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時主の食時  作者: 相上
10/31

三章 TE(タイムイーター)(3)

 琥珀は小走りでこっちに来た。

「大丈夫ですか? 痛そうですけど。」

 いつもより冷たい声。顔も引き締まっている。プロって感じだ。口調も丁寧語だし。

「あまり。」

 声出すのも気持ち悪く感じる。

「そうですか。手、見せて下さい。」

 朝鈴が俺の右腕を左手で掴むと、少し和らいでいた気持ち悪い感覚がぶり返し、顔をしかめた。なにすんだ、と文句を言いたいが、余裕なし。

「治癒TEAは苦手な方ですが、この状態なら私でも治せそうです。」

 そう言うと、朝鈴は右手を俺のケガした右手の甲に近づけた。触れてはいないが、触れそうな距離。触れたら痛そうだから、ちょっと怖い。

 そして、治療が始まった。琥珀色の光が俺の手の甲から発せられる。もちろん俺が出しているわけではなく、朝鈴の芸当だ。と思う。それっきゃないし。

 すると、俺の傷はみるみるふさがっていき、十秒くらいで元通りになった。

「動きます?」

「ああ。問題ない。」

 何だこれ? まさかこれが世に聞く気孔ってやつか?

「じゃあ、聞きた「こっち助けろ~。」いことがあります。」

 朝鈴の声にかぶせた、後ろからの声。咲美が後ろ手に縛られながらも、身を乗り出して訴えかけてきた。

「とにかく咲美も助けてやっ」

「急ぎます。静香さんはどこか簡潔に答えてください。彼女が危険ですので。」

 ……目がマジだ。素直に答えよう。

「伊藤は甲におんぶさせて逃がした。ここから雷鳥通りの方にまっすぐ行ったと思う。けど、もう一人の誘拐犯が追っていったから急いだ方がいいな。」

「そうですか。聞こえましたか、兄さん?」

 そう言いながらケータイを取り出す。元々通話状態だったらしい。

「聞こえた。こっちは任せてくれ。琥珀はそっちで待機な。」

「了解。」

 朝鈴は通話を切り、ケータイをポケットにしまった。

「話終わった~? じゃあこれほどけ~!」

「ああ。今とってやるよ。」

 俺は咲美を解放してやった。

「あ~すっきり! で、私らは追わなくていいの~? 甲と静香ちゃん大丈夫~?」

「朝鈴、安馬さんで大丈夫なんだよな。」

「大丈夫です。よほどの使い手でなければ、兄さんは倒せません。先ほど観測したTEAから見ても相手は大したことないので、安心してください。」

「……なんか琥珀ちゃん他人行儀ね~いつもの感じでいいのに~」

「仕事中なので、これで勘弁です。公私のメリハリは大事ですよ。」

「それで、朝鈴は俺達の味方でいいんだよな。」

「はい。」

「詳しい話を訊きたいんだが……」

「それは、兄さんや藤代君と合流してからにしましょう。静香さんを連れてこちらに来る手筈になっているので。」

「そうか。」

 訊きたくて訊きたくてしょうがないんだけどな……おあずけか。

「そうださっきはありがとね~琥珀ちゃん! 私マジでやばかったよ~助かった!」

「俺もな。どうもありがと。ケガまで治してもらって。」

「治さないと冷静な会話ができないと思ったので。正直に言うと、あなた方を助けたのは、静香さんを助けるついで、のようなものです。」

「それでも、感謝するって~さすがに私も怖くてさ~琥珀ちゃん来なかったらもうね~」

「してもらったことに変わりはないんだからな。サンキュ。」

「どういたしまして。」

 ピリリリリ。朝鈴のケータイが鳴った。

「こっちは終わった。伊藤静香さんは無事保護したし、革命団の下っ端も捕まえた。藤代君とそちらに向かうから、もう少し待っててくれ。」

「了解。」

 朝鈴はそれだけ言うと、すぐ電話を切った。もう捕まえたのか。早いな。

「静香ちゃん無事だって?」

