何か言いたそうな顔をしていた。

「なに?」

「ただ……な。なにか、違和感がなかったか?」

「何に?」

「時主君だよ。」

 なんだろう。別に私は何も感じなかったけど。

「どんな違和感?」

「いや、どんなと言われてもうまく説明できないんだが…………ま、いいか。私の思い過ごしかもしれんしな。もし琥珀も何か感じたら、言ってくれ。」

「うん、わかった。」


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