三章 TE(タイムイーター)(4)
※この回は、私の力量不足もあり、わかりにくい部分があります。
時間面 …… 時の流れの中で、パラパラマンガのようにある瞬間で区切った世界。ただし、全ての時間面はそれぞれ未来へ動いている。
TW …… 時間の流れ。未来へと進む力を持つ。
TE …… TWからエネルギーを取り出し、異能の力を使う者。
TEA …… TEの使う異能の力。俗にティーイーエーと呼ばれる。様々な種類がある。
TER制 …… 素質のある者をTEとして迎える制度。
七月十四日土曜日。正午十分前。俺、甲、咲美、安馬さんの四人で噴水に集合していると、予定通り朝鈴と伊藤が来た。学校休んだにもかかわらず、制服を着ている。
「お待たせしました。昨日は皆に迷惑をかけたみたいで、すみません。」
「静香ちゃん気にしないでい~よ~私らほら見てこんなに元気でしょ~確かにお腹は相当痛かったけど~これを思い出せば試合で大抵の攻撃は耐えられるさ~または陣痛の予行演習だと思えばいいしさ~まぁ~そんなもんだって~」
「それに関しては俺や時主も同感だ。迷惑だなんて思ってないからさ。」
「まあ伊藤の無事な姿を見て、改めて安心したよ。」
伊藤の顔がほころぶ。
「ほら、皆気にしてないでしょ? 心配ないって。」
「はい。皆、ありがとう。」
「それじゃ、早速タイム・ラウンジへ行こうか。時主君がもう待てないって顔だからね。」
「確かに早く話訊きたいですけど、そんな顔してますかね。」
「時主にしてはわかりやすく、顔に出てるぞ。」
「そうか。ま、隠す必要もないがな。早く行こうぜ。」
喫茶店タイム・ラウンジは、今日もガラガラだった。というか、客は俺達しかいない。
俺達は店の中央の六人席に座った。席は、伊藤、朝鈴、安馬さんの話す側と、咲美、俺、甲の訊く側に、自然に分かれた。
「しっかし、ここ、本当に経営大丈夫か?」
俺がそう言うと、朝鈴がピクッと反応した。
「まずい、言うの忘れてたわ。本来入る前に言うべきだったんけど、ここは私らの基地のようなものだから。」
「は?」
「私達の事務所といえる場所が、ここの地下にあるんだ。だから、たとえ客が一人も来なくても、ここが潰れることはないよ。琥珀、言っていなかったのか?」
「ごめんなさい。」
てことは、俺達は知らぬ間に朝鈴らの本拠地に連れてこられたってわけか。
「安馬さん、別にいいだろ。本題はそこじゃないんだ。」
「そうだな。」
「よっしゃ~さぁ~話して貰いましょ~か~まずは琥珀ちゃん! 君達は一体全体何者なのかな~? そして! あの誘拐犯ズはどこのどいつなのかな~?」
朝鈴は安馬さんとアイコンタクトを取る。どうやら主に朝鈴が話すようだ。
朝鈴は顔を引き締め、仕事モードになった。口調も丁寧語にチェンジ。
「まず、私達はこの時間面の出身ではありません。ここから五十四年後、S54年の時間面から来ました。少し語弊がありますが、未来人と考えて下さい。」
数秒の空白。
昨日の夜から、俺はいろんな想像をしていた。伊藤は予期せぬ巨額の遺産を受け取ることになり、それを良く思わない遺族が事を起こした……とか、朝鈴兄妹は幼少期から戦闘の訓練を積んで来た凄腕ボディガードだ……とか、あの光は遺伝子操作の結果生まれた特殊能力者か……とまで考えた。
しっかし、いきなり未来人とは………………………………俺の想像力もまだまだだな。
「へぇ~琥珀ちゃん未来から来たの~なになにバックトゥザフューチャー? そりゃビックリだね~ね! ね! 時主! 甲! 私ら今もしかして歴史の目撃者とかそんな感じなのかな~だってさ~これって大発見じゃな~い~?」
どんな神経してんだ、咲美。朝鈴の話よりも、こいつの反応について行けん。こいつの頭はホントめでたいな。
「え~っと、それで、その未来人であらせられます朝鈴琥珀様は、一体何しにこのような大昔においでなすったので?」
「その説明は段階を経てしていこうと思います。
