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時主の食時  作者: 相上
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八章 エピローグ

 長かった昨日が終わり、軽音祭当日がやってきた。

「お~い今三組目だからあと三十分くらいだって~いや~やっとここまで来たかって感じだよね~うずうずしちゃってもう待ちきれないよ私は~ってなんで二人ともそんなガチガチなわけ~せっかくの楽しいお祭りなのにそんなんじゃ全然楽しめなくな~いもっとほっぺた上げてロボットみたいな動きしてないでリラ~ックスして本番までのこのヒリヒリ感を味わって~そんなんじゃ声ふるえちゃったり指先動かないよ~!」

 時刻は午後五時。野外ステージ裏の控え場所で待機している。

「そうですよ二人とも。確かに緊張しますけれど、いつまでもそんなんじゃあダメです。リラックスした方がうまくできますし、たくさん練習したんですから、少しぐらい失敗しても大丈夫ですよ」

 昨日の大事件がうそのように、野外ステージは平和そのものだった。俺と伊藤の心臓を除いては。

「お前らは何でそんなに普通にしてんだよ」

 信じられないのは、このいつも通りテンションの高い咲美と、いつも通り冷静な朝鈴だ。

「もう私吐きそうです。おなか痛くなってきました。どうやら女の子の日のようなので、キーボードはまた今度ということで」

 伊藤にとても親近感がわく。じゃあ俺も、インストゥルメンタルってことで。

「な~に言ってんのよ静香ちゃ~んと時主! 静香ちゃんのキーボードってのはもうなくてはならない音なんだから生理ごときで棄権なんて許しませんからね~まあ半分冗談で言ってるってのはわかるけどそれにしても気合が足りないよ~大体緊張って誰でもするもんだし実際私だってこれでも火山が噴火しそうなくらい緊張してるんだよ~琥珀ちゃんだってお昼までは砕けて話してたのにいつの間にか丁寧語で話すようになっちゃってるくらい緊張してんだから二人もやわなこと言ってないでしゃきっと楽しもうではないか!」

 信じられねえ、この女。

「時主と静香ちゃんは基本前出てしゃべる方じゃないからな。琥珀ちゃんはTE学生時代によく人前出ていたろうし、咲美はあんなんだから、比べるのはきついだろ。特に発表会経験がある静香ちゃんより、時主にいきなり人前で歌えってのはなかなかのハードルかな。でも、信じてるぜ、相棒!」

 隣で笑っているのは、甲だ。この幸せそうな笑顔を見ていると、ま、いいか、と思う。

「時主君も静香さんも、昨日に比べたら、こんな緊張くらい全然大したことないですよ」

「そういえば~あれって大竜巻ってことになったんだってね~」

「ええ。多少矛盾が生じる部分はありますが、この時代の科学力では解明できませんので、竜巻で問題ありません。目撃者もいませんしね」

「そこのところの情報操作はタイム・ラウンジの職員に任せておけば問題ないよ。琥珀も勉強しておかないとね」

「安馬!」

「いつからいたんだよ」

「驚かそうと思ってね。それはそうと、もうタメ口が自然に出てくるとは、少し複雑だね」

「同い年に敬語使われるのってよそよそしいだろ」

「しっかし、まさか朝鈴兄妹が一つサバ読んでたとはね」

「琥珀を高校生として入学させなければならなかったからね。ならば、兄の私は先輩じゃないとおかしいだろう」

「安馬さん、身体の方は大丈夫なんですか?」

「心配してくれるのは静香さんだけだね。ありがとう。日常生活には全く支障はないよ。ただ、未来ターボで溜まりに溜まったTCを処理しきるまで、当分TEAは使えないがね」

「そりゃよかった。皆の傷は治癒TEAで何とかなるけど、安馬のTCはヤバめだったからな。いや~ホントこうして六人全員無事っていうのは、最悪の状況から考えたら奇跡じゃないか?」

