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時主の食時  作者: 相上
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三章 TE(タイムイーター)(7)

 話がついたところで琥珀ちゃんと安馬さんは帰り、私と時主と甲と静香ちゃんはバンド練習のため、学校に向かった。

普段ならもう七時を過ぎているので、学校は閉まっているはずだ。しかし、軽音祭本番二週間前の日曜からは生徒会長が監督してくれるから、事前に申請すれば九時まで練習ができる。なんともありがたいことだわ。

私達は職員塔で生徒会長のチェックを受けた後、部室旨を五階まで上がり、いつも使っている教室に入った。皆で生徒会から借りた楽器をロッカーから取り出し、慣れた手つきでセッティングしていく。

「皆準備できた? じゃあ、おととい、昨日、今日と大変なことがあったばかりだから、今日は間違い関係なしにリラックスして軽くやろうぜ。」

「そうね~まあ私はそれほどでもないけど時主と静香ちゃんはキツかったみたいだしね~あ、静香ちゃんはもう少し前からだったっけ~確かにちょっと変だったからね~」

「水曜からだったか。伊藤、顔色悪かったもんな。」

「そうですか。でも、もう大丈夫ですから、いつも通りやっちゃって下さいね。」

「そ~お~? まあ精神的には安定したのかな~」

「それでも、今日は軽くでいいだろ。時主だっていつもより目が眠そうだしな。」

「そうか? 無意識に疲れてんのかな……」

「よーし、そいじゃ、軽くいくぞ。」

 甲の掛け声で皆楽器に手をやる。甲はベース、静香ちゃんはキーボード、時主がボーカルで私がギター。

 私のギターから曲を始める。甲渾身のオリジナル曲だね。

 ♪♪♪~♪♪~♪~♪♪~

 皆軽くやっているけど、目立った間違いはない。時主の声も安定している。これならもう明日が本番でもいいってくらいの出来だ。

 時主もそう感じたらしく、歌い終わった後、曲が終わると拍手してくれた。

「いいんじゃないか、甲? 三人とも楽譜なしでも弾けるようになったみたいだし、ノリも良くなったし。」

甲は腕を組みながら、しかし満足そうな表情で言う。

「いーや、まだまだ甘いよ。時間はまだあるんだから、もっと上をめざそうじゃないか。どうせなら、軽音祭の中で一番盛り上がりたいだろ?」

「甲はきびしいねぇ~相当よく仕上がってると思うんだけどなぁ~」

 バンドのことになると、甲は目の色が変わる。メンバーの中で、間違いなく一番力入れてるわね。そういえば、最初に軽音祭の話を聞いたときからこうだったかな。この学校に入ったのに軽音祭のこと知らなかったっていうのにも驚いたけど、軽音祭のことを知った後のあの興奮ぶりは、もうすごかったわね。これだーって急に覚醒して。

「それでは、一度録音して聴いてみましょうか。中から聴くのと外から聴くでは、印象が違うと思いますし。」

「おお、ナイスだ静香ちゃん! それでいこう! 時主、確か生徒会で懐かしのラジカセを貸してくれるはずだから、取りに行くぞ。」

「はいよ。」

 甲が時主を引き連れて、職員塔に走って行った。教室には私と静香ちゃんが残る。

「しょうがないわね~甲は。よくわかんないことの後だっていうのにあんなに元気に走り回れるんだからね~」

「藤代君、バンドが本当に楽しいんでしょうね。なんでも楽しいことはいいことですよ。それに咲美さんだって、藤代君に負けないくらい楽しそうですよ?」

 静香ちゃんは自分の顔を指差してニコニコしながら言った。

「そう? 確かに私はすごい楽しいけど~甲ほどじゃないと思うけどな~」

「そんなことないですって。笑顔を見ていれば、遜色ないですよ。」

 そうかな~。甲はバンド中、常に満面の笑顔だけど、私もあれくらい笑っているのか。

「でも~それを言ったら、静香ちゃんと時主だって楽しそうよ~? っていうか、タフよね~二人とも。こんなときにバンドしてるなんて、普通体もたないわよ?」

 朝鈴兄妹の話を聴いた後も、二人はすぐに元に戻ってあっけらかんとして笑っている。とても普通の神経に見えないんだけどな~。

「そうですね。実際、とても楽しいですから。大変な人生の分岐点にいるとわかっていますけど、それでも、楽しいものは楽しいんです。それに、悩むのはもう終わったので。」

 ニコニコ笑顔がパァッとした笑顔に変わった。まぶしい。

「悩むのは……って、てことはもしかしてTEになるって決めちゃったの?」

 この顔は、時主と同じだ。昼にTEとして働くって言い出したときの時主と。

「はい。自分では決めました。あとは両親に許してもらうだけですね。」

 静香ちゃんはそう言うと、窓の外を見た。グラウンドには明かりもなく、真っ暗で何も見えない。けど、静香ちゃんは何かを見ているようだ。希望があふれているその瞳は引き込まれるようにキレイで、ドキドキする。時主といい静香ちゃんといい……。

「…………ホントに図太い神経してるのね。」

 私がそう言うと、静香ちゃんは魅力たっぷりに笑った。

「時主君にはかないませんけどね。」


 その夜、琥珀さんに電話をした。明日、時主君と一緒にTER制を受けたいと。


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