まず、この世界についてです。えっとですね……この時代だと、平行世界や相対性理論を始めとする様々な考えが乱立していると思いますが、今はそれらを全て無視して下さい。固定概念を全て外して聴いて下さい。
まずは、時間面という大事な概念を説明します。時間面というのは、私達の今いる世界を時間で区別したもので、時間的に少し前や少し後とも直接的な因果関係を持たない、半独立した世界のことです。例えば、今我々は、現在が二〇〇六年七月十四日である時間面にいます。この時間面はこの時間面で単独で未来へ動いていますが、今我々がタイム・トラベルして一日前に行くと、そこには全く別の世界である、現在が二〇〇六年七月十三日である時間面があるわけです。皆さんは、過去と現在、現在と未来は全て繋がっていると考えていると思いますが、それは特定の時間面限定の話。この世には時間の数だけ無数に世界があり、その数だけ独自の歴史があると考えて下さい。
ちなみに、今いる時間面より進んでいる時間面は、先輩という意味で先時間面、今いるより遅れている時間面は、後輩という意味で後時間面と呼びます。日本語は『後』という字の意味が紛らわしいので、気をつけて下さい。英語だと、seniorとjuniorでわかりやすいんですけどね。あと、先程私は、S54年から来た、と言いましたが、SはseniorのSで、先時間面ということです。同様に後時間面は、J~年、と言います。
そして、時間面は、タイム・ウェーブという時間の流れに沿って動いています。そうですね……頭の中で、一本の波状の線を思い浮かべてください。心音図のようなグラフです。右に行けば未来へ、左に行けば過去としましょう。グラフというのは線に見えて、点の集合だというのは数学で習いましたよね。今の場合、その点一つ一つが時間面だと考えて下さい。現在が二〇〇六年七月十四日の時間面を一つの点に定めると、現在が十三日の時間面は、そのすぐ左隣の点、現在が十五日の時間面は、すぐ右隣の点といった感じです。時間面の日付に、現在が、を付けているのは、時間が経てば次の日になるからです。ですから、二〇〇六年七月十四日で固定されている時間面は存在せず、次の日になったら十五日の時間面に移動する、ということではありません。時間面を移動するには、タイム・トラベルするしかありません。逆に、タイム・トラベルすることは時間面を移動することと言えます。
時間面同士はそれぞれ半独立した世界ですが、同じタイム・ウェーブを通っているため、違う時間面に行ったとしても、大まかな歴史に違いはありません。どの時間面に行っても二度の世界大戦を回避した世界はありませんし、歴史に影響を与えた発明がなされなかった世界もありません。間接的に影響を与え合う事があるため、半独立なんです。
ここまで、いいですか?」
朝鈴は俺達三人の顔を見た。
咲美は、眠そうだ。わかってねえな。
甲は、真面目な顔。なんとかついていけているらしい。
俺もなんとかついていってはいるが、難しい。わかりづらい。
「琥珀さん、少し間を置いてはどうですか? 皆さん難しいと思うので。」
伊藤、ナイス間合い。
「そうだね。時主君と甲君はよさそうだけど、咲美さんはお手上げといった感じかな。」
「ははは……私……こういう話……苦手なもので……」
「咲美、寝るなよ。確かに難しい話だけど、伊藤の話がまだだ。」
「そうは……言ってもね……これ……現代文より……眠くない……?」
「時主、咲美はあきらめよう。後で俺達が説明すればいいだろ?」
「え~、メンドイな。」
「すみません。私の説明わかりづらくて。」
「これも勉強だ。しかし、二回目にしてはそれなりの形になっていると思うよ。」
安馬さんのフォロー。しかし、効果薄。
「そうかなぁ、兄さん……。」
「そうですって! 私に話してくれたときよりずっとわかりやすいですよ!」
伊藤のフォロー。しかし、それは……