「その件については、改めてお礼を言わせてもらうよ。奥義の暴走を止めてくれて、ありがとう。もう暴走しないようにTSへのセッティングは済ませたから、安心してくれ」

「そうか。まあもともとの原因は俺だから、悪かったよ」

「それ言ったら、俺がわがまま言いださなかったら、あんな緊急事態にならずに済んだんだよな」

「甲の時計壊したり、安馬に奥義使わせたのは私だしね」

「そもそも私が遠藤君のわがままをしっかり止めていれば、それでおしまいだったんですよ」

「えっと、そこまでにしておきませんか? もう済んだことですし、こうして皆で軽音祭に出られるんですから」

「じゃあ、この話はここまでということで。今日は激励だけじゃなくて、仕事もあるんだ。甲君、時主君、ちょっといいかな」

 俺は甲とともに安馬の前に立つ。予想はしていたから、こちらに関しては特に緊張しないな。

 安馬は真剣な表情で俺達を見た。

「遠藤時主、藤代甲。両名を現時間面、現時間をもって、日本国第一級時研究対象生とする」

 ここまで言い終わると、安馬は表情を崩し、甲を見た。

「なお、藤代甲が後時間面にて犯した罪は、研究対象生である限り、不問とする。以上」

 安馬が言い終わるのが先か、咲美が甲の脇にひじ打ちを入れたのが先か、俺が甲のケツを蹴ったのが先か。

「やったね~甲! これで何の心配もなく弾けるじゃん!」

「もう何のわだかまりもねえからな! 心置きなくやっていいんだぜ!」

 初めて見る、甲のうるんだ眼。

 研究対象生制度は、未だよくわかっていない特殊TEAの使い手、また未知のTEAを持つ可能性のあるTEに対し、一定の権利または給金を与えて、研究に協力してもらう制度だ。

 今回俺と甲は、安馬が暴走して大型ショベルカーが迫ってきたとき、過去へとタイム・トラベルした。しかし、遡時バリアの範囲外である基地以外の場所では、未来へ行くことはできても過去へ行くことはできないはずだ。つまり、これまでの定説を覆す、未知のTEAの可能性がある。それを持つのが俺と甲のどちらかなのか、もしくは二人の力を合わせた場合なのかは、現状わからない。事件後、自分の元いた時間面に戻った後に、遡時バリアを破れないか試してみたが、俺も甲もできなかった。ならば、事実関係を明らかにし、有用ならば利用する、また危険ならば対策をうつ、と国が考えるのは当然だ。

「いやいやいやいや~ども、ありがとうございます」

 照れた表情から幸せがあふれ出ていて、昨日の甲があきらめた表情を思い出すと、こっちまでうるんでくる。

「藤代君。本当に、よかったですね」

「これで、一件落着ってわけね」

 伊藤と朝鈴の言葉に、満面の笑みで応える甲。

 罪の意識から解放された、これが甲のホントウの笑顔なんだな。

「一晩で仕上げろと言われた時は、ふざけるなと思ったけど、よかったよ。時主君、これが指令書と、規定、規則のファイルだ」

 安馬がしみじみと言って、俺にA4のクリアファイルを差し出した。中にカードが入っている。IDなどが記録されており、証明書やパスになっているようだ。

「ああ。サンキュ。だけど、君づけってのは、なんかやだな。呼び捨てにしてくれよ」

「もう少しくらい、先輩面させてくれよ。実際、表向きは先輩なんだから」

「先輩ならなおさら呼び捨てでいいじゃんか」

「後輩想いの先輩になりたいんだよ、時主君」

「はぁ。ま、いいか。一日でこれを仕上げてくれたんだしな。にしても、よく間に合ったな」

「なんとしても君達の演奏前に仕上げたかったからね。なあに、暴走しなかった方の自分が色々と動いてくれていてね。それほど苦じゃなかったよ」

「今の時代だったら何日かかることやら……」

「申請するのが今の時代でじゃなくてよかったよ」

「な~にしけた面してんだよ!」

 テンションマックスの甲が、酔っぱらいのようにからんできた。

「この素晴らしい日を存分に祝おうじゃないか! あ~それにしてもやっと気兼ねなしに街歩けるぜ!」

「それは藤代君の素行次第よ。私が監督官なんだからね」

 からかうように笑顔で朝鈴が甲の肩をたたく。甲は、うへ~って顔をしている。

「よし。みんなそろそろ出番だろう。もう心配事はないんだから、めいっぱい楽しんで来いよ」

 咲美はすでにギターを肩にかけていた。

「よっしゃ! もう時主も静香ちゃんも緊張解けたでしょ!」

「はい。もう嬉しいことで頭がいっぱいです。楽しみましょう!」

「なんかすっきりした! 安馬サンキュー! 行くか、甲!」

「じゃあ行くぜ! 出番だ!」


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