カフェにでも、よってみよう。ー黄ばみ駆動型・高回転都市?-
建材一本を観察しているうちに、伸びない背の影ばかりが急成長していた。
――私だけを取り残して、時間はどんどん、先走っていく。
ケイはこのガラス張りならぬ紙張りの街において、どの店に入るか悩んでいた。
色々悩んだけれど、どうもこの街は何でもかんでもピカピカしていて、全然落ち着けない。夕日でギラギラした町は、なんというか、どうも古本屋のドブネズミがいてはいけない場所のように、思えてならなかった。
結局――
重層都市で通いなれた、サンバースト・コーヒー。
大衆派の、どこにでもある店。
有機ELの作る柔らかな光、黒系で統一された店内。
ふっと肩の力が抜ける。
そして、結局旅に出てもまた、日常を求めてしまう自分に気づく。
――しまった、ここは新市街らしく、もっとキャピキャピした、“女の子らしい”店に入るべきだったかもしれない。
でも――そんな店でフリフリのスイーツを食べる姿は、どうも想像すると――それだけで疲れがたまって、明日からの石炭紀行きに支障が出そうだ。
仕事を終えたサラリーマンたちが、大声で喋っている。
「うちもローンが終わってないのに建て替えろって話が来てさ、正直追い返したのさ」
「だから言ったろ?家を建てるなら、1階建てでできるだけ小さいのに限るって。」
「俺もローン終わらないうちに建て替え3回だよ、どんどん庭の面積が広くなってさ」
――やっぱり、そうなるか。
床板や天井まで鈍く透明なこの街が、背が低く1~2階建てばかりなのも納得である、と旅行メモに走り書きした。
そして、矢印を書いて、追記。
「ただ、たぶんこの終わらない建設ラッシュが、新市街の景気を作っているのだろう。おそらく「黄ばみによる高頻度の建て替えによって、この都市の高い経済活動が支えられている」。下線部要出典、後で調べろ!」
ま、調べるまでは本当かどうかわからない、仮説だけど。
――カフェというのは、本当にいろいろな観察ができて、面白い。
それに――少なくともここなら――ダラダラと時間をつぶしていても、許されるだろう。
「ピートコーヒーを1杯、シュガーなしで。テイストは全部お任せで」
持ち上げたコーヒーカップの裏を見れば、裏に小さく「G-リグニン樹脂使用耐熱カップ」とあった。