「それって、伊藤のときはわかりにくかったってことだよな。」
「「「「「「………………」」」」」」
…………間違えたか。
「琥珀、続きだ。」
安馬さん、ナイスごまかし。
「はい。いいですね、皆さん?」
朝鈴、ナイス強引。
「「おお。」」「一応ね。」
「それでは、私達の説明をしましょう。
まずは私達の能力からです。昨日何度か耳にしたかもしれませんが、私達はTEと呼ばれる特殊能力者で、その能力はTEAと呼ばれます。TEAには様々な種類があります。例えば運動アビリティは、物体に運動エネルギーを与えることができ、自分の体に使えば運動性能を急激に上げることができます。私が昨日使った電気アビリティは、特定の電子をコントロールすることのできる能力で、電気の球にして攻撃に使えます。治癒アビリティは、まだ私達にも詳しい原理はわかっていないのですが、人体の自然治癒力を増幅することができるようです。TEがTEAを使うと、その部分は光を発します。その光の色は、TEによって様々です。私は名前の通り琥珀色、兄さんは青紫色ですね。
そして、そのTEAのエネルギー源は、今さっきお話したタイム・ウェーブです。つまり、私達はタイム・ウェーブからTEAの素となるエネルギー、これを素TEAと呼びますが、これを取り出し、TEAに変換し、使うわけです。そもそもTEとは、タイム・ウェーブから素TEAを取り出すことのできる人間を指し、その素質は先天的なものだそうです。
タイムトラベルもTEAの一つです。TEはタイム・ウェーブと同じ次元にあるベクトルを未来か過去に集中させて自分の体に当てることで、時間面移動が可能になります。
次に、私達が後時間面に来て何をしているのか、目的をお話します。私達の目的は主に二つあり、一つは過去にいるTEの素質を持った人達を保護することです。私達の時代では、子供が生まれたらすぐにTEの素質があるかを検査し、素質がある子供は保護した上でその能力を育てます。昨日体験してわかると思いますが、TEの扱うTEAは強力であり、その力を悪用する人、組織が後を絶たないためです。TEは貴重な人材で、様々な組織が狙っているということです。
そして、彼らの手は過去にまで伸びています。つまり、まだTEやTEAが一般的に知られていない時代の時間面にタイムトラベルし、そこでTEの素質のある人を探し、仲間に加えるわけです。これは私達の望むところではなく、健全でない組織が巨大な力を持つとロクなことがありません。なので、私達は後時間面のTEも保護しています。
昨日静香さんを誘拐しようとした人達も、そういった類の組織です。まあ最後に出てきた女が首領の、豆粒みたいに小さい組織ですけどね。TEAの扱いも全然なっていない、底の浅く素人みたいなものでした。
目的のもう一つは、タイム・ウェーブの流れを安定させ、時間面における歴史の差、ズレをなくすことです。先程タイム・ウェーブや時間面の話をしましたよね。時間面はタイム・ウェーブの流れに従い、ほぼ同じ歴史を継承しているんですが、TEが時間面間をタイムトラベルして余計なことをすると、歴史が分岐することがよくあるんです。世界的な大まかな歴史は変わらなくても、TEが死ぬはずの人を助けたとか、助かるはずの人を死なせてしまったとかといった差が、時間面間に出てしまうんです。その差をなくし、歴史の分岐を最小限にすることが、私達のもう一つの仕事なんです。
ここまで、わかりますか?」
今度の話はさっきよりずっとわかりやすい。マンガやライトノベルでファンタジーに耐性がついている人なら、このくらいは理解可能だ。ま、信じるかどうかは別として。
「それで、今の場合その保護する対象が伊藤ってことか。」
「はい。私にはTEの素質があるんだそうです。水曜日にそのことを知ってから、琥珀さんや安馬さんに色々話を聞いていたところなんです。」
「静香ちゃんが、か。そりゃ普通の人間には、いきなり体を発光させて消えるなんて芸当できねえわな。」