「ええ。今こちらに来ますから、もう少し待っててくださいね。」

「二人共無傷か? 時間的に、誘拐犯に追いつかれててもおかしくないと思うが……」

「そこまではわかりませんが……何かあったら兄も私に言っているでしょうから、おそらく五体満足でしょう。」

「ふぃ~。よかったわね~安心したら疲れが出てきたわ~さっさと風呂入って寝っころがりたい気分だわ~。」

「今は咲美と同感だな~。もう頭に栄養送るのも億劫になってきた。」

「すみませんね、遠藤君、咲美さん。あ、何か飲み物おごりますから、兄が来る前に買ってくるといいですよ。向こうに自販機見えますから。」

 ……なんか、朝鈴がこんなに親切だと気持ち悪いな。相変わらず丁寧語だし。

「なるほど。確かに喉が渇いたな。咲美、スポーツドリンク系で。」

「なんで私がパシらなきゃいけないのよ。時主と同じでいいからお願いね。任せたから。」

「私はこの男の見張りがあるので、どちらかが行って下さいね。」

「わかったよ。俺が行ってくる。」

「後で立て替えますから。」

「どーも。」

 俺は数十メートル離れた自販機に向かった。

 しかし、朝鈴達がこんなビックリ兄妹だったとはな~。朝鈴は変な奴だとは思ってたが、これほどとは。どうりで常識に疎いところがあるわけだ。いや、もともと俺らみたいなノーマル高校生じゃないんだけど、高校生として馴染もうとしてたのかな。

とにかく、伊藤がらみの問題と見て間違いないな。誘拐犯達も朝鈴兄妹も、目的は伊藤に集中していたし。そしてなぜ伊藤かというと、あの光が関係してる可能性が高いか。誘拐犯は光を発するようになってから急に強くなったし、朝鈴も光出せるみたいだし。

俺は五百ミリペットボトルのアクエリを二本買い、引き返した。

あの光は、人智を超えた力。ってことは、魔法使い? 超能力者?

ファンタジーってのは、非現実の訳語じゃなかったのか?

そんなこと考えてるうちに、咲美達のところに着いた。咲美はアスファルトに座り、両手を後ろにして体を支え、空を見上げてる。朝鈴はさっきと変わらず、誘拐犯Aの前に仁王立ち。

「なあ、朝鈴。そいつ、そのままでいいのか? 結構血出てるけど。」

「ご心配なく。さっきの遠藤君の手のように、この傷はすぐに治せます。急所は動けなくする程度に外しましたので、死んだり後遺症が残ったりということはありません。」

「そっか。おい、咲美、パス。」

 俺の投げたアクエリを咲美がキャッチする。体を支える手は右手一本になったが、それでも平然と姿勢を保っている。

「お、サンキュ~あ~も~のど渇いて死にそ~だったわ~」

 咲美の顔を見ていると、本当に喉が渇いてたんだとわかる。砂漠をあてもなく歩き続けた後、オアシスを見つけたような顔だ。

 咲美はペットボトルを地面に置いて片手でキャップを開けた。女の握力じゃないな。

キャップを親指と人差し指で持ち、残りの指と掌で本体を掴み、口につけようとした。

幸せそうな、というか今から幸せになるって顔だ。

 しかし、ちょうど咲美の口と注ぎ口がくっつこうとしたそのとき、雷が近くで落ちたような音が周囲に響き、地面が揺れ、周りが明るくなった。

 俺はバランスを崩して前に倒れ、咲美は支えにしていた右手から体勢を崩し、左手で持っていたペットボトルを落としてアクエリを自分の体にぶちまけた。

 本当に雷かと思った。

 本当に雷だったらしい。

 いや、雷というより電気か。

 朝鈴の方を見ると、さっきまでいなかった、見たことのない女がどこからか登場し、朝鈴と対峙していた。歳は二十五から三十、紺のスーツに茶髪のロングヘアー、シルバーアクセと厚化粧が目立つ。そして全身は紫色に光っていた。一方朝鈴も琥珀色の光を纏っている。二人の発する光に加え、二人の間で紫色と琥珀色の電気のせめぎあい(で、いいんだよな? 見た目からして)が行われており、周囲は街灯要らずとなっている。

