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時主の食時  作者: 相上
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七章 アゲイン・アンド・アゲイン(3)

 安馬さんを中心とした青紫色の竜巻から、未来の時主が二人、未来の琥珀ちゃん、未来の静香ちゃん、もう一人の私が戻ってきた。もう一人の私は全身血まみれで、ちょっと見てられない。なんだかわかんないけど、自分まで痛くなってくる。

「こちらまで戻ってきますね」

 静香ちゃんは心配そうに胸に手を当てている。

「相当血出てるわね……」

 私にしては口数が少ないなと思った。結構冷静に、客観的に自分を見られてるなぁ。それとも、現実から離れたいと思ってるのかなぁ。

 五人がここまで戻ってきた。気を失っているもう一人の私と琥珀ちゃんを寝かせ、もともと寝ていた琥珀ちゃん、二人の甲と並べる。

「さて、動けるTEは時主君二人と私が二人ですか」

「どうしましょう……」

 静香ちゃん達は不安そうだ。私もだけど。

 時主も二人して難しい顔している。同じ顔で目で話し合ってて、何だか気持ち悪い。

「時主、何か考えあんの?」

 四つの目が私に向く。なんともいえない顔だ。

「時主君、どうしたんですか?」

 静香ちゃんの呼びかけにも、応えない。

 しばらく無言でたたずみ、時主の言葉を待った。

 五分くらいじっとしていると、時主達がアイコンタクトをし、うなずいた。何か決まったらしい。

「…………伊藤、この時間面の朝鈴を起こしてくれないか?」

「Cの方な。もう随分休んだはずだから、少しくらいなら大丈夫だろう」

 え? 琥珀ちゃんを遣うの? 大丈夫なの?

「それは……」

 静香ちゃんも同じ気持ちみたい。

「頼む。心配しなくても、戦ってもらうわけじゃないから」

「時間面の整合性を取るためだよ。むしろ……戦うのは咲美に頼みたい」

 へ?

「咲美さんこそ、もうボロボロですよ?」

「咲美Bじゃなくて、咲美C、つまり、お前に頼みたいんだ」

 そう言って、時主は私の方を向いた。

「何か……私に用ですか?」

「急に丁寧語になるなよ。まあ、気持ちはわかるけどな」

 うっ……この時主の顔は……マジだな~もう! こんなときに冗談言う性格じゃないよね~遠藤時主は!

「私に何……させる気よ。パワハラなら訴え……るわよ」

 いつものようにしゃべれない。舌回らなくなってきたよ。

「さっきは俺達の浅い思慮のせいで、咲美Bをあんなにさせちまった」

「けど、今度は必ず成功させる。そのためには、咲美の力が最も有効なんだ」

 足震えてきちゃった。だって、そりゃ、やっぱ、いくらなんでも、怖いでしょ! 今血まみれの自分見たばっかりだよ? 無理ないっしょ!

「いや……それ私じゃないとダメなわけ? 全く自信ないし……そもそも何してんのかわからない部分相当あるんだけど!」

「実を言うと、咲美が必要かといわれたら、そんなこともない」

「俺達だけでも、安馬さんを助けだせる可能性はある」

 二人の時主が交互にしゃべる。

「でもな、咲美に協力してもらうことで可能性をグンと上げることができるんだ」

「もう失敗はできない。だから、咲美にお願いしたいんだ」

 いや~……そう言われても……

「私に無断で何しようって?」

 後ろからしたかすれた声に、皆が振り向いた。

「起きたか、朝鈴」

「ええ。浦島太郎の気分だけどね。遠藤君が二人、藤代君が二人、静香さんが二人、咲美さんが二人、そして私が二人ですか」

 こっちの琥珀ちゃんが起きたのは、未来の時主達が来る前だったわね。

「状況わかるか?」

「大まかに静香さんに説明してもらったわ。それで、遠藤君は何をしようとしてるって?」

「咲美Cに手伝ってもらう。だから、朝鈴に師匠になってもらって、簡易TSを作ってもらいたいんだ」

 琥珀ちゃんは難しい顔をして、時主ズを牽制する。

「この時間面の咲美さんCは、全くTEAを使った経験がないんですよ? それであの引力の渦に入れというんですか?」

「咲美Bだって大した訓練やってないけど、あれだけできたじゃんか」

「俺は咲美のその適応力、野生の勘に賭けてもいいと思うんだ」

「不可能とは言いませんが、いくら咲美さんでもリスクの方が高いと思います」

 ど、どうなっちゃうんだろう、これ。

 頭がもうパンクしそうなくらいパンパンになっちゃってるよ~いいのかな~これで。

「時主さ、訊きたいんだけど……」

「何だ?」

「時主は、どうなりたいの? どんな感じにしたいの?」

 私の頭はもう正しい判断できそうにないから、ここは時主に任せたいと思った。でも、時主の思いと私の思いがズレちゃってたら、後悔しちゃうと思う。だから、この質問に対する時主の答えで、決めよう。

「俺か……そうだな……咲美と同じだと思うよ。」

「それじゃわかんないの! ちゃんと言葉にして宣言しなさいよ! 私は時主の思いを言葉にして聞きたいって言ってるの!」

 男ってホントにこうだよね~もっと何考えてるのか口に出してほしいのに!