「すごかったもんね~あれ! 私ゃ夢か幻かマジックかドッキリか一体どれやねんって思ったさ~でもまさか超能力とはね~おみそれしました!」
咲美のテンションが急に戻った。さっきまでは眠さで目が死んでたのに。まあ、また長い話になったらテンション落ちるんだろうけど。
「咲美さん、この時代ではTEAも超能力とそんなに変わらないんですけど、二〇三五年にTEAが一般に認知されてからは、TEAと超能力は分けて考えるようになるんです。皆さんももうこちら側の人なので、分けて使った方がわかりやすいですよ。」
「あ~そうなんだ~なるほどね~」
「で、伊藤をこれからどうするつもりなんだ? 保護して終わりってわけないよな?」
「…………察しがいいですね。まあ隠すことでもないですけど、静香さんにはTER制という制度に従って国家保有のTEとなってもらい、この時間面での私達の活動に加わってもらいたいと思っています。」
つまり、仲間になれってことか。
「TER制ってのは?」
「TEがまだ一般的に知られていない時代の時間面にいるTEの素質がある人を、公式に実践投入するために作られた制度です。倫理、知識、道徳、性格判断などの様々な適正調査に合格した人が対象です。現地で住んできた人がいるとやはり私達も動きやすいので、ぜひ静香さんにはTER制を使ってほしいと思っています。静香さんはいい人ですし、能力もあります。適性検査も全て文句なしの合格です。最初の仕事が静香さんで、ラッキーですね。」
そんな制度があるってことは、TEは人材不足ってことかな。現地人がいた方が助かるって言っても、TEが足りてるんなら、こんなメンドそうでリスクを伴うことする必要ないはずだし。
「それで、伊藤はどう考えてんだ?」
「私は……まだ考え中なんですけど……」
伊藤はうつむき、喉下に右手を当てる。悩んでるときのくせだ。
「琥珀が初めてこの話をしたのは数日前だからね。静香さんの一生がかかっているんだから、ある程度時間をかけて決めるべきだ。」
この安馬さんの意見に甲が見を乗り出して同調する。
「俺も安馬さんに賛成だな。それなりにリスクのある仕事だろうし、バックの保障も大してなさそうだ。それに、一度そのTER制に乗っちまったら、やめるのは容易なことじゃないだろ。やめると言い出しただけで造反と取られてもおかしくない仕事みたいだからな。一生拘束されると言ってもいいだろ。」
「でも、リスクを負うだけの価値がある仕事ですよ。私はこれが初任務ですが、昨日静香さんが誘拐されるのを防ぐことができて、本当によかったと思っています。」
「確かにそれはよかったけど、だからって、自分を殺す仕事をあえて選ぶ理由が静香ちゃんにあるのか? 普通に生きた方がよっぽど楽しいと俺は思うぞ。」
「私は、人のためになる仕事ができる能力があるのなら、すべきだと考えます。その方が有意義な人生になりそうじゃありません?」
甲がいつになく熱くなっている。琥珀も引く気はなさそうだ。伊藤が止めに入る。
「二人とも抑えてください。私がどうするかは後回しにしてもいいことなので、それより今はもっと大事なことを話すべきですよ?」
「……そうだな。」
「……そうですね。」
「琥珀。それじゃあ、静香さんと時主君の話に移ろうか。」
ん? 俺?
「兄さん、咲美さんと藤代君にも聞かせていいんですか?」
「時主君には今家族と呼べる人がいない。彼らに相談相手になってもらう必要がある。それに、静香さんには私達以外にも相談相手が必要みたいだからね。正直、昨日のような事態はもう勘弁してほしいからさ。」
「なんだ? 俺がどうかしたのか?」
「ほら、琥珀。言ってやりなよ。」
朝鈴は少し逡巡していたが、安馬さんに促され、しぶしぶながら話し始めた。
「遠藤君。私は元々静香さんのTER制調査のために同じ高校に入ったんですけど、そこで、あなたもTEの素質があることがわかったんです。」
ん? 今、何て言った?