茶髪女は、険しい表情で朝鈴を睨みつけている。

 朝鈴は……無表情。

 その表情の差は、戦況をそのまま示していた。さっきから茶髪女が、直径一メートル弱の紫色の電気の球(としか言いようのないもの)をいくつも朝鈴に放っているが、朝鈴はそれよりずっと電力の詰まっている直径五十センチ程の琥珀色の球で茶髪女の球を全て打ち落としている。そして朝鈴の方が放てる電力球の数が多いので、茶髪女の周りで電力球が何度も破裂している。

 そして、ふいに電力球の応酬が途切れる。どういう原理で放っているのか知らないが、茶髪女の表情や荒い息を見るに、多分撃ち疲れだな。一方、朝鈴はまだ平然としている。

「このあたりでやめませんか。実力差は明白でしょう。あなたを捕らえるのは簡単ですが、できれば話せる状態に留めておきたいので。私がわざとはずしているとわかっているでしょう?」

 茶髪女の顔が一層険しくなる。自分より十は年下の奴からこんな事言われたら、そりゃあムカツクわな。

 茶髪女は自分の周囲に十数個の電力球を作り出すと、朝鈴に集中砲火した。

「仕方ないです。」

 朝鈴は両手を前にかざすと、さっき俺が見た光る曲線を十本の指の先から出した。よく見ると、何か金属の線らしい。その鋼線はそれぞれ独立して自由自在に素早く動き、女の電力球をあっという間に全て打ち落とすと、その勢いで茶髪女の耳横、肩上、脇下、腰横、足首横を触れそうで触れない距離で突き抜け、その状態で静止した。茶髪女が動くと鋼線に触れてしまうように。

「最終通告です。投降なさい。」

 茶髪女は険しい表情を崩し、恐怖と悔しさの入り混じった顔になった。

「て……め……え……」

「少し痛い目に会いますか?」

 朝鈴は茶髪女の体に鋼線を巻きつけると、琥珀色の光が増した。

 茶髪女は叫ぶように体中の筋肉を硬直させ、しかし叫ぶことも出来ずに琥珀色の光を全身に受けていた。さっきの攻防からして、おそらく電気を流しているのだろう。

 数十秒後、朝鈴は鋼線を巻き戻し、茶髪女は前かがみに倒れた。紫色の光も消えた。

「こんなものでしょうか。」

 終ったか。茶髪女はピクリとも動……いた。再び体から紫色の光を発し、顔を上げた。未だ眼光は鋭く、歯を食いしばっている。

 そして、ヨレヨレながらも立ち上がった。

「まだやりますか。その根性は大したものですが、!!」

 それまで余裕の無表情だった朝鈴が、こっちを見て驚いた顔をする。

 俺を見て、ではない。咲美だ。咲美が俺の横を通り過ぎ、茶髪女に突進したからだ。

 咄嗟のことで朝鈴は反応できず、俺の反応も遅い。

「てっめー私のアクエリ返せー!!」

「いけない! 待っ」

 咲美は突進の勢いのまま右ハイキックを繰り出す。

 茶髪女は動かない。動けないんじゃなく、動く必要がないといった風だ。

 ここで、さっきの誘拐犯Aを思い出す。奴は光を出したとき、まるで鉄のように硬くなった。そのため、全力で殴った俺は拳を壊された。

 茶髪女の光も誘拐犯Aと同じだとしたら?

「やばい!」

 だが、もう間に合わない。咲美の右ハイキックは茶髪女に命中した。

「がはっ、あ……」

 咲美の足は俺の拳のように砕け、この声は咲美が出すはずだった。

 しかし、この声を出したのは茶髪女の方だった。咲美のキックは見事に決まり、茶髪女は後ろに吹っ飛んだ。仰向けに倒れ、気絶している。一方、咲美の足は無傷。

これが普通と言われれば普通の結果なんだが、これまでの実例からみたらおかしい。茶髪女も何が起きたかわからないって顔のまま気絶しているし、朝鈴も驚いて固まっている。この二人が驚いているってことは、やっぱりおかしいってことなんだ。