 時主は少し困ったように頭をポリポリかくと、胸を張った。

「俺は、甲の願いをかなえてやりたいんだ。そしてそれは、俺の望みでもある。急に明日から、今日までと違う日常になってほしくない。甲が、咲美が、伊藤が、朝鈴が、そして安馬さんが、元気に笑って、冗談言って、張り合って、バカやって、一日全力ではしゃいで夜ぐっすり眠れる。自分のやりたいことを素直に全力でやって、嫌なことも皆で乗り越えて、最後に笑ってられる、そんな平凡で楽しい日常を過ごしていたい」

 ……そっか~……こりゃまいったね~……

 自分じゃ判断に困ったとき、でも速断しなければならないときは、自分の信頼できる人の判断に従うのがいい。私は、今時主を信頼できました。

 うん! 任せましょう、任せましょう!

「琥珀ちゃん、お願いできる? 私、やる!」


 朝鈴は難しい顔を崩してないが、渋々といった様子で咲美の目の前に立った。

「いいかしら、咲美さん。気が進まないけど、とりあえずこの事態を収拾するためということで」

「えええっと~まだよくわかんないけど未来の私もやったって言うんなら~まあいいんじゃないかな~と思うけど私間違ってないかな~?」

「詳しいことは全部終わってから説明して、また一からTEについて決めなおせばいいさ。」

「今はまず、TEAを使うことに慣れといてくれ」

 朝鈴は観念したのか、難しい顔をやめた。

「では、始めます。何か常に身につけているものってありますか?」

「え~っと~そうだね~これじゃダメかな?」

 咲美は携帯を出した。

「えっと、ちょっと内部構造が複雑すぎるので、TSにすると壊れやすくなってしまいます。もう少し単純で頑丈なものありませんか?」

「じゃあ、このストラップは?」

 菱形で金色のふちの中に、赤いガラスの埋まっている親指ほどのアクセサリーを、咲美はストラップにしている。

「あ、それならいいでしょう。では、ストラップを握って下さい。そして、素TEAをストラップに流し込んでください。これまで私や藤代君のTEAを消した感覚でやれば、うまくいくと思います」

 咲美は言われたとおりストラップを握り、目をつぶった。

「はい、できました。それでは、運動TEAからやってみましょう。静香さん、二人で咲美さんをお願いできますか?」

「はい。任せてください」

「ってもうできちゃったの? 早くない?」

「あくまで簡易ですから。では、まずは運動TEAからやってみましょう」

 咲美Cの運動TEAは、当然だが、咲美Bと同様すぐに慣れたようだ。

「それじゃ、行こうか!」

「ラスト・チャンスみたいだ。気合入れていこう!」

 自分と皆を奮い立たせる。

「気合なら任せといて! もう頑張っちゃうから私!」

 咲美は心配なしだな。

「琥珀さん、来ちゃだめですよ」

「私達に任せてください。今度こそ安馬さんを助けてみせますから」

 伊藤は朝鈴に釘を刺す。

「わかってます。心配しないでください」

 あ、これは来るつもりだな。

「ちょっと来い、朝鈴」

「なによ」

 腕を取って少し強引に皆に背を向けさせる。

「いいか。俺達は咲美に触れられないが、朝鈴は糸で引っ張ることができる。だから、咲美がやばくなったと思ったら、助けに来てくれ。わかったか?」

「つまり、遠藤君は無視していい、静香さんは自分が守る、咲美さんだけ見ていろ、とうことですね?」

「その通りだ」

「心に留めておきます。でも、私は自分で判断できます。私はあなたや静香さんの師匠なんですから。TEAは軍隊じゃありませんけど、上官と呼んでもらってもいい立場なんですよ」

「まあ、それでいいや。それじゃ、準備!」

 前方左右に俺が二人、後方左右に伊藤が二人、咲美を囲むようにポジションを取った。

「琥珀さん、行ってきます」

「安心して見ていてね」

「朝鈴、頼んだぞ」

「こう見えて、頼りにしてんだから」

「琥珀ちゃん、私、頑張ってお兄さん助けてくるから!」

 五人でサイコロの五の目の隊形を崩さずに、安馬さんの奥義であるフィールドに近づいて行った。


 引力にあと一歩で引きこまれそうな位置で、いったん止まった。

「さて、確認しよう。俺達全員でやるべきことは、一つだけだ。安馬さんの頭上に浮かんでいる一番大きくて強力な引力球を破壊することのみ。そうすれば、安馬さんの奥義は消える。

 ただ、安馬さんの周囲には強力な引力場があるため、じっくり近づけるのは途中まで。そこに入るためには、力を集中させた運動TEAが必要だ。

 だが、そうして一気に近づこうとすると、安馬さんは急速回避し、鉄クズや引力球で集中攻撃してくる。その回避方向は、安馬さんの意識がないにもかかわらず、ランダムのようだ。よって待ち伏せは難しい」

 俺Bが説明を引き継ぐ。

「しかし、重力場に守られていないそのときしか、チャンスはない。待ち伏せができないのなら、逃げた先を追うしかない。

 まず俺と俺Aで重力場に下から侵入する。咲美と伊藤達は上で待機していてくれ。上から俯瞰した方が、安馬さんの動きを追いやすいからな。俺達がずたぼろにされる前に安馬さんを捕まえてくれよ」

「わかったわ」

 不安は見えるが、決意もちゃんとある。

「咲美さんは私たちが守ります」

「咲美さんを安馬さんのもとにしっかりお届けしますから、それまで耐えてくださいね」

 伊藤は本当にいつも自然だな。単に冷静だとか、落ち着いているというわけではなく、なんていうか、適切、なんだ。意識してか無意識でかわからないけど、周りの空気に自分をぴったり合わせている。今は落ち着いた中でも、やる気がにじみ出ている。

「よし、行こう」

 五人で再び引力の嵐に挑む。


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