TEだって? 昨日の朝鈴や伊藤や誘拐犯ズみたいに?
体光らせて、消えたり体硬くしたり電気バチバチさせたりできるって?
今言ってたのって、伊藤の話ってだけじゃなく、俺の話ってこと?
「俺が……はあ? うっそ~……だろ~?」
「本当ですよ。私が今ここで冗談を言う人に見えますか?」
「…………冗談を言わないっていうか、言えないよな。朝鈴は。」
どうやら間違いじゃなさそうだ。
「ホント? ってことは、時主も特殊能力者ってこと? すごいじゃん!」
「バカたれ。いいわけがあるか。これで時主も静香ちゃん同様、選ばなきゃならん立場になったんだぞ? 気苦労が倍になるわ!」
いつになく余裕のない様子で、甲が意見した。俺が今まで聞いた中で、一番の大声だ。
「甲、落ち着けって。伊藤も俺も、無理矢理連れてかれるってことじゃないんだから。決定権は俺達にあって、拒否することもできるんだよな?」
「もちろん、断ってもらってかまいません。断った場合は、最低限の護身術と逃走術、何かあったときの私達への連絡手段などを教わって、これまで通りの日常に戻ってもらいます。こちらからはなるべく迷惑にならないようにしますので、安心して下さい。」
「時主君、じっくり考えてもらっていいよ。時には甲君や咲美さんに相談しながらね。ただ、あまり考えすぎてもいい答えが出るものではないから、期間制限を設けさせてもらう。期間は、この話を最初に聞いた日から二週間。再来週の土曜日だね。それまでに結論を出してくれ。」
二週間……常識的には、人生を決めるには短いと思うだろう。しかし、常識が必ず正しいとは限らない。時間をかければより良い答えが出るとは限らない。この場合、問題になるのは時間ではなく、決断力だと思う。
「わかりました。でも、あまり考え込むタイプじゃないんで、すぐ結論出すと思います。」
「焦らないで下さいね。」
朝鈴が心配そうに言う。俺にこんな顔を向けるのは初めてだ。
「ああ。しかし、俺にそんな力があるとは信じらんねえな。俺、伊藤みたいに体から光出したことないんだけど。」
「それは、静香さんが特別なんです。たとえTEの素質があっても、それだけで力を使える人は本当に稀なんです。TEがそんな人ばかりだったら、TEはこの時代よりずっと昔に発見されていると思います。静香さんは、数百年に一人の逸材、天才と言って過言でないTEなんですよ。」
「なにか、そういうことらしいんです、私。全く自覚ないんですけど。」
伊藤はおろおろ半分、照れ半分。
「それで、あの……遠藤君。」
「ん?」
伊藤が恐る恐る話しかけてくる。
「遠藤君は、その、怖くないんですか?」
「ん? 何が?」
「なんと言うか、自分が自分でなくなったような気がしませんか?」
「…………そうだな。伊藤は、怖いのか?」
「はい。正直に言って、怖いです。」
「そっか。確かに人は、未知の領域に対して不安や恐怖を感じるからな。しかもそれが、唐突に自分の中にできたとなったら、そりゃ怖いわな。」
「それじゃあ、遠藤君も?」
「あいにくだが、俺は鈍感なんだ。だから、そんな不安や恐怖は感じない。感じないことにしている。だって、感じたってどうしようもないしさ。危険を感じることは注意を促すこともあるけど、注意なら気を付ける意識を持つことでなんとかなる。ただ悩んだり消極的になるだけの不安や恐怖なんかは、無視だ無視。知ったこっちゃねーよ。
それにな、人は未知の領域に対して、新たな可能性、希望も持てるんだ。俺達が持っていることがわかったこの能力は、まだ教えてもらってないことも多いし、どう使っていいのかもわからないし、間違えて使っちゃうこともあると思う。けど、それでも、できることが多くなった、可能性が広がったんだから、もっと希望を持ってもいいんじゃないか? 俺達の持つ能力は、人を幸せにできるかもしれないんだぞ?