「たく~なんなのよこの女は~せっかくおごりだったのに一滴も飲まないまま全部ぶちまけちゃったじゃない! わけわかんないわもう~なんなのよね~時主~説明しなさいよ~最初っから最後まで何一つわかんないんだって私は~頭弱いんだから勘弁して~」

 咲美は荒れたまま俺に突っかかってきた。

「俺だってわかんねえよ。特に、今のは朝鈴もビックリらしいからな。な、朝鈴。」

「え、ええ。後でしっかり説明するので、今は落ち着いてください。兄が来てからです。」

 すると、ちょうど安馬さんが来た。伊藤を背負った甲も一緒だ。

「待たせたね。遅くなってすまない。」

 安馬さんはスーツを着ており、これがまたきまっている。背が高いってのはいいね~。

「すごい惨状だな。その男、生きてんのか? 血まみれだけど。」

 甲は汗だくだが、目立ったケガはないようだ。

「大丈夫なんだってさ。いつでも治せるんだって。」

「甲~静香ちゃんは無事~?」

「ああ、心配ない。」

 伊藤は別れたときと変わらず、すやすや安眠。

「そっか、よかった。」

 これで本当に一安心か。皆無事でよかったよ。

 さて、朝鈴兄妹に事情を説明してもらいましょうか。

「で、朝鈴。説明してくれ。こいつらと、お前らは何者だ?」

 俺も咲美と同様、わからないことだらけだ。いくら考えてもわからんし、そろそろ解答がほしい。光る人間、消えた伊藤、誘拐犯、朝鈴兄妹……訊きたいことは山ほどある。

「そうね、じゃあ落ち着ける場所へ行きましょうか。」

「待て、琥珀。話は明日にしないか? ちょうど明日は学校が半日授業だし、今日はもう遅い。甲君はお疲れだし、時主君やそちらの女の子もキツそうだ。今夜一晩は不安かもしれないが、今聞いても頭に入りづらいと思う。」

「待って下さい、安馬さん。俺たちは大丈夫ですから、今お願いできませんか? 大して疲れてませんって。奴らの目的は伊藤で、茶髪女が来たってことは、援軍もまた来るかもしれないでしょう? 今晩一晩って言っても、やっぱり心配ですよ。」

 少し興奮した俺の肩を、後ろから甲が抑える。

「時主、落ち着け。安馬さんも琥珀ちゃんも、そのあたりは考えてるって。朝鈴兄妹は味方と見ていいし、バックの組織も悪いものじゃなさそうだ。ここは一度冷静になって、じっくり話を聞いたほうが良いだろ。」

「でもな~」

「私は明日の方が良いかも~ちょっと今頭働きそうにないかな~って。」

「お前さっき説明しろって言ってなかったか?」

「別に今じゃなくていいよ~明日ちゃんと話してくれるんなら、今日はもうさっさと帰りたいわね~」

 この気分屋め。

「遠藤君、静香さんは私達が責任を持って保護します。私の実力は先程見せた通りですし、兄の実力は藤代君が見ていると思います。心配はありませんから。」

「それに、静香さんに説明の補足をしてもらった方が、時主君らもわかりやすいと思う。静香さんには数日前、私達のことから静香さん自身のことまで、詳しく話してあるんだ。」

