公開処刑は突然に
王都の大広間。煌びやかなシャンデリアの下、貴族たちがざわついている。
「さあ始まるぞ、婚約破棄ショーが!」
「本日の主役は、第三王子アレク殿下と、その婚約者リディア嬢だ」
「パンとワイン用意!」
――観客、完全に娯楽扱いである。
壇上のアレク王子は、胸を張り、声を張り上げた。
「リディア! お前との婚約をここに破棄する!」
ああ、来た。予定調和。今日のトレンド入り確実。
会場がどよめく中、リディアは涼しい顔でうなずいた。
「まあ、殿下。やっと言えましたのね」
「……なに?」
「ここ数か月、殿下が“可愛い小鳥ちゃん”と呼ぶご令嬢の部屋へ、夜な夜な通っていること。わたくし、全部知っておりますの」
「!?!?」
「しかも週二回は“愛の詩朗読会”を開いていらっしゃるとか。詩心があるのは素晴らしいですけれど、殿下の詩、いつも意味がわかりませんの。作詞の才能はゼロですわね」
観客から笑いが漏れる。
アレクは顔を真っ赤にし、必死に言い返す。
「ち、違う! わ、私は……お前の冷たい態度に耐えきれず!」
「冷たい? わたくしが毎朝、殿下の頭に“お寝坊矯正バケツ氷水”をぶっかけて差し上げたことですか?」
「そ、それだ!」
「だって殿下、十回中十回寝坊して遅刻なさるんですもの。氷水がなければ王立学院を留年してましたわよ」
「ぐぬぬ……」
場内、大爆笑。
「婚約者に氷水ぶっかけられる王子」
「ざまぁっていうか生活指導」
リディアはひと呼吸置いて、さらに声を張った。
「ではここで、婚約破棄を歓迎いたしますわ! 殿下のように自作ポエムで愛を囁く方よりも、もっと素敵な方がいらっしゃいますから」
「素敵な方?」
「はい。――こちらですわ!」
バァン! と扉が開き、屈強な騎士団長が登場。
「リディア嬢! 今日こそ我が愛を正式に伝える時!」
「まあ団長! 待っておりましたの!」
観客席、歓声と拍手。完全に舞台化。
アレク王子は青ざめ、声を裏返らせた。
「ちょ、ちょっと待て! 騎士団長!? そ、それは国の柱だぞ!」
「その柱がリディア嬢を求めているのだ!」
「うおおおおお!」(会場の歓声)
リディアは王子を見下ろし、にっこり。
「というわけで殿下。お情けで指摘しておきますけれど……浮気はするなら、せめて詩を完成させてからになさいませ」
「ぐ、ぐぅ……」
王子、膝から崩れ落ちる。
――こうして、婚約破棄劇は観客の大爆笑と共に幕を下ろした。
数日後、王都の新聞にはこう書かれていた。
『第三王子、公開婚約破棄にて大敗北。新たなカップル誕生に拍手喝采!』
『特集:王子の駄作ポエムを一挙公開』
その日からしばらく、王都の子どもたちは遊びの中で王子の詩を朗読する真似をし、大人たちはそれを酒の肴に酌み交わしたという。
――めでたし、めでたし。
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