だからな、伊藤。そんなマイナスのことばっか考えるなって。朝鈴や安馬さんは助けてくれるって言ってるし、俺や咲美や甲だって伊藤の味方なんだから。もっとポジティブに楽しく考えようさ。」
そこまで言って、俺は伊藤を見た。
だが、すぐに顔を赤くし、にやけて、顔を背けた。
伊藤が、俺にほほえみかけていたから。
「まあ、そういうわけだ。」
今のは、やばかった。
かわいかった。
見てらんなくて、つい顔を背け、話を切ってごまかしちまった。
それほどの笑顔だった。
「よし、今日はこのくらいにしとこうか。あまりに多い情報を一度に知ると、頭が整理しきれなかったり、大事なことが抜けちゃったりするからね。」
安馬さんの声で、我に返った。今、俺はにやけた顔をしていたに違いない。恥ずいな。
「そうね。知っておくべきことは全て言ったので、あとは明日にしましょう。私と兄さんは明日仕事があるので、午後六時にここに集合でいいですか?」
誰も何も言わず、無言の了承となった。
「それでは、解散にしましょうか。」
琥珀の一言をきっかけに、皆立ち上がり、タイム・ラウンジを出た。
「時主、甲、後で私にレクチャーお願いね~。私は眠らずに聞くのが精一杯だったわ~。」
咲美の声が死にそうだ。大事な話だってのに、仕方ねえな。
夕食後。いつもならテレビを見てるかゲームをしてるかだが、今日は考えることがある。もちろん、朝鈴の話についてだ。
まだ完全に信じきったわけではないが、朝鈴はうそを言っていないと思う。俺達をだますつもりなら、もっとマシなうそをつくはずだ。こんなファンタジーな話、信じない人の方が多いに決まってる。それに、昨日見たTEAの力は本物だ。予備動作もなしに一瞬で俺の間合いに入ったり、アスファルトや俺の拳を砕くことなら、トリックでごまかせるかもしれない。だが、伊藤が消えたことや、朝鈴と茶髪女がやりあっていた電力球の応酬は、トリックじゃない。たとえトリックとして可能だとしても、そんな大掛かりな仕掛けを組んで、得られたものが俺達だけじゃあ割に合わないからな。
なら、TEとかの話は本当だが、実は朝鈴兄妹が悪人で、TEの素質を持つ俺や伊藤を狙っているだけだとしたら?
……その可能性は否定しきれない。
……でも、その可能性は考えないことにしよう。
なぜなら、朝鈴はいい奴だからだ。
さて、ならばどうしようか。
TER制を受けてTEになれば、世のため人のために働けて、社会に貢献できる。それは俺の望む仕事であり、俺にはその能力があるそうだ。しかし、こんなにも早く自分の進路を決めてしまっていいものか。一つの進路を選ぶことはその他の進路を潰すことであり、特にTER制は、途中で抜けるのが相当厳しい。TEとなることを選んだら、他の仕事はあきらめざるをえないだろう。
と、ここまで考えたけど、実はもう心の中では決まっていたりする。それは、親父の遺言に書かれていた、印象深い一文が関係している。
“何か不思議な出来事に遭遇したら必ず積極的に参加し行動すること”
俺は親父が一体何者だったのか、一度考え直さなければならないな。おそらく親父は、今日の昼に俺が朝鈴から聴いたことを知っていた。俺にTEの素質があることも。
親父がその世界ではお尋ね者だったかもしれない。
だが、俺は親父を信じている。
そして、遺言の通り不思議なことが起きた。
なら、答えは決まっている。
親の言うことはきいておくものだ。