 伊藤は知っていた? なるほど、少し様子がおかしかったのはそのせいか。

「時主、ここは妥協した方がいいだろ。明日ってことで。」

「…………まあ、仕方ないか。」

 安馬さんがニッコリ笑う。

「どうもありがとう。それでは、明日の正午、噴水集合でいいですか?」

「わかった。」「りょ~か~い。」「OK。」

「静香さんは私が家まで送ります。明日学校に行けるかは、静香さんの状態を見て決めますが、休むにしても正午には学校に連れて行きましょう。」

「ちょっと待て。俺も送るのついて行くから。あと、伊藤が起きたら俺に連絡してくれるように言ってくれ。」

「心配性だな、時主。」

「そんなに心配~?」

「朝鈴のことは信用してるけど、百パーじゃないからな。何者かもまだ聞いてないし。」

「私はかまいませんよ。それじゃあ、行きましょうか。」

「甲、伊藤もらうな。」

 俺は甲から伊藤を受け取り、朝鈴と共に伊藤家に向かった。

 二人とも余計なことはしゃべらず、伊藤の家まで歩いた。

伊藤家に着くと、面識のあるらしい朝鈴が親御さんに事情を説明し、(帰る途中で寝ちゃった、とだけ言った。)伊藤をベッドまで運んだ。その後は朝鈴に任せ、俺は帰った。


 今日の夕飯はチャーハンを大量に作った。それを食べている時、ケータイが鳴った。

「もしもーし、伊藤か?」

「はい……遠藤君ですか?」

 伊藤はおそるおそる話している。今日のことがショックだったのかな。

「えっと、今琥珀さんから話を聞いたんですけど、すごく迷惑をかけてしまったようで……なんと謝ればいいか……本当にごめんなさい。」

 青ざめている伊藤の顔が目に浮かぶ。

「いやいや、大したことなかったよ。それで、まず訊きたいんだけど、体に異変はない?」

「はい……大丈夫です。」

 まだ遠慮がちにしゃべっている。大丈夫かよ。

「朝鈴はそこにいる?」

「いますよ。代わりますか?」

「待ってくれ。後はな……朝鈴から話を聞いたのって、いつのこと?」

「ついさっきです。」

「違う違う。話っていうのは、朝鈴兄妹が何者かとか、そういう話。」

「あ、えーっと……一昨日の水曜日だったと思います。遠藤君はいつ聞いたんですか?」

なるほど。伊藤の異変は昨日からだったから、ピッタリか。

「いや、それがまだなんだ。明日皆で一緒に訊くことになってる。」

「そうですか。」

「それで、一応伊藤からも確認しときたいんだけど、朝鈴兄妹は善人だよな?」

「それって、琥珀さんが隣にいる状態で訊いていいんですか?」

「かまわんよ。」

「えっと、正直言ってまだ私もわからないことが多いです。色々難しい話が多くて、一度や二度訊いただけで判断するのは無理があると思うので。ですけど、私は琥珀さんやお兄さんは信じられる人達だと考えています。特に根拠はないんですけどね。」

「……そっか。わかった。それじゃあ、また明日な。思い詰めんと、ゆっくり休めよ。」

 伊藤が信じられるってことは、大丈夫だな。伊藤は結構見る目あるし。

「はい。琥珀さんと相談して、明日は学校お休みすることにしましたけど、えっと、正午でしたよね。『そうよ。』明日の正午には私も行きますので、心配しないで下さい。」

「わかった。じゃ、おやすみ。」

「おやすみなさい。」

 俺は電話を切った。

…………気にしすぎだけど、とりあえず大丈夫そうだな。


 時主君との電話を終えると、今日は早めに寝ることにした。

「静香さん、今日のことや明日のことは気にしないで、今晩はとにかく体を休めることに専念してね。」

「うん、わかった。ありがとう。」

「それじゃ、おやすみ。」

「おやすみ。」

 琥珀さんはそう言うけど、やっぱり考えてしまう。

 時主君は、変わっていなかった。私の知っている時主君だった。まずは、それがとてもうれしい。もし、ここの時主君が別人のようだったら、私は生きていけなかったかもしれない。でも、よかった。時主君は時主君だ。

 でも次に考えることは、いいことではない。

私は、怖い。この、自分の他にもう一人自分がいるような感覚が。自分の中にいる別人のような自分が。そして、その別人のことは、自分より琥珀さんや安馬さんの方が知っているということが。

私は、自分のことは自分が一番知っていると思っていた。けど、今の自分、TEとしての自分は、私には全く知らない、わからない。さっきは無意識にTEAを使っていたというし、そのせいで皆さんに迷惑をかけた。琥珀さんや安馬さんがいてくれなければ、時主君や咲美さんや藤代君はどうなっていたかわからない。治ったそうだけど、時主君は手に大ケガをしたそうだ。TEとして力を制御することを学べば、もうこんなことはないそうだけど、そんな問題じゃない。今私の心にある違和感は。

自分で自分をコントロールできないって、こんなに不安になるものなんだなぁ。


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